大パノラマに見とれる錫杖ヶ岳
 
平成17年12月 3日(土)
【天候】晴れたり曇ったり
【同行】単独
霊山から望む錫杖ヶ岳(中央)


 パラパラとガイド本をめくる。目が行くのは鈴鹿方面。この前、南鈴鹿の高畑山付近に
出かけた際に、その稜線歩きがなかなか良かったのに味をしめたからなのだが、生憎、予
報は南の方ほど良さそうという。ならばと言う訳で、ページを捲る指が止まったのが、展
望の山、錫杖ヶ岳。三重というと伊勢や鳥羽というイメージがあって遠くに感じるが、名
阪国道沿いならば意外に近いのだ。

 午前8時という遅い出発。近畿道、西名阪、名阪国道と乗り継いで三重県に入る。関ト
ンネルに入る手前にあるのが向井IC。ここが一寸ややこしい。降りて南に向かうと大阪
方面へ行く一方通行の取付け道路。(間違ったかな?ええい!ままよ)と居直って進めば、
分岐があって『錫杖ヶ岳登山口』を案内する標識発見。フーッ。(北に進んでも標識があ
ります)登山口に着く前にもう迷いかけている小生であります。(笑)

 5分も1車線の舗装林道を進めば、路肩に駐車地の看板が目に入る。先行車は2台。準
備をしていると更に2台が現れた。アプローチが楽なので人気の山であるようだ。

林道にある登山口。中電の黄色い標識もある

 駐車地から20mも歩くと、加太昭親会なる地元の愛好会が立てたらしい登山口の案内
が出ている。それに従って、谷沿いの桧林の中に入る。道は中部電力の巡視道もかねてい
て良く整備されている。左の谷は水量は少ないが、岩がちな錫杖ヶ岳の一端を物語るよう
に一枚岩のナメのような部分もあり変化に富んでいる。一方、足元に目を移すと、河芸町
有林の石標を見つける。野の花ではこの時期はフユイチゴがルビー色の実を輝かせている
外は、あまりいろどりとてない。そんなこともあって植林の中はやや単調で、たんたんと
歩を進めていくのみだ。

 谷が次第に浅くなって沢になった頃、右岸に渉ってしばらくすると、親切な道標が出現
した。曰く『川を5m登って右へ』。有難うございます。(笑)

 ふいに誰かの話し声が聞こえる。否、聞こえた気がする。立ち止まって辺りを見回すけ
れど、勿論誰もいない。すると、また話し声。急に風が出てザワザワと林の中を吹き渡り、
桧の幹同士が打ち当たり、また梢同士が擦れたりして人声に似た音を出したのだ。そのカ
ーンカーン、キィーキィー、甲高い音を良く聞けば、なんだか獣の声にも似ている。物の
怪の声の正体とはこんな感じなのだろう。

 風の音が大きくなり、下草のササも増えてきた。前方がやや明るくなり左右から尾根が
迫ってくる。今度は本当に話し声が聞こえたと思ったら、そこが柚之木峠で、先行してい
た男女三人組がベンチで休憩中なのだった。

 直進すれば北畑、河内から錫杖湖へ抜けられる道。また南(右)の尾根にも薄い踏み跡
があって、忠実に尾根をたどれば林道に出られるようだ。流石、峠だけに風が吹き通って
寒い。

 錫杖ヶ岳へは左(東)に折れる。鈴鹿郡と安芸郡の郡界尾根だ。細い尾根の南斜面は急
で、植えた苗木を保護したプラ筒が林立しているが、土止めも考慮してのことであろうか。
モミジなど雑木も混じっている。その斜面が形成する谷をたどったはるか先に小屋のよう
な建物が見えた。北畑の集落の外れなのかもしれない。

 ここからは適度な斜度のある快適な道で、黄葉を迎えたリョウブ、コナラの目立つ雑木
林の中だ。途中出現するコブにはみんな巻き道がある。

 そうこうする内に錫杖ヶ岳名物?最初のロープ箇所が現れた。2m位の土の斜面で滑り
やすいが、横に雑木もあり、靴を引っ掛ける窪みもあるので安心。むしろ降りる時に注意
が要りそうだ。ここを越えると一旦平坦になり、左方向が窓のように開けた場所がある。
少し前からバタバタとヘリコプターの爆音が耳障りなので覗くと、丁度、高圧鉄塔建設の
最中で、ヘリコプターが鉄塔の先端部をワイヤーで吊り下げて移動しているのが見えた。
そういえば、登山口への途中の林道に、建設業者の車が止まっていたのを思い出した。

登山道途中から錫杖ヶ岳の鋭鋒が顔を出す。
ここから岩場が続く(白く見える部分)

 桧林を過ぎて小さなピークを越える。道が二つに分かれるがすぐ先で合流する。左右い
ずれの道を採っても南の展望が良く、経ヶ峰や青山高原、局ヶ岳が遠望できる。前方には
ようやく錫杖ヶ岳らしい尖峰が見え始め、急登が始まる。丁度、倶留尊山に登るのに似た
感じだろうか。そうして山頂に到るまでには幾つかの岩登りが待っている。ちゃんとロー
プや鎖完備なのだが、そうはいっても近くの立ち木の幹はツルツルで、皆さん、お世話に
なっているものと見える。(^^; 一つ一つを慌てずにこなしながら高度を稼いでいく。や
がて頭の上が空だけになって、花崗岩が累々と重なった山頂にたどり着く。伊賀町が立て
た説明板の横を抜け、錫杖湖からの道を合わせると、避雷針が立つ最高部の岩の上だ。

錫杖ヶ岳の山頂。花崗岩がゴロゴロ転がる

 錫杖湖から登ってきた人が多く、数人の先着者がいる。黄色い声がすると思ったら、先生
らしき初老の紳士に率いられた女子大生らしいグループがやってきた。可愛い娘ばかりで
羨ましい限りだ。おっと、ついつい話が逸れてしまった。(^^;

 先着の小父さん達は地元の山に良く登っているようである。何処から来たと聞くから、
大阪と答えると、あっちにも沢山、山があるのにわざわざここまでねぇとびっくりしてい
る。余計なお世話です。ほっといて頂戴。(笑) 登山ノートがあったので記帳しておく。

 花崗岩がゴロゴロ重なった山頂は狭い。伊賀町が設置した説明板によれば、錫杖ヶ岳は
地元では『雀頭』と呼ばれる雨乞いの山だったようで、麓の村々から幾つか登山路があっ
た由。いずれにしてもその鋭い峰が目立つ山だったことは間違いない。その所為で展望は
全方位に渡って頗る良い。なんでここに一等三角点が置かれなかったのか不思議なほどで
ある。東側は伊勢平野。鳥羽方面から津、四日市、遠く桑名から名古屋。伊勢湾を隔てて
知多半島の中部空港セントレア。南はなんと言っても直下の錫杖湖に経ヶ峰。青山高原の
風力発電のプロペラ群に笠取山の航空レーダー施設。合間から覗くのは局ヶ岳のようだ。
西には霊山と伊賀盆地。北は鈴鹿山系南部の山々だが、高さ500m以上の部分は灰色の
雲に覆われていて、時雨れているらしく、陽が当たった部分に虹がかかる。直下には加太
(かぶと)の集落に名阪国道の亀山トンネルを抜けて走る車。白く見えるシャープの工場
では、かの有名な液晶テレビ(亀山モデル)が生産される。双眼鏡で見えた観覧車は鈴鹿
ランドであろう。

頂上より錫杖湖。伊勢平野の向こうは伊勢湾

山頂より北。名阪国道がうねり、その向こうの鈴鹿
山脈は雲を被る。鈴鹿の主脈の手前は明星ヶ岳

山頂から南。奥に青山高原の笠取山が見える

 山頂の西側は強風が吹きつけるが、東側は不思議と風が殆んどない。東北側へ1mほど
降った所にお誂え向きの岩の棚があり、日当たりも良く風を避けるにも都合が良いので、
そこに座り込んで昼食の準備。レトルトのきつねうどんに生卵を割り入れる。これからの
寒い時期、湯気の上がる熱々を食するのはまた格別である。 (^_^)

 1時間も山頂にいる間に、何時の間にか誰もいなくなっている。下の東屋にも人影がな
い。「寒〜ぅ!」寒風が容赦なく吹き付ける。体感温度は氷点下以下だろう。これじゃぁ
誰もいなくなるわけだ。それでもしばらく最後部の石の上で山頂で景色を愛でていたのだ
が、それも限界。そろそろ降りよう。あっ、水洟が出てきた!

 ゴーッと唸りを上げ、木を揺する強風に急かされる様にして下るのだが、そうはさせじ
と岩場。登るより下るのが足場が見えず危ない。ロープや鎖は振られて、手足を擦りむく
危険もあるので、全体重をかけぬように気をつけねば。手がかじかんでうまく動かない。
ストックをザックに収納して一歩一歩下る。

 岩場を無事通過。気がつけば、手の甲が赤くなっていた。(^^; サクサクと落ち葉を踏
んで戻る。ヘリコプターの作業も終わったらしく、もう爆音は聞こえない。下りは早い。
あっという間に柚之木峠だ。右に折れてのんびり登山口へ戻る。

 もっと近ければ月一で登りそう。千回も登る人がいるのも道理と思える手軽ないい山で
した。さて、まだ13時過ぎだ。折角の遠出。もう一山寄って行くかあ。(笑)

【タイムチャート】
8:00自宅発
9:45〜9:55登山口前駐車地
10:15〜10:18柚之木峠(390m)
11:02〜12:15錫杖ヶ岳(676m)
12:53柚之木峠
13:10登山口前駐車地


錫杖ヶ岳のデータ
【所在地】三重県亀山市、安芸郡安濃町
【標高】676m
【備考】 伊勢と伊賀にまたがる布引山地に位置します。鋭い山容
を示し、山頂付近は花崗岩の岩場で、標高の低い割りに
高度感のある山です。山頂は360度の遮るものの無い
大展望で、遠く御岳や伊勢湾、知多半島、鈴鹿山地、伊
賀平野などが一望に収められます。
【参考】
2.5万図『平松』



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