高中そば | |||
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高中蕎麦 |
ブナの純林があるというので、10月9日は因但国境の扇ノ山へ。幸い天気にも恵まれ て、小ズッコや大ズッコからの、ブナに包まれた柔らかい稜線歩きを満喫したことであっ たが、(注1) その日はその余韻に浸りながら阿瀬渓谷近くのキャンプ場でテン泊。とこ ろが翌日は生憎、天候がパッとせず、日高町の植村直己記念館を見学した後、扇ノ山組一 行は解散となった。 遠いことでもあるし、帰りの高速の渋滞も気になったから、そのまま帰ることにしたの だが、途中の昼食はやっぱりそれなりに現地でしか味わえないものということで、たぬき さん推奨の高中(こうなか)の手打ち蕎麦を食べようじゃないかと衆議一決。R312か ら円山川の右岸に出て、和田山方面へ南下する。道の駅「養父」の近くに円山川に架かる 米地橋(めいじばし)がある。その前を左折、米地川に沿ってどんどん山懐へ向かってい く。そして5kmも遡った頃だろうか。両側から山が迫った谷あいに高中の集落がある。そ の真ん中に駐車場になった小さな広場があって、白い壁が目立つ民芸風の建物に「手打ち そば」の暖簾が懸かっている。昭和62年から村おこしの一環として再興された店だ。古 い民家と聞いていたが建て替えられたのだろう、真新しい。 ガラガラガラ。引き戸を開ける。まだ早いのかお客さんは1組のみ。テーブル席もあっ たけれど、座敷に上がって無垢の一枚板の座敷机に座を占める。店は地元のおばあさん達 が切り盛りしている様子。注文を聞きに来たおばあさんは80近いだろう。さて、何を注 文したものか。考えるまでも無い。蕎麦を食しにきたのである。生(き)の味を堪能でき る「もり蕎麦」に限るではないか。それだけでは腹が減りそうなので、おにぎりを一つ追 加注文。(^^; 窓から見える厨房。ホワーンと立ち上る白い湯気。その周りをきびきびと行きかうおば あさん達。おもむろに出来上がってきたもり蕎麦。あらっ、人参、里芋の煮物が一品つい てきた。おにぎりはというと小豆入り。その所為で少し赤い色であった。 早速、食す。普通より黒っぽい麺。口腔に広がるシコシコとした少し硬いくらいの食感。 つなぎは山芋だそうで、麺も太さが一様でないのがいい。出汁が都会にあるように甘くな いのもいい。麺はアッという間に腹中に納まったのであった。 勘定場もレジスターなんて洒落たものは無い。釣り銭は手提げ金庫からである。そこへ 問い合わせの電話。結構忙しくなってきたみたい。持ち帰りも可能らしいが、家で食べて も美味くないんだよなぁ、これが.....。 腹もくちくなったので、集落の中を少し散歩してみる。誰もいない。河の流れの水音以 外は物音もしない静かなもの。静寂を破ったのは地元の小父さんの軽四輪の排気音。公民 館前には江戸時代後半のものらしい六地蔵があった。 戻った蕎麦屋の前には石の道しるべがある。今では記憶が定かではないのだが、「左 やまみち 右 いずし」と書いてあったような。説明によれば、出石の殿様仙石氏が参勤 交代に使った脇街道でもあったらしい。峠には殿様の駕籠を置いた石まで残っているそう で、一町毎に石仏も置かれていた由。探したけれど見つからなかった。 少し、パラパラ、細かい雨粒。山里はしっとり秋の風情でした。 (注1)『扇ノ山〜ブナの森への招待状』をご覧ください。 |