貴公子花紀行〜赤坂山・三国山、百花繚乱
 
平成17年 4月30日(土)
【天候】曇りのち晴れ
【同行】単独
荒々しい明王ノ禿と
中腹に雪を残す赤坂山(左奥)


 花で有名な赤坂山。かねてから一度は行ってみたい山の一つであった。江若国境は遠い
と二の足を踏んでいたのだが、行ってみれば、豊中から2時間足らずで存外近い。そして、
噂に違わぬ百花繚乱の尾根。しかも展望も良いときては、もう毎年行きたい山の一つに加
えないわけには行かないでしょう。(笑)

 良く整備されたR161をひた走る。遡上する子鮎が釣れだしたという琵琶湖の湖岸は
春靄に霞んでいる。湖に浮かぶ白髭神社の鳥居を過ぎれば、高島の市街。左手、リトル比
良の山並みの奥に蛇谷ヶ峰が見え隠れする。

 安曇川を渡り、沢交差点で県道を北上し、マキノスキー場の駐車場に着いた時、自宅を
出てから2時間も経過していないのだった。それにしても来る途中の、2q以上はありそ
うなメタセコイヤの並木道は美しい。というよりマキノの町自体が清浄な感じがするので
ある。
新日本の街路樹百景「メタセコイヤの並木」

 駐車場の料金が無料というのがありがたい。早くも10台位の先着車があって、自車の
横でもいそいそと準備に忙しい女性グループ。田舎で聞き慣れた訛りだと思ったら岐阜ナ
ンバーであった。

 斧研川(よきときがわ)に架かる不動橋を渡る。キャンプ管理事務所の前の新しい建物
マキノ高原温泉「さらさ」らしい。帰りに寄るとしよう。スキー場のゲレンデも今は
オートキャンプの色とりどりのテントで埋まっている。その中を進んで一番奥のマキノ高
原管理事務所の横に取付きを見つける。

マキノのオートキャンプ場。最奥が取付き
山の中腹以上はガスの中だ

 見渡す山々の中腹以上はガスを被って一雨降りそうな雰囲気。豊中では晴天で灰色雲な
ど想像もしていなかったから、生憎、登山用の傘は用意しておらず、車備え付けのビニー
ル傘を持ってきたが、そんな天候だからなんだか蒸し暑い。のっけからの急な丸太階段に
帽子の下から早くも汗が滲み出る。そして無意識に腰をまさぐってはたと気づく。タオル
を忘れたと。「嗚呼!」ここまで来て取りにも帰れない。それじゃ先にTシャツだけにな
っておくかなぁ。

 尾根上につけられた道は赤坂山遊歩道と名づけられていて、林道に近い広さ。それでも
流石に花の山だけあって、早くもチゴユリの群落、オオイワカガミ、イカリソウ、エンレ
イソウ、ミツバツツジ、スミレ類、キランソウなどが随所に見られる。花好きには堪らな
いだろう。

 調子ヶ滝の分岐を過ぎる頃だったか、どこからか今年初めてのツツドリの鳴き声が聞こ
えてくる頃、目の前に関電の火の用心の赤札が現れた。地形図を見れば、この付近に四等
三角点『粟柄越』があるはず。行きがけの駄賃、GPSでここらだろうと目星をつけて薄
い踏み跡らしき所を見つけて枝をかいくぐったらドンピシャ、藪の切開きの中、ヒサカキ
の匂いに包まれて石標が埋まる。483.6m。一息入れる。

 ようやく傾斜が緩んでくる。三角点から少し進んだ辺りを「ブナの木平」と呼ぶらしく、
東屋が置かれている。再び小休止。ブナの木よりもコブシの白い花が目立つなぁ。(笑)
見上げれば、関電の鉄塔が峰にあって、奥にガレた山肌が見える。あれが明王ノ禿とは後
で気づいた。

 沢音が左下から聞こえ出す。ここからまるで日本庭園みたいな雰囲気の尾根道になる。
ここが粟柄越の古道なのか。頭上から降ってくる、何という名前なのか野鳥の囀り。それ
にミズナラ、ブナの新緑。いいねえ。

日本庭園さながらの粟柄越の道

 左に古い堰堤が出てくる頃である。咲いている。カタクリだ。薄紫の花弁を誇らしげに
反り返らせて。と、黄色い花。オオバキスミレ。これは初お目見えだ。
「いやぁ、もう、これだけでいいわぁ。」(笑)
点々と咲く花々に歩みも滞り勝ち。しかし、赤坂山から三国山にかけては、こんな程度の
ものではなかったのである。

 ジグザグにつけられた斜面を巻き上がるように登っていく。早々と降りてくる単独の女
性。曰く「雪が多くて、運動靴では危なそうで降りてきた。」そういえば残雪が所々に現
れる。麓では綻びていたオオイワカガミの赤い蕾も、この付近ではまだ固い。

 620mの標高点近くを過ぎる頃には、左に谷を見ながらの登りとなり、再び現れた葛
籠折れを登りきると、一気に視界が開けて左手にガレた斜面が広がる。急に高い木が無く
なって、周囲はいつの間にかクマザサ原である。幅10m位か。大きな残雪の塊がある。
さっきの女性が言っていたのはこれかなぁ。それを抜けた頃だ。あるわ、あるわ。カタク
リの群落。大谷山の分岐から福井県美浜町へ抜ける粟柄峠付近、所謂、粟柄越と呼ぶ辺り
である。まあ凄いの一言。そんな中、笹原にひっそりと石の祠があって、二体の石仏が収
まる。一方は肩から上が欠けているがもう一体は柔和な顔。弘法大師だろうか。もうどの
位、カタクリの花を見続けてきたのだろう。

 ここまで来ると、右前方に高圧鉄塔を隔てて、笹原の赤坂山山頂が射程に入る。粟柄峠
からは約10分。途中、馬頭観音らしき三面を持つ石仏を見て、最後の登りを頑張って山
頂に立つ。
笹原の赤坂山が見えてくる

 何となく武奈ヶ岳にも似た雰囲気を持つ狭い山頂には、四等三角点と展望盤が置かれて
あり、なるほど360度遮るものなしの大展望で、晴れれば白山も見えるという。眼下に
白谷から在原の集落。靄がやや晴れてきたのか琵琶湖がうっすらと姿を現している。東の
鉄塔のある山が乗鞍岳。国境スキー場のある山といった方が判り易い。西には大御影山か
ら三重岳に続く稜線があって、北にはこれから向かうなだらかな三国山。これが意外に遠
くに見えた。
赤坂山から三国山を望む

 どこかのワンゲル部員だろうか。大きなザックを背負って、山頂直下で猛烈な勢いで抜
いて行ったのがひっくり返っている。世話している学生が教師らしき女性に過換気症候群
とかなんとか訴えていたけれど、あんまり無理せぬほうがよいがなぁ。

 涼風が頬をなでる。もう風がご馳走の季節だ。先行するハイカーが蟻のように見える明
王ノ禿迄の鞍部に向かって進む。標高差約70mの下り。オオバキスミレ、エンレイソウ
が目立つ。明王の禿はガイド本には通行注意とあったが、須磨アルプスの方がよっぽど危
険。(笑) 道さえ外さねば危険箇所は皆無である。ガレ場の向こう側に出ると急降下で、
ここからは疎林となり、清冽な水が流れる沢がある。その手前のカーブだったかな?どこ
かでお見受けした顔がひょっこりとこちらへ向かってくる...。なんと、さとゆきさん
ではないか!奇遇!。今日は植物同好会の方々と来られたとか。久闊を詫びて別れる。な
るほど後には植物観察に余念の無い方々が続いておられた。

 カタクリはこの疎林の中が最も多く、足の踏み場も無いといっても過言じゃないくらい
次から次へと現れる。その中にオオイワカガミ、トクワカソウが混じるという贅沢さ。ブ
ナの若葉も透けるような黄緑色をして、もう、帰りたくないなあ。(笑)

 殆どアップダウンがない道が続く。幾度かカーブを曲がると分岐を示す道標が現れた。
黒河林道へ1.3qとある。三国山へは左の高みへ上がっていく道。雪解けの沢を渉って
暫くは谷の源頭のような平坦な地形。しかしながら、今までの様な快適道とは異なって、
雑木の枝が張り出し、やや歩きにくい。お陰でザックに挿したビニール傘が引っかかって
仕様が無い。傘を取出してやおらザックを担いだ時である。目の前に動くものが...。
目を凝らせば50pばかりのヤマカガシ。こっちも驚いたが、向こうはもっと驚いたのか
慌てて土手の穴ぼこに逃げ込んだが、頭かくして尻隠さずだ。(笑)。この蛇、帰りにも同
じ所にいたから、よほど、この辺りが好きに違いない。

 やがて道は雑木のトンネルを直登気味に登って行く。この斜面もトクワカソウだらけ。
しかも大柄美人が多い。それはいいが、雲から顔を出した日の光をまともに浴びて暑いの
には閉口。まるで真夏だ。もう少しの我慢だとやっとついた山頂も、日陰なし。コブシの
白い花があるくらいで、岩が転がる狭い山頂の真ん中に三等三角点。丈の低い雑木に囲ま
れ展望もあまり良くは無い。それでも赤坂山が望める。しかも頂には先程にも増して、芥
子粒のような沢山の人が見える。

三国山山頂

 当初はここで食事でもと考えていたけれど、暑いし、風も通らぬし、座れば展望もない
しのないないずくし。で、10分ばかり休憩を取って、明王ノ禿あたりで食事にすべく引
き返すことにした。
三国山付近。まだまだ茶色が目立つ。
その中にマンサクとコブシの花

 雪の為に根元が一様に湾曲した雑木はこの辺りはまだまだ芽吹きだしたところ。その中
でいち早く咲くマンサクの黄色い花。六甲に較べて1ヶ月も遅いその花を眺めていると、
背中から時ならぬ携帯音。(おお?ここ、携帯の圏内やぁ)誰からとみれば母たぬきさん。
「ええっ?今、赤坂山の頂上?」
なんと今、山頂で食事前なんだと。さっきはさとゆきさんに遭遇するし、世の中狭いもん
だ。前述した如く、明王ノ禿で食事するつもりでいたけれど、それでは赤坂山までもう一
足伸ばすとしようか。
明王ノ禿から琵琶湖方面

 三国山からも見えたけれど、明王の禿付近からは綺麗な円錐型の赤坂山が眺められる。
意外に独立峰なのだ。ぐーんと下って登り返す。シャリバテだぁ。おかげで山頂手前は辛
かった。(笑)
明王ノ禿から赤坂山。雪が残っている

 多くの登山者の中、キョロキョロと知った顔を捜す。すると、琵琶湖方面を望んで物思
いにふける?やまごさんのバンダナを巻いた頭があった。その反対側では無線を操作する
父たぬきさんの菅傘。今日は大谷山から登り、粟柄古道を辿るコースだとか。さとゆきさ
んは今しがたマキノ高原に向けて下山して行ったそうだ。まずはお茶をガブリ。遅い食事
にする。

 ごった返していた山頂も人がまばらになってくる。暫く展望を楽しんだ後、こちらも下
山。若狭側へ下るたぬきさんら一行とは美浜町分岐手前でお別れし、こちらはマキノ方面
へ。クマザサのタケノコを齧ったりしながらブラブラと。途中の沢で顔を洗う。「フーッ」
気持ちいいわぁ。しかし、この粟柄越の道の横を流れる沢は不思議だ。道が通る細尾根の
向こう側(東)はすぐ激斜面なのだ。尾根が崩れれば水はすぐこの激斜面側に流れ出すに
違いない。考えれば考えるほど面白い地形ではある。

ブナの木平の東屋付近から明王ノ禿。
手前に見える頂の奥の左が赤坂山

 ブナの木平の東屋で一休み。赤坂山の山頂が頭を出していて、山頂直下ですれ違った団
体だろうか、多くの人が立っているのが見えた。

 下山地のオートキャンプ場は相変わらずの賑わい。芝生でバレーボールする親子。グラ
ウンドゴルフの興じる人。川からは子供の嬌声。荷物を車に置いて、早く一風呂浴びよう
か。

 入浴後、コーラをゴクリ。一息つく。上天気。眼が洗われる新緑に咲き乱れる花々。い
い登山道。風呂。満足、満足。またいい山を見つけた赤坂山、三国山の花めぐりでした。

■赤坂山で見られた花々の写真集です。ご覧ください。赤坂山百花繚乱


【タイムチャート】
6:45自宅発
8:35〜8:45マキノ高原駐車場
9:32〜9:40点名『粟柄越』(483.6m 四等三角点)
9:43〜9:48東屋
10:10620mピーク
10:35粟柄峠(美浜町分岐)
10:45〜10:50赤坂山(823.8m 三等三角点)
11:05明王ノ禿
11:26三国山分岐
11:40〜11:50三国山(876.3m 三等三角点)
12:05三国山分岐
12:26明王ノ禿
12:40〜13:30赤坂山(昼食)
14:10〜14:12東屋
14:50マキノ高原駐車場

赤坂山のデータ
【所在地】福井県三方郡美浜町、滋賀県高島市マキノ町
【標高】823.8m(四等三角点)
【備考】 滋賀県と福井県を画する野坂山地に属します。山頂から
の眺めは雄大で琵琶湖、伊吹山、白山が望めます。また
多種の花々が咲き乱れる山として有名で、春はカタクリ、
オオバキスミレ、イワウチワ、イワカガミが咲き乱れま
す。南麓にはマキノスキー場があります。
■関西百名山
三国山のデータ
【所在地】福井県三方郡美浜町、滋賀県高島市マキノ町
【標高】876.3m(三等三角点)
【備考】 赤坂山の北、明王ノ禿を介して連なる山で、若狭、越前、
近江の境を成します。山頂からの展望は、余りよくあり
ませんが、赤坂山、乗鞍岳等が望め、東側にキンコウカ
が咲く湿原を有します。赤坂山から続く登山道はよく整
備され、ファミリーハイクにもうってつけです。
【参考】
2.5万図『海津』



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