薊岳から明神岳〜秋色のプロムナード
 
平成18年10月28日(土)
【天候】晴れのち小雨
【同行】単独
薊岳東尾根から秋色の薊岳(右)と木ノ実ヤ塚(左)


 秋の風情を楽しもうと、久方ぶりに明神平。あわよくば桧塚までと欲張ってはみたもの
の、出発時間の遅いのは如何ともしがたく、雨まで降ってきたこともあって、途中の明神
岳までで断念。でも当初の目的のしっとりとした歩く人も少ない至福のプロムナードを愉
しめて、余は満足、満足の1日なのでした。

 夜明けの時間が遅くなるのにあいまって、休日に暗い内から起きるのがだんだん億劫に
なるなあ。(笑) 早く出発しないとと気ばかり焦るが、結局、家を出たのは6時半過ぎ。

 大又へ、この時間なら車もほとんど走らない県道を進む。このところ奈良県は道路のト
ンネル工事が盛んだが、この県道もご多分に漏れず、狭戸(せばと)付近でトンネルが完
成している。それを抜けて、大又の手前から麦谷へ向かい、そのまま林道を登っていく。
土砂崩れで通行止だったそうだが、何とか通れぬこともなさそうとのネットの情報もあり、
林道を詰めたジョウブツ山にはNTTの通信施設もあるので、それなら早期に復旧してい
るだろうとの思惑通り、全く支障はない。ウネウネと高度を稼いで尾根に乗ったところが
薊岳の麦谷の登山口である。時に9時過ぎ。先着のX−TRAILが1台きりだ。

 川上村と東吉野村の村界を成す緩い尾根筋。桧の植林だ。「ここは私有地ですが通行で
きます。但し事故の責任は各自で」概ねこんな意味の説明がある。金剛山ならこうは行か
ない。立入禁止。さもないと忽ち林道が出来てしまうであろう。(笑)

 車の戸締りちゃんとしたかな?などと行きつ戻りつしながらも、緩やかな道を行く。桧
林が切れて、登山道に枯葉が積もり出すと、間もなくエアリアの二階岳とは位置が異なる
が、二階岳とプレートが数々ぶら下がるCa1230m峰。南に派生する尾根はカラ谷ノ頭
で、地図を見ると500m程も台地上に続く尾根だ。右手には中奥川を隔てて台高の主稜
線。ここで左に折れる。さてここからが今日の最大の目的、プロムナード歩きの始まりだ。
茶色や黄色に緋色。落ち葉の絨毯にカサコソとそれこそ文字通り靴が鳴る。大振りなモミ
ジ形の葉はイタヤカエデだろう。ホウノキもある。そして、真新しい鹿らしい足跡が残る
ヌタ場がある1242mピークを越えると、そこはブナの葉が散り敷く、鹿遊びの場だ。
直径1mはあろうかという大ブナも辺りを睥睨するように立つ。枝々を通して降り注ぐ秋
の陽に茶色のカーペットが映えている。しばし佇む。

二階岳と木ノ実ヤ塚の間にて

 少し、尾根が平坦になるのと、落ち葉で踏み跡が隠されるので、この付近が一番分かり
づらいだろう。やや左に振るように進めば再び顕著な尾根になる。金色に光るフンコロガ
シがモソモソ落ち葉に隠れるのを見届けて、木ノ実ヤ塚への登りにかかる。膝程度のヒメ
ザサの中の急登は一旦、平坦になって再び前にも増してきつくなる。何度も立ち止まって
息を整える。これも単独行の自由さだ。喘ぎ喘ぎやっと頂上。三等三角点の周りはブナの
林である。
ブナの落ち葉散り敷く木ノ実ヤ塚山頂

 この木ノ実ヤ塚の山頂からは左に折れるのだが、何となくそのまま北へ行ってしまいが
ちになる。今は道標があって間違えようもない。折角、稼いだ高度を吐き出して、細い尾
根を進めば、前方にようやく薊岳の姿が近づいてくる。右手前方には明神岳へと続く、稜
線がなだらかな曲線を描いている。岩がちの斜面は薊岳への最後の登り。右側が少し崖状
になって虎ロープも用意されている。山頂直下に出てほんの少し戻るように行けば、薊岳
の山頂である。

 狭い山頂には、X−TRAILの主らしい3人連れの男女グループと堺から来られたと
いう単独兄さん。男女グループは先に明神平へ向かい、残ったのは単独兄さんと二人のみ。
これだけ視界がいいのは初めてとおっしゃるが、確かに金剛・葛城の山並みがこれほどく
っきりと見るのは、小生も何度かここへは来ているけれど初めての体験だ。五条市街から
和泉山脈。二上山から生駒山もはっきり見える。手前は音羽三山から竜門岳の山並みに違
いない。遠く住塚山や国見山。正面の高見山を挟んで、右奥には曽爾高原のススキの原の
薄茶色まで見える。南はとんと不分明なのだが、大峰の主稜と大台ヶ原が大きい。独立し
て尖った山容は白髭岳らしい。堺から来たお兄さんは先週は大峰の七曜岳だったらしい。
今日は大又から薊岳ピストンとのことである。四方山話なぞしながら15分ほど憩って、
明神平へお先に失礼した。
薊岳から彩錦の木ノ実ヤ塚

 ドンダンツツジが一際赤く目立つプロムナードだ。初夏には緑したたるバイケイソウも
今は姿もなく、ミズナラやハウチワカエデ、コシアブラなどが辺りを黄色く塗り替えてい
る。「Daijagura」と書かれたプレートの辺りからは大台が見えるらしいが、よ
く判らない。大きな岩が出てきたら前山は近い。それを越えたら明神平だ。ポツポツとハ
イカーが昼食。意外に人は少ない。

前山付近から静かな明神平

 前山を下って大又分岐を過ごし、笹原につけられた踏み跡を三ツ塚分岐に到着。この辺
りはブナの自然林だ。梢に葉は少なく、残っていてももう茶色く縮れて、落ちるのを待つ
ばかりという風情。地面には夥しいブナの枯葉。踏むごとにカサコソと音を立てる。大き
なブナの倒木を潜って尾根を歩く。木立を飛び回る小鳥がいる。帰宅して調べるとゴジュ
ウカラだった。「フィフィフィ」甲高いが美しい声で、虫の幼虫を探すのか、ブナの幹に
止まっては下を向いたり横走りしたりしてなかなかに忙しい。

 明神岳は遠くから見ると三角形の端正な姿に見えるけれど、登ってみれば唯の高み。プ
レートがなければ通り過ぎてしまう。明神岳から10mも行けば、桧塚への分岐だが、新
しい道標が立っていて、ここも以前より余程歩き易くなっている。

 ここへ来ていつも疑問に思うのだが、多分、明神平や明神岳の名前の由来になったであ
ろう穂高明神はいったい何処へ行ったのだろう。地形図には明神岳に鳥居マークがあるの
だが...。明神平から三ツ塚へ上がってくる途中に桧が生えた大岩があるがその付近な
のだろうか?一度、探したが分からない。ご存知の方がおられたらご教示願いたいものだ。

 3年ぶりの桧塚。いってみたい気もするが、さて、どうしたものか。往復するとなると
2時間近く見ておいた方がいいだろう。折角行くのなら景色も堪能したいしなぁ。となる
と2時間半。その上、昼飯の時間もとなれば、う〜ん。やっぱり6時には家を出るべきだ
ったか。「後悔後に立たず」か...。

 しようがない。この辺りで適当に食事でもと思って、ふと前を見るとどこかで見慣れた
後姿。あらっ?水谷さん。同窓生の女性陣と新しくMLに入会した内田さんのパーティで
あった。やっぱり桧塚に行きそびれて、ここで食事にしたという。それならと麦谷まで一
緒に戻って大又まで送る事となる。

 食事をしている内に、雲行きが怪しくなり、南から雲が空を覆い始める。少し急いで来
た道を戻ることにしたが、前山を越えた辺りでポツポツと落ちてきて、次第に木の葉を打
つ音が聞こえるほどになってくる。近畿南部は朝からとは聞いていたけれど、天候の崩れ
が早まったようだ。やっぱり桧塚に行かなくて良かったみたい。(^^;

 一行の足は自然と早足となる。雨はやや強まったり弱まったりを繰り返す。あれほど視
界の良かった薊岳からの展望も、もう伊勢辻方面がちらちらほの見える程度で、思うに任
せない。でもこんな天気でも明神平方面からやってくる人はいる。休憩している間にも、
2、3の単独者や小グループがやってきた。大降りすることなさそうなものの、徐々に視
程も短くなってきて、明神岳方面にははやガスがかかり始めた。少し急ぐ。

小雨の中、ガスが出てきたブナ林

 薊岳の直下は急で濡れていると注意が必要。なるべく山肌側に重心を残しながら降りる。
細尾根に出ると、とうとうこちらもガスがかかりだした。面白いのは上の画像でも分かるよ
うに、尾根を境にガスがきれいに分かたれている事。尾根がダムの堰堤みたいに堰き止めて
いるのだ。そうして、ガスがかかったブナ林もなかなか幻想的なものである。

二階岳の稜線は墨絵の世界に

 二階岳辺りまで戻ってくると、雲の厚みを通して薄日が射す。余計に幻想的な感じが出る。
右に折れて桧尾根を下れば登山口はあっという間だ。車は小生のが1台のみ。結局、今日、
ここから登ったのは小生と、X−TRAILの2組だけだったみたい。(^^;

 麦谷まで下って大又林道を遡る。幸い懸念された下ってくる車も2台だけで、離合に大し
て手間取る事もなく、水谷さんの車の駐車地へ。全員下ろしてお先に「やはた温泉」へ向か
い、いい湯加減に手足を伸ばしたのだった。

 静かな山上のプロムナードを愉しみ、帰り着けばまだ5時過ぎだというのに、秋の日はつ
るべ落とし。空はもう暗かったのでした。

【タイムチャート】
6:40自宅発
9:10〜9:20麦谷林道登山口
9:35二階岳(標識あり)
9:40二階岳(1,242m標高点)
10:08〜10:12木ノ実ヤ塚(1,373.8m 三等三角点)
10:35〜10:50薊岳(1,406m)
11:041,334m峰
11:201,321m峰
11:40三つ塚分岐
11:52〜12:25明神岳(1,432m)
12:35三つ塚分岐
12:551,321m峰
13:181,334m峰
13:36〜13:44薊岳(1,406m)
14:12〜14:20木ノ実ヤ塚(1,373.8m 三等三角点)
14:50二階岳(1,242m)
14:52二階岳(標識あり)
15:05麦谷林道登山口


薊岳パノラマ画像
薊岳から北方向を眺める。上の画像でははっきりしないが生駒山もかすんでいました



薊岳・木ノ実ヤ塚・二階岳のデータ
木ノ実ヤ塚から薊岳〜緑の滴に酔う』をご覧下さい。
明神岳のデータ
落ち葉さくさく、晩秋の明神平』をご覧下さい。
【参考】2.5万図『大豆生』、エアリアマップ『大台ヶ原』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system