呉枯ノ峰〜早春の湖北路雪中ハイク
 
平成19年 3月18日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲
482m標高点付近から南方向を望む
[画像提供:たらちゃん]


 前回と同じく青春18切符での山旅。今回は矛先をガラッと変えて、湖北の一等三角点
の山、呉枯ノ峰。ヤマケイの『大阪の山250』でも星一つの山で、安心ハイキングコー
スなのであるが、またまた正規ルート以外の道へ突入。
「えっ?これは『バリエーションルートとはいわない』って?」そういう声も多数聞こえ
てきそうな道なき道。おかげで色々な目に遭いました>(^^;;

 季節は春の次に冬が来るのかと思わせるほどの3月の寒の戻り。家を出る時、チラチラ
していた雪は、新大阪駅を7:21に出た新快速が高槻を過ぎる頃には、本格的なにわか
雪となって、山科付近では周囲の山々が少し白くなるほどである。
「この分じゃ湖北は相当...。」と脅すスナフキンさん。元来雪嫌いの小生は、北陸周
りで帰ってきた特急日本海には全く雪が付着してなかったしと、「大丈夫、大丈夫」と口
では返すが、内心、心穏やかではないのだ。それが近江八幡を過ぎる頃には、抜けるよう
な青空ではないか。路面も乾いており、降った形跡も無い。「これでなくちゃあ。いいぞ、
いいぞ」(笑)

 木ノ本駅は改築されたばかりの非常に綺麗な駅で、駅前のロータリーはまだ整備作業中。
タクシー乗り場でタクシー2台に分乗し、まずは出発点の余呉町坂口へ向かう。一人頭3
40円。バス並みの料金で赤い鳥居の前に到着である。

坂口集落にある天満宮の大鳥居。菅公につき
ものの梅が満開だ[画像提供:たらちゃん]

 鳥居を抜けると参道の両脇は天満宮に付き物の老梅が見ごろ。馥郁とした香りがする。
イヌノフグリやヒメオドリコソウも咲き、風は尚冷たいが日の光はやはり春である。まも
なく左に見える梅鉢の大きな紋を付けた建物は弘善館。菅山寺の里坊で、道真11歳の像
や寺宝もここに下ろされ、納経もここでとり行ってもらうようだが、しばらく休館中との
貼り紙がある。
『ここは近江 天神様の道 入り口登り口 里は坂口 お山上がれば 菅公ゆかし 
一字戴く 菅山寺』

 雰囲気のいい参道も、今は北陸道が横切って台無し。古墳の石室らしき石組みを覗いた
りしながら北陸道にうがたれた通路を抜けると、いよいよ山懐だ。すぐに道標の立つ分岐。
菅山寺へは左に折れるらしい。しかしこれが地道だけれど1車線はある道。菅山寺への取
付け道路なのかもと思った我々は、本来の道は直進の方だろうと、まっすぐ進むことにし
た。が、実は左折の道が本来の参道だったことが後刻判明する。

 ほの暗い沢沿いの道は右に何かの石碑を見て登っていく。左に池。更に上がると今は使
われていないような古い配水施設らしい建物の前に出る。すると左の杉林の斜面を登って
行くはっきりした道がある。ピンク紐も時折現れるので、迷わずこれだと進んでいく内に、
だんだん道は怪しくなってくる。細い倒木も多い。しかし、もともと道はあったようで薄
い踏み跡は続き、沢を渡る部分には昔は丸太が架けられていた痕跡もある。だが更に進む
うちに、その薄い踏み跡も消えてしまう。こうなれば歩きやすい所を選りながら、このま
ま直登するしかない。幸い、GPSによって現在地も分かっており、北に水平距離で20
0mも進むなら、尾根上に出て地形図の点線路があるはずと分かっているので安心。ただ、
その斜面の斜度は半端でない。その上、残雪と土と落ち葉で滑るし、立ち木に朽ち木が多
いのには難渋する。ただ、ブッシュといえるほどの茂りがないのが助かる。手入れのされ
ていない痩せた杉とヤブツバキが多い。それらにすがりながら体を持ち上げる。その内に、
斜面の上部、木の隙間から青空が見え始め、尾根が近いことがわかる。その頃から傾斜も
落ち着き始める。
もうこの辺りには踏み跡はなく、ただ登るのみ
[画像提供:もぐさん]

 傾斜が益々緩み、ヤブツバキや他の雑木の張り出した枝を払いながら、進んだ先には案
の定、道があった。それも車道ほどもある地道。地形図ではただの点線路なのだが。そう、
麓で左折と道標にあったあの本道だったのだ。というわけで、記念の写真を撮ろうと腰を
まさぐった時である。あれっ?。無い。デジカメが...。「アチャー。参道の梅を写し
た後、ホルダーに戻したのはいいが、きっちり留めをかけておらず、倒木を潜ったり、枝
を避けて屈んだりした時にすり落ちたらしい。「うーむ」通常の道なら回収に向かう所だ
が、登ってきた場所が場所だけに、忠実にトレースも追うこともかなわず、これは諦める
しかなさそう。「うーむ、残念」傷だらけだけれど気に入っていたディマージュX20な
のに。(T_T) ちょっと落ち込む小生。

本当はこんないい道なのだ[画像提供:もぐさん]

「ご苦労さん」とでも言いたげな参道の石仏
[画像提供:たらちゃん]

 約1時間の悪戦苦闘のあの斜面の道なき道に比べれば天国みたいな道だ。所々に置かれ
た石仏は弘法大師像が多い。「ごくろうさん」と言いたげな柔和な顔をした像もある。そ
ういえば菅山寺は真言宗の寺である。雪はまだ残るが、マンサクが咲き、南向きの斜面で
ははやショウジョウバカマやスミレが花を開く。風が当たらなければポカポカと心地よい。
10分くらいでウッディパル余呉からの尾根道を合わせ、菅山寺への道標の立つ辻に着く。

雪の残る菅山寺分岐の辻[画像提供:なかいさん]

 菅山寺へはかなり下らねばならないようだ。こちらは少し雪が増え、自然石の階段は雪
でほとんど見えないが、昨日歩かれたらしいトレースが残り、アイゼンをつけるほどでも
ない。ブナの林を抜け、ぐるりと回り込む形で近江天満宮の前に出る。その前は朱雀池と
いわれる澄んだ湧水池で弁財天が祀られている。日当たりの良い場所を選んでランチタイ
ム。ちょうど五所権現の前が良さそうである。背の高いシキミの花が盛りである。

 30分ほどで食事を済ませて、池からあふれ出る流れに架かる橋を渡って右に折れると、
菅山寺の本堂へ向かう自然石の階段となる。カシだかシイの大木とモミの大木があり、本
堂と思ったのが近づいてみれば不動堂で、横に小さな鐘楼がある。梵鐘は鎌倉期の鋳造で
重要文化財だそうだが、今も撞くことが出来、試しに撞いてみる。なかなか明瞭な音が辺
りに響き渡る。道真公お手植えのケヤキというのがあるはずなのだが、山門にあるとは知
らず見損ねてしまった。

 再び、菅山寺の分岐の辻。呉枯ノ峰へは1km足らずである。中部北陸自然歩道に指定さ
れた道は、残雪にこれも昨日のものらしい先行者のトレースを残しながら、緩やかにアッ
プダウンを繰り返しながら南へ続く。トレースの中には人に混じって鹿の足跡もある。時
折、覗く余呉湖。赤坂山や三国山に続く山々は白く、琵琶の湖面に長浜方面の市街も望め
る。時折、現れるマンサクの黄色い花は満開だけれど、コシアブラの芽はまだ堅い。

 田上山への分岐を右に過ごして、ようやく前方に姿を現した呉枯ノ峰の本峰。雪から保
護する為か、リョウブなどの雑木と若い桧が紐で結んである下を潜る。田上山分岐から5
分ほど。雪の中から三角点標石が顔を出し、標識プレートが木々に取り付けられているの
が目に入る。
雪の中の呉枯ノ峰の一等三角点
[画像提供:たらちゃん]

 のっぺりとした呉枯ノ峰の頂は丈の低いササが生え、一等三角点のある山の割りに展望
は木が茂ってよくないのだが、何となく落ち着き感じがする山頂である。写真に忙しいも
ぐさんとなかいさんが追いついたところで、下山路の相談。5時には帰らねばならぬ水谷
さんとなかいさんは田上山経由。他はそのまま南の尾根を歩く事にして別れる。集合場所
は木之本の造り酒屋だ。

 尾根道は大したアップダウンも無くゆるゆると標高を下げていく。482m標高点の西
の肩を抜ける。展望はその482m標高点の南で、道が南東から南寄りに方向を変える辺
りが今日のうちでは最高だろう。赤松が多い斜面は伐採が進んでおり、南方向が大きく広
がる。最初に目に入るのは雪を被った伊吹山で、己高山の山並みの向こう側に春陽を浴び
て輝いている。眼下を流れるのは高時川。右手には木之本から長浜へかけての湖岸線が弧
状に延び、小谷山の尾根の向こうに一際白いのは霊仙山だろう。湖面にポッカリ浮かぶの
は竹生島だ。まさに一幅の絵だなあ。ここは南向きでポカポカ陽気。昼寝したいくらい。
足元ではタチツボスミレがいち早く小さな花を付けている。

 伐採木が詰まれた間をジグザグに下っていくと、道のそばに四等三角点『千田』がある。
写りのいいキンキマメザクラの花は『千田』を少し下りた辺りにあっただろうか。オオイ
ワカガミも紅く色づいた葉を光らせている。

木之本側の登山口
[画像提供:たらちゃん]

 やがてぽっかりと明るい部分に出る。木之本側の登山口で、地形図にも記載のある丸い
建物は木之本町の配水施設のタンクである。西に歩いていくとこの付近には町の文教施設
が集まっていて、伊香高校と木之本小学校や中学校は隣通し。その西の大きな甍が木之本
地蔵で知られる浄信寺。折角なので境内を歩く。ここは昔、渡岸寺の十一面観音像を拝観
に来た折に寄って以来2度目。白梅が見頃を迎え、近くに立つ地蔵菩薩の大きな銅像の顔
は、まるでそれを愛でているかの如く俯き加減である。

 浄信寺の前は北国街道。札の辻と呼ばれる十字路を南に折れると何だかタイムマシンに
乗って過去にワープしたようにレトロ感溢れる町並みである。旧本陣には馬の手綱を引っ
掛けておく金具や、○○散などという薬の木製看板がぶら下がる。その向かいがかの魯山
人も逗留し、愛飲したという地酒七本槍の造り酒屋。創業450年。大きな杉玉が目印で
ある。ガラス戸を開けるともう、田上山経由の水谷さんとなかいさんは下山していて、中
で利き酒?の最中だ。今日は造り酒屋のご主人が在宅で、手ずから酒を売ってくれる。皆
さんは生酒なんぞをお土産にしていたが、重いので、小生はあれこれ試飲するも結局買わ
ずじまい。(^^;
北国街道沿いに大きな杉玉が目印の「七本槍」
の蔵元の富田酒造 [画像提供:たらちゃん]

 浄信寺の前を戻って地蔵坂と呼ばれる緩い坂を駅方面へ。今日は祭りだとかで駅前には
神輿が出ている。播州赤穂行きの新快速まで少し時間がある。駅に併設されている物産館
で地醤油でも買って行こう。

 運よく空席あり。そのまま新大阪まで戻ればいいのだが、ついでに街オフの話が出、高
槻で途中下車。スナフキンさん行きつけの店は焼酎がメインの店で、ウツボの天麩羅や四
万十川の青海苔などの珍味を出してくれる。それらに舌鼓を打ってお湯割で管を巻く。久
々に食した宇和島のジャコ天も旨かった。本日も中身の濃い山行きが無事終了。皆さん有
難うございました。

 くだんの道なき道にて、デジカメを紛失した為、本稿の画像は皆さんから提供いただき
ました。あらためてお礼申し上げます。



■同行 しゅうさん、スナフキンさん、たらちゃん、なかいさん、水谷さん、もぐさん

【タイムチャート】
7:21JR新大阪駅発
9:07JR木ノ本駅(北陸本線)
9:22菅山寺鳥居(坂口)
9:35登山口
10:35登山道本道合流
11:00菅山寺分岐
11:15〜11:50天満宮(昼食)
11:55菅山寺
12:12〜12:16菅山寺分岐
12:43田上山コース分岐
12:49〜13:05呉枯ノ峰(531.9m 一等三角点)
13:26482mピーク
13:44点名『千田』(393.0m 四等三角点)
14:07登山口(配水タンク横)

呉枯ノ峰GPS軌跡 (罫線間隔は10秒=約300m)
 国土地理院2.5万地形図閲覧サービス、フリーソフト『カシミール』を利用しました)


呉枯ノ峰のデータ
【所在地】滋賀県伊香郡木之本町
【標高】531.9m(一等三角点)
【備考】 湖北の木之本町の北側を南北方向に屏風状に連なる山塊
の主峰です。一等三角点の割りに展望に恵まれませんが
縦走路からは琵琶湖、余呉湖が静かな湖面が望まれ、東
側には冬なら己高山、横山岳、伊吹山の雪を被った姿が
綺麗です。また北側に、菅原道真ゆかりの真言宗の菅山
寺があります。
【参考】
2.5万図『木之本』



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