貴公子花紀行〜稲村ヶ岳の可憐な乙女

平成17年 5月22日(日)
【天候】雨降ったりやんだり
【同行】鴨ちゃん
可憐な乙女、オオミネコザクラ


 「あっ!咲いてる。」鴨ちゃんの声。その声の方角を見上げると、小さなピンク色。オ
オミネコザクラだ。開花に間に合ったぁ!。しかし、如何せん、かなり高い所。小柄なの
で接写じゃないとカメラには写りそうもない。と、さらに少し進むとやや低めの場所に幾
株か咲いているのを発見。何とかカメラに収める。でも自宅へ帰ってみるとやっぱりピン
ボケ。臍を噛む所であったのだが、更に歩いた登山道の目立たぬ脇の岩場に群れ咲いてい
るのを、またまた鴨ちゃんが発見。無事に接写で収めることが出来たのである。結局、見
つけた場所は3箇所。満足、満足。

 低山徘徊派のメンバーの二輪草さんや、なかいさん達から、稲村ヶ岳にオオミネコザク
ラが咲いているとの情報。稲村ヶ岳には、この時期、2度ほど訪れているが、迂闊にも全
く知らなかった。図鑑を見るとオオミネコザクラはイワザクラの別名でサクラソウ科の植
物。ピンク色の小柄な乙女である。見れば見るほどお目にかかりたくなってくる。(笑)

 6時半に出発。同行予定の鴨ちゃんとは洞川温泉センターの駐車場で合流の予定。とこ
ろが水越トンネルを抜けた頃から、数台前を赤い車が走っていく。下市からまだ南下する
赤い車。もう間違いない。こんなこともあるのか、本当に測ったようなタイミングである。
おかげで予定より30分も早く集合だ。雨模様にもかかわらず、駐車場には他にもチラホ
ラ登山客。物好きは我々だけではない様で。(笑)

 下市辺りで降り始めた雨も上がった。天候は依然として芳しくないが、これ以上悪くは
なるまいと判断、予定通り決行することにして、早速、登山口のある母公堂へ移動する。

 考えてみれば稲村ヶ岳へは5年ぶり。登山口に当時は「山頂付近には雪があります。通
行に注意」という風な警察の注意書きがあったように思うが、今日は「通行可能」と書か
れた看板がある。五代松新道付近が整備中らしい。登り始めてすぐ、先達に率いられた大
阪の講の人々が80人程下ってくるのに遭遇。しばし、道端に待避する羽目に。(笑)

 ルイヨウボタンの黄緑の花やエンレイソウはもう終わりで、マムシ草やフタバアオイな
どが目立つ杉林。五代松新道分岐を過ぎ、登山道は傾斜は緩いが展望も無いひたすらの登
り勾配。ボディブローの様に徐々に足に効いてくる感じ。それでも左手が開けて洞川の家
並みが眼下はるかに眺められる所に来ると、ほっと一息つく。

 法力峠。稲村ヶ岳へはまだ3.7q。一休み。水分補給と腹が減ったので菓子パンを一
齧り。ここからは杉、桧の植林もほぼ尽きて、明るい雑木林の中。廃屋となった古いトイ
レ小屋を過ぎるとヤマツツジやら、ムシカリ、スミレの類いが花を咲かせ、賑やかになる。
この頃だったか、パラパラと雨が降り出してきたが、木のトンネルのお蔭でほとんど濡れ
ず、登山道もまだまだ乾いたままだ。

 稲村ヶ岳は植生分布がよく分かる山である。標高が1400mを越えるくらいになると、
トウヒ、モミの類が増え、シャクナゲの群落も見かけるようになる。そのシャクナゲも満
開のものもあり、まだ蕾もありで千差万別。そうして、何より美しいのは新緑に染まるイ
タヤメイゲツの林で、雨に濡れて一層鮮やかで、こちらも緑に染まりそうな按配だ。

 降り出した雨は、一時やや強まったものの、それ以上は激しくもならず、いつの間にか
明るくなって小止みになる。観音峰山や弥山などの山並みが南側に顔を出しているので大
降りの懸念はないようだ。大日山の登りの時に止んでくれればいいのだが...。

落ちた桟道。迂回路あり

 落ちた鉄製の桟道を抜けなどして、水子地蔵の辻を曲がると、下草がヒメザサとなる。
赤紫の鮮やかなミツバツツジを見て、左に曲がって更に右へカーブした所が山上辻。ソー
ラートイレと稲村小屋がある。11時25分。また雨が落ちてきたけれども、立ちながら
の食事もなにだし、山頂の展望台下で雨宿りしながら食べようかということで、とりあえ
ず前進することにした。
稲村小屋。左はソーラートイレ

 イタヤメイゲツにナナカマド、モミ、トウヒ。まことに日本庭園の趣き。足元ではヒメ
イチゲ、コミヤマカタバミが杉苔の間に白いアクセントを点々と刻む。急勾配を登ってシ
ャクナゲの茂みの間に付けられた道を進む。GW頃でも雪が残る大日山の岸壁下が一番の
難所なのだが、流石にもう雪は無い。ただ、その先に長さ1m位、申し訳程度に雪が残っ
ているだけである。安心したが、難所は別の所。登山道が小規模ではあるが崩壊している
箇所がある。乾いていればどうということも無いが、雨で滑るし、転んで泥んこもいやだ
し、傘はささねばならないしで、結構、神経を使う。

白いガスに包まれた大日山への道

 25分程要して大日山のキレット。ラッキーなことに雨が上がった。それっ!今も内に
というわけで登り始める。少し登った先の左手にテラスがある。何故か拙い木製の扉があ
る。遥拝する場所を示しているのだろうか。奥駈け道なら間違いなく「靡き」になってい
る場所だと思う。それほどの絶景が見られる。両側から迫る岩壁には点々とミツバツツジ。
その岩の間から緑が映える山々。その山々にかかるガス。山水画の世界さながらの光景が
展開する。冷たい風が下から吹き上げてくる。足下を覗いて、ゾーッとした直後だったか
ら、背筋がますます寒くなったのはいうまでもない。

大日山のキレットから。
ミツバツツジが綺麗

 早くも腐食の始まった鉄梯子を登る。イワカガミの蕾が目の前にある。難所を巻きなが
ら登れば狭い大日山の頂。大日如来の祠が2つ並ぶ。北方向は比較的雲が高く、大天井ヶ
岳から四寸岩山に連なる山並みが望める。北西に金剛、葛城らしき山並みまで見える。そ
れにしても山また山だ。
大日山のテラスからミオス尾、カンスケ尾。
小さな白い雲が流れる

 キレットから稲村ヶ岳の山頂までは15分ばかり。何はさておき、展望台の下に潜りこ
んで、食事にした。

 展望台へ上がってみよう。しかし、周囲はガスで殆ど見えず。そして目まぐるしく状況
は変化する。薄日が射していたと思ったら、いつの間にか今迄の白いガスとは違う灰色の
ガスが弥山の方から湧きだした。見る間に川迫川の谷を渡って周囲を包む。ザーッと来る
かと思えば正体は霧。強い風に運ばれた水滴の粒が顔に当たって少し痛いくらい。急に気
温が下がったのか寒い。後で寄った稲村小屋の寒暖計は13℃だったから、10℃は割っ
ていたに違いない。

 後片付けを行って山頂から引き返していると、南へ向けてテープがある。モジキ谷、バ
リゴヤの頭へのルートらしい。ふと見上げた頭上に、以前には無かったように思うが、バ
リゴヤの頭と書かれた木のプレートが見つかった。少し踏み込んでたどってみると、踏み
跡はシャクナゲのブッシュを潜って一旦大きく下って登り返すルートで、あまり歩きよい
ルートではない。地形図を見ても三つばかりピークを越えた先で、片道2時間以上はかか
りそうで、初心者は安易に踏み込まない方がよさそうだ。

 今度は南東へ降りて行く尾根に少し踏み込んでみる。しばらく明瞭な踏み跡があって、
間違える人も多いのか、踏み込まぬようロープが張ってある。作業小屋でもあったのか、
錆びたトタンや柱の残骸があり、その先は明瞭な尾根でコミヤマカタバミが群れ咲く、針
葉樹と広葉樹の清澄な混生林でなかなかいい所。バリエーションルートの一つなのか、や
っぱり歩く人があるらしく、赤い毛糸の目印が所々にある。エアリアマップで見ると、「
犬ガエリ」から「犬取リ尾」と呼ぶ尾根のようで、急傾斜を下って神童子谷に出、林道を
使って行者還林道の大川口に至るようである。まぁ、皆さん色んな所を歩くものだ。

 「ビールでも飲んで行こうか」とどちらとも無く。「営業中」と札の架かる稲村小屋に
寄って行く。入り口近くの床机に座ってビールを注文。レギュラー缶500円也。ちと高
い気もするが、ちょうど目の前の床には背負子が置かれ、ボッカした荷物が積まれている。
プロパンのボンベに缶ビール1ケース、カップ麺等々。優に30kgはあるのではないだろ
うか。それを思えば、この値段も納得だぁ。ヤマケイのガイド本でお馴染みのご主人が一
人。他に人は居なかったかと聞く。僕等が最後だと答えると、トイレを閉めに行った。し
てみると、毎日施錠しているのだろうか?コザクラとともに目当てにしていたコケモモの
ことを確かめると、ここには無いとのことであった。

 雨でもあり、時間的にもやや遅いので、大廻りになるレンゲ辻には向かわず往路を戻る。
法力峠までは雑木が主で、花も多く目の慰めになる。杉林の谷底にはヤマシャクヤクを見
ることも出来て気もまぎれるが、峠を過ぎると針葉樹の中の単調な下りは長くいい加減飽
きてくる。ようやく五代松新道との分岐に出ればホッとする。母公堂まではまもなくで、
往路では気付かなかったツクバネウツギが登山口で咲いていた。

 汗を落としに風呂に入って行こうとも思ったが、そうだ。今日は家人がおらず、下の娘
の夕食の支度をしなければならないのだった。鴨ちゃんも帰るというので、温泉センター
の駐車場で解散。川合の豆腐屋さんで晩酌用の豆腐を買って戻る。今日の花紀行も無事終
了。想像通り、なかなかの美形であったオオミネコザクラ。同行の鴨ちゃん、有難うござ
いました。御所付近でほの見えた青空も、豊中に帰ればまた結構な降りでした。

ウスギヨウラク

ワチガイソウ

満開のツクシシャクナゲ

オオミネコザクラ

ヒメイチゲ



【タイムチャート】
6:30自宅発
8:30〜8:40洞川温泉センター前駐車場
8:45〜8:55母公堂横(駐車地)
8:57稲村ヶ岳母公堂登山口
9:10五代松新道分岐
9:55〜10:05法力峠
11:25〜11:26稲村小屋
11:50大日山取付き
12:10〜12:15大日山(1689m)
12:26大日山取付き
12:42〜13:20稲村ヶ岳(1725.9m 三等三角点)
13:20〜13:50御殿屋敷付近うろうろ
14:20〜14:35稲村小屋
15:30法力峠
16:00五代松新道分岐
16:09稲村ヶ岳母公堂登山口


稲村ヶ岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡天川村
【標高】1,725.9m
【備考】 大峰山寺のある山上ヶ岳から西に延びる山塊に位置し、
大峰山脈主稜と神童子谷で隔てられています。
戦前はここも女人禁制でしたが、戦後開放され、女人大
峰とも呼ばれます。
遠くから眺めると、稲藁を束ねた姿に見えることから名
づけられたようで古くは雨乞いの山でもあったようです
が、神奈備山とも考えられます。
近鉄下市口から洞川温泉行の奈良交通バスがあります。
■近畿百名山■関西百名山
大日山のデータ
【所在地】奈良県吉野郡天川村
【標高】1,698m
【備考】 本来の稲村ヶ岳の主峰はこの大日山ですが、現在はキレ
ットで隔てられた、三角点のある南峰の方が主峰の感が
あります。
稲束を立てたような、大台ヶ原の大蛇グラに似た荒々し
い岩峰ですが、シャクナゲ、オオヤマレンゲなどの亜高
山植物が豊富で初夏を彩ります。片側が絶壁の部分もあ
り、三点確保で特に下りに注意です。
【参考】エアリアマップ『大峰山脈』


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