おっと危ない弥高百坊から伊吹五合目
 
平成18年 4月15日(土)
【天候】雨
【同行】別掲
弥高百坊の本坊跡


 2月に次いで再びつむぎさんが来阪。その歓迎オフ第一日目に付き合せて頂いた。場所
はここ数年前より地元の方々が整備して下さっているという、伊吹山ではまだ少しマイナ
ーな弥高百坊から五合目へのコース。通常ならそれほど危険はないのかもしれないけれど、
雨、そしてそれにつきもののガス、そして尾根筋の平地や谷間の残雪がコースを難しくし
てくれたお陰で、結構なアドベンチャーコースになったのでした。

 午前8時過ぎの集合地点の千里中央の読売文化ホール前。今日はあちこちで各種のハイ
キングなどのイベントが催されるのであろう、チャーターバスがひっきりなしに出入りす
る。その間隙を縫ってやや遅れての出発である。混む事もなく順調にJR米原駅に着き、
つむぎさんを出迎える。

 雨は大降りはしないものの、止む気配もなくしとしとと降り続く。いつもなら雄大な伊
吹山が眼前に姿を現すのであるが、登山口の上野に着いても麓さえも見えない。晴れてい
れば、折からの満開を迎えた桜と伊吹。いい被写体になるのだけれど...。(^^; セメ
ント工場のコンベアの高架近くに『上野ふれあい広場』と名づけられた駐車地があって、
ここにもぐさんの車をデポし、水谷さんの車で弥高の悉地院沿いの車道を遡る。少々荒れ
た林道となったところで、弥高川に沿ったヘアピン部分が小広く、駐車余地が見つかる。

 ダートの林道を傘を差しながらのスタートだ。例年にも増して降った雪の重みの為か、
斜面から横倒しになっているものが多い。中には耐え切れずボッキリと折れたものもある。
それでも芽を膨らませている生命力の強さには恐れ入る。右手に谷を挟んで、土砂採取現
場が手に取るように広がる。上部は平地、そして100m位の赤土剥き出しの崖。無残な
ものだ。重機やダンプが入って、時折排気音や土砂を落とす音が聞こえる。腹をえぐる様
な発破の音も聞こえる時があるらしい。
無残な土砂採取現場

 20分ほどもゆるゆると行くと左手に分岐があって小さな祠がある。その先には良さげ
な道が続いているが、今日は大人しく林道に引き返す。この辺りに四等三角点『弥高山』
があるはずだが、濡れて密生したクマザサの中なので見つける気がしない。左に大きくカ
ーブすると大きな高圧鉄塔が立っていて、その先で先ほどの道の続きらしい山道が合流し
ていた。この辺りまで来ると、所々の窪みに雪が残るようになる。タラノキもまだ芽は固
く、木々の芽吹きもようやく始まったばかりの風情。麓では桜が咲いているのに、標高5
00mを越えるとまだまだ寒いらしい。

 車が数台止められるような広場に到着した。左にいい山道。説明板があって、弥高百坊
への道らしい。直進は京極氏が造営したという上平寺城への道だとか。我々は左の山道に
入り、百坊を目指す。説明によれば、弥高百坊は平安期に僧三修によって開かれ、盛時に
は50を越える坊舎が甍を競ったらしいが、度重なる火災の為に衰え、今では麓の悉地院
他、一院を残すのみとなったとか。誰も省みず、ヤブに埋もれていたのを地元の方々の尽
力で最近、整備されたのだという。今歩く道はその整備のおかげなのだが、この冬の間は
歩かれた形跡がなく、至る所に倒木だらけ。乗り越えるだけで結構なエネルギー消費であ
る。右にカーブすると草原のようになって、『大門跡』の標識がある。いよいよ、弥高百
坊の敷地内に入ったらしい。誰だか歓声を上げた。あちらこちらにカタクリの葉。ニリン
ソウやイブキトリカブトの若葉も見える。そこから5分も歩けば、広大な本坊跡の草原で
あった。振り返れば、関が原から美濃平野、養老山系と広がるはずなのだが、ガスの切れ
間から麓付近が時折見えるのみ。それでも雄大な景色が彷彿できる。

 松の木がぽつんと生え、数本のイヌツゲ。転がった石を見れば中央に穴。紛れもなく建
物の礎石の穴である。草原の端に立てば、上平寺城、別名桐ヶ城の跡が見えるそうだが、
ガスも上がってきてどこがどれだか素人目には判然としない。

 風が強く、傘が役立たない。早々に本坊跡を後にしてジグザグ道を登ると、道が分岐す
る。最寄の木に『伊吹5合目 伊吹歴史と自然の会』と書かれた指導標が架けられ、右に
踏み跡が続いている。左は『大堀切』。こちらに寄ることにする。

 『大堀切』には人工的に掘り下げて段を造った跡が残る。ここも低木が残るのみの草原
である。ここにも転がった石があったが、よく見れば摩滅した石仏である。

摩滅した石仏が転がる

 西の方向に思いの外、伊吹三合目の建物が近いのに驚く。だが、そこまでは尾根沿いに
トラバースして谷を源頭まで遡り、更に向こうの山腹を忠実に辿っていかなければならず、
結構時間がかかるのだという。
大堀切から伊吹三合目は指呼の間なのだが...

 『大堀切』を辞去して分岐まで戻り、五合目を目指す。ここからは本格的な山道で、自
然の会の指導標もなくなり、疎らなテープがあるだけである。しかし、踏み跡は明快で迷
うような所はない。しかし、倒木アスレチック状態で、潜る度の中腰は疲れる。(笑)

 やがて、尾根に出て上平寺城への尾根道を右に分け、左に折れて膝から太もも程度の高
さの笹を踏み分ける。顕著な尾根の上で、前方の高みが弥高山のようだ。ややきつくなっ
た登りをこなすと、潅木が疎らに生えたのっぺりした笹原である。三角点は踏み跡から外
れた西の方向にあるらしい。鹿の糞が転がる枯れた笹に足を取られながら、20cmくらい
の深さの雪が残る辺りを探すがなかなか見つからない。雪の下なのだろうと諦めかけて、
ふと目の高さにある木の枝を何の気なしに見ると、小さな木のプレート。さてはこの辺か
と周囲を眺めれば、石標が枯れ笹の中にチョコンと顔を出していた。点名『城跡』。さっ
きの四等三角点よりこちらを弥高山とした方がよさそうだが、名称からすれば、上平寺城
の出城か砦の跡でもあったのかも知れない。ちょうど雨も小降りになり、きりもいいので
昼食はここで摂ることにしたのだが、みんな立ったままの食事だ。(^^; 風がやや強くな
って、じっとしていると寒い。いつもならもっと食事を楽しむところであるが、今日は空
腹を満たすだけの感じ。口に掻き込んで食事時間は僅か15分である。(^^;

弥高山の三角点は残雪と笹の中

 弥高山を後にする。本来なら伊吹山の本峰が立ちはだかるはずが何も見えない。が、周
囲はブナの灰白色の肌も散見されるようになって雰囲気はいい。しばらく進むと尾根が広
がって中央に雪田が現れ始めた。そうして、その雪田が踏み跡を消してしまっているのか、
踏み跡が消えた。ガスも濃くなってくる。こうなれば確実な所まで戻るにしくはないと5
0mほども戻ると、在らぬ所にテープを見つける。だが、ホッとするのも束の間。またま
た雪田が踏み跡を消した箇所に遭遇。一度来たことのある水谷さんによれば、尾根筋から
そろそろ外れて、やや下の山腹をたどるはずという。再び戻れば、しばらくしてつむぎさ
んがテープを発見した。明快な踏み跡にまたまたホッ。通常は問題なかろうが、この辺り、
テープが少ないので、ガスの出た時や雪の季節は注意が必要だろう。

幻想的なガスの流れる中、五合目へ

 尾根を僅かに外して、踏み跡は山腹を忠実にトレースして行く。相変わらずの倒木アス
レチック状態は変わらない。小さな谷の源頭を慎重に越えると、植林から伊吹山特有の低
木帯に変わる。遠くから低く微かに重機の唸り。例の土砂採取場の音だろうか。

 かなり前を進んでいた一行が俄かに詰まり始める。見ればかなりの雪を残した雪渓が行
く手を遮っている。弥高川の源流の谷である。ここはさっきの谷の源頭の比ではない。バ
ランスを崩せば数十mは滑落するに違いなく、緊張が走る。先頭の水谷さんが雪に足を蹴
りこんで足場を作ってくれている。腐った雪で凍結していなかったのが幸い。何とか全員、
無事渡り終える。ホッ。

弥高川源頭の雪渓を慎重に横切る
コースは左上の雪の残る支谷を遡上する

 ところが登山路は源流の谷に合流する小さな支谷を遡行するらしく、ここも雪が多い。
しかも底は解けて水流が出来ている。案の定、踏み抜く人が続出。かくいう小生も50cm
位を踏み抜いて、挙句に左手に切り傷を負う始末。トホホである。

五合目の上の売店横に出てくる

 ほうほうの態で支谷を抜けたが、そこからも雪の残る山腹沿いの水平道は延々と長い。
それでもいつしか低いブッシュに出て、建物が見えてきた。なんと五合目を過ぎたトタン
葺きの売店の建物横に出てきたのであった。

 ここからはゴロタ石の転がる勝手知ったるメイン登山道。フキノトウを摘みながら、ゲ
レンデを下れば三合目のホテル前である。スキー客で賑わったであろう高原ホテルも今は
閉鎖されている。閉まっているだろうと思いつつ玄関のガラス扉を引くと、意外や開くで
はないか。建物の中に入り、ようやく雨風が凌げたことで、やっと人心地が着いた。寒か
った〜ぁ。(笑)
 
 食堂に出ると、所々に明かりがあり、自販機も一基稼動中。工事関係者の出入りがある
様子である。トイレを借りようとするとここは真っ暗。幸い水谷さんがヘッドランプを持
参していて助かる。食堂の椅子に腰掛け、みたらし団子やお菓子で暖を取って一息つく。

 三合目と麓の間はいつもゴンドラ利用なので登山道を下るのは初めての経験。ホテルを
出てロープで囲われたスキー場の中の誘導路を進む。と、斜面にパラパラと小さな白い花
が散らばっているのが目に入る。ミスミソウだ。原種の様で小さな葉に小さな花。アマナ
の筋の入った蕾も目立つ。それを見て皆さん一斉に俄かカメラ小僧と化した。

 寺を左に見てスキー場を更に下る。スキー場の閉鎖に伴って、廃屋と化した民宿や貸し
スキー屋が並んでいる。幟だけがヒラヒラと風にはためいているのがうらぶれた気分を醸
し出している。そこから今度は植林の中の道となる。道端にセントウソウの白い花火のよ
うな花が目立つ中、ここにも雪割草が咲いているのが見つかった。

 下の方だった民家の甍が徐々に近づいてくると、勝手知ったる三宮神社の境内である。
神社横の流れで汚れた山靴をすすぐ。フーッ。何とか無事に下界へ。ザックを下ろして休
憩。結構、体力を消耗しているのが分かる。雪があるかないかで山の難度はこうも違うも
のだと感じた次第。でも面白かったなぁ。

 さて、夜はつむぎさん歓迎飲み会。それを楽しみに大阪へ戻りましょうか。


■同行 幸さん、つむぎさん、のりかさん、水谷さん、もぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
7:20自宅発
7:50〜8:15千里中央ローソン前(集合地)
10:30〜10:35上野ふれあい広場(車デポ)
10:40〜10:50悉地院上の林道路肩(駐車地)
11:10ショートカット分岐
11:40弥高百坊分岐
11:50大門跡
11:55〜12:00本坊跡
12:10〜12:15大堀切
12:26上平寺城跡分岐
12:32〜12:45弥高山(838.7m 四等三角点)
14:05伊吹山五合目
14:40〜15:00伊吹山三合目
16:10上野登山口


弥高山のデータ
【所在地】滋賀県米原市
【標高】838.7m(四等三角点)
【備考】 伊吹山の南尾根上に派生する一峰です。平安時代の仁寿
年間に三修によって開かれた弥高寺の遺構が山頂の南側
に広がっています。また、京極氏によって作られた上平
寺城跡も近くにありますが、三角点の点名は『城跡』で
す。尚、弥高山から伊吹山五合目の道はテープのみで、
積雪時はロストしやすく、夏場はやや生え込みそうで、
経験者と同行が無難です。
【参考】
2.5万図『美束』


■弥高山〜伊吹山五合目ルートGPS軌跡(罫線は10秒=約300m 国土地理院、カシミール
 を利用しました) 先頭へ


   トップページに戻る

inserted by FC2 system