若狭駒ヶ岳〜静寂の秋を味わう
 
平成17年11月23日(水)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】のりかさん、もぐさん
明神谷林道から眺める駒ヶ岳


 日本全国、数ある駒ヶ岳の中で若狭駒ヶ岳は江若国境の山。京阪神から遠く、交通の便
が悪い為か、意外にマイナーな山である。小生もこれまで名は聞いたことがあった位で、
とんと知らない山であった。ところが訪れてみて一変。しっとりと落ち着いた静かな山と
それに連なる江若尾根は素晴らしいの一言。ブナの若葉の頃に又出かけてみたいと思わず
にはいられない、そんな山でありました。

 まだ明けやらぬ早朝6時前。眠い目を擦って、始発から2番目の電車で集合場所の桃山
台。もぐさんの車が既に止まっている。今日の目的地は江若国境の駒ヶ岳。稜線のブナ林
が良いといううわさ。色々あって、少々、気分的にブルーでもあったが、気分転換できれ
ばとお誘いに乗った次第。さて、どんなものであろう。

 珍しく日本海側も晴天。朽木を抜け、R303で福井県に入ってまもなく、若狭街道は
熊川宿。旧街道沿いに街並みが残っているらしいので、時間があれば帰途寄ることにして
ここで左に折れる。河内川を遡行していけば、そこいらじゅうにダム工事の取付道路。右
手高くには巨大なコンクリートの橋脚が威圧するごとく。

 更に進めば左に道路が分岐していて、角に石の鳥居。村社白石神社と刻まれた石標があ
るが、建物跡があるだけ。ここを左折して谷川沿いに進むと、まもなく右手の川向こうに
また鳥居が現れた。こちら側はちょっとした広場になっていて、車は10台程度置くこと
が出来る。川沿いには地道の林道がまだ先に延びていくが、ここが森林公園の入口らしい。
ここに車を置くことにする。

白石神社への石橋を渡った左が登山口

 車外に出ると、ひんやりとした冷気が頬を包む。が、風もなく日中は暖かくなりそうで、
長袖シャツ1枚では今は少し寒いが、歩くと丁度いいだろう。川を渡ると右手はこれも建
物跡。大正7年建立と思ったより新しい石燈篭(それでも80年以上経ているが)が寂し
く立つ参道を10mも行けば、巨岩の上に鎮座する白石神社だ。小浜にお水取りの若狭井
で有名な白石神社があり、熊川にも白石神社があるので、それを分祠したのだろうか。

ハウチワカエデの紅葉(キャンプ場への登りにて)

 道はその白石神社の前からつづらで登っていく。周囲はしっとりと秋が深まっていくと
いう風情だ。ウリハダカエデ、ハウチワカエデ、ミズナラ、トチノキ、ホウノキにコシア
ブラ。紅葉前線は中腹以下に降りてきたようで、濃淡織り交ぜた赤や黄が、丁度、射しか
けてきた朝日に映えて美しい。やがて尾根筋に出た道は広い。昔、キャンプ場までのハイ
キングコースとして整備された道なのであろう。所々に朽ちた丸太と金属杭が残る。そし
てやや急な階段道を登りきれば、台地に出て、ヌタ場のある小さなコルを過ぎると、ふい
にバンガローのような建物が現れる。キャンプ場の敷地内に入ったようだ。建物を覗くと、
マットレスなどが放置されている。白熱電球には昔懐かしいガラスの笠。もう使われなく
なって余程久しいのだろう、辺りは荒れ放題。季節遅れの白い花をつけたマツカゼソウが
揺らぐ中を歩いて行くと、その先はかなり広い広場である。今は鹿の運動場に成り果てた
のか、鹿の糞が夥しい。管理事務所と思しき建物には、これも古いテレビやガスコンロ、
灰皿、記念品売りのガラスケース。本棚には髪型から推し量るに十数年前のものらしい雑
誌「JJ」。

 明神谷・ます池への分岐を過ぎて、キャンプサイト横の車道を登っていく。流石に景色
は良く、東に三十三間山、三重嶽、湖北武奈ヶ嶽の山並み。西に目指す駒ヶ岳のゆったり
した山容が眺められる。

キャンプ場から駒ヶ岳の優美な山容

 一旦、少し下って林道を進む。程なくカラマツの林を左に見る。勤めを果たした薄黄色
の細い葉は、後は散るのみと今か今かと冬の風を待っているように見える。

 『みどりの少年隊』云々。上中中学校の学校林の案内がある。中学校の学校林とはなか
なか珍しい。その先は桜並木で、季節には静かに花見が出来そうだ。(笑)

 野鳥観察舎らしい建物とトイレを過ぎ、林道は更にくねる。分岐を左にとった先に駒ヶ
岳の登山口の標識があった。ブナ林の中の広い斜面である。下草がなくどこでも歩ける。
テープがないのが不思議であったが、敷き詰められた落ち葉の下に丸太階段跡が見え隠れ
していてこれを辿ればよい。たおやかなカール状の谷を横切る辺りは踏み跡が薄くなるが、
目を凝らせば谷の向こう側に登山道の標識を見つけることができる。ただ、広い尾根なの
で積雪時やガスが出た時は要注意であろう。

落ち葉の絨毯が敷き詰められた駒ヶ岳東尾根

 Ca740mピークで右(北西)に折れる。この辺りまで上がってくると、流石に木々は
葉を落とし、すでに初冬の雰囲気である。Ca750mピークで明神谷の分岐を見送って、
道標通り尾根を北に辿る。もうこの辺りは江若国境の尾根。木々にそれを示す柿色をした
境界見出し標の金属プレートが取り付けられてあるが、木肌に喰い込んで痛々しいのもあ
る。木地山峠の道標プレートを過ぎれば、白い岩がゴロゴロ転がる中に、石を積んで小高
くした三等三角点と小浜山の会が立てた山名板が見つかる。780.1mの駒ヶ岳山頂で
ある。東側が開けており、上中町の街並みの向こうにはキャンプ場から眺められた三十三
間山、三重嶽、湖北武奈嶽などの全容が更にはっきり望める。視界が良ければ白山も望め
るに違いない。手前には先ほど歩いてきた稜線やキャンプ場の建物が見える。

ブナと岩がゴロゴロの駒ヶ岳山頂

 昼の準備をしていると大阪から来たという男性3人組。そしてしばらくしてご夫婦1組
がやってきた。その後、江若尾根を歩き始めた時、単独姉さんに会ったが、今日、会った
のはその3組6名のみで、皆さん朽木側から登ってきたらしい。

 さて、午後の部こそ本日のハイライト。江若国境尾根をミニ縦走だ。明神谷方面分岐の
Ca750mピークを南へ直進するが、意外や意外。広い道。両側は植栽したらしいモミに
似た低木。足元に目を凝らすと丸木階段の痕跡がある。キャンプ場が華やかなりし時に、
整備したらしい。そのおかげで頗る歩きいい道だ。その上にブナ、コナラ、ハウチワカエ
デなどの落ち葉が重なり、歩く度にカサコソと乾いた音を立てる。素晴らしいプロムナー
ド。ブナの実がいっぱい落ちている。ここも今年は豊作だったらしい。

江若尾根のすっかり葉を落としたブナ林

 江若尾根は682mコルを過ぎると、やや西に振った後、次第に東寄りになる。その辺
り、567m標高点のある尾根の起点であるCa690mピークの手前には池がある。さし
渡し30m位はあるであろうか。落ち葉が散り敷いた中に波紋も見せず、不思議な雰囲気
を醸し出している。
池。周囲は葉が落ち明るいものの
少し不思議な雰囲気の場所でした

 Ca690mピークで小憩を摂った後、更に東へ辿る。所々にはデーンと太いコナラやミ
ズナラ、ブナ。枝にはヤドリギ。自然林はやはりいいなぁ。時に踏み跡は薄くなるが、虎
テープや、白いナイロン紐が目印になる。

 杉の植林の中を、その白いナイロン紐を追ってやんわりと小高い744m標高点ピーク
にやってきた。ここは木地山方面に下りる屈曲点のはず。すると中央の杉の木に、『←椋
川→池原山』のマジック書きされたテープがある。ところで、たぬきさんのHPによれば、
池から15分位で明神谷方向を示す、左(北)へ折れる標識があるとのこと。途中で休憩
を摂ったものの、ここまでほぼ30分を要している。既にその標識があっても良いはず。
「そも椋川とは?」すると、もぐさんが熊川へ来る途中に『椋川』の標識があったという。
そんな所へ降りてしまうと車回収がえらいことだ。(^^; しかしながら、もう少し先に降
り口があるかも?というわけで、椋川方面に向かって江若尾根をもう少し進むことにする。
その方が明神谷の林道に近くなるからであるが、シダに覆われた踏み跡は明瞭だが細くな
り、どうも降り口らしいものがなさそうだ。744mピークから200m位東進した辺り
で、一旦引き返すことにした。やはり、さっきもぐさんが見つけた左に下っていく道なの
かもしれない。たぬきさんのHP画像では、降り口は植林の中だというもぐさんの観察や、
池から15分の距離であること等から推理すれば、それしかなさそうである。時間もある
ことだし、最悪はピストンで戻ればいいということで、兎も角、しばらくその道を辿って
みた。

 植林の作業道のようだ。北側の斜面なのでシダが茂り湿った道は、近頃、あまり歩かれ
た形跡がない。そこへギョッと目に飛び込んできたのは雌鹿の屍骸。あんまり気持ちのい
いものではない。そこから道は左に折れる。HPにあるようにジグザグ道だ。これに意を
強くして更に降りて行く。10分ほど下って、丸く緩やかにカーブした谷の底に出る。G
PSで場所確認。それによれば東に100m程度進めば地形図の実線の林道の終端に出る
はず。右に折れて丈の低いシダの間を書き分けて進むと前方に白い看板。
「あれや!」
その先は草地の広場になっていて、GPSの予告通り林道の終端に出たのだよいうことが
分かる。流石、GPSの威力。 (^o^)/ 白い看板は『駒ヶ岳へ1.5時間』とペンキで
書かれた標識であった。

林道終端へ出てきた。杉の木の根元に標識が見える

 ホッと一息。どうも分岐の道標が消失していたらしい。そのおかげで少々アドベンチャ
ーしてしまった。(^^; が、それにしても駒ヶ岳の山頂近くに『明神谷』のオフィシャル
標識があるのなら、実際の分岐にもオフィシャル標識をきっちり立てるべきであろう。

 後は少々長い林道歩きが待っている。その前にCa650m峰を巻く林道との分岐付近で、
エネルギー補給の小休止。コンビニの小豆餡団子。これ、結構いける。(笑)

 杉林を抜ける。所々には蕾をつけたミツマタ。サワグルミの実も転がる。地面は鹿の糞
だらけだ。ここまで、鹿の頭蓋骨を二つも見つけたし、よほど生息密度が濃いらしい。林
道は方向を西から北に変え、更に西へと進むに従ってやや広さを増し、やがて足下からの
沢音が大きくなってきたのは明神谷の源流だろう。駒ヶ岳らしい傘を伏せたような姿や錦
糸に彩られたような山肌を眺めたりするうちに、沢はすぐそことなり、それを暗渠で越え
て大きく右にカーブすると、最近、整備された石積みを見るようになる。左奥にコンクリ
ートの建物跡があったが、何があったのだろうか?
文字通りの錦繍の明神谷

 テクテク1時間も歩くと、廃屋らしいものが見えてくる。コンクリートのプールもどき
の建設物があって、養鱒場だったことがわかる。キャンプ場にあったマス釣り場や明神谷
の標識に従うとこの辺りに出てくるらしい。キャンプ場といい、マス釣り場といい、人に
使われなくなった施設をなんとなく物悲しく切なく思うのは小生だけだろうか。

 ここを過ぎると明神谷も河原を形作るようになり、やや穏やかな姿を見せるようになる。
もう少しだろうと思うものの、それがなかなか。(^^; 幾度かカーブを曲がって上に新し
く作られた林道が出てきてもう少しだと実感。そして左に大きくカーブすると、ようやく
大きな岩の上に鎮座する白石神社の祠が見えてきた。いやー、長かった〜ぁ。

 傾いた日に空気が少し冷えてきたみたいだ。広場に相変わらず他の車はない。今日ここ
から登ったのは我々だけだったらしい。本当に静かな山である。川端の柿の木に実がたわ
わ。一つ齧ったらやっぱり渋柿でした。(笑)

 帰りはダム工事の規制に遭う。30分間に5分通行可。待つ間にガードマンの兄さんと
四方山話。なんでも用水確保の為のダムは本体工事がまだ手付かずで、今は取付道路の工
事が中心らしい。年度ごとの予算が少なく、何時完成するか定かでないとのこと。中止さ
れるかもとも言っていたけれど、中止するなら今のうちだけれどねぇ。

熊川宿にて。理髪店も昔の町屋の風情

 予定していた通り、鯖街道の熊川宿に寄る。小浜藩の関所もあったという要衝。大火が
十数度もあって、防火用に天増川から引いたせせらぎが街中を流れ、しっとりとした雰囲
気である。少し散策をして、最寄の商店で草餅を買う。

 駒ヶ岳は予想を遥かに超えるいい山であった。秋山を堪能して帰る車窓から見る小春日
和の江若尾根は、まだ残る山裾の錦繍を西日に輝かせていました。


【タイムチャート】
6:00桃山台駅西ロータリー(集合地)
8:10〜8:20白石神社(駐車地)
9:08〜9:15Ca480mの広場
9:23〜9:26キャンプ場
10:10駒ヶ岳登山口(Ca550m)
10:37〜10:42駒ヶ岳南東尾根
10:48Ca750mピーク(明神谷分岐)
10:55〜11:45駒ヶ岳(780.1m 三等三角点)
11:53Ca750mピーク(明神谷分岐)
12:07682m標高点のコル
12:30
12:36〜12:47Ca690mピーク(567m標高点北東)
13:02〜13:15744m標高点ピーク付近
13:20744m標高点ピーク西200m付近
13:33林道終点
13:47〜13:53林道分岐
15:15白石神社(駐車地)


駒ヶ岳のデータ
【所在地】福井県小浜市、遠敷郡若狭町、滋賀県高島市朽木
【標高】780.1m(三等三角点)
【備考】 百里ヶ岳から三十三間山に到る江若国境山塊のほぼ中間
に位置する峰です。全山ほぼ雑木に覆われ、特に江若国
境尾根はブナを中心とする林で、春の若緑、秋の黄葉は
見事です。登山コースは福井県側の河内、滋賀県側の木
地山からがメインで、静かな山歩きが楽しめます。尚、
アプローチが不便な為、マイカーが無難です。
【参考】
2.5万図『熊川』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system