箕作山から太郎坊〜万葉の里早春賦
 
平成18年 3月 4日(土)
【天候】晴れ時々くもり
【同行】単独
船岡山付近より左に小脇山、右に太郎坊


 今週も湖東。先週の雪野山からの姿が興味を引いて、箕作山から太郎坊へ。麗らかな晴
天に恵まれて、岩あり。石仏あり、大展望ありと、今回も早春の万葉の里山を堪能してき
たのである。

 少し節約、手前の栗東ICで降りて近江八幡を目指す。R421を近江鉄道八日市線と
並行して走る。西側に先週歩いた雪野山がうずくまる。市辺駅手前に『万葉の森船岡山』
の標識が見つかったが進入路がない。仕様がないので小脇町で折り返す様に県道に入り、
『万葉の郷ぬかづか』の建物横からようやく船岡山の駐車場に入る事が出来た。

 びっくりしたのは高木の梢に夥しいカラス。どうもここをねぐらにしているらしい。糞
をかけられては堪らないので、木の下にならないよう、駐車位置に苦心惨憺である。(笑)
準備をしていると軽四輪。石段の上の稲荷神社の参道を掃き清めに来られたらしい。太郎
坊まで行くと話すと「気をつけて」激励を受ける。(^^;

 船岡山は帰りに寄ることにして、まずは箕作山の取付きを見つけねばならない。『万葉
の郷ぬかづか』の角を山方向に曲がったら、小母さんの声。とりあえずここは道を確かめ
てみるにしくはない。なにせ地図を忘れたのだ。(^^;; そして小母さん曰く「十三佛」の
登山口から登ればよい。曰く車道を真っ直ぐ行けと。ありがとう。そうしてみます。

 車道をテクテク。すると船岡山の影から3人の女性ハイカーが出現、50m程先を歩い
ていく。ここは暫くついて行くことにしよう。(笑)3人は車道から山際へ向かう農道に
折れた。当方からみれば直進である。農道は山の麓で突き当たり左右に分かれる。左に折
れると「みつくりが池」なる池のほとり。道標がある。やれやれ。

 鯉のぼりの吹流しみたいなものが竿の先で風に戦ぐ下で、小父さん達が車座になってい
る。丁度そこが十三佛の登山口。赤地に白抜きで十三佛と書かれた立派な看板が設置され
ている。道標には岩戸山の十三佛まで0.7km、箕作山まで2kmとある。
「何かあるんですか?」
「4月22日と23日に千日会があるんです」
要するにその準備なのであろう。手に持っているのがビールじゃなくて缶ジュース。あて
がチョコレートとは微笑ましい。
十三佛参道口

 登山口はちょっとした広場で車も数台駐車できる。立派な茅葺きの休憩所みたいな建物
もあって、十三佛が地元で大切にされていることがわかる。竹薮の鬱蒼とした中に自然石
の石段。左右に四国八十八ヶ所の石仏が置かれている。立ち木や目ぼしい岩には派手な紅
白のたすきが巻かれていて、少し異様。不動尊の岩の下が白いので何かと目を凝らせば、
大量の塩なのだった。

石仏が林立する十三佛への参道

十三佛の参道にあった大きな石仏

 ご霊水との表示があったので湧き出す水を飲めば結構美味い。そんなこんなで結構厳し
いつづら折れを登れば、周囲が開けてきて湖東平野が美しい。ちょっと一服したいなと思
う場所にあずまや。ふと見るとさっきの三人連れ女性ハイカー。(あれっ?追い抜いたは
ずなのに...。)こちらの怪訝な顔に気づいたのだろう。問わぬ前に、
「池のところから竹薮を通って来れるんですよ。」
「ほおーっ。」

 上から人の声が降ってくると思ったら、岩戸神社である。ジモティーの小母さん、小父
さん達。お参りの最中だろう。想像以上の巨岩である。これがご神体だろうか?でも十三
佛というから仏教だろうに、ここには神社。
「ありゃぁ?」
本殿の横を進むと岩の間につけられた小道がある。上がっていくと本道から少し離れて岩
戸山の頂上で、ここも岩という岩に紅白のたすきが巻かれている。そして岩の上に立てば
青い空の下、湖東平野の大展望。近江八幡の鶴翼山や観音寺山、雪野山、鏡山が浮かんで
いるのが見える。うっすらと霞むは琵琶湖だ。轟音を残して新幹線が平野を貫いていく。
それにしても速い。
岩戸山より湖東平野。左に雪野山、右奥は鏡山

 岩戸山を山頂を巻くようにして道は続く。コシダ、ウラジロが茂る岩混じりから、ササ
はかぶさる道に変わる。アセビの蕾がもう白さを増している。驚いたのはこんな低山にも
かかわらずオオイワカガミが生育していること。やはり琵琶湖周辺は南部を除いて、北陸
に近い気候なのだろうか。

 小脇山は小さな広場になっていて三等三角点がある。木の間越しに雪野山や鏡山そして
目の前には太郎坊の三角の岩峰が南に屹立している。昔は鏡山も小脇山も相場振りの山だ
ったらしいが、確かにさもありなんと思われる位置関係である。

小脇山頂風景

 一旦下ってゆっくり登り返していくと、道が二股に分かれる地点にやってくる。箕作山へ
は左の高みへ。右は巻き道なのだろう。一登りした箕作山の山頂は露岩が埋まる上に狭い。
数人が座れば満杯であるほどであるが、そこに先着の御夫婦が食事中である。彦根から来ら
れたそうで、先週は蔵王だったそうだ。お手製のゆずの砂糖漬を少しお裾分け頂く。ありが
とうございました。そこへ、どこからか正午のチャイム。少し端の岩に腰掛けてこちらも昼
食。そうそう、お手製の菓子を頂いた代わりに名刺を渡しておこう。(^^;

箕作山山頂。ここで昼食

 御夫婦が先行された後も、単独の気楽さでコーヒーを飲みながら寛いでいた小生ではある
が、そろそろというわけで腰を上げる。急降下した箕作山の東側は一転、常緑広葉樹主体の
林。何の木だか目立つ喬木が数本。小さなピークに出ると尾根は2つに別れ北の方へ向かう
テープもある。太郎坊へは南(右)に折れる。すると今日初めて出くわす植林、桧の幼木が
茂る尾根道となって、すぐに瓦屋寺との分岐。寺まで400mとあるので寄り道しよう。

瓦屋寺・延命公園との分岐

 ところが、またすぐに分岐が現れた。今度は延命公園と瓦屋寺の分岐。左の桧林へ50
mも下りて行けば、あっという間に金色の慈母観音像の横に出る。とても400mはない
感じなのだが、それはいいとして絶景なのは観音像の下の展望テラス。湖東平野の向こう
に雪を深くまとった鈴鹿山脈が延々と連なる姿だ。鈴鹿に土地勘がないので良くわからな
いが、霊仙山や綿向山らしいのが分かる。一番高いのは御池岳だろうか。見飽きんなぁ。

 テラスから本堂へ。地面はイロハモミジの葉が散り敷かれている。不動池の前は大きな
カエデの枝が傘のように頭上を覆う。秋はさぞかし綾錦であろう。その向こうに、あら、
珍しい茅葺の本堂。しかもなかなか重厚。
重厚な雰囲気の瓦屋寺本堂

 瓦屋寺は聖徳太子が創建した古刹。四天王寺を建てるのに焼いた瓦をここで管理し、そ
の為に建てられたのだというが、今は臨済禅の寺。33年に一度開帳される重文の千手観
音がご本尊だそうだ。「参拝以外は立入遠慮を」と但し書きがあるものの、「本堂はこっ
ちでーす」などというユーモラスな案内もあって、まあ、賽銭上げて拝むなら参拝客の端
くれだろうと歩かせてもらったのである。

 登山道に引き返し、分岐を左にとって、太郎坊宮方面へ進む。突如、ササで作った休憩
小屋が出現した。道の両側はPPテープと「止め山」の表示が至る所にあるから、ハイカ
ー用ではなく、マツタケを収穫する際に利用する小屋なのかもしれない。

 幅広の道を4、5分で赤神山分岐。太郎坊の最高峰で距離は200mとある。途中で、
先行された御夫婦とすれ違ったが、山に登るという感じではなく、急登は山頂直下の岩混
じりの部分のみ。しかし山頂の岩の上に立って、これほどの展望とは想像していなかった。
素晴らしいの一言なのである。北方向は歩いてきた箕作山や小脇山に阻まれているものの、
後は見放題。東は青い空に浮かぶ伊吹山から鈴鹿の山並み。南には平野の中にポツポツと、
船岡山、雪野山、鏡山。西に琵琶湖に大比叡から比良の山々。眼下の八日市市街は手に取
るようで、おりしも近江鉄道のクリーム色をした2輌編成の電車が汽笛を鳴らし、彦根に
向けて走っていくのが模型のようである。

赤神山から鈴鹿山脈。少し分かりづらいが、
雪を被った伊吹山などが遠望される

 道は赤神山を巻きながら下っていく。麓から眺めるほどすごい岩の間を下る感じは全く
ない。ただ、自然石の石段があるから古くから歩かれた道に違いないと思っていたが、予
想通り「瓦屋寺参道」と刻まれた石標を見つけた。

 凡そ10分足らず。岩にへばりつくような建物が現れ、出て来た所は参道の龍神舎の横
だが、こちらから登り口を見つけるのは難しかろう。なにせ「ご神体山につき登山はご遠
慮下さい」と注意書きがあるのだ。当然、道標などはない。ところが、この道はさっき石
標もあったように瓦屋寺への参道でもある。しかも自治体がなどがハイキングコースとし
て整備しているのだ。なんだかへんてこりんだ。(笑)

 まあ、変な詮索は止しにして、参道を進もう。岩の出っ張りに小さな社務所。その前に
大きな岩壁。それが左右に一刀両断されたが如く幅50cm程度の隙間がある。夫婦岩。う
そを言うと狭まって通れないのだそうな。世の中、議員はじめ通れない人が多そうだ。幸
い小生は問題なく通過したのである。

幅80cm、長さ10m。人一人通れる幅しかない夫婦岩

 阿賀神社、通称太郎坊宮の本殿は屋根の葺き替え工事中。鳥取の三徳山投入堂みたいな
本殿だから、足場を作るのも大変。参拝道はその本殿の横の裏参道を行くようになってい
る。所々に七福神の石像があり、最後は大きな福助の像。ここで表参道と合流し、伏見稲
荷の裏山みたいに夥しい鳥居が並ぶ中を延々と石段くだり。最後は寺の横に出てきた。振
り向くと鎧を着たピラミッドに似た太郎坊山。神奈備山そのものである。

 ところで、そも太郎坊とは何であろう。実は天狗で、京は鞍馬の次郎坊天狗の兄貴で、
この神社を守護しているのだという。

太郎坊参道の鳥居

大鳥居から太郎坊

太郎坊。白いのは修理中の本殿

 スタート地点へは近江鉄道を利用して戻る予定であったけれど、不注意による地図購入
という思わぬ出費を挽回すべく、一駅分歩くことにした。歩いてきた稜線を眺めながら山
裾を歩くのもいいものだ。そしてこの辺りは『狛の長者の里』とも呼ばれるのだという。
『狛』即ち『高麗』。半島からの帰化人が開墾した土地であろう。当然、大陸の先進的な
薬草類も栽培されたに違いない。額田王もこの辺りで薬草摘みをしたのであろうか。

 カメラを向けつつ、小一時間かけて船岡山まで戻ってくる。前述の狛の長者が食べた鮒
の骨がうず高くなったので船岡山となったという言い伝えもあるらしいが、形が単に船に
似ているからであろう。車道から分かれて船岡山の丘陵に登る。雑木林の中に遊歩道が整
備され、最高点には木製の展望台もあるが、周囲の木が高くなり、あまり見晴らしはよく
ない。現代の万葉集だろうか優秀作品の碑が林立している場所がある。その一つに
「好きだよと 手の平に書く 初デート 大凧遊ぶ 蒲生野は初夏」(村川源一)
上手い!

 岩の間にある小さなお稲荷さんの石段の下が駐車場。あれだけかまびすしかった烏ども
も、あちらこちらに出張中なのか、嘘のように静かだ。小川の流れは心なしかぬるんだよ
うに見え、小鮒でも泳いでいそうな雰囲気。大阪近辺ではなかなか見られなくなったヒバ
リが舞い上がり、青空の一点から忙しげな鳴き声を降らせてくる。しばらくその声を懐か
しみ、少し後ろ髪を引かれながらうらうらとした湖東風景を後にしたのでした。
東近江市(旧八日市市)小脇町から眺めた小脇山、箕作山と太郎坊山

【タイムチャート】
8:15自宅発
10:00〜10:20万葉の森「船岡山」駐車場
10:33〜10:37十三仏登山口
10:50〜10:52あずまや
11:03〜11:06岩戸神社
11:09岩戸山(Ca290m)
11:17〜11:21小脇山(373.4m 三等三角点)
11:39〜12:15箕作山(372m)
12:22瓦屋寺分岐
12:28〜12:40瓦屋寺
12:43瓦屋寺分岐
12:47赤神山分岐
12:52〜13:00赤神山(357m)
13:05赤神山分岐
13:10〜13:20太郎坊宮
13:30太郎坊宮大鳥居
14:05万葉の森「船岡山」(144m)
14:12万葉の森「船岡山」駐車場


箕作山のデータ
【所在地】滋賀県蒲生郡安土町・東近江市
【標高】372m
【備考】 湖東平野は八日市市の西に位置し、箕に似た形から命名
されたという低山です。東側に四天王寺の瓦を焼いたと
いう瓦屋寺があります。近江鉄道市辺駅や太郎坊宮駅を
利用すれば、太郎坊山を絡めた縦走が可能です。
太郎坊山(赤神山)のデータ
【所在地】滋賀県東近江市
【標高】357m
【備考】 太郎坊宮の御神体山で、特に南面は岩座信仰のシンボル
の大きな露岩が目立つ特異な山容を示します。山頂から
は360度の大パノラマが展開し、湖東平野から鈴鹿の
山並み、比良、比叡、琵琶湖までが一望です。アプロー
チは近江鉄道太郎坊宮駅です。
【参考】
2.5万図『日野西部』


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