秋色輝く西方ヶ岳・蠑螺ヶ岳縦走
 
平成17年11月 5日(土)
【天候】晴れ
【同行】別掲
西方ヶ岳北の展望岩から見る蠑螺ヶ岳への縦走路


 これだけいい山だとは予想していなかった。日本海を望む展望のみならず、全山雑木に
覆われた中を素晴らしい尾根歩きを楽しめた。京阪神からは少々遠いけれど、高速道を使
えば意外と短時間で行くことができる。璧に瑕の高速料金が高いのは乗り合わせで解消す
ればリゾナブル。久々に小生一押しの山として推奨です。(笑)

 早朝7時。集合地には参加者4名がきっちり集合。いつもながら時間に正確。早速、も
ぐさんの車で一路、敦賀を目指す。北陸道敦賀ICを降りた車は気比の浜の松林で西に。
敦賀半島の東側を北上すれば、登山口のある常宮の集落はまもなくである。

 照葉樹林に囲まれた、失礼ながら鄙にしては立派な常宮神社。気比神宮の摂社で、祭神
は神功皇后。仲哀天皇の后で応神天皇の母でもある。この地で応神天皇を生んだという言
い伝えがあり、安産の神として尊崇が篤いそうだ。また朝鮮の役で持ち帰られた朝鮮鐘は
国宝とのことである。そんな由緒ある神社の駐車場をお借りする。

 暖かい。もうすぐ立冬だというのに。少し厚手の長袖シャツを着用してきたが、これで
は汗だく必定。西方ヶ岳は750m程度の低山だけれど、なにせ今日は海抜数mからの正
味の登りなのだ。(^^; 長袖シャツはとりあえずザックへ。Tシャツ一枚の軽いいでたち。
それでも寒くない。人懐こい小母さんが境内を掃き清めている。
「気をつけて登ってらっしゃい」
の言葉に送られて出発する。
民家の間の路地が常宮登山口

奥の院の岩の展望台が見える。建物は真福寺

 200m程、集落の中を北に歩いた辺り、左に折れる路地に西方ヶ岳登山口の標識があ
る。家々の間を歩めばすぐに民家は途切れて、目の前には、薄い赤や褐色に染まり始めた
敦賀半島の脊梁の山々が大きく広がる。左の墓地、右に建つ民家みたいでおよそ寺らしく
ない真福寺の建物の間を抜け、トタン屋根の民家を過ぎると、いよいよ山道。階段道で所
々黒いプラ階段があるのは関電の巡視道でもあるらしい。一気に高度を稼ぐ。15分足ら
ずで立石線bS7、48の表示がある分岐。頭上を一つ目の高圧線が通る。

 割りに調子よくグイグイと登っていく。でもやっぱり暑い。額の汗を拭き拭き更に7、
8分。奥の院展望岩と標識があるので、左数m先の岩の上に立ってみる。絶景絶景。さっ
き歩いてきた常宮の集落や墓地と寺そして荒れ地が一望。その向こうは若狭の海である。
してみると、この岩、寺付近から見えていた白い岩に違いない。

 展望台から登山道に戻ると、木の繁みの中へ鉄梯子が延びているのを発見。脇に奥の院
の標識が立つ。常宮神社の奥宮が鎮座するらしいが登山道からは覗えない。

 二番目の高圧線を越える。きっと敦賀の原発から送られてきているのだろう。「原子力
の味がするお湯が沸くかもしれないね」などと小寒い冗談を飛ばしている内に、支尾根に
乗ったらしい。傾斜が落ち着く。地形図の238m標高点辺りである。それはやがて山腹
を巻きながらの道となる。至る所にリンドウの青い花が見られ、まだ陽が当たらず蕾のま
まのものも多い。

 か細い水の流れを跨いでしばらく、ホウノキの下に大きな岩が現れた。「銀明水」とあ
って、山頂1.8km、常宮1.7kmの標識。丁度中間点である。岩の下から清水が湧き出
している。口に含んでみたが柔らかくおいしい水である。小休止しているとブーンと目の
前を黄色い飛行物体。すわっ、スズメバチか。幸いその後、しつこく飛び回ることも無か
ったが、ハチだけは大嫌いだ。

 道は右に折れると再び傾斜のきつい岩混じりの道となる。標高差はほぼ100m。でも
つづら折れなので思ったよりも楽。明るい道に感じるのは六甲と同じく岩が花崗岩質だか
らであろう。大理石に似た白一色の石も目につく。そんな中、「聞く石」、「オウム岩」
の標識がある。中でもオウム岩は展望台にもなっていて、眼下に敦賀湾が広がり、漁船の
白い航跡が鮮やかである。遠く低く船のエンジンの音がのどかに響く。しかし西側に聳え
る西方ヶ岳の山頂はまだまだ遠いのだ。

 580m標高点ピークに行き着くと、道は今度は左に折れる。尾根の上の緩傾斜の幅広
道。するとコナラやリョウブに混じってブナが目に付くようになる。そして徐々にその数
は増し、いつのまにか周囲はブナ林に変貌する。といって樹齢100年以上とかいう太い
ブナは無く、太いものでも直径40cm位だろうか。梢の葉は早くも茶色に変じ、道は分厚
い落ち葉の褐色の絨毯。歩けばカサコソと乾いた心地よい音を立てる。
「コーンフレークの上を歩いている見たい」とレオさん。言い得て妙。何気なく視線を落
とすと偶然、ブナの実の殻が見つかった。種子はリスか何かの小動物によって食べられた
のだろうか。見当たらない。こんなプロムナードがしばらく続く。至福、至福。永久にこ
んな森が続いたら...。
西方ヶ岳頂上手前の明るいブナ林

 再び少し傾斜が増し、些かシャリバテの体を持ち上げて、潅木とササの間を登れば、小
広くなった台地に大きな山名標識が目に入る。
「あれ?おかしい。」
手元のGPSは三角点まで後100m近くあると表示している。入力ミスか?ふと見れば
避難小屋の向こうに高みがありそうだ。試しに小屋の向こう側に出ると、小さな鞍部の向
こうに踏み跡が延びている。やがて背丈ほどのクマザサに覆われるが踏み跡はハッキリし
ていて、まもなく二等三角点の標石が頭を出しているのが見つけられた。

西方ヶ岳山頂の避難小屋。三角点はその奥

 山頂広場に戻ると、皆さんが丁度上がってきたところである。先着していた中年グルー
プのおじさんが、すぐそこに展望岩があると教えてくれる。そこで昼食にしようかと覗い
てみたら、これがまた大展望。直下に集落が見える。常宮かなと地形図で確かめると、小
さな港の防波堤の形から、それは「手(て)」という面白い名の集落とわかる。(因みに、
「沓(くつ)」という集落も近くにある。)右に突き出たのは鷲崎。全く地形図通りだぁ。
(当たり前だ!)敦賀湾の向こうにはうっすらと越前海岸が眺められる。うーむ、鳥にな
った気分だ。ここで食事もいいのだが、平らなところが少なく(ザックを落としたりした
ら大変だ)、風も強いので山頂へ戻ることにした。

西方ヶ岳の展望岩から「手」の集落と鷲崎

 食事中も、さっきの小父さんが色々と教えてくれる。良く聞けば、福井県庁の方で、若
狭の山の本を編集出版している人である。名前は難しいので失念したけれど...。(^^;

 気がつけば1時間以上も山頂に。そろそろ、というわけでススキの穂が光る山頂を後に
して、避難小屋の横を抜けて北方向の踏み跡を辿る。雑木林の下りから少し登り返すと、
右手に展望岩がある。先ほどの福井の山の本を書いた小父さん達と入れ替わりに岩上に立
つ。ここも素晴らしい。空気が澄んでいれば白山まで見晴るかせるそうである。北にはカ
モシカ台の白い岩の峰。カモシカというより羊の群れのようでもある。そして山腹はどこ
も近づく冬の前に迎えるフィナーレに向かって、赤や茶のグラデーションに色づき始めて
いる。

 西方ヶ岳のブナ林もいいが、蠑螺ヶ岳への縦走路も最高だ。気持ちのよい自然林。切り
開かれたクマザサの道の両側は、ミツバツツジ、アセビ、リョウブ、ガマズミ、ソヨゴ、
ハウチワカエデ、ウリハダカエデ、コナラ、ブナ等の混交林。リンドウはもう雑草状態だ。

西方ヶ岳と蠑螺ヶ岳の稜線道も
ブナ林のいい雰囲気

 カモシカ台は縦走路から外れていて、西に尼ヶ池のある鞍部へ一旦下って、登り返さね
ばならない。距離は凡そ200mだし、折角なので寄ってみることにしたが、これが大正
解であった。山頂に花崗岩質の白っぽい岩が幾つか寄り集まった形になっているのだが、
そこからは正に360度のパノラマなのである。とりわけ、今まで見えなかった西の方向
に、若狭湾と美浜原発、丹生大橋が箱庭のようなのである。北に蠑螺ヶ岳のやや傾いだ姿
がだいぶ大きくなってきた。この傾いだ姿がサザエの殻に似ているのだろうか。左奥には
関電の反射板のあるピーク。南にはさっきまでそこに立っていた西方ヶ岳が大きく広がっ
ている。
カモシカ台から蠑螺ヶ岳(中央)

 縦走路に戻る。尼ヶ池にはほとんど水が無かったそうだ。ポツポツ、蠑螺ヶ岳方面から
戻ってくるパーティがある。聞けばみんなピストン。「これから縦走する」というと、答

「そら遠くて大変ですねぇ」
その理由は後で判明することになる。

 顕著なピークが一つ、二つ。小さなアップダウンを幾つかこなす。結構、距離があるが
歩く人を飽きさせない。ムラサキシキブの赤紫色の実が光り、振り仰げば、やや西に傾い
た陽の光に色づいた葉がレースの模様のようだ。目の前に高く見えた蠑螺ヶ岳も歩いてみ
ればあっけなく。岩がゴロゴロする小さな広場の真ん中に三等三角点が鎮座する。ほっと
一息。

 さて、問題はここからであった。色づいた雑木林に誘われて、いつの間にやらここまで
来てしまったけれど、色浜へ降りる道があるだろうとたかを括っていたが、その色浜への
道が無い。まっすぐ東へ降りる踏み跡はすぐ先で岩になり、ザイルが無いと難しいと偵察
のレオさん。道標は浦底へ2時間、3kmとあるが、そも浦底ってどこであろう。勿論、手
持ちの地図には浦底は範囲外で記載は無い。そこでレオさんのGPS内蔵の地図で確認。
すると、色浜の北方の集落だと分かる。半島の西側でなくてよかった。でも車を置いた常
宮まではかなりな距離。「大変ですね」と云われたのも道理。ピストンで戻ろうかとの説
も出たが、その時、レオさんから浦底に下ってトレーニング代わりに走って車を取ってき
ますという凄い発言。一同はびっくり。そして実際、下山後、車を取りに走ってしまった
のだ。これは凄過ぎる。そんな顛末もあって、言葉に甘えて、ピストンするより早く下山
できるだろうと浦底へ向かうことに決定。今が2時20分。暗くならない内にと少し急ぐ
ことにする。

秋色に染まる蠑螺ヶ岳。その向こうは敦賀湾

 山頂から10分ほどで一枚岩展望所。敦賀発電所が指呼。明神崎とその先に浮かぶ水島
が眺められる。そしてあんなに遠かった関電の反射板がすぐそこに見える。結構、歩いた
んだと実感する瞬間である。

 しかしなかなか下りにならない。下ると思えば先にピークがある。地図が無いので先が
予想出来ないことから、少し焦りもあるのであるが、まだかまだかと思う気持ちで皆の足
は速い。小さなピークを越えた先で、やっと徐々に下り基調の道になったと思ったら、長
命水の分岐に到着。やれやれ、フーッと一息だ。長命水は今立っている辻から木立の奥に
降った所にあるらしく、微かに沢音が聞こえる。ここまで水を汲みに来る人もいるのか、
以後は格段に踏み固められた道となり、進路を東の海岸方向に変えて、岩混じりの下りと
なる。もう安心だ。(^^;
水島展望所より明神崎と水島。対岸は越前海岸

 丁度、道が右に折れる所に水島展望所の表示がある。浦底の集落の沖に延びる半島の先
に、満潮になれば沈みそうな白っぽい砂州で出来た島があって、申し訳程度の松の緑が点
々とあるのは一服の絵であった。(夏は渡し舟で渡れるそうだ)

 沢音が林の奥から響きだす。岩がゴロゴロ転がる沢を越えると、その先で関電の巡視道
が分かれていて少々ややこしい。登山道はやや暗い感じの真ん中の道である。立石線の鉄
塔を横目に見る辺りは粘土質の湿った土に苔が生えて滑る、滑る。草むらに道を避けつつ
先を急げば、先に農道が見えてきて、蠑螺ヶ岳登山道の標識がある入口に飛び出した。3
時半前。ということは山頂から3kmを1時間余りで下ってきたことになる。速い!

 入口に山頂で出会った小父さんが立っていた。さっき追い抜いた2人の小母さんを待っ
ているのであろう。路肩に山道具満載のワゴンが1台。小父さんが偶然、自分の本を一冊
持っていたので、のりかさんは早速購入。それからしばし、若狭の山の話に花が咲くので
した。

 きりが無い山談義を適当に切り上げて、右に日が翳って黒ずみ始めた山並みを眺めつつ、
ゆるゆると道なりに下れば日本原子力発電の明神寮の横。海岸沿いの県道に出る。待つこ
としばし。レオさんから携帯に連絡が入り、やがて白いもぐさん車が県道に現れた。レオ
さん、ご苦労様でした。

 明るい尾根道、ブナ林、左右に眺められる海、歩く人の力量で随意に決められる行程。
訪れた人が異口同音に「良かった」というのも分かる山。又訪れたくなる、そんな敦賀半
島の脊梁山脈縦走でした。


■同行 のりかさん、もぐさん、レオさん(五十音順)

【タイムチャート】
7:00北急桃山台駅西ロータリー(集合地)
9:12〜9:25常吉神社(駐車地)
9:50〜10:00奥の院展望所
10:38〜10:45銀明水
11:00聞く石
11:05〜11:10オウム石
11:25580標高点
11:52〜13:00西方ヶ岳(764.1m 二等三角点)
13:10〜13:17展望岩
13:35〜13:42カモシカ台
14:10〜14:20蠑螺ヶ岳(685.5m 三等三角点)
14:30〜14:32一枚岩展望所
14:45〜14:46長命水
15:10水島展望所
15:25高圧鉄塔
15:28蠑螺ヶ岳登山口


西方ヶ岳のデータ
【所在地】福井県敦賀市・三方郡美浜町
【標高】764.1m(二等三角点)
【備考】 野坂山地から北に延びる脊梁山脈にあり、敦賀半島
の最高峰です。全山ほぼ雑木に覆われ、新緑、紅葉
のじきといずれも楽しめます。登山道は東側の常宮
からが一般的で、要所に道標が整備されており、安
心して歩けます。
■近畿百名山
蠑螺ヶ岳のデータ
【所在地】福井県敦賀市・三方郡美浜町
【標高】685.5m(三等三角点)
【備考】 西方ヶ岳の北に位置する峰で東に傾いだ姿が特異で
す。展望が良く、視界がよければ越前海岸の奥に白
山が望めます。常宮から西方ヶ岳に登り、カモシカ
台、蠑螺ヶ岳を経て、浦底に降りれば展望絶佳の尾
根歩きが楽しめます。
【参考】
2.5万図『杉津』




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