亥年の初山は猪ノ口山から大野坂
 
平成19年 1月 2日(火)
【天候】雨のち曇り
【同行】別掲
猪ノ子山から西を望むと五大山(左)、
鷹取山、五台山、親不知(右奥)と居並ぶ


 毎年の初山は「干支の山」と決めているわけではないけれど、ネットの山会のオフが開
催されたりで蛇山や猿藪、鳥見山など有名無名取り混ぜて今まで幾つか登ったが、今年は
亥年。そんな企画をという話があって少し調べてみれば、近畿で最も有名なのは三重県の
白猪山だろう。他にも湖南や鈴鹿前衛に猪のつく山があるが、いずれもアクセスに時間を
要する。その点で行くと丹波市の春日町にある猪ノ口山(黒井城址)は、JR黒井駅の直
ぐまん前。舞鶴若狭道のICにも近く、アクセスの良さはこの上なし。久しぶりの兵庫丹
波の山でもありここに決定だ。でもこの山だけなら1時間もあれば往復できるので、西に
聳える千丈寺山から大野坂へ降りるコースをセットする。これなら程々の時間で一寸した
バリエーションが楽しめ、正月で出張った腹もへこむことだろう。(笑) というわけで登
った干支の山だったが、懸念された雨も早々に上がって、雲海に囲まれた丹波の山はさな
がら幽玄の世界。そして山頂独り占めの小宴会。下山後のケーキパーティ?も充実。今年
もこんな感じで充実と行きますかどうか。(笑)

 前日の予報は午後から雨と生憎で、決行か否か最後まで迷ったのだが、本命の猪ノ口山
は傘をさしても登れるのでとりあえず決行を選択。が、当日は少し低気圧の動きが早く、
朝から雨がぱらつき始める。舞鶴道は丹波トンネルを抜ける頃には間欠ワイパーでは視界
が確保できないほどになる。それでも集合地のJR黒井駅に着く頃には小止みになってく
れて、コースプランナー?としてはほっと胸を撫で下ろして、今日はまあこんなもんだろ
うと駅舎で列車を待つ。(^^;

 予定通り9:57の列車ですみれちゃん、たらちゃん、なかいさんがやってきた。我々
の他にも神戸から来られた数人のグループが一組。こんな雨なのにお互い物好きだねと笑
いあう。

 格子戸があり、ウダツの上がる民家が並ぶ、春日の古いしっとりとした集落の中を傘を
さし、まずは興禅寺へ。黒井城の下館だった建物だ。塀際には小さな掘割まであって、武
家屋敷だったことを窺わせる。ひっそりした境内に今日はお邪魔せず、左に廻って黒井小
学校横から猪ノ口山の山裾に近づく。

 麓の駐車場代わりの広場には歴史民俗資料館の作った立派なパンフレットが置かれてあ
る。それをいただいて目の前の石段を登り左に折れると、数年前にはなかった金属の猪除
けフェンスが前を阻む。一瞬思うのは(ひょっとして立入禁止?)。が、さにあらず。注
意書きがあって、後を戸締りしておけば閂を外しても良いらしい。駅で遭ったグループが
後からやってくるはずなので、閂はそのままで閉めただけにしておこう。

 なかなかの急斜面。夏に初めて登った時は、蝉時雨が降り注ぐこの辺りでもう汗だくだ
くだったのが、今日は今日で雨でよく滑る。土がむき出しになった『三段曲輪』まで登る
と一気に景色が良くなって、南に屏風のように聳える向山連山には白いガスがかかる。

 落ち葉が分厚く折りしく広い道は小さな尾根に乗って、傾斜が一旦緩むと左前方に平坦
な山頂が近づいてくる。「本丸まで400m」の標識を過ぎた後、本道と分かれて、『太
鼓の段』へ向かう。歩いて1分足らずの枯れススキの台地からの展望は思うに任せないけ
れども、木々の隙間から春日の町並みが見え隠れする。ここから太鼓を鳴らせば一円に良
く聞こえたことだろう。一息ついた後は引き返さずに『つばきの原生林、東出丸』の標識
に従いそちらに廻る事にした。

 本道に較べてあまり歩かれていないのだろう。踏み跡はやや薄い。木々に邪魔されるの
で傘をすぼめると、「冷たぁ〜。」体が触れた雑木の枝からバラバラと水滴が乱れ落ちる。

 崩れかけた斜面を抜けて、枝の滴に濡れるのもものかわ、前に現れた小さな尾根へ突っ
切ると、そこが『東出丸』の上部の尾根だったらしい。尾根筋に明快な踏み跡がついてい
た。
枯葉の絨毯の東出丸から登る

 傘を持ちながらでは少々つらいほどの傾斜だ。木々の助けを借りて攀じ登るが、しかし
それもほんの短い間で、露岩の間を刻むようになると頭上が明るくなり、『東曲輪』手前
で本道と合流する。歩いた道は「多田みち」とある。多田は城の東側にある集落だ。

 東曲輪から三の丸へと進む。ここまで来ると遮る物のない大展望である。シカの糞があ
ちこちに転がる間をとりあえず本丸跡まで進む。ベンチの下に南向きの欠けのない三等三
角点。夏にはコナスビが咲いていた辺りだ。干支の山は昨日は天候に恵まれたこともあっ
て、沢山の登山客だったとのことだけれど、今日は保月城址の石碑がポツンと立つ以外、
立っているのは我々のみである。ガスのかかる周囲の山々はさながら山水の世界に入り込
んだようで素晴らしいの一言。東は三岳、西ヶ岳から鋸山、三尾山、夏栗山、黒頭峰と続
く多紀アルプス。相対して大きく蟠るのは妙高山で南はヒカゲツツジの向山連山。西南奥
には鉄塔の立つ篠ヶ峰目立つ。がなんと言っても西に続く五大山、鷹取山、五台山、親不
知と続く山並みが素晴らしい。手前に千丈寺山がこじんまりと鋭い頭を持ち上げ、その間
をガスが流れてゆく。その北の遠くの山にはうっすら雪が残っているようだ。幾ら見てい
ても飽きない世界だ。大きく汽笛が響き、眼下に駅に近づき速度を落とす列車の姿が見、
どこからか犬の鳴き声が上がってくる。市島方面からは何やらアナウンスの声である。

昨日とはうってかわって人っ子一人いない
猪ノ口山(黒井城址)山頂

丹波の山々は雲海に浮かぶ島のようだ
左は霧山、奥は篠ヶ峰

 空が心なしか明るんできた。傘も不要になり風もほとんどないので、三角点のベンチを
中心に昼食とする。と、出るわ出るわ。なかいさんの水餃子、自家製焼豚。干し芋、黒豆
はたらちゃんのと食べ較べ。(うーむ、”愛エプ”の世界やなぁ・・・)。お酒は黒牛と
たらちゃん持参の松の齢。心ゆくまで飲みたいけれど、なんせ車で来ておる。いかん、い
かん。煩悩を断ち切らねば・・・。(笑)

 デザートにみかんまで出てきて、1時間半がアッという間。後から来たグループはいつ
の間にか姿が消えていたけれど、あきれて先に下りて行かれたのではなかろうか?(笑)

雲海を楽しみながら宴会を始める

 ランチタイムが終わる頃には雨も完全に上がっていて、予定通り千丈寺山へ向かうこと
にする。地図を家に忘れてきたけれど、たらちゃんが地図を持っているし、GPSもある
しで何とかなろう。(^^; 

 道標はないが石碑の横に踏み跡がある。暫くはかなりの急坂だ。雨で足元が滑る。初春
早々、尻がどろどろになるのはいやなので慎重に歩を進める。分岐が出てくるが、千丈寺
山から一見離れるように見える右の道が正解。大きな岩を巻いて進めば、木々で薄暗い曲
輪の跡に出て小さな馬の背状の堀切を渡る事になる。その先が『西の丸』跡。猪の掘り返
し跡が目立つ、ススキの枯れた小広い台地で、その先には展望岩がある。パンフレットに
よれば、この辺りには櫓があったらしく、なるほどガスが渡る千丈寺山方面が指呼である。
その岩の左手にはなぜか場違いな金属梯子がかかる。結構な費用がいったろうに、誰がつ
けたのだろうか。(笑)
千丈寺山への尾根路は
「これぞ丹波の山」いい道だ

展望岩からガスがたなびく千丈寺山(奥)
一寸見は大峰山だ(笑)

 左下に見える学校も屋根が大きくなってきて、かなり標高も下がったようだ。降り立っ
たCa250mの最低鞍部は兵主峠と呼ぶらしい。本丸へ500mの標識がかかり、南の兵
主神社方面へ荒々しくジグザグに折れていく下山路がある。

 ここから真っ直ぐ尾根を忠実に辿るのが正解だろうが、右に尾根を巻く良く踏まれた山
腹道があるので迂回路だろうとつい引き込まれ暫く辿る。でもなんだか徐々に下っていく
ようで、その内に左側の本来の尾根は余程高くなる。こりゃぁ巻き道ではなく峠を下る道
だろうということで少し戻り、適当な所から尾根へ取付く。滑りながら攀じ登ると、案の
定、踏み跡がある。「急がば回れ」ズボラをしてはいけません。(^^;

 所々荒れた所がある。とくに西の傾斜部分に倒木が多いが、概ねいい道が続く。小さな
ピークを越えると踏み跡側に石標があって、それにはカタカナで『イナツカ』とある。元
々この尾根は春日町と市島町の町界尾根。イナツカとは南の稲塚の集落の事だろう。

千丈寺山山頂は見通しがきかない

 登り返した千丈寺山の山頂は外見に似ず平坦。その台地の真ん中に大柿プレートが一枚
ポツンと架かる。平坦なのは砦を築く為に均されたのであろう。周囲に土塁らしい跡が窺
える。昔は良く周囲を見晴るかす事が出来たろうが、今は雑木が繁り、見晴らしは良くな
い。道もこの辺りは落ち葉で今一はっきりしない。少し休憩を取り、所々のテープを拾い
つつ更に西へ降りる。

 町界尾根を示すプラ杭や青いPPテープを辿る。降りきると一間幅近い遊歩道然とした
道で大野坂への下りまでほとんど傾斜もないが、大野坂へ降りる直前は、永年歩かれた為
に切通し状になっており、ここだけは滑らぬように注意が必要だ。

永年の人の足で切通しの様になった大野坂
台風で少々荒れている

 大野坂は大きく深くえぐられていることで、古くから市島と春日を結ぶ重要な生活道で
あったことがわかる。軍隊も荷車も通行したという。だが今は、山の作業とハイカーしか
歩かない道となり、地元の方が後片付けされたとのことだが、近年の台風で荒れたらしい
痕跡がまだまだ残っている。大野側へと南に向かうと、やはり昔ながらの峠道独特の道の
つき方をしていて、峠の手前の急斜面はジグザグにうまく傾斜を緩めている。やがて浅い
沢沿いになると左に砂防堰堤、右に簡易水道施設が現れて、木々の合間から民家の屋根が
見えてくる。ここにも猪除けの金属フェンスとゲートがあった。

 八幡神社を過ぎると大野の集落の真ん中。道に立つ古い自然石の道標には『左ふくちや
ま』の文字が見える。これを見ても大野坂を越えて市島に出て、塩津峠から福知山方面に
抜ける街道に合流する重要な間道であった事が分かる。そして所々にある不動石仏は法道
仙人開基といわれる白毫寺の参詣道としても使われたのであろう。文化七年の銘があった。

 池を廻って切通しを抜ける。こんな古い道を歩くのもいいもの。思わぬ所に祠や六地蔵
が並ぶ。『賽の神』と刻まれた石碑もあるがこれは道祖神のことだ。こじんまりとした由
緒ありげな古刹もある。延喜式内社である兵主神社の前を抜ければ黒井駅までは近い。左
手に白いベールを纏った猪ノ口山がだいぶ近づいてきて、今日の山歩もそろそろエピロー
グである事を示していた。

 ハートフルかすがの駐車場に戻って、スミレちゃん特製のケーキでお疲れ様のコーヒー
ブレーク。そこへたぬきさん夫妻も駆けつけてきて、お土産まで頂く。四方山話は尽きな
いけれど、夕闇も迫ってくることもあって適当なところでお開きとした。

 強行開催して正解だった干支オフ。その強気が幸いしてか、小雨模様も正午前には上が
り、墨絵の世界も堪能できた。終わりよければ全てよし。今年の景気も段々視界良好と行
きますかどうか。参加の皆さん、お疲れ様でした。


■同行 すみれさん、たらちゃん、なかいさん(五十音順)

JR黒井駅前の「ハートフルかすが」から小雨降るミニ縦走路を望む

【タイムチャート】
7:50自宅発
9:20〜10:10JR黒井駅(集合地)
10:20興禅寺
10:30猪ノ口山登山口
10:56太鼓の段分岐
11:05東出丸(多田道合流)
11:20〜12:55猪ノ口山(黒井城址)(356.8m 三等三角点)(昼食)
13:10西の丸跡
13:22〜13:25兵主峠
14:00〜14:03千丈寺山(346m)
14:29大野坂
14:52八幡神社
14:45JR黒井駅



猪ノ口山(黒井城址)のデータ
蒸し風呂の猪ノ口山(黒井城址)に登るを参照ください
千丈寺山のデータ
【所在地】兵庫県丹波市
【標高】346m
【備考】 猪ノ口山の西に位置する尖峰です。山頂は雑木が繁り、
展望はありませんが、黒井城と連携する砦が築かれてい
たらしく曲輪と土塁の遺構が残っています。西の麓には
城主であった赤井家の墓所があります。
【参考】
2.5万図『黒井』



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