黒滝山、白滝山〜海を見ながら陽だまりハイク

瀬戸内海と黒滝山の岩峰。石鎚神社の祠がある
平成19年11月11日(日)
【天候】晴れのち曇り
【同行】別掲


 Oさん邸でお世話になった2日目。寒くなるというが起床してみると流石に山陽側は瀬
戸内海気候で、日が射し風もそれほどでなく暖かい。そこで県北部もひょっとしたらとM
さんが携帯で天気予報を確めてくれた。だが結果は昨夜より一層悪化、県北は雷雨もある
かもしれないというご託宣。大万木山はすっぱり諦めて、やはり山陽側に矛先を変えた方
が無難のようで、Oさんの職場の近くで朝な夕なに眺めているという、海の見える石仏の
山、黒滝山・白滝山縦走に決定。これなら愛息のH君も同伴可能だ。(^o^/

 昨晩の鍋の出汁で作ったオジヤを頂いて、Oさんの先導で出発。前回もお世話になった
セブンイレブンで食料を買い求め、山陽線に沿って東に移動する。何処をどう走ったか、
土地勘もないのであまり定かではないが、確か広島空港横から山陽道の本郷IC前を抜け、
R2を横切った記憶がある。規模は小さいが曽爾の鎧岳に似た険しい岩山がある。小早川
氏の新高山城址と看板が上がる。沼田川を挟んだ左手も高田城址と地形図にはある。更に
南下すると、今度は丹波の三尾山に似た露岩の目立つ山。この付近は花崗岩質の地質なの
らしい。低いけれど峨々とした山が多い。その三尾山に似た山と山の間の隘路を越えると
土地が開け、まもなく黒滝山の案内標識が現れた。村道のようなくねくね道だが舗装路。
斜面はたわわに実ったみかん畑だ。そういえば広島や愛媛は名だたるみかん生産量を誇る
土地柄である。「少し欲しいね」不埒な事を考えながら墓地を過ぎて更に進んで行くと案
内図と共に登山口の標識を見つける。路肩の広まった部分をお借りする。先行車は2台。

ウバメガシ繁る石畳の黒滝山登山口

 南向きなので暖かい。これならH君も大丈夫だ。準備を整えて山肌に取り付けられた一
間幅もある坂道を上がっていくと、すぐにバイオトイレと『さくら堂』と名づけられた建
物に行き着く。景色も良く地元の方々が水彩画のスケッチに勤しんでおられる。邪魔をせ
ぬようその間を縫って自然石の階段道を進む。左に白滝山への道を見送るがこれは帰りに
使う道だとすかさずMIさんのガイド。やはり温暖な所為か、参道に多いのはウバメガシ
の木。艶々した葉をしていてちょっと見にはとてもカシの類とは思えない。でも実を見れ
ばやはりカシだと納得できる代物なのだ。石畳にはそんなドングリがそこかしこに落ちて
おり、これにはH君は目がないのである。
路傍の勢至菩薩。大正十二年九月とある

無邪気な顔をした十三仏

 ところで我々が今登っている黒滝山の登山道は、実は西国三十三ヶ所の石仏巡りの参道
でもある。所々に石仏が置かれているが、みんな庶民的な素朴な顔をしていて、地元の石
工によって造られたことが分かる。それもそれほど古くない大正か昭和の初め頃だろう。
傍らではヤクシソウが黄色い花をつけていて、石仏に似合いでなかなか可憐である。そし
てご多分にもれず、参道の所々にはビックリ箱のように色々な曰く付きのものが詰まって
いる。その一つが乃木大将の座った平らな岩だ。続いては平山郁夫画伯スケッチの場所。
流石に風光明媚で瀬戸内海の光る縮緬皺が良く見える。更にしまなみ街道や生口島、大三
島が一望できる。但し、高圧線が璧に瑕。まだある。「幸福の鳥居」と名づけられた二つ
の石鳥居。潜れれば幸福になるというので、前回はH君が潜ったそうな。(笑) 極め付き
は「長寿の亀石」。ゾウガメの頭の様な石にはご丁寧に眼まで書き入れてある念の入用で
ある。それでも勢至菩薩や十三仏などの石彫りの仏には地元の信仰が息づいているようで、
ほのぼのとした温かみが感じられる。この間、参道は少し開けた場所に出る。見上げれば
黒滝山の山頂の露岩が望め、なかなかの奇観を呈する。

登山道から見る黒滝山の岩峰。ハゼが赤い

 参道はなんだかだと我々を飽きさせずに観音堂まで導いてくれた。ここは一寸した展望
台で、その景観は更に圧巻である。瀬戸内海がまことに東洋のエーゲ海である事を実感で
きる場所だ。海面が日の光を反射してきらきら。目の前の大久野島は戦中、陸軍が毒ガス
を造っていた事、今はウサギが多い国民休暇村で有名な島。その向こうの大きな島はもう
今治市、耕三寺があることで知られた大三島。右に阿波島、左は生口島。汽笛が鳴った。
白い連絡船が航跡を残して忠海港を出て行くところだ。梵鐘があったので撞いてみる。ゴ
オーン。余韻が永く瀬戸内海に流れていく。

観音堂の展望台から忠海港。しまなみ街道が見える

 観音堂から戻った所にある岩場。といっても高さ5m位のものであるが、不相応な太い
鎖が用意されている。ちゃんと巻き道も用意されていて、H君を背負っているOさんは巻
き道を、我々は折角なので岩場を登る。とくに鎖も持たずに登れるのだが、頂上で待って
いたのは石鎚神社の小さな祠がある一坪程の広さの岩からの大展望。これが高度感があっ
てなかなかのスリルなのだ。踏ん張っていないと強い風が吹いてくれば足元が危ない。元
来の高所恐怖症の私には、何かが上に上がっていく感触がある。(^^; 振り向けば参道を
挟んで対面にも岩があって、恐る恐るそちらに向えば、こちらは大峯神社と出雲神社の祠
なのだった。ここからは岩から岩へと渡り歩きで、伝って行く内に黒滝山頂と標識がある
岩に出た。この岩の側面にも西国札所の仏さんが彫られているのが分かる。ホッと一息。
この辺りでしばしの休憩。小腹を宥めることにする。

黒滝山山頂。Mさんのいるふきんに磨崖仏がある

黒滝山から望む白滝山。右に張り出した稜線が今回の下山道

 黒滝山の頂上からは次に向かう白滝山が良く見える。これがなかなかの岩峰である。黒
滝山の広場はパスしてそのまま縦走路を進むことにする。丸木の階段が鞍部へ向かって急
降下していく。オイ、オイそんなに下らなくても...。数十mを下った頃、黒滝山の中
腹を巻く道とようやく合流。さくら堂近くで白滝山とあった分岐道を通るとここに出てく
る由。帰路に使う道だ。やがて今度はY字の分岐。右、白滝山 左、駐車場。いずれも白
滝山に出るが、駐車場方面の方が急な登りがなく楽なのだという。当然、我々はそちらへ。
(^^; 駐車場までは1.3kmとある。すぐにまた分岐があるが、左の正規の道を選択。確
かに距離は若干長いものの、小さなピークはトラバースしつつ徐々に登る楽な道である。
尾根の少し下、南側なので風もなく暖かい。10分と少し歩けば東屋もある駐車場が見え
てくる。

 駐車場横を龍泉寺の参道の入口にやってくると大きな案内図があった。ふむふむ。よく
よく眺めてみると...。あれ?何だかおかしい表示に気付く。黒滝山の標高が271.
6mと三角点のある山並みに刻まれている。しかもさっき黒滝山の頂上にあった標識26
6mとも異なる。果たして真実は如何?

紅葉に囲われた擬宝珠が雄鶏の石灯籠

 まあ、細かいことは抜きにして小春日和の参道を歩きましょう。350mと表示にあっ
たと思うが、山腹を巻く道なので近くの山並みを眺めながら歩けば、左の石垣の上に小振
りながら龍泉寺の山門が見えてくる。山門左右には身長2mあまりの仁王さん。くぐると
お寺の境内で、本坊の玄関脇にはツワブキの黄色い花が風に揺れている。龍泉寺は小早川
氏の一族小泉氏の菩提寺で、もともと行基の開いた真言宗の寺だったのが最終的に曹洞宗
に改宗した寺という。本坊左手から坂道があり、白滝山の山頂へ導いてくれる。その鳥羽
口に綺麗に色づいたヤマモミジに包まれて、擬宝珠が雄鶏の石燈籠がある。これは珍しい。
その石燈籠辺りはかなりの急坂でH君を背負ったOさんもシャリバテと相まって少ししん
どそう。が、そんな坂道もまもなく緩んだ頃、大きな岩が左手に現れる。それに彫られた
一丈はありそうな大きな磨崖仏。その周りの十六羅漢らしい石像は後から置かれたらしい。
磨崖仏は江戸時代初期のもので、磨崖仏も十六羅漢もいずれも都会的に洗練されたもので
はなく、いい意味で地方的な素朴な顔をしている。この岩をぐるりと巡れば不動堂と鐘楼
のある白滝山山頂に出る。まずは八畳岩と呼ばれる花崗岩の平たい大きな岩盤の上へ。2
体の羅漢像の横からよっこらしょと登る。眼前に広がる360度の大展望。黒滝山も36
0度だが、北は白滝山が邪魔をしていてその先が見えなかったのだけれど、今度は周囲に
高い山がないので見放題?である。濃い緑の中に広島空港や三原市街、山陽道の橋脚が手
に取るように眺められ、西には呉の野呂山がうっすらと霞む。南は台形状の黒滝山の向こ
うに瀬戸内海。澄んでいれば南の方角に四国の石鎚山や赤石山も見えるのだという。陽光
に照らされて南側は明るいのに、北はやはり灰色の雲が目立ちその違いが際立っている。
横でジモティーの小父さんが三次近辺は天気悪いよとのたまっていた。

白滝山山頂の岩盤に彫られた釈迦三尊磨崖仏

 食事は展望をご馳走にうらうらとした陽光を浴びながら不動堂の前で。団体さんがやっ
てきて岩盤の上で記念撮影。横断幕を広げているので何気なく目を向けると、なんとJA
Cの方々らしい。ペンギンさんをご存知だろうか。(笑)

白滝山山頂の鐘楼と不動堂

 さっきのJACのメンバーは展望台でまだ食事中の由。その横を通らせてもらって下山
にかかる。こちら南側は急斜面だが遊歩道が出来ている。但し、ロープで繋いだ丸太の柱
は根元が腐ってぐらぐらだ。(^^;

 渡瀬地区へ降りていく分岐がある。白滝山と黒滝山の鞍部から左寄りに田畑と小さな集
落が見えるがそれがそうなのだろう。渡瀬から鞍部を抜ける車道が通っているそうだから、
そちらに降りる事もできる。また最初にあった小泉へ降りる道は龍泉寺の旧参道との事だ。

 少し黒雲が北から空を覆い始めた。日が翳り風も出てきて、一雨ありそうな雰囲気であ
る。つづら折れをどんどん下る。さっきまで見えていた海が黒滝山の陰に消える。山頂か
ら見えていた砂防堰堤がすぐそこになると渡瀬からの林道との出合。これを横切って砂防
堰堤で出来た池沿いに歩いて再び黒滝山の懐へ入る。山の北側にあたるのでシダ等が繁茂
して暗い感じだ。少しきつい傾斜をジグザグに登っていくと往路の白滝山分岐なのだった。

 黒滝山分岐は右の平坦道を行く。まだコナラなどは黄葉に少し早いが、ハゼやツタはお
先にと真紅に色づいている。黒滝山の裾を巻きながらなので歩が進む。谷筋だからやや暗
い感じがするが、ここらにも西国札所の石仏が道から少し奥まった部分に鎮座しているよ
うで、ちょくちょく標識が出ている。やや荒れた竹やぶを突っ切ると、朽ちた農作業小屋
が現れ、左へ少し上がると往路の石の参道である。さくら堂の建物は直ぐそこである。

さくら堂付近から瀬戸内海

 ポツポツきていたにわか雨が下山した途端に少しきつくなった。さくら堂で写生してい
た少女も慌てて絵道具類の撤収を始めている。少し急いで車に戻る。やっぱり今日はこち
ら山陽側に来て大正解だったようだ。

 地元の方々が大事にしている里山である黒滝山、白滝山。石仏、岩場、展望と、流石、
「広島の山」に紹介されているだけあって、なかなか多彩な山であった。そして昨日今日
とバラエティに富んだ山を紹介していただいたOさん夫妻に今回も感謝。

 近畿に比べれば全く手垢のつかない山々が多い安芸、備後の山々。また許せば来年も遊
びに来たいところである。その時には是非とも二回も振られた大万木山を訪れたいものだ。



■同行: 大加茂さん夫妻、もぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
8:30Oさん邸発
9:30〜9:40黒滝山登山口
10:20観音堂
10:40〜10:50黒滝山(240m)
11:04白滝山登山道出合
11:18白滝山駐車場
11:30龍泉寺山門
11:40〜12:30白滝山(350m)
12:40展望台の東屋
12:57林道出合
13:05白滝山登山道出合
13:26黒滝山登山口


第1日目 『高岳〜芸石国境で黄葉三昧』はこちら


黒滝山のデータ
【所在地】広島県竹原市(旧忠海町)
【標高】270m
【備考】
広島県と島根県の境にあって、東に聖湖、南に三段峡、西
に匹見峡を控えています。山頂付近は高い木がなく展望に
優れ、また全山雑木に覆われ、春の若葉、秋の黄葉、紅葉
が登山口から1時間強という手軽さで楽しめることから人
気があります。中級向きには南の聖山との縦走がお勧めで
す。
白滝山のデータ
【所在地】広島県三原市
【標高】350m
【備考】
広島県と島根県の境にあって、東に聖湖、南に三段峡、西
に匹見峡を控えています。山頂付近は高い木がなく展望に
優れ、また全山雑木に覆われ、春の若葉、秋の黄葉、紅葉
が登山口から1時間強という手軽さで楽しめることから人
気があります。中級向きには南の聖山との縦走がお勧めで
す。
【参考】
2.5万図『竹原』、『三原』



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