大展望に「おおっ!」
〜爽秋の綿向山、竜王山周回
 
平成16年10月16日(土)
【天候】快晴
【同行】単独
音羽から竜王山(左)綿向山(中央右)水無山(右)


 久方ぶりの快晴の下、展望を求めて、かねて気になっていた綿向山へ。爽やかな秋の空
気に包まれて山歩きを堪能した一日となりました。

 R477は鈴鹿のメインロード。R307から、武平峠へ向かうそのR477へ入る。
やがて、稲刈りが終わった田圃と、町おこしに植えられた色とりどりのコスモスが揺れる
向こうに綿向山の大きな姿が広がってくる。音羽で左折し3q近く走ると西明寺口。綿向
山の大きなガイドマップが目に飛び込んでくる。その前に数台の駐車スペースがあり、2
台の先着車。ここに駐めようかとも思ったが、ガイドマップを見るとその先にもスペース
はあるようで、更に進んでY路路を右に取ると、橋(御幸橋)の袂に20台は十分収容出来
そうな広い駐車場が整備されている。先着車は5台程。

 車脇で入念に準備運動をする単独小父さん。カランコロンと熊鈴を鳴らして歩いていく
これも単独小父さん。こちらも準備を終えて歩き出す。途中の道路表示に気温14℃とあ
ったけれど、それ程寒い感じはせず、カラッとした空気に日射しは暑いくらいだ。稲が刈
り取られた棚田を右に見て進めばすぐに佐久奈度神社。そして大きなアマゴのレリーフの
浮き出した水木谷の砂防堰堤が見えてきて、右端につけられたコンクリ階段をポツポツと
登れば林道北畑谷線と合流する。

 暫くは地道の林道歩き。針葉樹林でやや暗い中、右の崖に綿向山麓接触変質地帯の説明
板を見る。石灰岩に火成岩であるマグマ状の花崗岩が接触して、大理石に熱変成したもの
らしいが、露頭をみてもあんまりよく分からない。そこからすぐ、左の谷川が二股に別れ、
右のヒミズ谷沿いに折れると、立派な小屋が現れた。ヒミズ谷出合小屋である。ここは表
参道コースと水無山北尾根コースの分岐だが、綿向山も鈴鹿の御多分に漏れずヒルが出る
ということだったから、「尾根」というからにはヒルも出ないだろうと、思わず右の北尾
根コースを採る小生である。(これは正解だったようである。歩いてきた方に聞けば、表
参道コースは遊歩道に近いそうだ。)

ヒミズ谷出合小屋。直進が表参道コース
右に折れれば水無山北尾根コース

 植林に覆われたかなりの急斜面だ。直登はとても無理で、登山道は林業用の作業道も兼
ねてつづら折れに登っていく。かなり登っても下から谷音が上がってくるので一見涼しげ
なのだが、風も無い単調な登りに一気に噴出す汗。アクセントは盛りを過ぎたミカエリソ
ウ、ハグマの一種らしい白く小さい花くらいか。崖っぷちの様な部分を幾度か抜け、日射
しが明るくなったと思ったら林道に飛び出した。杓子ヒミズ谷線らしい。カーブの退避広
場には林業組合の4トントラックが置かれてある。座ってようやく一息入れ、ふと下に視
線を落としたら、サビサビの百円玉。
「おうっ。儲けたぁ」(^^;

 林道を上側へ20m程歩くと右手に続きの登山路が見つかる。再びよく手入れされた人
工林の中の道だ。左30m位直下にさっきの林道の続きが見えるが、雑草が生えて荒れて
いる様子だ。一旦、また山腹の斜面を登るが、倒壊し完全に屑折れた作業小屋を過ぎる頃
には、次第に傾斜も緩み、平坦な箇所も現れる。

 ところで北尾根コースというが、なかなか尾根に出ない。道は崖に近い急傾斜の山腹を
へつるように延びていくだけだ。この先幾箇所かこんな場所があって、道幅も30p程度
しかない部分やトラロープが渡してある部分もあり、少々足元に注意が必要だろう。特に
積雪がある季節は危険だ。

 いつしか周囲は人工林から自然林に変わる。まだまだ緑に覆われた木々、紅葉は1ヶ月
位先だろうか。小さな沢の源頭を何箇所か越えながら振り返れば、陽が当たって明るい近
江平野が眺められた。
最初はよく手入れされた桧林を行く
後半は雑木の美しい道に

 フカフカの落ち葉道を徐々に高度を上げて右にスーッと廻りこんだ所に水無山分岐の道
標が立つ。林道出合から40分位だろうか。ここで再び小休止して、はて水無山へは?と
思案する。ガイドによれば水無山往復は50分だそうだけれど、展望もないとの事なので
今回はパス。そのまま直進することにした。

 ところがこの先でどういうわけか少し道をロスト。踏み跡がやや薄いなあと思っていた
のだが、100m程進んだ所で消えてしまった。この山は地元のモルゲンロートクラブの
手によってコースが良く整備されていて、適度に立派な道標と登山道と書かれた小さな標
識があるのだが、その代わり、目障りということなのか木々に巻かれたテープ類は殆ど無
い。とりあえず水無山分岐まで引き返すかなと思いつつ、周囲を見回したところ、幸い斜
面上方に白い標識らしきものが目に入った。
「ホッ」
それにしても何処で間違ったかなぁ。

 この辺りは雑木の素晴しいルートだ。ブナ、ハウチワカエデ、ウリカエデ、リョウブ、
コナラ、アセビ、ソヨゴに下草はイワウチワにイワカガミ等々。落ち葉が散り敷いて道が
見えないくらい。ルンルン気分で歩いていると前方に8合目の標識が見えてきた。表参道
コースとの出合。標高985m。山頂までは710mだそうだ。

 すぐに右に金明水の分岐を見る。岩場から染み出す水かと想像していたら小さな沢の水
らしい。わざわざ降りることもないのでパス。

 ここからは道はジグザグに付けられ、折り返す度に右になったり左になったりして、水
無山と文三のハゲの向こうに、近江平野の大展望が広がる。「おおっ」と思わず声が出る
が、この後、更に大きく「おおっ」と嘆声を漏らすシーンが待っている事は知る由もない。

 何度かの折り返しの末に上方に鳥居が見えてきた。麓の綿向神社の奥宮。ところが今度
はコンクリ階段。階段は堪える。「嫌いやぁ」といっても仕様が無い。ここは我慢、我慢。

最後に大展望の待つ綿向山山頂

 フウフウと登りきった向こう側。「おおっ!」重畳と鈴鹿の山々。他に何人かの登山者
がいるのに恥ずかしげもなく思わず感嘆の声が出てしまう。
「この為に来たんやもんなぁ。いいねぇ、いいねぇ」
展望図盤が置かれているが一寸詳しすぎて判りにくい。それでも目立つのは何といっても
根の生えたような雨乞岳だろう。杉峠の一本杉も良くわかる。去年を思い出し少し懐かし
い。それにピラミダルな鎌ヶ岳。御池岳や竜ヶ岳もあるらしいが、こちら方面に疎い眼に
は良くわからない。西南には青山高原の風力発電施設。大台ヶ原や局ヶ岳など、台高や布
引山地の山々も見えるというがこれも判然としない。でもやっぱり極めつけは鈴鹿の山並
みの遥か奥に、うっすらと木曽御岳と恵那山の姿が見えたことだろう。双眼鏡で眺めたが
冠雪は判然としなかった。
綿向山頂からどっかりと雨乞岳。右に鎌ヶ岳

 これだけの大展望の山だが不思議に三角点は無い。山頂は東西に広く、奥宮の他には青
年の塔と命名された高さ2m位のモニュメントがある。風が強いのか、台風の影響かブナ
はすっかり葉を落とし、来年の新芽のみになっている。奥宮の裏側で昼食。久しぶりにカ
ップ麺。食後のコーヒーと優雅?に過ごす。

 のんびり、ゆったりとした1時間を過ごした綿向山を後にして、そろそろ竜王山への縦
走に向かうことにする。展望図盤の前で偶然言葉を交わすようになった名古屋は瑞穂区か
らやって来た小父さんも、水無山北尾根に廻らずにこっちで降りるというので、同道する
ことになった。

 最初はイハイガ岳経由雨乞岳への縦走路と同じ道。潅木帯を抜けるとまたまた素晴しい
景観が広がった。一面クマザサの原だ。どこかで見た風景に似ているなぁ。そうそう、台
高の桧塚や桧塚奥峰の風景に似ているのだった。尾根道先端で尖っているのがイハイガ岳
らしい。「あっちの稜線歩きもええなぁ」あっちに浮気、こっちに浮気をしても時間は限
られている。また今度の楽しみに取っておくことにしよう。

桧塚の風景に似ている綿向山北尾根の
イハイガ岳・雨乞岳への縦走路

 左に「幸福のブナ」。雪の重みの影響であろう、立ち上がった幹が半円を描いて再び接
地し、更に立ち上がるという不思議な姿をしている。潜れば幸運が巡ってくるというので、
根がミーハーの小生、とりあえず潜っておく。

 5分も歩けば竜王山分岐、この素晴しい尾根歩きと早くもさよなら。後ろ髪を引かれな
がらの左への急降下である。高低差140m、これがただひたすら直線状の激下り。潅木
に掴まりながら慎重に下ると、やがてホンシャクナゲの群生の中の道となる。日野町には
ホンシャクナゲで有名な鎌掛谷があるが、5月はここもピンクのトンネルと化す違いない。

激下りで竜王山への縦走が始まる

 この辺りは痩せ尾根である。962mピークを登り返し、再び急降下すると小さな岩峰
に出る。ここもいい展望台。背後に綿向山。東に凄いガレを纏うイハイガ岳。雨乞岳。そ
してどちらを見ても山また山だ。(竜王山50分、綿向山1時間15分の道標あり)

 912m標高点までは町界尾根で石標と赤プラ杭がありいい目印になる。雑木のトンネ
ルを抜けて、また植林に入る。余り大きな木は無い。そんな中、面白い道標を見つける。
『オンバノフトコロ』。どういう意味だろう。確かに一寸した鞍部で風が当たらず、乳母
(おんば)の懐の如く温かいという意味なのだろうか?左手(南)へ下る踏み跡があるが、
これは林道へのエスケープルートらしい。

尾根の雑木道を歩く。赤プラ杭がいい目印だ

 関西電力の巡視路には赤地に白抜きでお馴染みの「火の用心」標識があるが、中部電力
のは黄色地である。その中部電力の伊勢幹線の鉄塔のあるピークが840m標高点ピーク。

高圧鉄塔のCa840m山から綿向山
手前に962m山と歩いてきた稜線が見える

ここの展望も特筆物。ススキたなびく360度のパノラマである。谷を隔てて目の前には
表参道コースの避難小屋。西は近江平野に比良山系が一望の下である。背後は綿向山から
歩いてきた尾根が一目瞭然である。芝生の斜面で涼風に吹かれて昼寝したい。そんな気分
に誘うこの鉄塔のピークが竜王山の稜線の中では最も高いが、三角点はもっと尾根を西へ
歩いた地点である。小さなアップダウンはあるが殆ど平坦で、イノシシの掘り返し跡が至
る所にある尾根筋を進むと、一寸した切り開き。「竜王山頂上」の標識に杉の木が2本。
その下に、昔、雨乞いの神事でも取りおこなったらしい石組の跡が残る。三角点はと探す
と石組みの西側約10mの切り開きの中にあった。

 ここは灌木が茂って展望は良くないが、静かでなんとなく落ち着ける場所だ。しばらく
憩って下山道を確認する。赤プラ杭は西へ下りていくが、正規のルートは南のはずで、見
ると巡視道に良くある黒いプラ階段があった。

竜王山山頂。三角点は約10m西側にある

 急階段を暫く下りると小広い台地に出る。南向きの明るい場所だ。なんとはなく建物で
もあったのではと思わせる雰囲気があったが、千畳平と道標にあり、やはり西明寺の前身
の大安楽寺が奈良時代に甍を誇っていた場所だという。石垣も礎石の跡も見当たらないが、
今は鹿遊びの場所になっているようだ。

 雑木の斜面をジグザグに下っていく。同行した小父さんは霊仙山の雰囲気にそっくりだ
という。うーん、霊仙山も未踏で小生の好きな廃村もあって、行ってみたい山の一つであ
るのだ。またまた誘惑の山が増えた感じである。(^^;

 いつしか道は人工林の中となり、眼下の植林越しに明るい灰色の帯が見え出すと、直ぐ
に水木谷林道に飛び出した。登山口脇の登山届のポストにガイドマップが置かれていたの
で記念に頂戴しておいた。

水木谷林道の竜王山登山口

 水木谷林道は登山口辺りからは綺麗な舗装路。数台が駐められる広場もある。退屈な林
道歩きも、同行の小父さんと山に関する四方山話をしながらなので、飽きることがない。
「名古屋はアルプスも鈴鹿も近いけど、奥三河の山も良いですよ」と笑っておられた。

 水車のある農業公園を過ぎると民家も現れてくる。御多分に漏れずここいらへんも廃屋
が多い。大きなユズの木が数本。鍋物用にでもと黄色く色づいた一つをつい失敬してしま
った。(^^;

 畑仕事のお爺さんと挨拶しながら町道を左に折れるとまもなく往路のY字路。出発点の
御幸橋は直ぐである。小父さんは神社の側に駐車しているというので、ここでお別れして
今日の山歩きも大団円。恵まれた青空と無事を感謝して帰阪の途につく。


【タイムチャート】
7:45自宅発
9:15〜9:25御幸橋駐車場
9:37接触変質地帯
9:40ヒミズ谷出合小屋
10:10〜10:15林道杓子ヒミズ谷線出合
10:52〜11:00水無山分岐
11:12〜11:15八合目(表参道コース出合)(985m)
11:33〜12:35綿向山(1110m、昼食)
12:45竜王山・雨乞岳分岐
13:17〜13:20Ca900mピーク南の展望地
13:26917mピーク
13:42オンバノフトコロ
13:45〜13:47842mピーク(高圧鉄塔(伊勢幹線))
14:04〜14:10竜王山(825.8m 三等三角点)
14:30林道水木谷線出合
14:46農業公園
15:00御幸橋駐車場


綿向山のデータ
【所在地】滋賀県蒲生郡日野町、甲賀郡土山町
【標高】1110m
【備考】 鈴鹿山脈主脈の雨乞岳から西に突きだした部分にあるピ
ークです。地元の方々によって良く整備されており、そ
の標高から11月10日は綿向山の日とされ、賑わいま
す。幾つかの登山道がありますが、表参道は余り面白く
なく、水無山北尾根コース、竜王山からの縦走がお薦め
です。
竜王山のデータ
【所在地】滋賀県蒲生郡日野町
【標高】825.8m(三等三角点)
【備考】 綿向山の西尾根に派生するピークです。山頂には雨乞い
の祭祀跡と杉の木が残っています。南麓の千畳平には奈
良時代に大安楽寺があったと云われています。尚、綿向
山からの縦走路は、シャクナゲと雑木と展望の清々しい
尾根道です。
【参考】2.5万図『日野東部』



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