錦秋の若丹尾根〜野田畑峠から杉尾峠へ
 
平成17年11月13日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲
歩行ルートはこちら
杉尾峠にて寛ぐ(なかいさん提供)


 今年の紅葉は何処ともあまり芳しくないという。家にある通天楓の盆栽も、例年ならば
11月下旬に真っ赤に色づくのであるが、今年は早、10月中頃から変色してハラハラと
散らす始末。ならば山奥の自然林は如何だろうと半年振りに芦生へ。ところが全ては杞憂。
若丹国境の山々は濃淡あい混ぜた紅葉、黄葉の衣に彩られ、色づきのタイミングも絶好。
小春日和にも恵まれて、しっとりとした芦生の秋を満喫できたのでした。

 6時40分、例の如く千里中央駅近くのコンビニに集合。更に7時50分、湖西道路真
野ICから程近いコンビニで京都組と合流し、安曇川沿いに北上して芦生に向かう。京都
組を待つ間にも、ハイカーらしい車が続々と走り過ぎて行ったから、今日の人手は半端じ
ゃなさそうだ。(^^;

 梅ノ木で針畑川沿いに入ると途端に深い川霧だ。色づいた渓谷の山肌に白いベールが纏
わりついて、なんとも幻想的な雰囲気である。おっと、よそ見をしていたら危ない、危な
い。この付近、片方は岩壁で片方は谷底なのだ。

 渓流魚センターを過ぎた頃、なんだか見覚えのある車が前を走る。手を振ると振り返す。
やはり兼ちゃんの車だった。期せずして集合した3台、一路、林道ゲートへとひた走る。

 「ゲート近くには無理かもね」と車内で話していたけれど、林道ゲート手前に近づくと
案の定、夥しい車。ネット情報が一般化したおかげだろう。10回近く芦生には来ている
がこんなに多いのは小生も初めてである。幸いトイレ手前50m付近の路肩に空きを見つ
けることができた。

 金曜から土曜にかけてかなりの雨量があったのだろうか。地面はぬかるんでいる。そん
なこともあろうかと、今日はゴム長靴で足を固めて歩くつもり。何と言っても芦生はゴム
長が一番なのだ。初対面の方もいることとて、林道ゲート付近で自己紹介。それが終われ
ば準備万端終了。さあ、オフの開始だ。(^o^)

 三国峠の登山口のブナもいい色に染まっていたし、これはいいかもと期待はいやがおう
にも高まってくる。そして林道ゲートを抜けてカーブを曲がると視界に広がってくる山々
の姿はこれぞ日本の秋。決して原色のような派手さはないが、その混ざり合った渋い色合
いが朝日に映えてなんとも絶妙。皆さんも次々とシャッターを切り始める。
「鳥羽口でこれじゃあ、日のある内に帰ってこれるんかい?」(笑)

朝日を浴びて文字通りの錦秋(地蔵峠への林道から)

 地蔵峠から枕谷の出合の沢を渡り、森閑とした中山神社周辺の杉林を過ぎると上谷出合。
右に折れて野田畑谷出合ヘ向かう。やや薄暗い杉林を抜けると、再び明るくなって野田畑
の湿原が現れる。その向こうの山肌も京友禅の柄の如き色合いである。木橋を渡って上谷
への道との分岐に着く。ここは今日のスタート地点でもありゴール地点でもある。後で知
ったことだが、この辺りには昔、木地師の集落があったという。次回はその跡を探してみ
よう。

 湿原の縁にはまだアケボノソウが咲き残っている。サワフタギの実は群青色の輝きがや
や薄れているが鈴なりだ。サワグルミの木の下を通って上流へと進む。すると、人の声と
共にちらちらと人影が見え隠れしている。ガイドに率いられた20人ほどの団体さんだ。
長治谷小屋にマイクロバスがあるという。一緒になるのはちとつらいなぁ。折りよくガイ
ドの説明が始まったのを幸い、先行させてもらうことにする。

 やはり少し水量も多いようだ。谷の中を蛇行する流れを幾度か渉る。こんな時、ゴム長
の威力は絶大。何せどこでも渡れるのだ。一度は誤って30cmも泥沼に踏み込んでしまっ
たが、事なきを得る。山靴ならえらいことになっていただろう。(^^;

 ブナの殻が一杯。実も沢山。(家に持ち帰ったのを見たらみんな虫食いでしたが)トチ
の実も鈴なりで今年は豊作、熊も喜んでいるだろう。美味そうな分厚いキノコはツキヨタ
ケ。猛毒だからこれは見るだけ。

 歩く先々で立ち止まっては色づいた木々を愉しみながら到着した野田畑峠には誰もいな
い。ヌタ場には珍しく水が溜まっている。皆が集まるまで小休止だ。

 このまま若丹尾根に乗ってもいいのだが、野田畑の谷はこれから先が入る人も少なく最
高なのである。で、もう少し沢沿いに歩くことにする。右に見える国境の尾根は京都側は
単なる防塁程度の高さしかない。その山肌にはオオイワカガミが紅葉しつつ、艶々しい輝
きを見せる。熊が冬眠しそうな空洞を持つトチノキ。ミズナラやホオノキの大木。分厚い
落ち葉を踏みしだきながら、適度に休憩を挟みゆっくりたどる。811mピーク横から2、
3百m遡って、そろそろ、皆さんが沢を横切るのに疲れてきた頃、再び尾根が低くなった
鞍部(これは去年、尾根から谷へ降りた地点でもあるのだが)、を目がけて尾根をよじ登
る。すっかり葉を落として入るけれど、若狭側も素晴らしい雑木林だ。

陽に輝くハウチワカエデとブナ
(シンコボへの若丹国境尾根にて)

 足の踏み場も無いイワカガミ、イワウチワ。見上げればハウチワカエデやウリハダカエ
デが紅葉を迎えている。右手には百里ヶ岳が指呼。山襞に囲まれた中に遠く見える集落は
名田庄村の永谷らしい。左手は野田畑谷の清々しい源頭。まことに素晴らしい尾根道であ
る。それはブナの倒木がある辺りから徐々に高度を上げていく。するとようやくシンコボ
手前の国境の屈曲点のあるピークが姿を現す。その頃だろう、ユズリハの茂みを抜けてい
ると、悲しげな動物の鳴き声が聞こえてきた。こちらの人声や熊鈴の音がしても逃げずに
同じ所から聞こえてくるようで、ネットにでも角を絡ませた鹿でもいるのだろうか。少し
気がかりではあった。

 屈曲点ピークには国界を示すらしい石標がある。そこからアシウスギのある尾根を北西
に200m程度進めば、見覚えのあるシンコボ(永谷山)の山頂の切り開きである。もっ
と見晴らしが悪いと思っていたのだが、葉が落ちた所為かそれほどでもない。梢越しに演
習林の山々、若狭方面の山々も望める。そして大きく標高を書いた標識が新たに括り付け
てある他は去年と変わらない。静かで何となく落ち着ける場所である。適当に好きな所に
座を占めてお昼。今日はカップ麺でなくて、生卵入り鍋焼きうどんと豪華版だ。美味い!

静かで明るいシンコボ(永谷山)山頂

 40分近く憩って後半の部、杉尾峠への未踏の若丹国境トレースへ向かう。シンコボの
東の屈曲点ピークでは、さっきの団体さんが昼食の真っ最中。その間を縫って、今度は南
の尾根を進む。存外、明瞭な踏み跡がある。Ca800m峰を下っている最中だったろうか、
向かいから中年10数人の団体が登ってくる。杉尾峠までの若丹尾根には地形図にも点線
路の表示が無いのだが、えらくメジャーになったものだ。これもネットの情報の影響だろ
うか。ちょっと声をかけてみる。
「どこから来られました?」
「大阪の方から...」
「あの、どこから登られました?」
「登山口から」
「どちらへ行くんですか?」
「さあ?」
何だか漫才の掛け合いみたいだけれど、少しおかしいとは思わないだろうか?自分の行き
先もどこなのかも一切知らないなんて。全てリーダーに任せっきり。これが中年の登山ブ
ームの実態だとしたら、何をか言わんやである。少なくとも、低徘派のメンバはこんな風
にはなりたくないものだ。少々、偉そうなことを言い過ぎた。閑話休題。

屈曲点ピーク南のCa810mピーク付近から
シンコボ。意外に端正だ

 一気に下って野田畑谷源頭の鞍部から目の前の斜面を登り返す。ここもフカフカの絨毯
道だ。概して尾根上にははっきりとした踏み跡があるのと対照的に、鞍部や平地は何処で
も歩ける為もあろう、厚く重なった落ち葉と相まって、踏み跡はごく薄いかほとんど無い
所もある。その最も難しい地点が、若丹国境が南から西へ方向を変える、812m標高点
の尾根の突端地点である。それは岩谷の源頭の鞍部から登った尾根で、立ち木に『第四迷
点』の標識がつけられている。「尾根直進×、右に折れる→」確かについつい直進してし
まう所で、明瞭な直進する踏み跡もある。杉尾峠から北上する場合は、木立の間から見る
シンコボを目印にすればいいがシンコボから南下する場合は要注意だ。

812m標高点尾根北端にある『第四迷点』
の道標。ここは右に降りていく

 本当にこれでいいのか?と思えるような滑りやすい枯葉と腐葉土の斜面を滑るように降
りていく。ここでGPSで現在位置を確認。その間にスナフキンさんが赤テープ発見。安
心、安心。

 この若丹尾根で最も素晴らしかったのはクツベ谷と尾根を隔てた西の谷の源頭。ブナと
ウリハダカエデやミズナラの落ち葉の広場。緩やかにカールした林床はゴミ一つ無い一面
の褐色と赤茶の分厚い絨毯である。おかげで「帰りたくな〜い」を連発する人も出る始末。
「置いて行くでぇ〜」

一面の枯葉の絨毯.クツベ谷の西にある谷の源頭。もう最高!

 最後のCa750m峰を越えれば杉尾峠のはずだったが、やや荒れていて、テープも見つ
からず、見れば左(南)の谷が藪もなく歩きやすそう。150mほど先に人が通り過ぎる
のが見えたのが運の尽き。いともた易く方向転換。もう少しの所で若丹国境から外れてし
まった。残念。(^^;

 人が歩いていたのは上谷のメジャー道。畦道ほどのはっきりした道にびっくり。ここま
でくると、流石に上谷もチョロチョロと流れる程度。これが由良川の最上流なのだ。凡そ
200m遡ると、木が切られ、笹が刈られて明るい杉尾峠である。

 峠の北側に立てばシンコボの姿。意外にかっこいい独立峰だ。北西八ヶ峰方面へ続く尾
根の先には青葉山の双耳峰も確かめられる。その右手には、なんと若狭の海と浮かぶ島か
半島らしきものまで見えたのには驚く。
(尚、少し確かめたけれど、若丹国境を杉尾峠まで忠実にトレースする踏み跡はなさそう
で、我々が通ったコースが普通の様子である)

杉尾峠からは唯一、北西方向の展望が良い。左奥に
青葉山、手前の尾根の向こうに日本海が見える

 岩がゴロゴロする荒々しい谷ではないが、上谷も最初はV字型をした狭い谷である。中
段に付けられた道が細いので踏み外さぬように注意が要る。それも徐々に広がって、モン
ドリ谷出合辺り迄来るとよほど広やかになる。何時の間にか流れも音を立てて流れるくら
いになる。水辺にはサワグルミ、トチノキ、ミズナラの巨木が見られ、熊の巣穴なのでは
ないかと思われる大きな穴のある大木もある。そうして、時折、向こう側が透けるかと思
える程はかない薄黄色をしたコシアブラがあるかと思えば、目の覚める様な色合いの紅葉
が混じる。とりわけ岩谷出合のカエデは見事である。しばし見とれる。

目の覚めるような紅葉黄葉(岩谷出合)

 時折、パサッと音がする。ホオの葉が梢を離れ、舞い落ちた音だ。そんな静寂の岩谷を
過ぎれば、去年9月に三国峠から枕谷経由でこちらへ廻って来た時、コーヒーを沸かした
場所。椅子がわりにした丸太からはナメコらしいキノコが顔を覗かせている。そこから野
田畑谷出合までは600mほど。出合で小休止。15分ほど休んで往路を戻る。

 なんとか16時前に地蔵峠。後はブラブラ林道を戻るだけだ。夕暮れが迫り、少しずつ
薄墨が増していく空。周囲の山々は文部省唱歌の歌詞そのものである。
「秋の夕陽に照る山もみじ 濃いも薄いも数ある中に...」

 当初予定したスケジュール通り、16時半、林道ゲート着。あれだけあった車もほとん
ど引き上げた後である。しばし談笑の後、今日のオフもお開き。癒しの森での清々しい一
日もこうして暮れていくのでありました。


■同行 かねちゃん、幸さん、スナフキンさん、たらちゃん、なかいさん、のりかさん、
    もぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
6:40千里中央ローソン横(集合地)
7:25〜7:50真野IC最寄のセブンイレブン(第二集合地)
8:50〜9:00生杉ゲート手前(駐車地)
9:35地蔵峠
9:52上谷出合(長治谷小屋分岐)
10:10〜10:15野田畑谷出合
10:55〜10:57野田畑峠
13:29〜13:33Ca731標高点南の野田畑谷
11:12若丹尾根へ
11:56〜12:35シンコボ(811.4m 三等三角点 昼食)
12:55第四迷点(812m標高点尾根北端)
13:43〜14:02杉尾峠(765m)
14:18モンドリ谷出合
15:08〜15:22野田畑谷出合
15:40上谷出合(長治谷小屋分岐)
15:54〜16:02地蔵峠
16:30生杉ゲート



若丹尾根のデータ
【所在地】京都府北桑田郡美山町・福井県遠敷郡名田庄村
【標高】600m〜800m
【備考】 野田畑峠、杉尾峠は所謂、若狭越の道が若丹尾根を越え
る峠の中で、芦生演習林内にある四つの峠の内の2つで
ある。野田畑峠とシンコボ間は顕著な尾根で歩きやすい
ですが、シンコボと杉尾峠の間は尾根が錯綜し、テープ
も疎らな部分があり、更に国境線が尾根通しについてい
ないので、コンパス、地図は必携です。尚、迷った場合
上谷の道を目指し、南に進みます。シンコボについては
シンコボ〜新緑とイワカガミ回廊の若丹尾根
をご覧下さい。
【参考】
2.5万図『古屋』、『久坂』




■野田畑峠・杉尾峠周回ルートGPS軌跡(罫線は10秒=約300m 国土地理院、カシミールを利用しました)    先頭へ


   トップページに戻る

inserted by FC2 system