能郷白山〜美濃最深部、秘境の名山
 
平成18年 8月11日(金)
【天候】晴れ
【同行】別掲
熊野白山権現奥宮の祠から最高峰


 両白山地の一方の雄、能郷白山は深田久弥の百名山の候補にも挙げられた名山であるが、
奥美濃の最奥にあることから交通事情が非常に悪く、マイカーでなければアプローチが困
難な山である。それが過日、白山三ノ峰に登った際の雑談で、急遽、山行が決まった。噂
に違わず素晴らしい山で、緑深いブナ林やシモツケソウ、マルバダケブキなど手付かずの
自然や山深い秘境の山を堪能できたのだが、そのアプローチの遠い事、遠い事。その上、
R157は国道というよりも酷道でした。(笑)

 朝6時集合。東海北陸道の関ICまで走った後、県道などを乗り継いでR157に出る。
後は一本道。で行けるなあと思うのは浅はかだった。淡墨桜で有名な根尾村の中心部を過
ぎる頃から、チラチラと『通行止』という不吉な文字。半信半疑で能郷白山の南の登山口、
能郷の集落まで到ると、ついに『能郷、黒津間通行止』の決定的な文字。
「ガーン」
折角、ここまで来たのに...。肩を落とす一同。

 とりあえず、すぐそこにあった地元の建設会社の事務所で事情を聞く事にする。
「R157通行止めなんですかねえ?」
「ああ、土砂崩れ。直ぐ上にゲートがあって閉まってて走れんよ」
「峠まで行きたいんですけど迂回路あります?」
「あるよ。」
おっ!お先真っ暗の中に一筋の光明が。(大袈裟)
「樽見まで戻って、キャンプ場を目指してダム湖の近くを通って行くんや」
「そうですか、どうも」
エアリアの広域地図を眺めれば、確かにある道の表示。

 指示通り樽見まで戻って、R418から県道で根尾東谷川沿いに進み、ついで林道で山
越え。聞きしに勝るくねくね道。猫峠というけったいな峠に向かう林道を右に過ごすと、
根尾西谷川が現れ、黒津の集落が現れた。10軒ほどの民家があるが、殆どここも廃村の
雰囲気だ。相当雪深いのであろう、屋根を支える柱に副木が添えられている。そこからも
一車線で離合も困難な道が続く。『洗い越し』なる不可解な標識もあるが、道が窪んでい
て、そこがなんと川床代わりとなっているのである。大雨が降れば通行止めだし、いやな
落石もあちこちに。今も側溝の土砂排除の作業中。恐るべき酷道だ。『熊出没注意』の看
板も散見され、運転する水谷さんも流石に嫌気がさしたらしく、帰りは福井県側に降りよ
うと言うほどである。(^^;

 更にウネウネとヘアピンを登って、ようやく温見峠に到達。ほっと一息。山に登る前に
疲れてしまう。(笑) 先行車は四駆が1台のみであった。

やっと着いた越美国境の温見峠
取付きの階段道が見える

 思えば遠くへ来たもんだ。ここはもう岐阜県と福井県の県境である。標高は1000m
を越えているが、陽射しは刺すように痛い。けれども流石に風はヒヤッとして心地よい。
迂回の所為で少し時間が押している。早速、登り始めよう。

 階段道が国道から林の中へ吸い込まれている。すぐにブナの林。鬱蒼とした感じはなく
非常に明るい。コバノフユイチゴ(マルバフユイチゴ)らしい赤い実がポツポツとある。
ルンルン気分で摘まみながら歩く。
最初はブナ林の快適な道だ

 進むに従って徐々に傾斜は増し、微かに聞こえていた沢の音も遠のく。山腹を巻くよう
に登った後は一気にザレた斜面を上がっていく。温見峠からの登山道は昭和63年に新し
くつけられたこともあって、古い道のように傾斜を緩めるような工夫もなく直登が多い。
しかし、丹波や北摂の山に良くあるような朽ちた木がなく、手頃な潅木が繁っていて、そ
れを補助にしながら登れば、思ったほどにはつらくない。その分、一気に高度が上がる。
心地よい風が吹く場所を選び、水分補給の小休止をこまめに取る。今まで塀の様に聳えて
いた姥ヶ岳に続く向かいの尾根も、いつの間にやら同程度の高さになる。その頃にはブナ
も尽きて、代わりにダケカンバやナナカマドが増え、下草にはササが繁茂し始めた。振り
返れば向かいの尾根のバリアが外れて、一際目立つ荒島岳の姿が初めて目に触れる。

 亜高山で生活する植物もボツボツ現れてきたようだ。マルバダケブキの黄色い花。ヨツ
バヒヨドリ、コバイケイソウ。しかし何といってもシモツケソウの濃いピンクが目立つ。

 高い木がなくなりササの斜面を我慢すると、辺りはササの台地となり、向こうにこんも
りとしたピーク。本峰かと思って、シャリバテながらも最後の力を振り絞り、勇躍、登り
切ったら、なんとその向こうにまだ高みがあるではないか。どうも偽ピークの1550m
峰だったようだ。がっくり。(笑)

 再び気を取り直して今度はガレ場。道の左(東)側が大きく崩壊して峠に上がってくる
R157と根尾川の源流が、緑の中をほつれた糸のようにくねっているのを見るのは高度
感たっぷり。少し肝を冷やしながら、涼風の中を行く。笹原を歩くと思えば、毎冬の大雪
で曲がりくねったダケカンバの林を潜ったりと忙しい。
笹原のたおやかな稜線を行く

笹原の中から能郷白山の最高峰が見えてきた

 Ca1570m峰を越えると、ようやく本峰が見えてくる。笹原につけられた前方の坂道
を降りてくる2人組は、峠に置かれた横浜bフ四駆の持ち主に違いない。彼らが歩いてき
た道を逆に辿って高みに行き着くと、緩やかな笹原が起伏する能郷白山の三角点峰だ。右
手の先に白山権現の小さな社がポツンと立つ。道はそこへは進まずに、まずは前方の高み
へと我々を導いていく。その先、小さな裸地に大きな一等三角点が埋まっていた。横に岐
阜県の標識。但し、ササが邪魔をして一等三角点にしては展望はない。陽射しも暑そうな
ので、ここで昼食は摂らず、祠のあるピークを目指すことにした。

能郷白山の一等三角点

 左から能郷谷から上がってくる道を合わせて、ササが被さる小道を行くとすぐに祠のピ
ーク。祠は熊野白山権現の奥宮という事だが、建てられて10年ほどにもかかわらず、吹
きさらしと雪の影響か傷みが激しい。数年を経ずして倒壊しそうである。

 思ったとおりここは風の通り道である。涼風に吹かれながら抜群の展望を愉しむことに
する。西に冠山がちょこんと烏帽子形の頭部を見せている。その左横が三周ヶ岳らしい。
生憎今日は見えないがその方向に琵琶湖があるとは、感覚として一寸信じられない感じだ。
東には荒島岳の奥にうっすらと白山のスカイラインが望める。雲間に顔をだすのは別山だ
ろうか。北側、姥ヶ岳の左奥は部子山や銀杏峰の峰々らしい。更に真南の遠くに盛り上が
る山は伊吹山かもしれないが、しかとは判別つかずであった。

祠の峰から西。中央に冠山が頭を出す
左奥は三周ヶ岳か?

 贅沢な展望を肴に昼食。昨日の剣尾山での喉越しの良さに味をしめて、今日もザルソバ。
少しぬるいが我慢しよう。(笑) それよりも、女性陣がいるという事で次々に出てくる冷
たいもの。冷やしたスイカ、パイナップルにアイスコーヒー。一気にクールダウンさせて
頂きました。むくつけき男同士ではこうはいきません。毎度、毎度、有難い事です。

 一息ついたところで笹原を少し先まで行ってみようという事になる。祠から先は薄いけ
ものみちのみ。幸い、ササの高さが腰ほどなので助かる。オオバギボウシ、ヨツバヒヨド
リ、シモツケソウ、マルバダケブキ等に彩られた笹原からは、能郷谷や白谷が一望である。
土質が脆いのか砂防堰堤だらけ。山は深く民家らしいものは目に付かなかった。

 が、ここで一つ苦言。雉撃ちの痕跡のティッシュが一所に散見されるのだ。持ち帰って
欲しいところだが、それが叶わぬなら、せめて埋めていってほしいものである。

 珍しく1時間ほども山頂に長居をした。まだまだ眺めていたいところだけれど、帰りの
ことも考えればそろそろ下山だ。素直に来た道を戻る。

 道脇のヨツバヒヨドリの花に、アサギマダラがフワフワと風に乗る。それに較べてヒョ
ウモンチョウはせわしく行きつ戻りつ。見惚れていると足元が危ない。(笑) 

 能郷白山は台形状の山容をしているらしく、山頂台地を下りると、想像以上に急な斜面
が待っていて、往路で汗をかいたのが今更ながらよく分かる。その急斜面もブナが現れる
頃には治まって、あとはのんびりと。戻った峠には勿論、我々以外の車はなく、おりしも
1台のバイクが岐阜県側へ下っていくところであった。一体、1日に何台の車が通過する
のだろうか?数えてみたい気もする。(笑)

※註) 帰宅して気づいたが、峠のお地蔵さんの祠があったらしい。登山口の向かいの刈
り払われた辺りだったようだが見逃した。

 帰途は福井周りで。こちらもなかなかの酷道だ。アスファルト舗装ではなくコンクリー
ト舗装の一車線。ヘアピンの連続。勿論、ガードレールなし区間も多い。温見川が一旦広
くなった辺りには、今は廃村となった温見の集落があったそうだ。今でも人の出入りがあ
るようで、物置小屋みたいな掘立小屋のような建物が散在していた。はぐれ猿か、木の枝
を揺する下を通って、次第に良くなるR157。大野市街に入ると、いつの間にやら、先
週、三ノ峰への行き帰りに通った道を走っているのだった。二週続けて地方の同じ道を通
過するとは思わなかった。(笑)

 早くも始まった帰省の渋滞に巻き込まれつつ、福井ICから帰阪。岐阜から福井を縦断
した今回の山旅。大旅行をしたような気分。またまたげっぷの出るような満腹の山行き。
皆さん、本当にお疲れ様でした。それにしても越美国境の名山は遠かった。

■同行 たらちゃん、なかいさん、ハム太郎さん、水谷さん(五十音順)


【タイムチャート】
6:00千里中央(集合地)
10:55温見峠(Ca1020m)
13:15〜13:16能郷白山最高峰(1,617.3m 一等三角点)
13:18〜14:18熊野白山神社奥宮祠の峰(Ca1,610m)
14:24能郷白山最高峰(1,617.3m 一等三角点)
16:03温見峠(Ca1020m)



能郷白山のデータ
【所在地】岐阜県本巣市、揖斐郡揖斐川町、福井県大野市
【標高】1,617.3m(一等三角点)
【備考】 両白山地の一方を代表する山で、白山同様、泰澄が平安
期に開山したといわれ、山頂に熊野白山権現社の祠があ
ります。中央分水界を形成し、奥美濃では最後まで雪が
残る程、雪が深く、その分豊かな自然が残されており、
ブナ林や360度の展望が得られます。アプローチは南
麓の能郷からですが、近年北の温見峠からコースが開か
れ約2時間強で山頂です。尚、道路事情が悪く、予め役
所に確かめるのが無難です。
■日本二百名山
【参考】
2.5万図『能郷白山』



能郷白山パノラマ展望画像
シモツケソウ咲く能郷白山のたおやかな笹原の起伏(熊野白山権現奥社付近から南方向)

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