大洞山で春待ち花
 
平成18年 3月21日(火)
【天候】曇り時々晴れ
【同行】別掲
三多気から大洞山雌岳


 今年は寒暖の変化が激しく、3月なのに真冬並みの寒波がやってくる。同様に天候の変
化も目まぐるしく、予報も直前まで猫の目のように変わるから油断できない。この春分の
日も晴れだといっていたのが、いつの間にか前線が通過するとやらで、日中は曇り空だと
いう。それでも起床してみると、薄日が射す高曇り。雨の心配はないようである。

 前日に打ち合わせた時刻6:45に2分遅れ。もぐさんの車が見えない。もう行っちゃ
ったかな?携帯にかけると、まもなく到着の回答が返った直後、車が滑り込んできた。(笑)

 天候不順にもかかわらず、春を告げる花々は各地でいつも通りに花をつけているという。
今日の目的地はそんな花を愛でがてらの大洞山である。途中、榛原駅前でなかいさん、す
みれさんと合流して、R369を御杖村方面へ。順調に進んで1時間足らずで三多気の集
落に着く。

 三多気は南に学能堂山、北に大洞山を望む盆地だが、日当たりのいい大洞山の南斜面に
あるので明るい感じがする。城山公園の駐車場に車を止め、車外へ出ると風もなく寒くな
い。殊に日の光はもう春で、そのジワっとした温かみは流石にもう冬の日差しではない。

真福院参道の桜は桜百選に選ばれている

 目の前の、民家の間を縫っていく狭いコンクリート道が真福院の参道らしい。両側に苔
をまとった古色蒼然とした桜の古木。桜百選にも選ばれた三多気の桜である。中には髄が
朽ちて外側だけで生き残っている古木もあって、まだまだ固いけれど今年も健気に蕾をつ
けている。でも、こんな桜並木のすぐそばに建つ民家に住める人はなんとも贅沢であるな
あ。庭先で毎年、居ながらにして花を見られるのだから。春宵、山の端から昇る月を縁側
から眺め、花を愛でながら酒を飲む。うーん、最高のシチュエーション。春宵一刻値千金。
酒飲みに限らず、思わず涎が出るわい。

 家の前に出ていたおじさんに花のことを尋ねたりしながら、季節前で閑散とした参道を
ゆるゆると登っていると、下からご夫婦らしいハイカーとカブに乗ったジモティーらしい
小父さんが話しながら上がってくる。ちょっと不安げに聞いてみる。
「ユキワリイチゲがあると聞いてきたんですが・・・。咲いてますか?」
「満開だよ」
嬉しいことにタイミングもドンピシャらしい。新聞屋さんと思しきこの小父さんについて
行こう。と思うまもなく、道端にユキワリイチゲの花が一輪、二輪。ところが実はこんな
ものではなかった。耕されなくなった畑の脇に群落が。百以上の花が一斉に咲き乱れてい
るのに、皆さん声を上げる。忽ち、皆の足はビタッと張り付いたように進まなくなった。
上から下からカメラを構えて思い思いのアングルを取る。さぞかしいい写真が撮れたので
はないかな。(笑)

 青みを増した土手には白花のショウジョウバカマ。ヤブカンゾウの芽、フキノトウ。ミ
ヤマカタバミの白い蕾。ネコノメソウ、ニリンソウと、いつ来ても何らかの花が咲いてい
そうな感じである。そうして1時間近くうろうろしていたろうか。真福院の門前に着いた
頃にはもう10時過ぎ。大洞山の登山口にさえまだ行き着いていないのだった。(^^;

 鎌倉時代に遡るという梵字が刻まれた板碑を見て、門前を過ぎて林道を進む。この付近
もユキワリイチゲが群落を作っているが、日陰の為か花は皆無である。

 さっきから盛んに4トントラックが行き来すると思ったら、林道を挟んで西側にある池
から流れ出る流れを完全にコンクリートで固める防災工事の真っ最中。イチゲの群落に悪
影響のないことを祈ろう。

 杉林を抜けると林道は右手へ向かう。これと分かれて三多気のキャンプ場跡の中を登る。
鹿だかウサギだかの糞が至る所に転がっている。小腹が減ったというので、ベンチの所で
またも休憩。(笑) なかいさんからぼた餅、すみれさんからクッキー(と思う)の差し入
れ。美味美味。(^_^)

 再び舗装林道に出会う。登山口は30m位左へ林道を登った所。ところが、まあ、登山
道と印刷されたテープが立ち木にぐるぐるとこれでもかというぐらいに巻かれている。
「これじゃあ、過剰包装ですぜ」

大洞山の三多気登山口。
オフィシャルテープがベタベタと

杉林の中、急勾配の直登路。しんどい!

 ここからは自然石の階段なのだが、それが半端じゃない。きつい斜面のそれも鉄砲登り。
きついなぁ!でも不思議なのはなんでこんな所に、古い自然石の階段があるのだろう。か
つて大洞山に真福院の奥の院があって、その参道ででもあったのだろうか。一気に汗が噴
出す中、よく手入れされた明るい杉林を登る。やがて、笹が増えてきて、山頂が近いこと
がわかる。傾斜も緩んでぽっかり明いた空が見えてきたら、高い立ち木のない大洞山の雌
岳山頂。下では咲いていたアセビもここではまだ小さな蕾。三等三角点と、ベンチ、展望
図盤が置かれている。曇っている割に展望は良い。図盤を参考に山座同定。南東に堀坂山、
白猪山と伊勢の名山。ギザギザと鋸の歯のようなのは矢頭山。伊勢のマッターホルンの局
ヶ岳。南は栗ノ木岳、修験業山から三峰山、学能堂山が重厚に続く。その向こうで雪を被
っているのは大台ヶ原らしい。西にこれまたマッターホルンの高見山。その陰には金剛、
葛城連山が見え、北に頭を巡らせば古光山、二本ボソ、倶留尊山、屏風岩、住塚山と居並
ぶ姿は圧巻である。しかし、なんといっても大洞山雄岳、尼ヶ岳がギゼーのピラミッドの
如く並ぶのが面白い。
大洞山雌岳山頂。右に三角点が見える
左に大洞山雄岳、右に尼ヶ岳、中央は尾高山

高見山と雪を被った台高の山々を見晴るかす

 風が出てきた。汗が冷えて寒い。団体さんもやってきそうなので、雌岳を後にし、風の
来ない所で食事をと、雄岳との鞍部にある自然林に居を移すことにした。適当な場所に腰
を下ろすと、待っていたように下界から正午のサイレンが鳴り出した。

 四ノ峰まで大洞山縦走だ。葉を落としたコナラやリョウブの枝越しに左に右に展望が広
がる。左は神末川((名張川)これは淀川の上流なのだが)沿いに太郎生の集落がミニチ
ュアのよう。右も美杉の集落が転々とある。熊笹を掻き分けて登り返すと、今日の最高点、
しかも今年登った山の最高峰でもある大洞山雄岳。(^^; 丸太を転がしただけのベンチが
置かれ、ここからもいい展望だ。曽爾高原からは山焼きなのか、白い煙が上がっている。

山頂から池の平。右に倶留尊山、中央は二本ボソ、
左に古光山。曽爾高原に山焼きの煙

 雄岳からは下り。この前の雨と霜が解けて足もとがやや悪い。景観に気をとられて滑っ
たら尻は真っ黒であろう。岩がごろごろ転がる四ノ峰は小さなプレートがあって分かった
のだが、三ノ峰はやっぱり気づかず通り過ぎてしまう。そして最後の下り。今まで以上に
足もと悪し。何度か滑りかけたが、立ち木にすがり、かろうじて難を逃れる。(^^; 平坦
になると、そこは石畳道との出合い。少し朽ちかけた道標がある。前回起点にした倉骨峠
はすぐそこであるが、今回はここで反転して桔梗平へ戻る。

 東海自然歩道に指定された石畳の道の周囲にゴロゴロ転がる大きな石は、大洞石と呼ば
れる火山岩なのだという。色は異なるけれど、神野山の鍋倉渓を思い出させる。その苔む
した石の上に跨るが如く、コナラらしい落葉樹が根を張っている。そんな冬枯れの雑木林
もまもなく若葉に覆われることであろう。今緑なのはアセビ、ヤブツバキといった常緑樹
に、文字通りモスグリーンの苔と足もとの野草くらい。しかし良く見れば、ヤマネコノメ
ソウには小さな花をつけている。

苔むした石畳の道

 水場を過ぎる。木々が途切れた向こうに尼ヶ岳が優美だ。ゆっくり歩いて約1時間で桔
梗平。林道が上がってきており、ベンチと案内板、石楠花の大きな木がある。その案内板
によれば、尼ヶ岳はトロイデ型火山ではなく、侵食であの形になったとのこと。自然の造
形はまことに不思議なものである。

 桔梗平から自然歩道はやがて右に折れて杉林の中の道となる。杉の枯葉で覆い隠されて、
道が少し判りづらい部分もあるが、よく手入れされた杉林は意外と明るい。徐々に下りな
がらT字路。右は三多気、左は県道と道標がある。高さ1m位の石碑があるが、表面が摩
滅しているのか判読できない。舗装林道に出ると、すぐに二股。右はおそらく大洞山の登
山口へ抜けるのであろう、ここは左の林道を採る。後は淡々と歩くのみ。顔を出したフキ
ノトウを摘みながら降りてゆけば、小さな駐車場があって往路のキャンプ場入口に戻る。
トサミズキが咲いている。

 真福院は御嶽山金峰山寺真福院が正式名称。真言宗醍醐派に属し、蔵王権現が本尊とい
う修験の寺である。「三多気」の地名はその「御嶽」が由来だともいう。前庭からは学能
堂山を背景として三多気の集落が見渡せるが、前の竹林が伐採され、土がむき出しで少し
荒涼とした感がある。寺自体が古色を帯びて良いだけに、何となくそぐわない気がする。

 門前を下って車道に出て、再び花観賞と撮影タイム。それにも飽きた小生は、参道途中
に廃屋?があったので、すみれさんと覗いてみた。家の向こう側で一人の小父さんが後片
付け中。聞けば、大正頃の民家で大規模修繕なのだという。残っているのは骨組みと屋根
だけだけれど、どんな家になるのだろうか。蔵はすっかり解体されていた。

 参道に戻ると、上にあった藁葺の農家の庭先に止まっていた軽自動車が下りてきた。助
手席にはおばあさん。運転する30代の女性は実家を訪ねて来た嫁さんか娘さんか。美杉
村も津市に編入されたけれど、過疎の波が押し寄せているようで、他にも更地になった敷
地がある。かつての前栽だった庭木が寂しげだ。

 西に傾いた日がやや赤っぽい柔らかな光を投げかけてくる。駐車場に戻り、朝、買った
ミニ桜餅と草餅のコーヒーブレークで今日の締めくくり。おかげで春の匂いを嗅ぐことが
出来ました。同行の皆さんありがとうございました。


■同行 すみれさん、なかいさん、もぐさん

薄紫のユキワリイチゲ

石垣の下一面に咲き誇る

ショウジョウバカマ(白花)


【タイムチャート】
6:45桃山台駅西ロータリー(集合地)
9:00〜9:10三多気城山公園駐車場
9:15〜10:00真福院参道付近うろうろ
10:48車道出合
10:50大洞山登山口
11:24〜11:45大洞山雌岳(985.1m 三等三角点)
11:55〜12:20雌岳・雄岳鞍部(昼食)
12:34〜12:37大洞山雄岳(1013m)
12:55四ノ峰(894m)
13:05〜13:06東海自然歩道出合
14:08〜14:09桔梗平
14:45車道出合
14:52〜14:55真福院


大洞山のデータ
奧伊勢路は秋めいて〜大洞山・尼ヶ岳周回」を参照下さい。
【参考】
2.5万図『伊勢奥津』



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