白山三ノ峰〜苦あれば楽あり
               花の別天地へ
 
平成18年 8月 6日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲
三ノ峰山頂から望む別山平から別山
奥には雪渓を残す白山御前峰


 前回のアルプスデビューは低山がモットーの小生初の2000m越え。とはいうものの、
バスで運んでもらった出発地点の北沢峠がもう2000mを越えなのだから、我ながら何
をかいわんや。(笑)それなら今度は正真正銘?歩いて2000m越えしようと白山三ノ
峰へ。登山客が溢れる白山本峰に比べて静かな山歩きが愉しめる山である。折り良く晴天
に恵まれて、懐深い花の山は噂に違わぬ素晴らしい山歩きを大いに愉しませてくれたのだ
が、標高差1200m、日射を遮る木々もない場合の消耗度など我ながら反省材料も多い
山行きでもありました。

 前日の12時半。恒例、千里中央駅近くに集合。北陸道は福井ICで降りて、R158
で勝原(かどはら)へ。途中の大きなスーパーで食料を仕入れ、打波川沿いに上小池の登
山口を目指す。県道とは名ばかり。全線舗装だが、所々ガードレールのない1車線の危な
っかしい道だ。山の夕暮れは早く、少しでも明るいうちにと先を急いでいた時である。下
打波の集落近くだったろうか。右側の崖っぷちから何やら小さい黒い物が這い上がってく
るではないか。何だろうかといぶかしんだのも束の間、次の瞬間には声を張り上げていた。
「おお、熊やっ!」
体長40cm位の小熊だ。引き返してみると山側の茂みがガサガサと揺れている。きっと上
で待っている母熊に必死に追いつこうと這い登って行くのだろう。それにしても初めて熊
に遭遇。車でよかった。歩いている時なら、一寸ビビっていた違いない。その後、遭遇し
たのは野ギツネ。流石に生息動物の密度が濃い山域である事よ。

 赤兎山の登山口でもある鳩ヶ湯温泉の一軒宿を横目に、更に遡ると下小池のキャンプ場。
その先に上小池の駐車場があるのだが、トイレが壊れていて使えず。そこでトイレがある
はずの小池公園のキャンプ場に戻り、管理棟で管理人さんに事情を確かめる水谷さん。す
るとオートキャンプ場が空いていて、料金は1台2000円だという。トイレも水洗でき
れい。幕営地も木製のデッキになっており雨水も貯まらない仕掛け。こりゃいいと前泊地
はここに即決となった。車を止めて早速宴会モード。地酒のカップ酒、ビールとまたまた
飲みすぎた小生である。(笑) 眠くなれば、デッキに寝袋を広げ、いつものように野宿。
今日は銀マット持参。深夜に文字通り降るような星空を眺め、流星が銀河を横切るロマン
チックなひと時もあって、お蔭で快適に夜を過ごせたのである。明けて早朝4時。東の空
が少し白む頃、仕事を終えて追いかけてきたなかいさんも集合して、出発準備を開始する。
即席味噌汁とパンで腹ごしらえ。山は早立ち、早めの下山が鉄則だ。というわけで鳥の声
に送られて、5時10分には山歩きをスタートしたのである。

 打波川の豊かな流れを聞きながら林道を進む。刈込池の周遊路を右に過ごし、上小池か
らの道を合わせた後、橋を2つ渡ると左側に木立に吸い込まれるように登山口がある。こ
こには三ノ峰5kmの表示がある。
三ノ峰登山口。さあ気合を入れて

 打波川の支流の谷沿いに上がっていく小道はいきなりの急登だ。まだまだ目覚めていな
い体にはきつく、おまけに朝靄で湿度が高く直ぐに汗だく。1000m近い標高だからカ
ラッとしているであろうとたかをくくっていたけれど、なんの、なんの。そういえば、寝
袋も夜露で濡れていたのだった。

 山腹道になった後、最後の水場を見送ると、小道は右にカーブして一気に高度を上げて
いく。下草が多く鬱蒼として、お蔭でズボンの裾はビッショリ、いかにも熊でも出そうな
雰囲気がある。木陰では、サンカヨウが青紫の実をつけ、早くもツリフネソウが赤紫の花
を咲かせている。時おり、バサッ、バサッと葉を叩く音にギクッとなるが、正体はクルミ
の実が地面に落ちる音である。

 木のベンチが現れると道は平坦になり、薄暗い杉林の中に吸い込まれていく。この辺り
が山腰屋敷跡というらしいとは後で知る。前方に垣間見える登りつかねばならない尾根は
まだまだ高い。汗をぬぐい(今日はきついわ)内心少し弱気の虫。そして再び傾斜が厳し
くなりはじめ、道も荒れ加減で歩きにくくなる。そのゴロゴロ道の真ん中にポツンとあっ
たタマガワホトトギス。土砂にも流されず良く残っているものだ。そんな姿に慰められな
がら、汗を滴らせつつ、明るい雑木林に出て気分も少し明るくなると、大きな檜が頭上に
見えてきた。

前方が明るくなってようやく六本檜へ

 尾根に出たようだ。『六本檜』と呼ばれる場所で尾根を西に行けば杉峠から赤兎山への
縦走路であるが、道は荒れている所もあるらしい。『六本檜』というが今はロープで囲っ
て保護してある一本の檜があるのみ。ただ良く風が通る所ですこぶる涼しく、しかも登山
口方面や、これから進む白山の山並みも眺められ、まことに気分の良い所だ。今しも白山
の山並みから一条の朝日が差し込むところである。

 小休止して東に向かう。そろそろブナの林が現れ始め、もう葉先が赤くなったナナカマ
ドや、所謂、”じん”が真っ白になったオブジェのような檜もあったりして、ルンルン気
分で歩は進む。やがて、その林も尽きて、腰の低いササが主体の道となり、足元にはアカ
モノの実が鈴なりとなる。少し摘まみながら歩く。その内、右手に見えてくる岩が剣ヶ岩。
道はその左を巻き上がる。そうしてこの辺りからそろそろ花が増え始める。マルバタケブ
キ、ハクサンフウロ、イワオトギリ、シモツケソウ、クガイソウ。ちょくちょく現れる黄
色いユリ型の花はニッコウキスゲだ。花々をデジカメに収めんとする人も出て、足取りに
差がつき始める。(笑)
青空の下、花畑の稜線歩き

振り向けば打波川の堰堤が遥か下に

アザミの蜜を一心不乱にヒョウモンチョウ

 再び傾斜も厳しくなって、前方に見えていたオベリスク風の尖峰も眼下になって、振り
返れば、打波川につけられた堰堤も遥か下。朝靄が晴れ始めた中に取立山、赤兎山、荒島
岳などがポッカリ、島のように浮かんでいる。しかし、直射日光を避ける場所がない。持
参のお茶は1L。(こりゃ、足らんなあ。)ポカリのペットボトルを車に置いてきてしま
ったのが今更ながら悔やまれるのだった。(T_T)

 眼前の岩の向こうで、先頭を進んでいる水谷さんが奇声を上げた。また珍しい花でも見
つけたのか。と思いきや、上から現れたのはなんとたぬきさん夫妻。昨日、避難小屋近く
にテントを張って、下山途中とのことだった。
まだまだ打波の頭の急登が待っている

 たぬきさんによれば、山頂まではもう少しだという。その言葉に励まされて、石がゴロ
ゴロ転がり歩き難い最後の急登を我慢していると、道は打波の頭の直下から左へ流れ、ト
ラバース道となる。花が供えられた新婚さんの遭難碑を過ぎると、やっと赤屋根のきれい
な避難小屋が現れた。フーッと溜息。10人位の登山者が休んでいる。水場は小屋を越え
た向こう側だそうなので、何はともあれ行って見よう。すると雪渓が残っており、その下
部で溶けた水が小さな流れを作っているのが見えた。ザックを下ろし、早速、1Lのペッ
トボトルを持参して、急傾斜を降りる。そうして流れに手を漬けた。飛び上がるほど冷た
い。1℃か2℃しかないのではないか。気がつけばゴクゴク喉を鳴らしていた。首筋に水
を垂らす。ヒヤー!蘇生する思いだ。

 初めは喉が乾いていて、水以外は眼中になかったけれど、苦あれば楽あり。あらためて
見廻せば辺りはお花畑なのだった。ニッコウキスゲもハクサンコザクラも雑草のように。
シナノキンバイも黄金色の大きな花。そしてササに埋もれてクロユリもひっそり花を咲か
せていたのである。慌ててデジカメを取りに戻り、写そうとしたら今度は電池切れ。ア〜
ア〜ア〜。

シモツケソウ咲く三ノ峰の斜面から避難小屋

 雪渓の水で入れたコーヒーをなかいさんから頂いて、一息入れた後、避難小屋を後にし
て、丈の低いササとお花畑の中のなだらかな道をゆっくり登る。振り返ればどこかに似た
景色。そうそう、明神平だ。柔らかな曲線のレリーフはどこか似通っている。やがて花に
包まれたジグザグ道になり、お碗の様な形の三の峰に出る。三角点はなく、山名を記す杭
と道標が立っている。そして360度の展望はすこぶる雄大だ。北に一際目立つピラミダ
ルな山が別山。その手前の象の背の様なのが別山平らしい。雪渓の残る白山の御前峰も姿
を見せる。右に延びる尾根の先端の高みは南白山と呼ぶようだ。それにしても山また山。
奥深さを実感する瞬間だ。
別山への稜線道から振り返る三ノ峰

 なかいさんは別山平まで行くという。花の楽園で往復2時間とのこと。時刻は10時半
過ぎと時間もあるが、結構、消耗していてしかもシャリバテ。まあ、それでも行ける所ま
で行ってみるかと後を追う。いい尾根道であるが、三の峰から一旦グッと下って登り返し
がきつそう。特に帰りの登り返しはつらく思えたところにもってきて、草いきれの熱い風
が襲って来たのをしおに、元々モチベーションの薄かった小生は、あっさり引き返す事に
した。位置は三ノ峰と別山平のほぼ中間地点。Ca2080mの地点である。別山の山頂に
いる人影がはっきり見える。丁度そこにはセンジュガンピの白い花。ホシガラスがジャー
ジャーと奇怪な声を上げて、ダケカンバの梢にとまり、飛び回る虫を追っている。あんま
り人を恐れぬ鳥であるなあ。と、その時、グラッと視界が傾いた。ヤバイ!細い尾根道か
ら左足を踏み外したのだ。幸運にも足が窪みにひっかかったが、下手をすれば斜面を10
mは滑り落ちているところ。肝を潰した。人が見ればきっと顔が青ざめていたことだろう。

 思ったとおり、三の峰の登り返しはきつかった。ヘロヘロと足元を乱しながら登り切る
と、山頂には1名の先着者がいるのみである。へたり込んでまずは水。雪渓の水を汲んだ
こともあって、制限せずにゴクゴクと。次いで地元スーパーで買った若狭の塩を使った梅
入りおこわ。レーズンパン。最後の仕上げに食後のコーヒーを飲もうとザックを探るも、
下に置いてきたのにすぐ気づいた。にもかかわらず、バーナーやボンベは持参している。
何をしている事やら。(^^;

 避難小屋前ではアカゲラさんがうたたね。小生は避難小屋で一眠り。中は寒いほどの涼
しさ。だけど、トイレの臭気には閉口だ。

 しばらくして外へ出てみると、別山平から水谷さんもすみれちゃんも戻っている。皆さ
ん、猛烈な体力の持ち主だ。とても、ついていけんわ〜。(笑)

 揃ったところで早めに下山、降りて温泉へと衆議一決。だが、この帰りには参った。カ
ンカン照りの上、無風。一挙に体力を消耗する。おまけにこんな急坂良く登ってきたなぁ
と思えるほどのものを今度は下らねばならない。やはり踏ん張りが利かなくなってきてい
るのであろう、浮石に足を踏み外してグラッと来たりで気が抜けない。往路は逆光になる
ので、風景は帰りに撮ればいいやと思っていたけれど、そんな余裕はなく、この暑さから
逃れようとひたすら帰途を急ぐのみ。時折吹いて来る涼風に救われる。降りれば、冷たい
コーラもアイスクリームも待ってるぜ。顔に前に自らニンジンをぶら下げて、頑張れ。

 何とか、樹林帯へもぐりこむ。途端に涼しい風。日頃はこんなに木が多けりゃ展望が台
無しや等と贅沢を言っているのであったが、今回ほど如何に木というものが大切なものか
痛切に感じた次第である。小休止を繰り返し、六本檜に戻ってきた時には、全員、グロッ
ギー気味だったが、ここは風の通り道らしく、涼しい風が間断なく吹き抜ける。へたり込
む事10分。ようやく重い腰を上げる。

 六本檜から登山口までは往路で1時間ほどだった。ならば少なくとも1時間歩けば登山
口なのだと、自分を叱咤、どんどん下って沢音が聞こえ始めた時は心底ホッとする。左か
らも沢音が響きだし、ようやく林道に降り立つ。先に降り立っていた他のグループの方も
一人は川原で顔を洗い、一人は木陰に座り込んでいて、余程暑かったことが分かろうとい
うものだ。

 しかしながらホッとしたのも束の間、まだあった。そう、林道歩き。これがまた結構長
いのだ。まだかまだかと思ううちに、道端に谷川の水を引いた蛇口発見。思わず駆け寄る
面々。顔を洗い、頭に水をかぶったり、首筋を冷やしたりでクールダウン。人心地がつい
た一瞬である。

 車に着く。何はなくともまず水分。ところが、キャンプ場の管理棟には自販機はないと
いうつれない返事。しようがない。鳩ヶ湯温泉に直行だ。着くや否や自販機に飛びつく人
もいる。小生はさっき、車に戻るなり、暑さでホットになったポカリを一気飲みしていた
ので、浴後のビールを夢見てここは我慢だ。(^^;

鳩ヶ湯温泉。川べりの一軒宿だ

 入浴は午後2時までだという。そんな殺生な。水谷さんが交渉した結果、宿泊客の入浴
時間なので30分以内にという制限つきでOKが出る。よかった、よかった。(^^/

 鳩ヶ湯温泉は山鳩が傷を癒しにやって来ていたところから発見されたという一軒家の秘
湯。湯船は3人も入れば満杯というような小さなものであったが、無色の弱アルカリ性で
肌がすべすべする美人泉質。湯も39度位だろうか、焼けた腕もひりひりせず、ちょうど
心地よい熱さ加減であった。

 入浴後は勿の論、缶ビール。発泡酒は250円だったかな?グビッと一発。はぁ、天国
じゃ。運転で飲めない水谷さんには申し訳なしである。m(_ _)m

 今度は熊も出ず、無事に狭い県道をクリア。杉津のPAでおろし蕎麦を食して帰途に着
く。今日も、苦あれば楽あり、満腹でげっぷも出るくらい濃厚な山だった。しばらくもう
山はいい心境。と言いつつ、また行くのだろうな。同行の皆さん有難うございました。


■同行 あかげらさん、すみれさん、なかいさん、水谷さん(五十音順)

■三ノ峰で見られた花々を『雲上の花の楽園〜白山三ノ峰』にまとめています。

【タイムチャート】
5:10下小池オートキャンプ場(駐車地)
5:35登山口
6:45〜6:50六本檜手前(小休止)
6:55〜7:00六本檜
7:54〜8:00剣ヶ岩
8:50〜8:54小休止
9:33〜9:40たぬきさん夫妻遭遇
9:50〜10:20三ノ峰避難小屋
10:30〜10:42三ノ峰(2,128m)
11:10引返し地点(Ca2,080m)
11:42〜12:02三ノ峰(2,128m)
12:10〜12:40三ノ峰避難小屋
13:29剣ヶ岩
14:04〜14:14六本檜
15:03登山口
15:22下小池オートキャンプ場(駐車地)



白山三ノ峰のデータ
【所在地】石川県白山市、岐阜県高山市
【標高】2,128m
【備考】 富士山、立山と並ぶ三大霊山の一つ、白山山系の南に位
置する山で、石徹白からの美濃禅定道が通じていました。
白山山系は高山植物の宝庫ですが、ここも例外ではなく、
ハクサンコザクラ、クロユリ、ハクサンフウロ、ニッコ
ウキスゲなどが咲き乱れます。アプローチは福井県側が
ポピュラーで尾根上の急登が続きます。剣ヶ岩から先は
高い木がなく、十分な水分と日除けが必須です。
【参考】
2.5万図『願教寺山』、『白山』



白山三ノ峰パノラマ展望画像
剣ヶ岩付近から白山山塊を眺める。白山の山肌には雪渓が見える

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