木梶山への稜線上の展望地から北方向を望む

木梶山〜北部台高の静寂の山へ
 
平成19年 1月13日(土)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】別掲
冬枯れの木梶山(奥に見える峰)


 木梶山。「えっ?何処にあるの?」結構山歩きをする人でさえ思わず問い返してしまう
ほどマイナーな山であるが、近頃、ちょくちょく耳にするようになった山でもある。それ
だけに、まだ手付かずの自然林が楽しめるというので皆さんと出かけてきた。途中には思
わぬアルバイト?もあったけれども、雪が残る裸木の尾根と山々の展望はそれを補って余
りあるものでありました。

 例によって千里中央で集合。近鉄榛原駅前で奈良組と合流してR166を走る。高見ト
ンネルを抜けてすぐ三重県側から大峠への旧道に入り、木梶三滝と書かれた古い案内標識
に従って木梶林道を行く。ダートを10分ほど走れば木の鳥居が立つ滝の前に数台置ける
駐車スペースがある。もっと中まで行けそうだが、凍結もあり、切通しの斜面は節理で崩
壊しやすいようなので、この辺に車を置くのが無難そうであった。

キワラ滝の前には不動明王と鳥居がある

 下界ではそうでもなかったが、車を出た途端、ヒヤッとした冷気が伝わってくる。国道
で1℃の表示があったから、零下2、3度は上回るまい。この辺りは木梶三滝として遊歩
道が整備されているらしく案内板もある。目の前にも落差のある滝があるが、眼下も木梶
川の深い谷で、はるか下にも白い滝が見えている。

 準備を終えて歩き始める。水の豊富な山らしく林道横のあちこちに小さな滝を懸けてい
る。湧き水の一部は凍結し、長さ50cmになろうかというツララになっているのものもあ
る。車止めゲートを越えると、谷を挟んだ左側に褐色の裸木の綺麗な斜面がみえてきて、
期せずして感嘆の声も上がる。カーブを曲がる毎に変わる風景を愛でつつ、木梶川の深い
渓谷に沿って左岸を30分も歩いたろうか。左に大きくカーブする所に数台の車が置ける
スペースがあり、1台の車が目に入る。さっきからあった新しい轍はこの車のものらしく、
おりしも単独小父さんがチェーン装着の真っ最中である。何でもその先まで行ったけれど、
凍結なので戻ってきた由である。ここまで来ると北台高縦走路の尾根がもう間近で、何処
から登ろうかと思案していた我々は、杉林につけられた踏み跡を発見、案内テープもない
けれどここから取り付くことにする。

北部台高縦走路へ取付く。
最初は快適道だったのですが...。

 存外明快な道がついている。植林の作業道なのだろう、急斜面にジグザグにつけられて
いてすこぶる登り良い。やがて左側に鹿ネット。その横の切開きをぐんぐん登る。あっと
いう間に林道ははるか目の下。傾斜も緩んで楽勝だねと思っていたその時である。ルンル
ン気分で歩いていたら、突然、先行していた水谷さんらが戻ってきた。なんと道が崩壊し
ているらしい。確かめてみると谷の源頭から土砂が雪崩れて道を隠し、しかもザレザレ。
その手前は人が通わなくなって繁茂し放題のイバラ。通っているのは鹿ばかり。(糞があ
ちらこちらに)(^^; 若い植林の部分には作業道があるかと期待したら大丈夫だろうと進
めば手入れがされておらず、下枝が伸び放題。仕様がないというので、少々危険を冒して、
雪が残るザレた斜面を強引に直登する事にする。尾根までの高度差40mくらいか。これ
も尾根上に縦走路があるはずだと分かっているから。そうでなければとっくに撤退してい
たろう。(笑) しかしイバラの攻撃は凄い。滑る足元に思わず支えの為に持った枝がイバ
ラ。「痛っ!」。見れば長さが1cmもある棘が薬指の爪の横や手のひらに。ザックは引っ
かかるわ、服にも絡むわ。もういやっ!イバラが少なくなっても今度は雪が絡んでくるか
らやばい。気を抜けばズルりと十数m滑落だ。所謂”マジ”に緊張とはこのことだろう。
それでも登るほどに楽になって、なんとか登り切った所は『南のタワ』と呼ばれる辺りの
ようであった。

 ポツポツとヒノキの生えている風景は、なんだか少し見覚えのある場所である。そうい
えば、高見山の大峠から明神平を縦走した時、滝がある旨の標識を見た覚えが微かにある
のだが、それはこの近辺だったのかもしれない。ここから眺める高見山は木津からのもの
ほど鋭くは無いが、その分、堂々としており、鳥の渡りで有名な雲ヶ瀬山もなかなか優美
である。こんなことを言えるのも、無事に上がってこれたからで...。(^^;

高見山と雲ヶ瀬山が美しい
(南のタワの南付近から)

至福の北台高縦走路。寒風だけが璧に瑕

 以前よりテープ類が増えて歩きよくなっている。1006m標高点を過ぎ、幾度かアッ
プダウンを繰り返す。さっきの直登でエネルギーを消費したのか、このアップダウン、シ
ャリバテとあいまって、結構、脚にくる。それを我慢し登ったハンシ山は杉桧林の中で面
白みは無い。右にカーブして下り、再びだらだら登ると地蔵谷頭。標識がないとそれと分
からない何の変哲も無い場所。しかし、東側斜面が少し窪んでおり、少し出てきた風が避
けられるのでここで食事とした。

 留まっていると深々と寒さがにじり寄ってくる感じ。持参のレインスーツの上衣を着込
む。東に見えている木梶山方面はまだまだ遠く、現地点は全行程の1/3程度で先は長い。
しかもこの時点では木梶山より先の状況もはっきりしていなかったので、明るい内に下山
路の林道には出ておきたい。20分ほどで食事を切り上げスタート。でも間に合うか少し
不安も頭をもたげる。

 雪の上に犬を連れたらしい一人の先行者の足跡がある。それらしい車も無かったし、誰
だろう。昨日のものかもしれない。この頃から尾根に吹き上げてくる北西からの風が強く
なる。もう外見なんかかまっていられない。タオルでほうかむりして耳の冷たさを防ぐ。
この格好、まるで空き巣だわ。(笑)
赤ゾレ山から国見山に続く冬の台高主稜線。
アセビにはもう大きな蕾が鈴なりだ

馬駈ヶ辻に向かって雪原を行く

 風は伊勢辻への登りから伊勢辻山付近が最も強かった。ところが伊勢辻山を過ぎた頃、
急に風が収まる。風の通り道って、やはりあるのだと実感。しかし代わって雪が深まって
くる。先行者の足跡以外を踏むとズブリ。平地を歩くよりかなり体力を消耗するみたい。
深さは20cm近くはありそうである。雑木類も時ならぬ白い花を咲かせたように見える。
開けた場所に出ると右に薊岳、遠くに大峰の大普賢岳。前方に大きく雪を被った国見山が
鎮座し、明神平はかなりの積雪らしい。簪のような蕾をもう一杯付けた大きなアセビの群
落下を抜け、赤ゾレ山の山頂下をたどる。池は完全に凍っている。

 ここまでくれば分岐の馬駈ヶ辻はすぐそこ。意外に早い。約1時間でやってきたことに
なる。この分なら大丈夫。小さなピークに登った先が馬駈ヶ辻である。

やっとついた馬駈ヶ辻で小憩

 存外明快な踏み跡がついている。そして過剰な位にテープもあって迷うこともなさそう。
地形図どおり平坦な尾根で、霧氷をまとったブナ、ミズナラ、リョウブの下をルンルン気
分で歩ける。と、右手が開ける。動物がわだかまったような姿の山は桧塚らしい。こんな
角度から桧塚を見るのは初めてだ。

 ところでさっきから気になっていたのは先行者の足跡があること。伊勢辻の登りにあっ
た足跡は消えてしまったが、新たに伊勢辻山付近から動物の足跡に混じってまた靴跡が現
れたのである。馬駈ヶ辻からは複数の靴跡。バージンスノーもいいが、人の気配があると
何となく心強い。しかも足跡を伝って歩くと雪に靴が沈まず歩きよいのだ。と、前方から
ご夫婦らしい男女が下ってきた。足跡の主に違いない。聞けば大又林道の駐車場から赤ゾ
レ山へ直登してきたとのこと。「へぇー」そんなルートもあるのかとこちらは感心しきり。
後日、HPを眺めていたら囲炉裏の「円の亡者」さんだったことが分かる。「うーん。な
るほど」

 間もなく着いた馬駈ヶ場には例の紀州わらじ会のフクロウの山名標識がある。馬駈ヶ場
はこの辺り一体をいうそうだが、少し高みになったこの1316mピークが一番高そうな
ので代表しているのかな?まあピークともいえないもっこりした高みだけれど...。こ
こで一休み。後続を待つ。

 馬駈ヶ場から東には登山路が左に曲る峰があるはず。平坦なのでものの数分でその峰に
行き着いた。確かにテープが二手に分かれている。地形図を見ると、右(南東)方向に行
けば千秋林道の先端に出られるようである。

 ほぼ直角に左に折れると、やがて前方が大きく広がる北向きの斜面に出る。台高北部か
ら曽爾高原方面が一望できる。高見山、倶留尊山、鎧岳、兜岳、大洞山、尼ヶ岳、三峰山
などが居並ぶ姿は壮観であった。

 カヤトの斜面は風が強い。その先は細尾根だが、雑木が風を防いでくれる。えらいもの
だ。しかも5cmは厚みがあろうかというブナやミズナラ、カエデの落ち葉は天然の絨毯。
ザクザクと音を楽しみながら歩を進める。

木梶山山頂直下は分厚い落ち葉の絨毯だ

木梶山山頂風景

 雑木の間を緩々と登った木梶山の狭い山頂は、中央に欠けのない三等三角点があって、
紀州ワラジの会はじめ山名標識が幾つか。展望はあまり無い。三角点標石を中心に丁度Y
字路になっている。東の方向に行けば木梶林道の支線へ、西の方向に行けば木梶林道の終
点に出ることができるはずだが、テープは西の方向へ導くように巻かれている。全員集合
して小休止の後、それに従って西尾根上の明快な踏み跡を辿ることにする。

木梶山西尾根は手垢がついていない良さがある

 雪が残る落ち葉がふかふかの尾根道はこちらも素晴らしいの一言。去年の晩秋に歩いた
馬ノ鞍峰の尾根道を思い出す。左手には先程まで歩いていた稜線が見え、木梶川の谷を挟
んでグルリと一周してきたことが分かる。道は主尾根をはずれ、いつしか支尾根を伝い始
め、だんだん細まってくると、突然、シャクナゲの林となる。カラマツみたいな落葉針葉
樹も混じっている。地形図で予測した通り尾根の両側は厳しい傾斜。その突端近くになっ
て、×印のテープと雑木の枝で直進不可にしてある場所に出る。道が折れ曲がる所には三
重にテープが巻かれていて親切だ。それに従い左側に一気に下りる。こちらは植林で、そ
の幹で体を支えながら降りていくと次第に水音が高くなってきて、眼下に水の流れも垣間
見えるようになってくる。そうして林道に降り立つとそこには新宮山彦の会が設置した登
山口の新しい案内標が立つ。

シャクナゲ尾根の途中から急降下すると
木梶林道終点付近に出てくる

 フウーッ、やれやれ。明るい内に林道に降りてこられた。馬駈ヶ辻より先はアップダウ
ンが少なく歩き良かったことと、木梶山の西尾根も案内がしっかりしていたおかげである。
登山口付近でお疲れ様のコーヒーブレーク。林道終点からもまだ上へ遡れるようであるが、
30mも進むと山抜け痕がある。それでも雪に足跡があって、最近歩いた人がいるようで
あった。

 尾根にあった×印の意味がわかった。山抜けでもあったのか大きく山が削られ、法面が
50m位の高さまでコンクリートに固められているのだった。でもこの木梶林道、板状節
理というのか、法面は非常に脆い岩である。岩がスポッと抜けて道に落ちてばらけ、尖っ
たナイフみたいに転がっている。車で通るにはパンク覚悟が必要だろう。でもその前に倒
木が通せんぼしてくれている。(^^;

 何段にも段差がある滝は鳴滝と呼ぶらしい。その近くの路面は水溜りがツルツルに凍っ
ている。念の為という事でザックにはアイゼンを用意してきたが、山では必要なく、かえ
って林道で必要だとは...。(^^; でも何とか使わずに通過する。

 尾根に取り付いた所には30分ほどで到着。勿論、もう小父さんの車は無い。そこから
40分また歩いて滝の前の駐車地に戻る。いつの間にか空には灰色の雲で、ちらちらと白
いものも落ちはじめる。いい時間に帰ってきたもんだ。このうす暗さじゃ、山の中はもう
細部が見え難かろう。手垢のついていない台高の尾根道。またまたお気に入りが増えてし
まった。皆さんどうもありがとうございました。


■同行 呉春さん、スナフキンさん、たらちゃん、なかいさん、水谷さん、もぐさん
    ランナーさん(五十音順)

【タイムチャート】
7:00千里中央(集合地)
8:30榛原駅(第二集合地)
9:30〜9:45キワラ滝前(駐車地)
10:23〜10:25木梶林道から尾根への取付点
10:40〜10:45登山道崩落箇所
11:20〜11:21南タワ(北部台高縦走路合流)
11:56ハンシ山(1,137m)
12:07〜12:30地蔵谷頭(1,129m)(昼食)
12:50伊勢辻
13:03伊勢辻山(1,290m)
13:25赤ゾレ山(Ca1,300m)
13:37〜13:40馬駈ヶ辻(1,320m)
14:00〜14:10馬駈ヶ場(1,316m)
14:12〜14:15尾根の分岐
14:37〜14:45木梶山(1,230.2m 三等三角点)
15:27〜15:45木梶林道出合(登山口標識)
16:06木梶林道から尾根への取付点
16:40キワラ滝前(駐車地)



木梶山のデータ
【所在地】三重県松阪市(飯高町)
【標高】1230.2m(三等三角点)
【備考】 台高主脈から東に派生した稜線上の一峰です。登山口から
遠くマイナーな山ですが、木梶林道からのアプローチが開
かれ楽になりました。しかし、まだまだ訪れるハイカーは
少なく、ヒメシャラやブナの自然林は素晴らしいものがあ
ります。
【参考】
2.5万図『高見山』


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