自然林纏う三国岳(サンゴク)
 
平成18年 6月10日(土)
【天候】曇り
【同行】別掲
クマザサに囲まれた三国岳山頂と二等三角点


 芦生周辺には二つの三国岳があって、地元では北の江若丹国境にある方を三国峠、南の
江城丹国境にある方を三国岳(通称サンゴク)と呼んでいる。後者には常々、芦生のアプ
ローチで生杉へ行く度ごとに、途中の古屋に立つ登山口の道標が気になっていたもの。今
回はそのサンゴクへ登る機会を得、綴ってみた山行記である。

 千里中央で集合して芦生へ行く際のいつものアプローチ。梅ノ木で国道と別れて針畑川
を遡上し、フィッシングセンターを過ぎると今回の下山地である桑原の集落。途中、セリ
を収穫しながら、水谷さんは外れの路肩に車を置く。

 準備を終えて、県道を針畑川沿いに北上する。カジカの鳴き声が涼しい。些か時機は逸
しているけれど、蕨やクサソテツ、ホウノキ、セリ。利用できる山菜が豊富な山里だ。タ
ニウツギ、ヤマツツジが彩を添える道をぶらぶらと進むと、やがて古屋(こや)の集落で
ある。茅葺屋根はほとんどトタンになっているが、まだ茅葺の空家が一つあって、ガラス
戸になんとビキニ姿のピンナップ。
「何じゃらほい?」
首を捻る面々。
なんだこりゃ?

 ヤマウド!目ざとく見つける水谷さん。でもそれは畑。収穫する事は不可。残念。と、
天は見捨てず。ちゃんと溝の向かい側の草深い中にヤマウドを発見させてくれたのだった。

 郵便局の先で尻禿橋を渡ると、朽木山行会が立てた三国岳登山口の古い道標がある林道
保谷線の起点。車止めのチェーン横に何やら物騒な注意書きが転がっている。曰く「○○
○m標高点付近にスズメバチの巣有り。行く人は死ぬ覚悟で...」云々。一瞬たじろぐ
が、経ヶ岳まで足を伸ばした時の下山路らしく、今回歩く尾根筋じゃなさそうと判って安
堵である。(^^;
古屋登山口のある林道保谷線の起点

 Uターンする感じで針畑川の右岸を下る。現役の炭焼き窯があって、盛んに煙を上げて
いる。先週の仙人の山小屋で燻されたのと同じ匂いが鼻をつく。

 保谷橋があって、西から流れて来るのが保谷。その保谷沿いの林道を遡って行く。地道
だが荒れておらず歩きよいのだが、植林で薄暗く、昨日の雨で湿っていてやや蒸し暑い。
おみなし橋、もちの木橋と支流を渡り、林道の支線も出てくるが、ひたすら保谷の本流沿
いに歩く。その保谷が分岐して倉ヶ谷と分かれた左のロクロベット谷沿いの水道施設の前
で小休止。あかげらさん持参の八朔だったか甘夏だったか。渇いた喉に沁み入る感じだ。

 その簡易水道施設の前の水溜り。何やら蠢く真っ黒な小さい生き物。文字通りうじゃう
じゃ。目を凝らすと1〜1.5cm位のオタマジャクシだ。数千匹はいるだろう。小さいく
せにちゃんと後ろ足は生えている。イモリか、カエルか。(帰宅して調べたらどうもヒキ
ガエルのオタマジャクシらしい)これだけいても大人になるのは数匹だろう。でもその前
に水溜りが干上がったら全滅だなどと要らぬ心配をする。干上がって全滅するのも、それ
もまた自然の摂理なのだが...。

林道で見つけたアニマルトレイル
サルの足跡かな?

簡易水道施設横の水溜りに
ヒキガエルらしいオタマジャクシの群れが

 林道は所々窪ませて沢の水が流れるように工夫されている。それを何度か渡渉して、道
なりに進めば、再び道標が出る。そうして指示に従って左の狭い谷に入り込む。苔むした
岩を跨ぎながら進んでいる最中である。前を歩いていた水谷さんが大きな奇声を発した。
すわっ!マムシでも出たか。と思いきや、ショウキランを発見したらしい。見れば踏み跡
の真ん中に小さめの花が2つ。もぐさんは濡れるのも厭わず、早くもカメラ小僧であった。

いよいよロクロベット谷へ

 ひょっとしてと懸念していたヒルもいないようだ。やがてまた道標が現れて、踏み跡は
右の斜面をジグザグに上がっていく。自然林の中は風がなくやや蒸し暑い。一気に汗が噴
き出してくる。額の汗を拭いていると何処からか特徴のある鳴き声が遠く近く。あかげら
さんがアカショウビンの声だという。2週間ほど前に芦生の上谷で姿を見た、あの嘴が大
きく赤っぽい鳥だ。あかげらさんはこんな近くで聞いたのは初めてだとか。よほど珍しい
鳥にちがいない。

 程なく小さな支尾根に乗る。U字形に洗掘された道は、昔から良く歩かれていたようだ。
ガイド本には岩谷峠の道は、芦生へ山仕事する際に使われた最短路だったと、土地の古老
からの聞き書きを載せている。その頃には七瀬にも集落があったのだとか。トチノキ、ホ
オノキなどは木製品を作る格好の材料。幾多の木地師が行き来したのであろう。所々には
アシウスギ。そんな道を歩くのも感慨一入である。
Ωの木

 シャクナゲの古木の群落を抜けると、ガイド本にあるΩ形の木があった。枯れたアシウ
スギにブナみたいな木が馬乗りになっている。凄い生命力である。道の両側にはイワカガ
ミが多かったのが、オオイワウチワが増え始めた。バイカオウレンも群落を作っている。
花時はここもさぞや壮観であろう。

 左手にはようやく稜線が間近に見え始める。やがて自然石の石碑が立つ場所にやってく
る。「○般若心経、地蔵経 一石一字塔 寛政9年」とあるから凡そ220年前のもの。
経典の字句を一つの石に一字ずつ書いて埋めたものだ。因みに”○”は円相という悟りの
シンボルなのだそうで、地蔵峠やクチクボ(ナベクボ峠)峠の石碑にも○が刻まれている。

寛政9年建立の一石一字塔

 石碑からは南へのトラバース道となって、ほどなくやや小広く静かな岩谷峠に出る。小
休止に良い所である。水分を摂るついでに観察すれば、岩谷方面は古屋方面に比べると踏
み跡は薄く、ほとんど廃道のようで、北の地蔵峠方面も踏み跡はありそうだが、かなり薄
いと見た。
岩谷峠

 南の稜線を進む。岩谷峠で標高Ca780m。後は約180mの登りだ。本来はここも道
がなかったのを、地元の朽木山行会の方々が整備したのだという。毎年1回の草刈で、今
では綺麗なトレイルが出来ている。

 どこかで聞いたような鳴き声が頭上を行き交う。芦生の灰野から佐々里峠の古道でも盛
んに鳴いていたアカゲラだ。何処かに雛がいる巣があるのだろうと見上げると、案の定、
杉の枯れ木の高さ3m位の所にきっちり穴を開けていた。

岩谷峠から三国岳への稜線を行く

 シロモジやサワフタギ、ブナ、ミズナラが目立つ尾根上の自然林は所々開けて、車を走
らせた県道や、蛇谷ヶ峰を望む事が出来る。そしてうっすらと灰色に靄る琵琶湖の湖面に
竹生島が浮かぶのが見える。

 941m標高点ののっぺりした高みを右に見て、進んだ鞍部には道標があり、桑原への
指導標は朽ちて落下している。そこを過ぎると、田んぼの畦道みたいな踏みならした道に
なり、釣り針状にぐるっと回り込むと、大きなブナの木がすっくと立つ辻に出る。ここに
も道標があって南東へ進むと経ヶ岳、市後谷山方面である。それを過ごして南西方面へ大
きくなったスズタケの間を一登りすれば、円形に切り開かれた台地状の三国岳(サンゴク)
の静かな山頂である。二等三角点の標石と二、三の山名板があるだけで潅木の茂みに囲ま
れ、見通しはあまり良くないが、皆子山が認知されるまでは京都府の最高峰であり、今西
錦司氏も登った山だと思うと感無量だ。高く茂った笹の中を南に下っている踏み跡は天狗
峠方面の踏み跡のようであった。

 汗を慕ってくるのであろうが、とにかく虫が多い。風通しも悪いので、食事はさっきの
辻まで戻って摂ることにした。その食事中も、我々以外の人間が立てる音がしない本当に
静かな山だ。どこかでツツドリが鳴く。

 桑原分岐に戻る。周囲は杉の植林なのだが、ビッシリ植えた植林ではなく、ゆったりと
植えてあるからか、また手入れも良くされているからか、更には尾根筋だからか明るく乾
いた感じがする。急斜面かとも予想していたのであるが、トラロープが添えられている割
には大したこともなく下ることが出来る。振り返れば三国岳の峰。アシウスギが点々と残
る。すぐ近くでホトトギスの声。見上げればハヤブサ形をした鳥の影。羽の白い斑紋が目
に焼きついた。

 適度なテープに導かれ、尾根に忠実に付けられた道を快適に降りていく。潅木帯ではシ
ライトソウの純白が目立ち、アカモノも小さな薄いピンクの花を咲かせている。686m
標高点まで来ると、傾斜もやや落ち着いて、開けた前方に百里ヶ岳がどっしりと座るのが
遠望される。
三国岳東尾根686m標高点から
左奥は百里ヶ岳。中央に古屋の集落

 エゾユズリハの群生する中を抜けると、幾多の種類の濃淡が組み合わされたすばらしい
雑木林となった。トチノキ、ホオノキ、コナラ、アカマツ、カエデ、リョウブ。朱色のヤ
マツツジがアクセントをつける中、ギンリョウソウが群れるふかふかの落ち葉道が一筋に
下っていく。
小壷谷へ綺麗な雑木林を進む

 地図を落としたので取りに戻るというもぐさんを暫く待って、最後の急斜面を斜めに下
ると、『三国岳下壷口登山口』と書かれた朽木山行会が立てた白い道標がある林道脇に出
た。ここは少し県道から引っ込んでいるので、初めてだと分かりにくかろう。

 およそ400mくらいか、針畑川の右岸を迂回して桑原橋で県道に出ると、駐車地はす
ぐそこであった。
小壷谷口の登山口へ無事下山

 サンゴク。また行きたくなる、自然林のなかなか趣きのあるいい山である。とりわけ、
桑原手前の雑木林は圧巻。そして誰一人とも遭わない静かな山でもあったことを付け加え
ておく。

 その後、大した渋滞もなく帰阪。さて夕食は“水谷亭”で亭主自ら腕を振るった、朝摘
んだヤマウドのテンプラとセリ入りのすき焼きに全員で舌鼓。鼓腹撃壌して、亭を後にし
たのでした。皆さんに感謝。とりわけオーナーシェフの水さんに感謝です。


■同行 あかげらさん、水谷さん、もぐさん

【タイムチャート】
6:50千里中央ローソン(集合地)
9:20〜9:27桑原(駐車地)
10:05古屋登山口
10:15保谷橋
10:40〜10:50簡易水道施設前
11:45〜11:49一字一石塔
11:50〜11:52岩谷峠
12:42桑原・下壷谷コース分岐
12:47経ヶ岳分岐
12:50〜12:58三国岳(959.0m 二等三角点)
13:02〜13:25経ヶ岳分岐(昼食)
13:29桑原・下壷谷コース分岐
13:55686m標高点ピーク
14:37下壷口登山口
14:50桑原(駐車地)


三国岳(サンゴク)のデータ
【所在地】京都府南丹市美山町・京都市左京区
【標高】959.0m(二等三角点)
【備考】 由良川源流の東、京大芦生演習林の東縁に聳える山で、
北の三国峠と区別する為”サンゴク”と呼ばれます。皆
子山が知られるまでは京都府の最高峰とされ、かの今西
錦司氏も三日がかりで登ったという秘境でしたが、林道
が出来、簡単に登れるようになりました。登路は上記の
他に、南の久多からのコースがあります。
【参考】
2.5万図『久多』、『古屋』



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