荒地山〜初冬に愉しむ岩歩き
 
平成17年12月10日(土)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】単独
荒地山南面。数々のボルダーが見事
中央の縦の割れ目が岩梯子


 今までこれという理由もなく敬遠していた六甲の山域。ところが良く考えてみたら、植
林が少なく雑木の山ではないか。しかも自宅から阪急電車一本で行けるから非常に便利だ
し、従って少しぐらい遅刻したって大丈夫。その上、車で行く場合の様に道の凍結なぞの
心配もしなくて良いし...。(^^; この際、冬の陽だまりハイクの対象に少し見直してみま
しょう。(笑) その手始めは岩梯子で有名な荒地山。

 山頂付近で食事をと考えて、9時前という遅い出発である。何せ、最寄り駅まで1時間
とはかからないというアプローチの良さなのだ。

 阪急芦屋川駅。電車のドアから吐き出される人々の中にはチラホラとハイカー。勿論、
ハイカーの目指す方向は一緒。地下道を通って駅の北側に出、芦屋川沿いに車道を避けて
一つ西の筋を歩く。『高座滝道』の標識のあるこの辺りは山芦屋町という。大僧橋で高座
川を渡り、坂を上るに従って、これぞ芦屋という風な瀟洒な豪邸が立ち並ぶ。中には塀に
ハリネズミの如く鼠返しを張り巡らせた家もあるが、豪邸には豪邸なりの悩みがあるよう
だ。その点、下流社会の人間は気楽なものであります。(笑)

豪邸の道。左、高座の滝とある方へ。
正面に鷹尾山が顔を出す

 さて、右に奥池へ向かう道を見送って、Y字路を左にとる頃、頂にアンテナを戴いた山
が近づいてくる。鷹尾山らしい。更に会下山遺跡への道と分かれて右に進むと、『城山、
鷹尾山』の説明板が現れる。戦国前期の1511年(永正8年)細川氏の内訌がこの辺り
で行われたという。その辻を右にとり、民家の横の階段が取りつきである。ジグザグに登
るので、傾斜が緩く楽。枯れ松の展望台からはもう素晴らしい見晴らしで、港のガントク
レーンが林立するのまで指呼である。お茶を一口、やっぱり暑くなってきた。ザックから
タオルを出しておく。

 ちょくちょく現れる石垣は城の名残であろうか。ベンチがある鈍い裸尾根から再び山腹
道を進む。それにしても市民の裏山。枝道やショートカット道が到る所にある。それもジ
グザグ部分には必ず。(笑) 弱々しいササと色あせたハゼの葉っぱが散らばる道は山腹を
忠実にうねうねと巻き、ヒョッコリと出た台地が鷹尾山。サンテレビとNHKの山芦屋中
継局がある。下から見えたアンテナはこれだったようだ。ヤマモモらしき大木がデンと真
ん中に。高座谷とロックガーデンの中央稜が見渡せる中、寒風が吹き渡るが、火照った額
に心地よい。

 すぐに高圧鉄塔広田西線bR9を右に見る。緑色に塗られた小型の鉄塔なので余り違和
感が無い。北摂もこういう配慮をして欲しいものだ。最近立てられた巨大な鉄塔は、何と
いっても赤白のダンダラなのだ。

 鷹尾山の先の花崗岩が転がった頂までやってくると、荒地山の南尾根の岩がちの荒々し
い山腹が現れ、山道を登る先行者の姿が雑木の陰に見出せる。しかしまだまだ遠いなぁ。
(笑) ここから下った鞍部が高座滝分岐で、道標がある。

327m標高点辺りからみる鷹尾山
城址であったことが良く分かる

 また現れた高圧鉄塔(仁川連絡線bR6)の先が327m標高点ピーク。直ぐ先の鞍部
には奥高座からの道が上がってきている。この辺りから岩が目立ち始め、ワクワクドキド
キ、面白くなってくる。

 尾根道は『馬の背』とも呼ばれ、風化した花崗岩の砂は良く滑る。時折、ズッコケなが
らも高度を上げていく。3本目の高圧鉄塔(新神戸線bS4)のある辺りでは岩の上で休
憩しているパーティがちらほら。この岩の上での日向ぼっこ、小生は何となくトカゲを連
想するのだが...。

歩いてきた荒地山南尾根(馬の背)

 この付近は大震災で形状がガラリと変わったそうだ。大きな岩はないけれど、林立する
岩の間を縫って歩く感じ。結構、急峻。(^^; すると右に曲った所でご夫婦が立ち止まっ
て見上げている。こちらも同じ真似。
「ああ、これが噂の岩梯子ですかぁ。」
中間地点に『岩梯子』と白い標識もある。コシダが所々繁り、高さは5m位か。思ったよ
り規模が小さく感じるのは、見ぬうちは誇大妄想するからだろう。(笑)いささか中年日
本人のコンパスには合わないけれども、ちゃんと石段みたいな段差があって登りやすい。
先行者が抜けた後、ご夫婦に先んじて登る。岩に日が当たってほの暖かいのが助かる。岩
梯子より苦労?したのはチムニー。岩と岩の間の平べったい隙間。この隙間のある大岩を
新七右衛門ーという。
「潜れるんかいなぁ...。」
ザックを下ろして隙間に手で押し上げる。これが結構、重労働。
「重イィ...。」
その後で、やおら体を持ち上げる。握力、腕力の低下を実感する瞬間。
「うっ!こんな筈では...。」
何とか通り抜け、
「ああ、しんど。アルシンド!」
「ふっるうー!ええ加減にしなさい」
「本当にね!」
自分で突っ込む。相手がいないのだからそれしかないのだが...。(笑)
「あっ?」
手の甲が擦り剥けている。
岩梯子。右上に白い木札がある

チムニー。太目の方の通り抜けは無理です(笑)

 それからも岩登りが続く。赤ペンキの印に導かれて上っていく。岩ならぬ木梯子もある。
ふりかえれば、阪神間と大阪湾の大パノラマ。うーん、素晴らしい。けれど靄って、淡路
島も見分けられないのは残念。

 岩登りの練習をしているパーティがいる。その隣を抜けて登りきった先は小さな台地。
もうほとんど傾斜はなくなる。再び常緑樹と落葉樹が混生する林。クマザサが現れだした
ので山頂は近そう。ゴルフ場・芦有ゲート方面分岐を左(西)に向かうと、クマザサ原を
凡そ150mで荒地山に到着。
荒地山山頂の広場

 荒地山は松に囲まれた小広い広場になっていて、兵庫山岳会の山名標識がある。木が繁
って展望はよくないが、それでも木の間越に六甲最高峰や、芦屋CCが見える。

 神戸からきたという単独おじさんだけの静かな山頂。弱いものの陽もあたり風も凌げそ
うなので、ここで食事。

ナカミ山付近からゴルフ場と東お多福山の草地

 荒地山を後にして西へ向かう。クマザサ原の中の雰囲気のいい道が続く。少し下った所
に岩があって、登ってみると六甲主稜が見晴るかせて、芦屋CCの向こうに東おたふく山
の笹原が綺麗だ。とかなんとかしていると、どこがなかみ山か分からない内に岩混じりの
下りとなる。笹原で一旦下った鞍部から少し登り返した所があったから、そこがなかみ山
だったのかも知れない。一瞬こっちかなと見紛うような良く踏まれた道を右に見送り、岩
の間の少し分かりにくい踏み跡を伝う。今までが遊歩道並に良すぎるので、落差が激しく、
果たしてこちらでええのかいなといぶかるほどの道だ。ぐんぐん下るので間違いに気づい
て登り返すのがしんどいなと思う頃、突然、両側にナイロン紐。マツタケ山か?いや違っ
た。紐に結ばれた木札「小便厳禁!水場あり」

 湿り加減の窪地に出る。右に細い竹筒の水場。荒地山にもあった私製の案内図があるが、
道が錯綜してやや分かりづらい。兎に角ここは水場が水源となっている細い流れに沿って
西へ向かう。100mも行くと道標が現れ、雨ヶ峠から六甲最高峰へのメインルートにぶ
つかった。

 もともと魚屋道であった道である。林道ほどの広さがある。その道を軸に、歩くほどに
打越山方面へ行く森林管理道や横池分岐など、道が集まってきたり離れていったりと、網
目のように入り組んでいる。流石に歩く人も多い。中には空身の人もいる。

風吹岩
阪神市街をバックに風吹岩から
ロックガーデン中央稜。奥は鷹尾山

 風吹岩は目の前に景色が広がる突端のような場所。高座谷方面と金鳥山方面との分岐で
もある六甲の要所。もっと小高い岩だと思っていたけれど石垣みたいな感じのする岩の集
まり。岩の上に立つとロックガーデンの主稜が手に取るようで、往路の尾根道の陰に鷹見
山も頭を出している。その先は市街地と海。ただ新神戸線bS6の鉄塔が立つのが無粋。
ふと目を岩の下にやると、猫の姿。あら?あっちにもこっちにも。姿を見かけたのは5、
6匹。よく似た顔をしているから親子か兄弟姉妹か。

 岩の北側を巻いて金鳥山方面へ降りようとした時である。今度は木の繁みから褐色の大
きな動物が。イノシシだ。体長1m以上はありそうな大物である。恐れ気もなくこっちへ
やってくる。山上近くのNTTの展示館付近で何度も見かけたことがあるというものの、
少々不気味。目を合わさぬように、ここは退避にしくはない。(^^;

風吹岩で現れたイノシシ

 金鳥山への道。JRの甲南山手駅方面へ向かう魚屋道と分かれて右へ。この付近には三
角点があるはず。しばらく歩くと道が鋭角に曲がる辺りに引き返すように右手に踏み跡が
ある。多分これであろうと30mも辿ると、ありました。三等三角点『本庄山』。ピーク
というより尾根の一点という感じ。山名板がない代わり、三角点を中心に賑やかに白い札
がぶら下がっている。「金鳥山三角点」「夫婦松」「六甲の三角点一覧」等々。こんな賑
やかな三角点は初めてであった。

 元の登山道へ戻る。少し下ると左に床机が置かれている。「日の出の拝める場所」と三
角点で見たのと同じ白い札がぶら下がっているのを見ると、同じ人が管理しているのであ
ろう。確かに東を拝むことができた。

 左右に道が分かれる所へついたが、左の尾根道選択。するとやや登った先にいわく有り
気な錆びた鉄塔。何やら由緒書きがぶら下がっていて旗振山406.6mとある。曰く堂
島の米相場の上下をいち早く知らせるべく云々。旗振山ならこの近くには須磨にある。知
っているだけでも三田の羽束山近くにも、豊中唯一の二等三角点のある緑地公園駅近くの
丘、そして北摂の一等三角点石堂ヶ岡。今じゃ携帯かければ済むものを、手間と人手をか
けて通信したのだ。それにしてもここには錆びてはいるが凡そ10mはある立派な鉄塔が
立ち、今でも登れそうである。してみると須磨が見えるのだろうか。いやいや、きっと他
に中継点があるだろうななどと想像してみるのも楽しいものだ。

米相場情報を伝える旗振に
使われていたといわれる鉄塔

広田西線bS6の高圧鉄塔を過ぎると八幡谷分岐。さっき分かれた道は巻き道で、ここ
で再び合わさるようだ。林道然とした道は南へ下っていくが、この付近も枝道が錯綜して
いる。その一つを辿って西へ踏み込むと、テーブルが数脚置かれた広場がある。地形図に
ある金鳥山の標高点はこの辺りらしい。更に西に踏み跡があって、笹薮に突入しているの
は地形図の点線道らしいが、八幡谷と書かれたほんの小さな標識があるのみで、一見した
限りでは殆ど廃道のようであった。

 金鳥山からの保久良神社への道はもう大遊歩道。両側に桜まで植わっている。しかし、
南に遮る物はなく神戸から淡路島にかけたパノラマが眼前に広がる。初日の出を拝むにも
絶好の場所である。なんと温度計の置かれた床机まである。因みに気温は10℃。但し、
直射日光が当たっていたから、正しいかどうかは分からない。(笑)

 石段をずんずん降りると鬱蒼とした雑木林で、保久良神社の裏に出てくる。式内社保久
良神社の祭神は椎根津彦命、といってもよく解らない。神社は梅林で有名であるが、社叢
のヤマモモの林も有名なのだとか。弱るのでヤマモモの根元を踏まないようにとの注意書
きがある。神社は南面していて、ここからも市街が見て取れる。石の鳥居のまん前には文
政8年(1825)の銘のある石灯籠が一基。『灘の一つ火』と呼ばれ、夜中じゅう灯さ
れたそうで、港に入る船のいい目印になったとか。所謂、灯台のはしりである。しかしな
がら石灯籠を良く見ると、火袋の部分が新しい。鳥居の横に折れた鳥居の足が阪神大震災
のモニュメントとして置かれているのを見ると、これも倒壊して火袋が壊れたのであろう。
今更ながら地震の怖さよ。この後、本殿に御参りして神社を後にした。

灯台の始まりといわれる常夜灯『灘の一つ火』
震災で壊れた火袋は新調されている


 神社へのつづら折れの車道を降りていく。急斜面にへばりつくように今しも新築中の家
や宅地分譲の幟。眺望は確かに良いけれど、小生には大雨や地震が少々怖い。本山配水池
の横から岡本の旧市街に入ると今度は一転、瀟洒な家が多く、駐車している車も外車が多
い。珍しいものを見るようにキョロキョロしながら、20分足らずで阪急岡本駅であった。

 「えっ?310円。芦屋川は270円やったのに」一駅西で40円アップ。失敗したな
ぁと思ったのも束の間、ここは特急停車駅。すぐに特急が来た。
「まぁ、ええかぁ」(^^; 

 ふと思い立った時に行ける山域、六甲。結構、面白いではありませんか。これからはち
ょくちょくお邪魔させてもらいましょう。


【タイムチャート】
8:50自宅発
9:42阪急芦屋川駅
10:15〜10:18柚之木峠(390m)
10:00鷹尾山登山口
10:10〜10:12枯れ松のある展望台
10:20〜10:22鷹尾山(263m)
10:30〜10:32327m標高点ピーク
10:35高座滝分岐
10:46奥高座分岐
10:53〜10:56高圧鉄塔「新神戸線bS4」のある尾根突端
11:09岩梯子
11:28ゴルフ場・芦有ゲート分岐
11:30〜12:11荒地山(549m)
12:25水場
12:29雨ヶ峠道出合
12:42〜12:50風吹岩
12:56魚屋道分岐
13:00〜13:02点名『本庄山』424.5m 三等三角点
13:20金鳥山(338m)
13:35〜13:48保久良神社
14:05阪急岡本駅


荒地山のデータ
【所在地】兵庫県芦屋市
【標高】549m
【備考】 高座谷を隔てて、芦屋ロックガーデンと相対する尾根に
位置する山です。山頂はクマザサの中の小広場で、展望
に恵まれていませんが、南尾根の鷹尾山から馬の背道を
進むと、岩梯子、チムニーをはじめとする岩場登りが楽
しめ、振り返れば阪神の市街地、大阪湾が一望です。ア
プローチは阪急芦屋川駅が便利です。
金鳥山のデータ
【所在地】兵庫県神戸市
【標高】338m
【備考】 式内社である保久良神社の裏山といえるような山で、明
確な独立峰ではなく、尾根の先端にある台地です。金鳥
山へ到るまでの道は展望が良く、神戸市街が眼前に広が
ります。尚、地形図の338m標高点付近はササのブッ
シュで標識もありません。約400m北方に三等三角点
『本庄山』424.5mがあり、金鳥山の三角点とされ
ています。
【参考】
2.5万図『西宮』



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