赤崎中尾根〜巨神の迷宮の森へ
 
平成18年 6月 4日(日)
【天候】曇り時々晴れ
【同行】水谷さん、もぐさん
迷宮の巨神と筆者(もぐさん提供)


 週末は久しぶりに青空が望めそうとPCの予報を眺めていたら、山仲間のもぐさんから
北山の佐々里峠にあるOさんの山小屋に前泊し、そこを基点として巨樹のラビリンスへ行
かないかというお誘いメールが舞い込んだ。巨樹の尾根からトロッコ道に降り立った後は、
灰野から古道を佐々里峠へ戻ってくるとのこと。以前からこの古道近辺は気になっていた
領域。即、リーチ!!のメールを返信。

 前日3日(土)13時。一両日中に雨の心配はまったくない。総勢3名は水谷さんの車
で、いそいそと佐々里峠へ向かう。途中で今日と明日の食料と勿論、酒も仕入れる。山小
屋には囲炉裏が切られているというので、魚の干物など炙り物も購入。こりゃあ、宴会が
ますます楽しみだ。(^^;
シダの階段を下りると山小屋が

 美山町側から登って佐々里峠の石室の前にある空き地に車を置く。Oさんの山小屋はす
ぐそこだという。「ええ?どこ?」という感じで、品谷山の登山口の標識横のシダが茂る
急斜面に着けられた狭い木の階段を10mも下ると、小さな山小屋の屋根が現れたではな
いか。まるで大人の隠れ家。こりゃあ、分からんわ。なんとなく昔、子供の頃に良く作っ
て遊んだ稲藁を積み上げた秘密のアジトを思い出した。『尾花山荘』と名づけられたその
山小屋は6畳くらいの大きさだろうか。尾花谷の源頭のトチノキやミズナラに囲まれて、
車道のすぐ下なのにまったく静かなものだ。ガス、電気なし、水は山の水を引いたものと
いう文明人から見れば仙人のような暮らしである。Oさん本人は7時過ぎに来られるとの
事で、先にお邪魔して、早速、宴会の準備である。しかしながらこの準備が大変。ガソリ
ンランタンに火を点し、炭をおこすのに四苦八苦。焚きつけのダンボールに火をつけると
猛烈な煙。煙い、煙い。眼から涙、体には煙の匂いが染み付き、魚を炙る前に、自分たち
が燻製になる始末である。それでも悪戦苦闘の結果、何とか炭に火がつき、ビールや焼酎
で乾杯。薄暮ごろから始まった何ともワイルドな宴会は、男同士の気楽さと、途中でOさ
んが加わったこともあいまって大いに盛り上がり、Oさんの白髪三千丈然?とした体験話
とハーモニカ演奏で最高潮を迎えたのであった。それにしても水谷さんが料理好きなので
大いに助かる。(笑)

宴会前のひと時

 日が暮れると鼻を摘まれても分からぬほどの真っ暗闇。トイレは外なのでヘッドランプ
がないと危ない。我々年寄りはトイレが近い。その度にゴソゴソ、ガサガサ。ドアをバタ
ン。Oさんは心得たもので、高いびき。こちらは「あ〜、寝られん。」(笑)

 それでもうとうとして翌朝を迎える。薄靄が漂う佐々里峠。建物の前の屋外の囲炉裏と
いうか焚き火場所ではOさんが火をおこしてくれて居て、沸かした山の水のコーヒーとパ
ンで朝食をしたためた後、出発準備。Oさんが地図片手にコースを教えてくれるが、芦生
の生き字引のOさんの事、当然熟練者コースだ。一寸きつそう。当初のプランで行ったほ
うが無難だろうなぁ。(^^;
山小屋の前でブレックファスト。Oさんは右端

 登山口には1分とかからない。とりあえず説明板で予備知識をインプットしておく。登
山口横には佐々里峠名物の石室。奥に摩滅した石のお地蔵さんが安置されている。この辺
りの風習で『松上げ』というのがあるが、その時にはこのお地蔵さんは麓に下ろされるの
だとか。由緒あるお地蔵さんなのだ。

 予定通り7時過ぎ。タニウツギが群れ咲く峠を後にする。今年は天候不順だが、それで
も季節は初夏に移ろうとしていて、ムシカリなどの白い花が主役になりはじめているよう
である。ブナやミズナラの緑に彩られ、ギンリョウソウが首をもたげる、よく踏みならさ
れた道が北に向かって続く。登り勾配のほぼ水平な道を10分ほど進めば小野村割岳への
分岐。目印の青いPPテープが結んであるが、注意していないと見落としがちだろう。(
帰りに見た時にはこれも外されていた)

古道と別れて小野村割岳方面へ

 ゆっくりと高度を上げて行くこの尾根は京都市左京区と美山町を分ける城丹尾根で、北
の由良川、南の桂川を画す中央分水嶺でもある。ブッシュを形成するような下草もなく歩
きやすい。数分も歩くと早くも所々に大きなアシウスギが迷宮の番人のごとく佇立してい
るのに出くわす。ダイスギ、ウラスギ、伏条杉とも呼ばれるスギである。雪の重みで枝が
地面を這い、そこから根を出して株立ちするものだが、人為的に作り出したものもあるよ
うである。即ち台場クヌギのスギ版である。幹をいったん切断し、伸びだしたヒコバエを
百年位かけて太い幹にすることを繰り返すのである。そのおかげで奇怪な姿の巨杉が出来
上がるのだ。ふと気がつけば森が深い為か、手元のGPSが弱受信となって現在地を捉え
なくなっている。アチャー。

 総体的にテープが少なく、踏み跡が薄い所もあって、特に尾根が広がっている所では分
かりにくい。その尾根は一部クランク気味に南北に折れるが、概して東西に伸びているの
で、南北に急激に下り始めたらおかしいと思えばよい。840m標高点ピーク、832m
標高点ピークには標識も架けられている。石灰岩質の露岩尾根を越えると、左手に尾根が
伸びるのが見え、前方がちょっとした広場となる。中央には大きなアシウスギ。通称『雷
杉』と呼ばれるアシウスギだ。落雷によって内部は真っ黒に焦げて空洞と化している。そ
の落雷の時のものであろう、幹と言っても過言でない枝が西向きにどっかりと倒れこんで
いる。近隣を震わせるすごい衝撃音がしたに違いない。そんな被害を受けてもスギは生き
ていて今も葉を茂らせている。その生命力には脱帽だ。その精気を吸わんと、ここで小休
止をかねてとりあえず記念撮影だ。
雷杉。筆者と較べて下さい(水谷さん提供)

 小野村割岳へはこの『雷杉』が立つ辺りで右に折れる。立ち木に小さなプレートがある
のだが、目立たないので気がつかずに直進してしまいそうだ。しかし我々の今日の目的は
は村割岳ではない。赤崎中尾根に向かっていよいよ迷宮の入り口に立つ。

 我々が歩いた中尾根のルート詳細は故あって省略するけれど、ここから先はまさにラビ
リンスであった。踏み跡は薄く、沢屋のテープも入り混じって、どれが正しく導くものな
のか分かりづらい。しかも西に舌状に伸びる支尾根もあって、コンパス、地形図は必携、
ある程度の読解力が必要である。そんな特徴のない尾根の大地のあちこちに、巨大なアシ
ウスギが出現し始めた。正にその想像を絶する巨大さに圧倒される思いだ。山荘の主のO
さんは樹齢5千年といっていたけれど、それは少々オーバーにしても優に千年は越えてい
よう。差し渡し3mは軽く越えるものや、根元の折れた株の部分から大きなブナを立ち上
がらせているものまである。最も大きいものを測ってみようともぐさんがタコ糸持参。ど
こを測ればいいのか思案したが、とりあえず目通りの部分。水谷さんが糸を持って一巡り。
11.2m。でかい。
「縄文杉を見にわざわざ屋久島まで出かけなくともええなあ」
の軽口も出る。

 ここではスギのみならず、その他のブナやミズナラも巨木が多い。まさしく巨神の森と
呼ぶが相応しい。しかも次から次へと現れるので、最後は少々のものでは驚かない始末。
人間の馴れというものは恐ろしいものだ。

 こんな斜面を巨木を見ながらうろうろ。「あれ?どっちから来たっけ?」リングワンデ
リングしそうなくらい、なるい斜面もある。西へ西へと振りそうになるが、慎重にコンパ
ス片手に進む。Oさんが言っていた『獣たちの公民館』のヌタ場を見つける。しばらく獣
が来た形跡はどうもなさそうであった。
赤崎中尾根を劇下りに向かって

 徐々に下りに入り傾斜もきつくなってきたが、過去にもこの程度の斜面は多かったし、
聞いてきたほどでもないじゃないかと安堵しかけた時である。前方に見えていた尾根がぐ
いっと下に折れ曲がったが如く消えた。台地の先端に立ったといえば感じが分かるだろう
か。高度差は50mくらいか。ただ、雑木が茂っていて、狭いながら足がかりの段差もあ
って助かる。ただ油断は禁物。案の定これは大丈夫と自分なりに見切った途端、ズテンと
1mほど滑ってあげく半回転。持っていた木が折れたのだが、端から見れば、当事者の自
分が考えていたほど安全ではなく、余程危なく見えたらしい。

やっとトロッコの軌道が見えてきた

 三点確保でより慎重になって降りるに従い、沢音が高くなり、木々の間からは水面の反
射やトロッコ道の錆びたレールが見え始める。そうして何とか赤崎西谷と東谷の丁度出合
部分に降り立つ。フーッとため息。

 赤崎東谷のトロッコ軌道の橋は崩壊している。沢を渡って軌道上に上がると、そこは崩
壊の為、危険立ち入り禁止となって迂回路が出来た箇所のすぐ東である。トロッコ道。今
までのアドベンチャーに比べてなんと歩きやすい道だろうか。(^^; 

内部がピンクのギンリョウソウ

 緊張が解けると急に空腹を覚える。皆さんもそうだったようで、灰野付近に戻って10
時とかなり早いが昼食にしようと一決である。アシウスギの林立する迷宮の赤崎中尾根。
聞きしに勝る巨樹が網膜に焼きついた眼で、由良川の清流を右に眺めては、さっきの余韻
に浸りながら、灰野方面へ戻ったのだった。
「あっ?ザックにまだ煙の匂いが...。」

 次は「灰野〜大段〜佐々里峠」の記録です。


「巨神の森」点描
伏条杉とも呼ばれるアシウスギ。圧倒されるデカさだ

中にはブナやミズナラと共生しているものもある

奇怪なブナの根元。まるでブナの睾丸だ

巨大な杉も最初はこんなだったのだろうか?



【タイムチャート】
7:10尾花山荘(佐々里峠)
7:33小野村割岳分岐
7:40840m標高点ピーク
8:02〜8:05832m標高点ピーク
8:15〜8:18雷杉(赤崎中尾根分岐)
9:10〜9:15アシウスギ巨樹横(小休止)
9:45赤崎西谷・赤崎東谷出合(トロッコ道)


赤崎中尾根のデータ
【所在地】京都府南丹市美山町
【標高】800m〜400m
【備考】 樹齢千年以上の芦生杉(ダイスギ、ウラスギ)の巨樹が
林立する尾根です。広い尾根や急斜面もあり、コンパス
と地形図は手放せません。尚、諸般の事情により詳細は
省きます。
【参考】
2.5万図『中』



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