シンコボ〜新緑とイワカガミ回廊の若丹尾根
平成16年 5月 3日(金)
【天候】曇り
【同行】単独
シンコボへの若丹尾根。
新緑のトンネルにイワカガミの絨毯


 大峰の釈迦ヶ岳ではまだまだ芽だし前の雑木林。それなら今度は新緑真っ只中の姿を見
たくて芦生へ。天候が気になったけれども予報は見事に外れて晴れ間も見られる高曇りに、
期待通り、もののけ姫の世界は新しい緑の息吹が溢れて命が洗われる思いでした。

 デジカメを忘れて途中で取りに帰ったりで、何となくしっくりこない感じがするなと懸
念していた通り、京都南で故障車、ついで追突事故と渋滞情報。「やめてよね。事故起こ
した車から損害賠償!」TVタックルの三宅さん張りに毒づきながら、まあ焦ってもと前
方を見据える。続いて、いつもは空いている朽木村生杉に続く県道も、アマゴ釣り場やピ
クニックに向かう車に対向車とやたら車が多い。狭い所も多いので行き違いに時間をとら
れる。3時間近く要して漸く林道ゲート前に。10台近くが駐車しているが幸いトイレ横
に空きがあった。

 スパッツを装着する等、準備を整えてまずは林道を歩いて地蔵峠へ向かう。普通は単調
な林道歩きもここでは面白い。何といっても野鳥が多いのだ。モミのてっぺんで鳴くのは
オオルリらしい。でもそっちの方はとんと弱くて、ハッキリ同定出来ないのがつらいけれ
ど。(^^ゝ

 切通しには様々な花々。イワカガミ、イカリソウ、タチツボスミレ、スミレサイシン、
ミツバツツジと山歩きで見慣れたものも多いが、それでも見て歩くのは楽しいものだ。3
0分足らずで地蔵峠。林道は中山に向かって更に奧に入っていくけれども、山道は案内地
図の横から真っ直ぐに降りていく。

 樹齢70年は経た杉林を歩いて中山神社。ミヤマカタバミの白花、コバイケイソウの緑
が目立つ中、沢谷を丸木橋で渡って、杉尾峠に向かう道に出る。峠まで3.2q55分と
ある。暫くは川沿いに西へ歩く。秋にはトリカブトが目立ったが、今はヤマエンゴサクや
サンインシロカネソウが咲いている。丸木橋が見えてくると北に荒れ野が広がる。野田畑
湿地である。トリカブト、コバイケイソウだらけ。その向こうの丘は柔らかい緑のグラデ
ーション。
野田畑湿地の向こうに濃淡緑のモザイク模様が広がる

 何度か沢を渡渉して野田畑峠を目指す。大きなトチノキ、杉、ミズナラが谷間に屹立し、
斜面には落ち葉の絨毯の間にハウチワカエデ、ムシカリなどが若葉を広げている。文字通
りもののけ姫の世界である。

野田畑谷の広葉樹林の柔らかい緑

 記憶のある野田畑峠が見えてきた。ヌタ場は健在。道標の元にはユキザサの蕾が風に揺
れている。峠は若丹国境。東は三国峠(3q2時間)、西は杉尾坂(3.5q3時間)に
続く。今日は西へ辿って演習林の最奧の三角点のあるシンコボまで歩いてみることにする。

野田畑峠。この尾根を登って行く

 少し登って尾根に出る。美山町側から見れば尾根というよりも背の高い塀か風除け。し
かし福井県側の名田庄村から見ればかなり急峻である。由良川源流全体が台地になってい
て、これは規模は違うが大台ヶ原に似た地形を思わせる。

 やや広まったり細くなったりするが、顕著な尾根で踏み跡があり歩きやすい。しかもフ
カフカの落ち葉のクッション。そして光沢のある丸い葉っぱの中に、パラパラと小さなピ
ンクがばらまかれているのはイワカガミ。想像以上の数だ。「こりゃいいわ」。

尾根にはばらまいた様にイワカガミが咲いている
その一つに近づいてみると・・・

 ふと立ち止まって足元を見るとまだらの蛇。ヤマカガシらしい。様子を窺うも全く動か
ない。死んでいるのかとストックで端に寄せると少し動いて、まるでガラガラヘビの如く
尻尾を振るわせて威嚇するではないか。「くそっ」ストックで掬い投げの要領で更に遠く
に放る。

 左下直ぐそこには落ち葉の地面と芽吹いた若葉にくるまれた野田畑谷の源流が見える。
大した登りもアップダウンもなくゆっくりと登って行く感じで731m標高点峰を越す。
県境を示すのか数字が書かれたコンクリート杭が埋まっている。710m尾根、720m
尾根まではこのゆったりとした上りが続くが、750m尾根に登る辺りからやや傾斜が急
になる。といっても大した程ではない。ユズリハに似た常緑の大きな葉を持つ木々が繁茂
する尾根を抜ける。ハウチワカエデの浅緑の影にまたイワカガミ。右手(北)が開ける所
があって、重畳と続く山並みが見えるが多分百里ヶ岳方面としか分からない。

 左側に見える野田畑谷の水量が目立って少なくなり、Y字型に2つに別れた。同時に尾
根はややきつい登りとなり、登り切ればCa800m峰である。風の通り道でもあるのか、
急に強い風が吹き渡り、満開のミツバツツジの花が2株、その風に大きく揺れているのが
新緑の中に目立つ。ここは国境尾根が直角に南に折れる部分でもあるのだが、意外に明瞭
である。シンコボへはその国境尾根から別れて、北西の尾根を辿る。こちらは道なりに進
めばよい。大きな台杉というのか芦生杉が一本鎮座しているのが目印だ。そして一杯のイ
ワカガミの中を少し下って登り返せば、切開きのようなシンコボ山頂にあっけなく飛び出
した。
シンコボ(永谷山)山頂

 雑木に囲まれ三角点がポツンとあるだけの山頂は、プレート類が一切無く、例の若丹国
境縦走路の板プレートが一つあるだけで、展望はないけれど静かだ。尚、山頂から北西側
には明瞭な踏み跡は見当たらなかった。ひと休みしてお茶で喉を潤す。

 元の尾根を暫く引き返す。720mと710mの等高線の間の小さな鞍部で谷へ降り立
つ。といっても10m位下るだけだけれど(笑)。こちらもフカフカ道で雑草もなく歩きや
すい。トリカブトがあちこちに葉を伸ばしている。イワガラミが巻き付いたトチノキやミ
ズナラの巨木があちこちに聳え、苔むした倒木には新しい命が双葉を広げている。その中
に、大きな洞のあるトチノキを発見。熊の寝床だろうか。

野田畑谷最奥近くにある大きなトチノキの根元の洞。
熊が冬眠する巣かも

 誰もいない野田畑峠の近くの水辺で少し遅い昼食にする。沢で手を洗いおにぎりを頬張
る。山ではご馳走は不要です。

 パラパラと来たがすぐに上がる。谷を下って野田畑湿原と呼ばれる辺りを覗いてみた。
しかし、殆ど干上がってススキやイネ科の植物が幅を利かせているようだ。まだ残った部
分には鹿の足跡と糞が落ちていた。

 中山神社のある杉林まで戻って来ると、ピクニックの親子や若者のグループと行き交う。
大抵の人はこの辺りを散策しているようだ。それにしても休日だというのに意外に静かで
ある。駐車地へ戻ってきたら小型バスがあった。運転手が手持ちぶさたに煙草を吹かして
いる。乗車していた人は何処へ行ったのだろう?三国峠かな?

 イワカガミのピンクと新緑に眼を洗われるような芦生の春。何時来ても癒しの森である。
ワインの酔いの様な余韻に浸りながらそんな森を後にする。

野田畑谷で見られた花々
サンインシロカネソウ

ニリンソウ

ミヤマカタバミ



【タイムチャート】
7:50自宅発
10:30〜10:40林道ゲート前(駐車地)
11:05地蔵峠
11:15中山神社
11:18地蔵峠、上谷・杉尾峠分岐
11:35上谷・野田畑谷出合
11:56〜11:58野田畑峠
12:29Ca800m峰
12:34〜12:38シンコボ(811.4m 三等三角点)
12:40〜12:42Ca800m峰
12:52720m尾根東端
12:55野田畑谷源流域へ下る
13:10〜13:50野田畑峠(昼食)
14:25上谷・野田畑谷出合
14:45地蔵峠、上谷・杉尾峠分岐
14:48中山神社
15:00〜15:03地蔵峠
15:35林道ゲート前(駐車地)


シンコボ(永谷山)のデータ
【所在地】福井県遠敷郡名田庄村
【標高】811.4m(三等三角点)
【備考】  芦生の京大演習林の北端を区切る若丹尾根上の一峰で
三国峠の西側に位置します。展望はありませんが、訪れ
る人もない静かな山頂が味わえます。周囲は雑木で春は
イワカガミが咲き乱れます。
【参考】
2.5万図『久坂』




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