ゲップが出るほど大普賢岳
 
平成17年 8月27日(土)
【天候】晴れ
【同行】別掲
鋸の様に並ぶ弥勒岳、大普賢岳、小普賢岳、
日本岳(七曜岳北の展望岩から)


 予報によれば、この土日は不順だった今年の夏の中で最高の日和だとか。その土曜に催
される大峰の名峰大普賢岳を周回するオフ。長丁場だから集合は千里中央に6時と早い。
それで当日朝、起きられるかどうかの不安もあって二の足を踏んでいたけれど、酒に酔っ
た頭で、ふと閃いたのは、そうや!直接現地に行けば自宅発6時でも間に合うのでは?な
らば20分位遅くまで寝てられるじゃないかとの考え。そうとなると俄然、行く気モード
に。準備をしておいて、目覚ましを5時10分過ぎにセットして寝たけれど、何のことは
ない5時にはちゃんと目が覚めたのだった。(^^;

 途中、大宇陀のコンビニに寄ったりしながら、いつものR169。新伯母谷トンネルを
抜けてすぐの和佐又への村道を登っていると、「おや?」いつの間にか見慣れた車が前後
を走っているのであった。当然、待つこともなく参加者全員8名集合。今日新たに参加す
るのはレオさん。準備しながらも挨拶を交わす面々である。

 さて、今日は大普賢岳を和佐又ロッジ→笙ノ窟→小普賢岳→大普賢岳→国見岳→七曜岳
→無双洞→底無井戸→和佐又ロッジと周回する、歩行時間が7時間を越えるなかなかハー
ドなコース。日頃の軟弱さ加減に「うーっ、大丈夫かいな」との不安も無いではないが、
去年初めて訪れた時と違って展望も期待できそうだ。「まあ、頑張りまっしょい!」(^^;;

 早くも穂が出たススキがそよぐ丘の間を抜ける。ちらほら張られたテントを右に、砂利
の敷かれた林道を登れば、石碑の並ぶ横の雑木林から登山道が始まる。ヒメシャラ、モミ、
カエデ、ブナなど、何時来ても清々しい森である。ゆっくり登って和佐又のコル。数m先
に無双洞方面との分岐がある。順調に行けば夕方頃、戻ってくることになる場所である。
その分岐を右に。根が浮き出た道をキツツキの開けた無数の穴がある枯れ木を眺めながら
進む。涼しい。熊の爪痕もあって背筋も涼しいのだ。(笑)
「耐暑登山とはえらい違いや」
当たり前である。登山口でも標高は1000mを越えているのだから。(笑) しかもこの
辺りはまだまだ前段で登りも厳しくはなく散策気分で歩ける。しかし、やがて山腹をトラ
バースしだすと岩混じりの道となって、「指弾ノ窟」、「朝日窟」と修行の場が現れる。
その中の最大のものが「笙ノ窟」。高さ数十mはあるオーバーハングの岩の先から落ちる
水滴が、朝日を浴びてきらきら輝く様はなんともいえない。窟の奥に溜められた清水を一
口頂く。去年と同じ言葉が思わず口をついて出る。「美味い!」
そしてこれも去年、岩場に咲いていたコオニユリ。今年はもう散った後であった。

 岩本新道の分岐がある、鷲の姿に似た岩の下の「鷲ノ窟」を過ぎると、いよいよ梯子や
鎖が連続する大普賢岳への登りが始まる。

 日本岳のコルで左に大きく折れて鉄梯子を登っていく。岩にはコイワカガミがへばりつ
き、丈の低いヤマジノホトトギスが見られる。ミカエリソウが蕾を出し始めている。石ノ
鼻の展望岩の上で一休みし、更に登った小普賢岳の肩から一旦下って、大普賢岳の懐へ取
り付いた鉄製桟道からは、キレットの向こうに先ほど登った小普賢岳の肩の遭難慰霊のプ
レートがよく見える。よくもあんな所をと思えるが、よく整備されていて、気をつけさえ
すれば危険なことはない。

 岩混じりの厳しい登りを小一時間。奥駈道と出合って大きく折り返して10分。最後の
登りを喘ぐと大普賢岳の山頂である。去年は丸っきり乳色のガスに包まれて展望皆無だっ
たのが、今日は惜しげもなく、周囲の山々が全貌を現してくれる。稲村ヶ岳、大日山のオ
ベリスク。バリゴヤの頭は鋸状を呈した山だとよく分かる。そして山上ヶ岳に竜ヶ岳。南
に行者還岳。一際大きい弥山、八経ヶ岳には雲がかかる。その向こう遠くには仏性ヶ岳、
釈迦ヶ岳と奥駈道の山々が居並ぶ。東に高原状の大台ヶ原。見飽きぬ眺めである。

大普賢岳から稲村ヶ岳、大日山のオベリスク
大普賢岳から雲がかかる弥山。手前に
行者還岳、一番奥は釈迦ヶ岳

 一息ついてそんな大展望を思い思いに楽しんでいる頃だった。レオさんからなんとアイ
スコーヒーの差し入れ。氷、シロップ付き。こんな山の上で、下界と変わらぬコーヒーが
飲めるとは思わなかった。有難く頂く。

 15分ほど憩ったところで、出発。まだまだ先は長いのである。急斜面を下ると、うっ
て変わって、そこはミヤコザサの茂る柔らかい隆起の尾根。風を避ける為か、奥駈道は概
して稜線の西側の少し下を通っている。そしてその西側が大きく開けた所が「水太覗」。
去年はここで冷たい風をよけながら、ガスが晴れることを祈りつつ、昼食を摂ったのだっ
た。が、今日は上天気。真正面は大台のドライブウェイ。左手に大普賢岳が覗く。それに
しても山深い。水太林道が垣間見える以外は緑に覆われた中だ。

水太覗から水太谷。この谷筋に無双洞がある

 シャクナゲの林を縫っていつのまにか弥勒岳を過ぎる。相変わらず何処が弥勒岳か不明
のままである。(^^ゝ 道はアップダウンのあるものの下り基調。南に方向を変えて、シロ
ヤシオ、ナナカマド、トウヒ、モミ、ブナの茂る中を進む。一本、トリカブトが淡い紫の
花を揺らしていたのが印象的である。

 地形図にある国見岳は西を巻いていて、頂上は踏まない。「屏風横駈」と呼ぶのはその
為だろうか。やがて、一気に左に折れるポイントがあり、木の根が浮き出した険しい道に
出る。足もとに注意しながら行けば、岩のビューポイント。大普賢岳、小普賢岳、日本岳
と続く山並みはまるで鋸の歯である。不思議なのはその先の和佐又山のみが円錐状の丸い
感じであることだ。

 ビューポイントから少し下った所は小さな広場になっている。水場はないが、テン場に
持って来いの場所に見える。南北が少し開けていて、南に行者還岳、北に大普賢岳がちら
りと顔を出している。その南側に生える木の根元に碑伝が沢山置かれてある。ということ
はここが靡の一つ「稚児泊」らしい。思い思いに座り込んで休息をとる。

 「稚児泊」から少し登り返した尾根の小さなコブに国見岳のプレートが架かる。地形図
の国見岳とは位置が違っているが、まあ、これはこれで難しい事はいわずにおこう。(^^;

 この辺りはかなり険しく、足を踏み外せば怪我をする箇所が随所にある。「薩摩転び」
とか「薩摩転げ」というのはこの辺りを指すのであろう。ただ、痩せ尾根ではないので、
高度感で足がすくむということは無く、少々、高度恐怖症気味の小生には助かる。(^^; 
それでも足を踏み外せば大変だ。木橋、鎖を伝って慎重に進んでいく。すると、前方から
初老の単独登山者。道を間違えて引き返してきたそうだ。足元がやや覚束ない様子。「危
ない、危ない、気をつけてください。」

奥駈道から七曜岳

 ミニ二重山稜のような箇所を通過。これが「七ツ池」?とはいうものの、水は一滴もな
い。

 国見岳の下り付近で見えた七曜岳も、ここまで来ると余程近づいてくる。そして岩の重
なりを一気に登って七曜岳に着く。狭い岩峰である。しかし、大普賢岳以上の絶景が待っ
ていた。岩の先端に立てば全くさえぎるものなしの360度の大パノラマ。大日山は隠れ
るものの稲村ヶ岳からバリゴヤの頭。大普賢岳、行者還岳、八経ヶ岳、弥山、鉄山、釈迦
ヶ岳など大峰の全貌が見渡せるのだ。それぞれの山を仏の化身と見れば、こんな荘厳な所
はなく、靡の一つに数えられるのもむべなるかな。でもあんまり見とれていると足元が危
ない。
七曜岳の狭い頂で暫し憩うまきたさん

 その七曜岳から南へ5分。道標が立ち、左へ急降下する尾根が和佐又ロッジへの道であ
る。ところが、これが半端な下りではなかった。ガイドに距離はそれ程でもないのに所要
時間がやたら要している理由が分かった次第。木の梯子、岩混じりのガレありで、落石に
も注意が要る。やや傾斜が落ち着いた辺りで小憩。だが現在位置をGPSで調べれば、帰
路の1/4もこなしていないのだった。一行からは「えーっ?」とため息も出る。

七曜岳から無双洞への下り
半端じゃありません

 ここまで、道標は天理大学のワンゲルの黄色い金属標識がたまにあるのみであるが、ピ
ンクの布切れが要所に巻いてあって目印になる。鞍部にある小さな池を右に、雑木林が植
林に変わると、道は尾根から外れて一気に斜面を水太谷へ向かってジグザグに降りて行く。
そして、よほど降りた頃、遥か下から水音がかすかに聞こえ始め、それは徐々に大きさを
増してくる。やや踏み跡が薄いが下草も無いので何処でも降りていける感じ。右手に白く
ガレた沢が植林を通して見えてくる。しかし、下っても下っても、水音は高くなってくる
ものの谷へ降り立つことが出来ない。道も谷に沿って下流へ流されていくからだろうか。
それでもさっきの白いガレ沢との合流点付近で左に切れ込み、大きな岩が転がる谷底に降
り立つ。轟々と音を立てていたのは、下流のなめ滝(水簾滝)だった。

 何なんだ、これは?丸い穴から滾々と清水が流れ出している。湧き出すというより噴出
している。レオさんが水の噴出する穴の上の、木梯子の架かった洞窟に入り込んで探索し
たところによれば、池の様な場所から下の流れ込んでいる様子だという。無双洞。発見さ
れたのは昭和8年。大峰の斜面に降った雨が、石灰岩の地質的に脆い部分を侵食して湧き
出したものだろう。下流は「水簾の滝」となって一枚岩を滑るように下っていき、天ヶ瀬
川、北山川そして熊野川となって太平洋に注ぐのだ。

 顔を洗った後、何度も何度も手ですくって飲み干す。都合10度は飲んだだろうか。2
Lのペットボトルに入れて持って帰ろうと、容器を沈めたが、冷たくて10秒と沈めてい
られないほどであった。
無双洞下の穴から溢れ出る清水
冷たい!旨い!

 沢を横切って、水太林道への道を分けて、和佐又ロッジへの道は、ほぼ水平に進んでい
く。しかしそれも暫く。ガラガラと岩の転がる枯れ沢を横切って直ぐ、厳しい登りが待ち
受ける。さっき補給した水分を瞬く間に汗にして吐き出す感じ。大岩が出てきて右にトラ
バースした後、今度は鎖やアングルがある岩場登りが待ち受けている。だらだら登るより、
こうして一気に登った方が「却ってええわ」と痩せ我慢。その登った先が「底無し井戸」
であった。
底無井戸への岩登り。落石注意

 大きな岩盤に直径1m位の竪穴。ポッカリと暗黒の口を垂直に開けている。深さは30
m以上とか。底には古い鹿の骨やら、ひょっとして人骨も転がっていたりして...。な
どと考えたら、背筋がゾックリ。額の汗は暑さだけではないようで...。(^^;

 地形図を見ても分かるように、ここまでくればほぼ等高線に沿うような道となって一段
落。だが、激下りをこなし、一しきり膝が笑った後の急登は応えたなぁ。(苦笑)

 ほぼ水平道になったといっても、まだまだ長い。ようやく笙ノ窟から下ってくる岩本新
道と合流した後も、和佐又山の姿を視界に捕らえるまでにはなかなか。足も重くなって、
皆も無口になった頃、はるかに高かった左手に尾根筋が見え出し、それが徐々に近づいて
くる。それが今歩いている道と重なった所が和佐又のコルなのであった。

「フーッ!」
遅くとも5時見当と予測していたが、なんとか無事、4時半前に和佐又のロッジに帰着し
たのだった。ハードだった大普賢岳周回。げっぷが出るほど堪能した夏の終わりの大峰は、
帰宅後、風呂上りにビールを飲んだ途端にその疲れをあらわに。予想以上に水分を費消し
ていたのか、水分を摂っても摂っても喉が乾く。ガリガリ君にチューペット。麦茶。そし
て眠いにもかかわらず、足裏が火照ってなかなか寝付かれないのでありました。


■同行 きまぐれレオさん、呉春さん、二階堂さん、のりかさん、まきたさん、
    水谷さん、もぐもぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
6:00自宅発
8:30〜8:40和佐又山ロッジ駐車場(Ca1100m)
8:56和佐又のコル
9:37〜9:40笙ノ窟
9:52日本岳のコル
10:00〜10:05石ノ鼻
10:15小普賢岳の肩
10:45奥駈道出合
10:50〜11:12大普賢岳(1,779.9m 三等三角点)
11:25〜11:27水太覗
11:35〜12:02弥勒岳東の尾根(Ca1670m)(昼食)
12:30国見岳(1656m)の肩
12:45〜12:55稚児泊の宿跡
13:05国見岳(Ca1580m)
13:23〜13:28七曜岳(1584m)
13:32奥駈道分岐
13:55〜13:58小休止(七曜岳東尾根)
14:35〜15:02無双洞
15:42底無井戸
16:04岩本新道出合
16:26和佐又のコル
16:40和佐又山ロッジ駐車場



大普賢岳のデータ
【所在地】真夏に「おっ、寒っ!」〜大普賢岳』を参照下さい
【参考】
2.5万図『弥山』



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