五月雨の芦生、上谷逍遥
 
平成17年 5月20日(土)
【天候】雨
【同行】単独
緑溢れる野田畑湿原はモリアオガエルの大合唱


 好天予報の日曜は生憎、仕事。土曜は対照的に芳しからざる予報。ならば雨でも歩ける
所をと、今年は初めての芦生を思い立つ。ところが一夜明ければ日が射して明るい。窓を
開けると青空が広がっている。「これはいいわ」と勇躍。懸念は生ぬるい風。台風1号崩
れの低気圧の要らぬ贈り物だ。基本的には回復基調なのだが、近畿北部にはまだ本格的雨
雲が残るという予報は変わらず。崩れねばいいが...。

 車を走らせていると、やっぱり北の方には灰色の雲。案の定、湖西道路に入ると雨が落
ちてきた。真野のいつものコンビニで食料を調達する頃には本格的な降りで、山並みもガ
スで全く見えない程になる。これ程とは”想定外”で「引き返そうか」の気分が心の底で
滓のように漂うが、濁ってはいるが安曇川も針畑川も水量はそれ程増えてはいず、どうせ
傘は覚悟の上、しかも長靴でと思っていたから、しのつく雨にならなければと、とりあえ
ず現地まではと車を進める。

 生杉ゲート前。なんとこんな天気でも大阪bフ車がトイレ横に1台。小生以外にも物好
きがいて心強い。(笑) 

 こんな雨の時、1BOXは重宝。リアゲートを開けると庇代わりで立って準備出来るの
だ。5分ほどで準備を終えて歩き始める。ようやく盛り上がり始めた新緑が清々しい。し
かも雨に濡れて一段と鮮やかだ。地面にはブナの実生が夥しく芽を出している。去年は全
国的に豊作だったというが、でも子孫を多く残すのは危機感を持った時だろう。そう考え
ると一概に喜んでばかりも居られないのかも...。そんな中にけったいなキノコ。まる
でアポロチョコレートだ。
このキノコ、まるでアポロチョコレート

地蔵峠。ブナがお出迎え、いざ、癒しの森へ

 雨に煙る地蔵峠は癒しの森の東の玄関口。大きなブナの倒木を越えると間もなく三国峠
分岐。長治谷小屋方面へそのまま直進する。やはり芦生歩きは長靴に限る。昨夜来の雨の
影響か水量が少し多いが、ジャブジャブと気にせずに沢を渡る。それにしてはズボンは泥
まみれ。原因は直ぐに判明。地面に落ちた朽ちた枝の片方を踏むと、片方が跳ね上がるの
と同時に泥まで跳ね上がるのだ。(^^; あら、メガネにもハネが。

 中山神社の前を通り過ぎ、水量が増えてやや濁った上谷を渡り、右に折れる。杉林の林
床のミヤマカタバミも花は固く閉じられている。それに引き換え、濡れた地面をゴソゴソ
と元気に動くのはイモリ。
「そんなに道の真ん中に出てきて、踏まれても知りまへんで」(笑)

遊歩道をゴソゴソとイモリ

 雨は強弱を繰り返しながら一向に止む気配はないが、やや空が明るくなってきた。あん
まり激しいようなら途中で引き返す気でいたが、これなら大丈夫のようだ。道の右側に広
がる野田畑の湿原からは折からの雨を喜んだ蛙の声が賑やかである。多分モリアオガエル
であろう。湿原の縁ではニリンソウが盛りだが、やはりこの天気ではミヤマカタバミ同様、
花弁を閉じたままである。

 野田畑分岐手前には上谷の流れに新しく丸木が架けられているが、以前より歩き難い。
滑らぬようにそれを渡って野田畑の分岐を過ぎた辺りの山肌にはイワカガミがある。大半
はもう花ガラのみであるが、それでも咲き遅れた花がまだちらほら残っている。だがイカ
リソウにはもう流石に花はなく、ニョイスミレの白い花が目につく程度だ。

咲き残っていたイワカガミ

 ここから先の、幾度となく出くわす渡渉地点には丸太も架かっておらず、浅瀬を選って
歩かねばならない。しかもこの雨で増水していて登山靴では難渋していたろう。その点、
長靴の威力は大したもの。かえって汚れた長靴が綺麗になるくらい。童心に帰ってわざわ
ざ深みへ。おっと、調子に乗ってこれは思わぬ深さ。ヤレヤレ。

 上谷はトチノキの巨木が多い谷だ。中には熊でも冬眠できそうな大きな洞のある木まで
ある。天狗の団扇に似た葉の間からは円錐状の花冠がもう延び始めている。

でっかぁ!トチノキ

 ここまで誰にも会わなかったが、先行者の新しい足跡がある。小さいのは女性のものだ
ろう。生杉ゲートに止まっていた車のパーティだろうか?するとモンドリ谷付近であった
か、木々の向こうにカラフルな色がちらつくのが目に入る。

 三脚と大きな望遠鏡がセットされている。大阪から来た男女3人のパーティ。アカショ
ウビンを狙っているとのこと。
「鳴き声がするんですがねえ」
”声はすれども姿は見えず。ほんにお前は○のような”を地で行く感じらしい。お邪魔し
ては行けないので先へ進むことにした。

 沢に倒れこんだ大木の下を潜ると、あれだけ豊かだった流れも細くなる。ここまでくれ
ば杉尾峠は近い。シンコボから南下した時に飛び出した見覚えある谷を右に見ると、前方
が明るくなった。
前方に明るみ。ようやく杉尾峠

 杉尾峠は福井県側が開けているのだが、景色は灰色一色に塗りつぶされて、雨粒混じり
の強い風が吹き上げてきては木々の幹や枝をしならせて、轟々と大きな音を立てる。当初
はここで食事とも思っていたけれど、これではとても無理。早々に雨風を避けるべく引き
返す。

 モンドリ谷の出合ではバードウォッチングの例の3人パーティがまだ粘っている。
「見つかりました?」
「ええ、見つかりました。どうです。覗いてみますか」
小父さんに勧められて20倍の望遠鏡を覗かせてもらうと、いた、いた。朱色の体に太い
嘴。吉和冠山の近くの温泉で剥製を見たことがあるけれど、初めてみる生きた姿だ。30
m程向こうの木の茂みの奥の枝にじっとしているのだが、肉眼ではとても判別つかない。
もう一人の小父さんはニコンのD70に望遠レンズをセットして、いい写真をゲットした
ようだ。大阪がいい天気だったので勇躍飛び出してきたのだが、現地に着いたらこの天気。
でも来た甲斐があったと女性の方が感激の面持ちで笑っていた。

 結局、どこで食べようかと思案しながら下っていくと、とうとう岩谷付近まで戻ってし
まった。頃合いのイタヤカエデの枝に傘を水平に置いて庇代わり。コーヒーブレークは車
に戻ってから。カップ麺も諦めて、ここではサラダ巻きを口に放り込むのみにする。勿論
立ったまま。やや?肘の上に変な奴が...。ヤスデだ。触ったら臭い奴だ。息で吹き飛
ばすに限る。「フーッ!」

肘を這っていたヤスデ

 前方に人の声。カラフルな雨具が見えた。美山の自然村から来たのだろうか?案内人に
率いられた10人位の団体だ。この雨の中の単独行、なんと熱心なとやや奇異な目で見ら
れている感じに、ちょっと面映い。

 地蔵峠で一休み。あとは林道を戻るのみ。残り花でもないものかとキョロキョロしなが
ら、下っているとふと白いものが目に付いた。近づいて目を凝らすと、なんとオオミズア
オだ。翼長は10cm位。羽化して間もないのだろう、飛び立つ気配がない。欠けのない薄
水色の羽をフワフワとひらつかせているが、夜の明かりの周りでは、結構激しく飛んです
ぐ羽を痛めるのだという。初めて見るが綺麗な蛾だ。記念に写真を1枚。

オオミズアオ。蝶顔負けの美しさです

 ここへ来て雨はほとんど上がる。その代わりガスが猛烈に濃くなる。視界は50mもな
い位である。ゲートへ戻るとライトを付けたマイクロバスが来た。さっきすれ違った10
人位の団体さんを運ぶらしく、フロントガラスには「毎日旅行会」と貼られてあった。

 帰途、ゆっくり車を走らせていると、狭い一本道の県道の両側到る所にクサソテツの群
落があるのに気づく。こんなにもあったのか。また少し頂こうと、昨年、コゴミを少し頂
いた辺りで車を止める。もうシーズンはとっくに過ぎていたのだけれど、中に人間と同じ
くひねくれ者がいて、芽だしの遅れたものが幾つか見つけられたのだった。(笑)

 ガスも下界に降りると嘘のように消えた。大阪は晴れ。でも朝、小生が自宅を出た後で
かなり降ったとのことだった。芦生の雨もまた良し。それを実感させてくれた一日でした。


【タイムチャート】
8:30自宅発
10:35〜10:40生杉ゲート(駐車地)
11:15地蔵峠
11:26中山神社
12:47〜12:52杉尾峠
13:25〜13:40岩谷出合(昼食)
14:10中山神社
14:22〜14:24地蔵峠
14:47生杉ゲート

杉尾峠、上谷のデータ
【所在地】京都府南丹市(旧北桑田郡美山町)
【標高】600m〜750m
【備考】 由良川の源流は上谷と下谷があり、長治谷小屋の南で合
流し、演習林管理事務所のある須後へと流れていきます。
上谷は杉尾峠付近から発する流れで、トチノキの大木が
多いのが特徴です。またイタヤカエデも多く、秋は錦秋
に染まります。渡渉が多いので濡れても良い足回りが無
難です。杉尾峠は若狭越の一つで、若狭方面が開けてお
り、天気がよければ青葉山も望めます。
【参考】
2.5万図『古屋』、『久坂』





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