貴公子花紀行〜『思い草』名前に惹かれ葛城山 | |||||||||||||||||||||||||
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大和葛城山山頂遠景 |
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起床すると、南方海上の台風が吹き込む湿った空気で油に浸ったような残暑。とても低 い山には登れたものではない。とはいうものの、ぐだぐだしていたおかげで、比較的高い 山への遠出はもう無理だ。そんな中、ふと浮かんだのは、以前耳にしていた「大和葛城山 でナンバンギセル咲いていたよ」の情報。大分、前の情報だから、今も咲いているだろう か。そこで何回か宿泊したことのある葛城高原ロッジに電話で確かめてみる。 「8月頃には咲いていたんですけどねぇ。今年は結構多かったですけど。今ねぇ...。 分からないですけど、まだ幾つか咲き残ってるかも知れませんけどねぇ」 答えてくれた女性、些か歯切れは悪かったけれど、明確な否定の声では無いようだ。図鑑 を見ても花期は7月〜9月となっているじゃないか。 「家にいても暑いだけやしなぁ...。」 思い切って行くかぁ。 当初は水越峠から登ろうかとも考えていたけれど、このくそ暑さじゃしんどいなと弱気 の虫に支配されている内に、車は水越トンネルを越えてしまった。(^^;; 県道山麓線を 北上してロープウェイ駅下の駐車場。千円は高いが仕様がないなぁ。(苦笑) ここからもジョウモン谷のコースで登れるのだが、車を降りた時の蒸し暑さにやはり辟 易。『ロープウェイ、ロープウェイ...』心の悪魔が囁いた。 料金720円を奮発。12:30発に乗車。流石に早い。標高324mの麓から、たっ た10分で標高885mの山上駅である。 ロープウェイの山上駅からコンクリート道を山頂の方へ向かう。流石に標高900m。 時折そよぐ風は乾いて涼しい。ミンミンゼミに混じってツクツクホウシの声がする。残暑 が厳しいとはいっても、秋の足音は着実に近づいているらしい。でもこの声を聞くと何か さびしい。一体に季節の変わり目の中で夏から秋だけがとりわけ寂しいのは何故だろう? ビジターセンターの前でダイトレの道と合わせて、白樺食堂の前で目が吸い付いた缶ビ ールの自販機。気がついたその時にはもう、1本手にしていたのである。(笑) 山頂広場には人はちらほら。薄い靄がかかって視界はいまいちなので、山頂には行かず にロッジ方向へ歩いていく。行く手に大きく金剛山の姿がある。ベンチが空いていたので そこで弁当を広げることにした。 赤トンボ、キアゲハ、アサギマダラ。ビール片手にボヤーッと眺めていて、通り過ぎて いった昆虫たち。それを狙ってか、ツバメがヒラリと急降下する。缶ビール片手にのんび り眺めているのもいいものだ。(笑)
主のススキの繁茂する所が良かろうと、あちこち踏み込んでみる。イナゴやバッタが驚い てピョンピョン飛び出す他は目ぼしい物は見つからない。このまま闇雲も芸が無い。ここ は聞くにしくはないと、ススキの原を草刈をしていた地元の係員と思しき人に尋ねること にする。 「ナンバンギセルまだ咲いてますかねぇ?」 「いやぇ、よくわからんなぁ」 2、3人に続けて聞くも不得要領。こうなったら自分で探すしか仕様がない。で、再びス スキの原をあっち行ったり、こっち行ったり。お蔭で、腕などがむずがゆくなる。(^^; 南斜面のツツジの原にも踏み込んでみたけれど駄目。 「時期が遅いのだろうな、また来年かな」 そうしてロッジの周りを巡る散策路を戻っている時である。諦めかけたまさにその瞬間。 ふと視線を横の土手に移すと、丈が15cm位だろうか。何やら薄い赤紫色をしたの異様な 形をした植物が。 「あれ?これは...?」 まことに『思い草』の名前そのままの出会いである。あれだけ探して見つからないものが、 出会う時はかくもあっけないものか。ススキに寄生する植物だということからススキの株 元ばかり探していたのが間違いだったようである。見つかった場所はススキよりもヒメザ サが目立つ場所。そして、そこから数mの所でもう1本。 それにしても、見れば見るほど不思議な形の植物で、南蛮人のキセルとは言いえて妙の 命名である。葉は1枚もなし。花弁といったらいいのか薄い赤紫のパイプがニュッと突き 出している。時期が遅くややくたびれながらも、咲いていてくれたのは来た甲斐があると いうものである。 「道の辺の尾花がもとの思い草 今さらになど ものか思はむ」 万葉集 デジカメを撮っていると、単独小父さんが通りかかった。 「それ、さっきも気づいていたんやけど、何です?」 「ナンバンギセルですわ」 「ほうー、そうなんですか?」 「ところで、これなんやけど...」 小さな手帳に気づいた植物をスケッチしていらっしゃる。 「それ、花赤かったですか?それじゃきっとマルバルコウソウです」 「それはコオニユリ、ムカゴなかったでしょ。赤紫の実みたいなのはワレモコウですよ」 てな具合。まずは図鑑を買って調べた方がいいですよと、余計なお節介を焼いて、お別れ した。 目的も達成したことだし、戻るとしようか。でも幾らなんでも往復ともロープウェイじ ゃ「低徘」の名が廃るなぁ。というわけで帰路は歩いて。(^^; しかしてその実態は、ロ ープウェイ代を浮かそうと考えたからに他ならないのである。(笑) 幾ら下りだといっても、結構暑かった。婿洗いの池の周りでフシグロセンノウの群落を 見つけたりなどして、ゆるゆると降りて行く。ツリフネソウが揺れる道をほぼ1時間。ロ ープウェイの駅の横から駐車場へと戻る。 時間があるので、県道途中に見つけた野草園に寄り、手頃な東洋蘭を一鉢。次いで『一 言さん』で知られる一言主神社に立ち寄る。
天皇一行と同じ格好をして現れ、争ったと記紀に記述があるほど古い社である故、もっと 大きいのかなと思えば、山の麓の森脇の集落に溶け込んだ、大きなイチョウと椋の木が目 立つほかは意外なほどこじんまりとした神社である。が、社の紋章は「菊に一」。天皇家 との関係を問わず語りに物語るようであった。 神社の石段を降りていると、なんだか風景が黄色い感じ。そうか、もううっすら夕景な のか。フラッと歩いた初秋の花紀行。さて次はどんな花を愛でようか。 ■今回の大和葛城山の花紀行で撮影した拙い画像は『大和葛城山、初秋』にまとめてい ます。ご覧ください。
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