扇ノ山〜ブナの森への招待状
 
平成17年10月 9日(日)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】別掲
扇ノ山との鞍部から大ズッコ


 想像以上のブナの森であった。その白い肌と灰褐色の模様のコントラスト。静けさ。木
漏れ陽を照り返す葉の煌めき。清澄な森を渡る鳥のさえずり。癒しの森とは正にこういう
森のことをいうのであろう。ここにブナの森の招待状を一通、差し上げます。

 扇ノ山はいつか行ってみたい山の一つであった。しかしながら、アプローチに4時間近
くを費やすという遠さが、やはり足を遠ざけていたのだが、今回は神鍋近くの湯の原オー
トキャンプ場にテント泊というオフ山行。ゆったりと余裕を持って歩けるというので、参
加させてもらうことにした。小生にとって初体験だが、はてさてどうなるやら。

 6時50分、千里中央に集合。他の参加各人を三々五々ピックアップして、加西SAに
最終集合。総勢9名、3台の車に分乗して、中国道−播但道−R9と乗り継ぎ、現地へ急
ぐ。R9から海上へ向かう県道の角には「おもしろ昆虫化石館」と名付けられた新温泉町
のテーマ館があって、いい目印になる。ここで最後の小休止。いよいよ扇ノ山へと心は急
く。

 県道から上山高原の案内標識に従って、逆Y字型に右へ折れ坂道を上る。海上の集落は
高台に広がる、思ったよりも戸数の多い集落である。その家並が途切れると、道は1.5
〜1車線幅と狭くなり、うねうねと山襞を縫って登っていく。それでも全線舗装され、ど
こかの山間の国道より余程立派だ。(笑)

 この先、車窓を流れ彩る赤紫はツリフネソウ、それより細かく淡いのはミゾソバ。今は
盛りと咲き乱れている。布滝の標識がある場所には1台の車が駐車している。折りしも単
独小父さんがカメラと三脚を担いでいるのが目に入る。

 やがて景色は一変して、ササ原と低い潅木に覆われた柔らかい曲線が主体の世界になる。
上山高原である。その中にあってひときわ丸く盛り上がる上山。その登山口を横目になお
も進む。更に小ズッコ小屋経由の登山口を過ぎて、間もなく現れた小さな切り通しが兵庫
県と鳥取県の県境で、その先すぐに突き当たったT字路には旧国府町が造った「水とのふ
れあい広場」がある。今日の出発地点はここだと聞く。路肩の空き地に車を止める。

ここは鳥取県「水とのふれあい公園」
舗装路の向こう側が県境でその先は上山高原

 寒いのではとフリースも持参したのだが、風もほとんどなく暖かい。懸念された空模様
も青空が広がり絶好の山日和。車を降りた皆さんも早速、いそいそと準備を始めている。

 「水とのふれあい広場」は東屋とちょっとしたコンクリートのごく浅いプールというよ
り水溜めがあるばかりの素朴なもの。ただ、バーベキューが可能なレンガの囲い付きのベ
ンチが置かれてあるのが面白い。公園端の塩ビパイプから勢いよく出ている水が美味い。

 全員揃ったところで、河合谷林道を南へ向かう。50mばかり進めば、左手に河合谷登
山口の立派な標識が見つかる。雑木で出来た穴倉に潜り込む感じで丸太階段を上がる。昨
夜来の雨はかなり降ったらしく、登山道は至る所でぬかるんでいる。その泥濘を先行者が
置いた枯れ枝や道端に避けて進む。若い杉林はすぐに雑木に変わって、以後、植林は現れ
ず、全くの雑木林であった。
河合谷の登山口

 雨で茶色に濁った小沼を右に見る。小ズッコ小屋からの道を合わせ、中国自然歩道とな
って県境尾根上を緩やかに高度を稼いでいく。まもなく大石への分岐。道の中央に石標。
扇ノ山にはここで左折なのだが、左折してみれば、そこはブナの自然林に囲まれた心地よ
いプロムナードなのであった。

清々しいブナ林

 雪は数mの深さに達するという。並みの抵抗力では到底太刀打ち出来まい。そんな積雪
の重さに耐えかねてたわみ、さりとて折れもせず、再び空に向かって伸びる。ブナの生命
力は感動ものですらある。そうして或る日寿命を迎え、倒れた老木の側から、また次の生
命が伸び始めるのだ。ふと視線を落とす。と、地面に重なった落ち葉の間にブナの実を見
つける。沢山あるではないか。直径1cm位の殻が十字に割れて、椿の実を小さくしたよう
な茶色の実がこぼれている。齧ってみる。意外に美味。脂肪分がたっぷり含まれているよ
うで、濃厚な味がした。

ブナの殻と種子。結構濃厚で美味いです

 小ズッコはどこがそれだかよく分からないけれど、大ズッコは顕著なドーム。丸太階段
が設置されている。スズタケが繁茂する中に扇ノ山まで0.9Kmの道標のある辺りが最高
点のようである。

 大ズッコを越え扇ノ山との間の鞍部へ。樹間を通してようやく扇ノ山がもったいぶって
いた姿をようよう現した。顕著な峰ではなく、山名の如く扇を広げた姿は飽くまでもたお
やか、女性的な山である。

 大ズッコへの丸太階段登りと、この最後の鞍部から扇ノ山への登りが、今回では最もき
ついであろうか?というものの何処にでも普通にある坂道である。それだけ今回のコース
は「うねり」とでも表現すればいいだろうか、なだらかなのだ。鞍部から少しの間、木の
根の浮き出した道を喘ぐ。畑ヶ平からの登路を合わせると右に展望テラス。鳥取方面を見
晴るかせるらしい。鳥取市街、湖山池に日本海。大山まで見えるというが、今日は白く霞
んでいる。かろうじて微かに海岸線らしきものと海らしきものが見えるのみ。はっきり確
認できたのは、西の麓の上地の集落と周囲の耕作地であった。

扇ノ山山頂の避難小屋

 何の木だか、雪の重みに耐えかねてアーチのように曲がった幹をくぐると、立派な避難
小屋の建つ山頂である。直径10m位の円形をした山頂広場の中央には角が欠けた三角点。
それを目指して鳥取県側の姫路や八頭町(旧八東町)からの登山道が集まってきている。
展望は残念ながら360度とは行かず、やや霞んでいることもあって南東に氷ノ山の山容
が望まれるくらいだ。

 7、8人の先行者が昼食の真っ最中である。お邪魔しないように空いていた東側に集ま
ってこちらも昼食の用意。カップ麺の湯を沸かしている間に、久しぶりに持参の缶ビール
を開ける。プシュッと勢い良く泡。今日は奮発してエビス。美味い。

 コーヒーの後は、山頂に生えたオオバコの茎で草相撲をしたり、避難小屋を覗いたり。
その避難小屋は塵一つなく清潔で、皆さん大事に使っている様子である。二階はガラス張
り。積雪が多い冬季の為に二階へ直接上がる鉄梯子まである優れものであった。

 山頂には凡そ1時間。最後に記念の集合写真を撮って山頂を後にする。写真を撮る人、
サッサと降りる人と各人各様。スピードが異なるのですぐにばらけてしまう。しかし、一
本道なのであらぬ方向へ行く心配もない。ヘッドランプか懐中電灯があれば夜でも歩ける
くらいだ。折角のブナ林。早く下りるのはもったいない。ブナ林の綺麗な場所で立ち止ま
りつつ、名残を惜しみながら歩く。
大魔神みたいな苔むしたブナの古木
中空ながらまだまだ元気です

 樹芯が朽ちても懸命に葉を繁らせるブナ、その生命を終え、次世代のブナに身をもって
捧げる倒木。雪の重みにもめげず、「根性ブナ」と呼ばれているらしい木の幹はあたかも象
の鼻のようだ。紅葉黄葉にはまだ早い中、それでも気早く赤く色づいたムシカリがある。
木漏れ陽に透かすと、えもいわれぬ風情がある。

根性ブナです

象かトドに似たブナ

 ブナの根元には、ユキザサ、ミヤマシキミ、ツルリンドウの鮮やかなルビー色に輝く果
実が彩りを添える。ナナカマドも赤く色づいた実を誇らしげに揺らす。登山道はフカフカ
の落ち葉道。その勿体無いくらいの感触を確かめながら一歩一歩踏みしめてゆく。

 大石分岐近くには、山道から少しはずれて大きな芦生杉が1本聳える。幹周りは3m位。
熊が冬眠できるような大きなうろを抱えて、周りを睥睨している姿は、ブナの森の長老そ
のものであった。

大石分岐にある芦生杉
(のりかさん提供)

 帰りも知らず知らずの内に小ズッコを過ぎて、上山分岐に戻ればブナの林も終幕。丸太
階段を滑らぬようにして林道に降り立つ。扇ノ山からもらったブナの森への招待状。果た
してお目にかなったであろうか。

 さて、今日の泊まりは阿瀬渓谷近くの湯の原温泉オートキャンプ場だ。途中のスーパー
でアルコール類を仕入れて、蘇武トンネルのお蔭でなんとか明るい内にキャンプ場へ到着。
特急でテントの設営を終えて、施設内の温泉で汗を流す。満天の星の下、酒の肴をつつき
ながら秋の夜長はあっという間に更けていったのである。

 皆さん有難うございました。とりわけテントを拝借させて頂いたレオさん、酒の差し入
れを頂いたやまごさんに感謝です。


■同行 呉春さん、幸さん、たらちゃん、なかいさん、ニコちゃん、のりかさん、
    水谷さん、もぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
6:50千里中央ローソン横(集合地)
10:40〜10:50水とのふれあい公園(駐車地)
10:55河合谷林道登山口
11:18上山高原分岐
11:30小ズッコ(1159m)
11:40大石分岐
12:08〜12:20大ズッコ(1273m)
12:22上池分岐
12:43畑ヶ平分岐
12:52〜13:38扇ノ山(1,309.9m 二等三角点)
14:05上池分岐
14:07大ズッコ
14:44大石分岐
15:11河合谷林道登山口
15:15水とのふれあい公園(駐車地)


扇ノ山のデータ
【所在地】 鳥取県鳥取市、八頭郡八頭町、若桜町、
兵庫県美方郡新温泉町
【標高】1,309.9m(二等三角点)
【備考】 氷ノ山の北西、兵庫県と鳥取県にまたがる山です。かの
加藤文太郎は兵庫立山と名づけています。古いアスピー
テ型の火山が浸食を受け、文字通り、扇を広げたような
なだらかな山容をしており、ドーム状の小ズッコ、大ズ
ッコ及び山頂周辺は、近畿では見られない規模のブナの
自然林です。ただ、京阪神からのアプローチは遠く、不
便でマイカー利用が無難でしょう。
■日本三百名山■近畿百名山■関西百名山
【参考】
2.5万図『扇ノ山』




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