野坂岳〜紫陽花薫る嶺南の名山
 
平成18年 7月15日(土)
【天候】曇りのち晴れ
【同行】単独
野坂付近から野坂岳。手前から一の岳
二の岳、最奥が野坂岳
中腹に白く見えるのはTV受信施設


 一度訪れて見ようとプランというほどではないものの、温めていた敦賀の名山野坂岳。
平重盛が『見るたびに富士かとぞ思う野坂山いつも絶やさぬ峰の白雪』と詠んだ名山だ。
ここ何週間か、週末が雨の予報で行きそびれていたのだが、降水確率40%とやや高い予
想も、少々なら傘を差しても歩けようと思い切って決行。その思いが通じてか、現地では
ほとんど雨にも遭わず、さりとて直射日光に炒られるほどでもなく、いい山行となったの
でした。しかし、半端ではない湿度の高さには大閉口。登山開始早々もうへろへろ。歩い
ては立ち止まって汗を拭き、汗を拭いてはポカリを飲んで、立ち止まりの連続。でも単独
行の気楽さ、好きな時に小憩が取れ、山頂の涼しさにも救われて、耐暑登山は成功裡に終
わったのでした。(笑)

 昨年、湖北の山門湿原へ行った経験から、2時間半くらいで着くのではと予想を立てて
いたけれど、さにあらず。他の車の数まで予想していなかった。今日の車の出は半端じゃ
ない。京都南で渋滞、京都東から湖西道路へのバイパスへ抜ける手前でも渋滞。自分のこ
とはさておいて、みんな何処へ行くのだろう。(笑)

 敦賀市に出てバイパスを西へ。陸橋の手前を降りて広域農道を走り、敦賀市立少年自然
の家の案内に導かれて野坂岳の懐へ向かう。若狭道の工事現場を抜けて、道なりに上がっ
ていくと自然の家のある「野坂いこいの森」で、舗装林道が途切れる手前に無料駐車場が
あった。ここまで自宅を出てから3時間。フーッ!

 このくそ暑いのに他にも登る人があるみたい。(自分もそうだが)先着車が10台ほど。
流石に団体の観光バスは止まっていない。今日は暑さを見越して熱中症対策に2Lポカリ
を1本と1Lのお茶を1本持参。結局、途中にすこぶるつきの美味い水場もあって、2L
ポカリのみで済んだのだが、背中にずっしりと重みを実感するけれど、制限しないでいつ
でも好きなだけ飲めるというのはつくづく有難い事だと感じた次第である。

いこいの森から登山道は始まる

 さて、ロッジの並んだ「いこいの森」見事な赤松林の横から林道風の遊歩道を登る。「
いこいの森」の林間歩道を兼ねた道である。探鳥路、テレビ塔への道を左に分けて、よく
手入れされた杉林の間をジグザグに進むだけでもう汗だく。こりゃあ、先が思いやられそ
うだ。(笑)

 植林帯を抜け出し、細流を渡って左にその細流のせわしい音を聞きながら登る。不意に
腕にポツッと冷たい感触。汗でも滴ったのかと思ったら、足元の石ころにも小さなシミが
ポツポツと。雨だ。とうとう来たか。が、「晴れ男」の神通力?か、幸いすぐに止む。(笑)

 やや明るくなった空に気を良くして、歩きにくい石ころ道をこなしていくと、左にカー
ブする手前に水場。『栃の木地蔵』と標識が木にぶら下がっている下には簡易ベンチもあ
る。「敦賀の名水です」の案内もあるので、パイプで導かれた清水を飛びつくように飲む
と、これが最高。全く癖がない。しかも10秒も手を漬けているとかじかむほどの冷たさ
である。顔を洗った後でまたまたゴクゴクと喉を鳴らす。

 やっと人心地がついた。ところで栃の木地蔵は? ありました。ありました。摩滅して
いるけれど、座って錫杖を持ったお地蔵さん?らしい石仏。肝腎の栃の木は、何代目かな
のであろう2m程度の若木でありました。

 今まで気づかなかったが、ふりむけば敦賀市内から敦賀の海が一望なのであった。しば
し立ち止まり眺める。でもまだ山頂までは1時間50分とある。ひえ〜。この暑さがあと
2時間も。もう一度、水を飲んでおこう。(^^;

 15分ほど、風も通らない山道を我慢した所で、山頂2kmの標識のあるカーブ地点。腰
掛に手頃な石がある。勿論、へたりこんだ。立ち上がると汗で尻の形が...。美形のならば
色気があるのだが。小生のじゃあねえ...。

 この辺りからようやく雑木の林となり、いい雰囲気。登山道を彩る花は端境期だろうと
あまり期待はしていなかったのだが、ニガナ、コナスビ等の黄色い花が多い中にフワフワ
した白い花。トリアシショウマだろうか。ウツボグサの赤紫も見える。しかし目立つのは
やはりヤマアジサイの青紫や薄桃色の花だ。日本海側だし装飾花が大きいのでエゾアジサ
イだろう。なんとなく馥郁とした香りもある。暑さも少し忘れる一瞬だ。

エゾアジサイ(1)

エゾアジサイ(2)

 行者岩への分岐がある。先程、登山道からごつごつ見えた岩はこの岩だったらしい。今
は寄る気力がない。帰りに寄っていこう。(^^;

 木立が切れて明るくなった。右手に主のいない石の祠があると思ったら、小さなテラス
状の台地があり、一の岳の標識が立つ。(実際はここから西のパラボラアンテナのある峰
が一の岳だそうだ)そこに立つと、野坂岳の山頂方向と思しき辺りは、しきりに白いガス
が流れている。そういえば、去年の氷ノ山もこんな感じであったのを思い出す。

二の岳への尾根道は雑木に囲まれいい雰囲気に

 一の岳を過ぎれば南に向かう尾根に出て、地形図を見れば大きな起伏はなく、三の岳と
山頂手前に少しきつい登りがあるばかり。ブナの灰白色の幹が姿を見せ始め、本日のハイ
ライトの始まりだ。とりわけアシウスギが数本生える二の岳付近から三の岳に続く風景が
最高であろう。扇ノ山のブナ林にも似た、下草もない緑の綺麗なブナ林が広がる。小生の
お気に入りにも加えたいくらい。下界の湿気もここまでは来ず、風も出て、さっきまでの
サウナ地獄も嘘のようだ。道は三の岳に向かってブナ林の間を縫って葛篭折れていく。曲
がり角に来る毎に立ち止まっては息をつぎ、木々を見上げる。鳥の鳴き声と木の葉のそよ
ぐ音だけだったのに突然、エゾゼミが鳴き始めた。エールを送ってくれているのか、笑っ
ているのか。
二の岳付近。ブナの木が目立ち始める

木漏れ日揺れる三の岳付近のブナ林

 やっとのことで三の岳に出ると、ようやく右前方に野坂岳本峰の三角形の高みが木立を
通して現れてきた。そうして登山道になぜだか白いロープ。支える杭はすぐすっぽ抜ける
から、ロープは立入禁止を示しているのかな?うーむ、意図がわからん。(笑)

三の峰から野坂岳。画像では見難いが、
山頂付近に避難小屋が見える

 ここまでくれば山頂は直ぐそこで、話し声が流れてくる。避難小屋を通り過ぎるとパカ
ッと開けた山頂である。山頂は円形の広い草原で真ん中に展望図がついたケルン。中央か
らやや外れて欠けのほとんどない一等三角点標石がある。草原で遮るものがないので四方
は見放題。が、やっぱり生憎、ガスが湧いてきて、折角の視界を台無しにする。南方面に
は琵琶湖や赤坂山、三国山、三重嶽、三十三間山。東奥には越美の山々が重畳と並ぶはず
なのだが、こればかりはどうしようもない。それでも西に常神半島や三方五湖、北に西方
ヶ岳や敦賀の市街、東に岩籠山が眺められるので良しとしようか。

360度遮るものがない野坂岳の山頂
ナツアカネが群れ飛んでいた

野坂岳山頂の一等三角点

 先着は3名のパーティと京都から来たという初老の男性二人組。中央やや東の手頃な石
に座って食事にする事にした。やっぱり助六。食後のコーヒーが美味い。それにしても沢
山のナツアカネ。ひるがえす羽の音が聞こえる程の数である。その中をジャコウアゲハが
悠々と飛んでいく。ヒョウモンチョウもなかなか鮮やかである。虫の姿を追っていると、
いつの間にか青空が広がってきたけれど、ガスは相変わらずしつこく纏わりついて、思う
ほど視界は延びてくれない。時計を見ればもう1時間も休んでいたようだ。そろそろ下山
としよう。

 戸に鍵が掛かっていなかったので避難小屋を覗いてみる。まず目に入ったのが嶽権現の
祠。地形図の「鳥居マーク」はここに避難?していたのだった。小屋は清潔で、寝袋さえ
あればいつでも寝られるみたい。登頂ノートや山頂からの展望写真もあったが、前述のよ
うにガスで確かめられなかったのが残念である。因みに弘法大師が発見したという野坂嶽
権現像は現在は麓の宗福寺に安置されているそうな。まことに神出鬼没。弘法大師も忙し
かっただろうなぁ。(笑)

 つづら折れを下り、三の岳を抜け、ブナ林を愉しみながら降りていると、ふいに灰色が
かった40cm位の尻尾の長い獣が数m先を横切って、あっという間に茂みに消えた。テン
のようだったが、しかとは判らずである。

 一の岳。山頂であった小父さん二人組と入れ替わるようにして休憩。さっきまで見えな
かった西方ヶ岳が山頂付近に雲をたなびかせながら姿を現した。綺麗な三角形は野坂岳よ
りよっぽど富士のイメージだ。(笑)

一の岳から敦賀市街と敦賀湾
西方ヶ岳に雲がたなびく

 約束どおり、行者岩に寄って行こう。分岐から凡そ30m。岩に向かって左から岩に沿
って登るらしくロープが設置してある。適当に段差もあり雑木が生えこんでいるので登り
易い。岩が木々に埋もれている為であろう。岩の上に立ってもそれ程の高度感はない。風
景も一の岳からと良く似たもので、あえてわざわざ登らなくてもというのが偽らざる感想
である。(笑)

 栃の木地蔵で再び休憩。またまた水をガブガブ。顔も洗ってさっぱりする。結構、膝に
来ているようである。植林帯の急坂を下りていると少しの違和感と笑うような感じがある。
無理をせぬよう行こう。(^^;

 赤松林が左に見えて来る。いこいの森で遊ぶ若者達の声もはっきりしてきて、今日の山
歩きもとうとうエピローグだ。

 車に戻り、おやつの赤飯結びを食べていると、ゴルフパターや水道管のパイプを握りし
めた初老の二人組がやってきて、しきりに石の下なぞをつついては話している。
「何してるんです?」思わず小生。帽子をかぶったじいさん、「マムシ探しているんや」
と福井弁独特のイントネーションで返す。以前は8匹捕ったこともあって、蒲焼にして食
らい、血も一滴残らず飲むんだとか。「なんや元気になる気がする」とのたまう。更に、
この冬は2頭の熊を捕ったという。場所は滋賀県との県境。大御影山の名もご存知であっ
た。昨日は生ビール飲み過ぎて、カラオケ唄って二日酔いでしんどいとか言いながら、引
き上げて行くジモティー二人組であった。

 毒気に当てられしばし呆然。我に返って後片付け。振り仰げば梅雨明けみたいな青空。
その青空も湖北に出ると激しいにわか雨である。アジサイが彩る野坂岳。暑かったけれど、
それを補うに余りある福井嶺南地方のいい山でした。

【タイムチャート】
6:55自宅発
9:55〜10:05野坂いこいの森駐車場(駐車地)
10:36〜10:39栃の木地蔵(敦賀の名水)
10:54〜10:58山頂2km標識
11:07行者岩分岐
11:15一の岳
11:37二の岳
11:50三の岳
11:56〜12:56野坂岳(913.5m 一等三角点)(昼食)
13:27〜13:30一の岳
13:40〜13:45行者岩
13:50山頂2km標識
14:00〜14:05栃の木地蔵(敦賀の名水)
14:22野坂いこいの森駐車場(駐車地)


野坂岳のデータ
【所在地】福井県敦賀市
【標高】913.5m(一等三角点)
【備考】 江若国境を分ける野坂山系の主峰です。岩籠山、西方ヶ
岳とともに敦賀三山に数えられ、敦賀富士とも呼ばれる
秀麗な山容は昔から親しまれ、山頂には嶽権現が祀られ
ています。一等三角点が置かれた山頂からは360度の
大展望で、敦賀半島、三方五湖、日本海から加越国境の
山々まで見渡せます。

■近畿百名山■関西百名山
【参考】
2.5万図『敦賀』



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