法螺貝響く山上ヶ岳から
緑滴る奧駈道を五番関へ
平成16年 6月19日(土)
【天候】晴れ
【同行】単独
五番関への奧駈道から山上ヶ岳
山頂直下右に宿坊が見える


 梅雨の中休みも今日で終わりだという。そこでちょっと遠出してみようということで大
峰は5年ぶりの山上ヶ岳へ。下界は30℃を越える暑さだったらしいが、山頂の大峯山寺
では16.5℃という涼しさ。先達の吹く法螺貝が響く山上ヶ岳から静かな緑深い奧駈道
は、久しぶりに爽快な気分を味わわせてくれたのでしたが、山上ヶ岳への最後の登りは、
結構へろへろでした。(^^;。

 暫く見ない間にR309も改良されていて、狭かった広橋梅林付近もトンネルが出来て
走り安くなっている。天川川合で左折して洞川。こちらも「ごろごろ水」付近は二車線に
広げられている。毛又橋を渡って林道高原洞川線に入り、路肩の広くなった辺りに車を止
める。既に止まっている数台の車は釣り客のものらしい。

 20m程遡ると毛又谷を渡る橋があって、山上ヶ岳登山口の標識がある。渡った所から
は川瀬谷の清流沿いに石畳の道。こんな道があったのか。途中にはムカシトンボの生息地
の説明板まであった。今日は誰も歩いていないらしく、蜘蛛の巣が鬱陶しいが杉桧林の中
のいい道だ。幹に「橋田山」とペンキで書かれた杉の木から川を離れ、人工林の中を歩く
と、間もなく清浄大橋のたもとの石碑が林立する広場に出る。丁度、女人結界門を山伏姿
の先達に率いられた講中の人達が登って行くところであった。

 人工林の中を蛇行しながら登ると、今は無人の一ノ世茶屋。昔は大峯うどんが食せたら
しいが、祠の小さな役行者も淋しげだ。

 講の人々が寄進した鉄橋を幾つか渡って、一本松茶屋。ここも無人だが、床几が置かれ
ていて休憩するには良い所。だが、先はまだまだ、山頂までは3960mとある。

 周囲が面白くない人工林から明るい自然林に変わる。途端に野鳥の声が喧しくなる。そ
れぞれの花は小さいけれど、薄い紫のコアジサイの良い香り。青いヤマアジサイ。サワギ
クの繊細な黄色がなかなか綺麗。ふと見た山道脇にはササユリまであった。

 流石に直射日光の下では暑い。吹き出る汗を拭き拭きだが、木陰は涼しい。奧駈道が通
る緑深い稜線を見る頃になると、谷から吹き上げる風が心地よく、額の汗を乾かせていく。
エゾゼミだろうかヒグラシに似た声で大合唱する中を登っていく。少しペースが落ちて、
顎が出だした頃合いにお助け水はある。ほっと一息。祠の下からの湧き水を幾度か掬って
口に含む。甘露甘露。(^_^)

 今日もトースト一枚とコーヒーで家を出てきたのだった。腹の虫がそろそろぶつくさ言
いだした。床几に座って、定番の赤飯おむすびだ。

 二少年遭難碑のある辺りが七曲り。山頂までは2260m。そこから10分で奧駈道と
の合流点の洞辻茶屋に出る。「休んで行け」と売店のおじさん。それを尻目に急ぐ小生。
隣は陀羅尼助を売るだら助茶屋。草鞋履きかえ所からは岩だらけで、いよいよ行場に来た
という感じがする。

 油こぼしには木の階段。これが結構長い。しかし振り返れば重畳と続く山々が眺められ
て気分がよい。そして最初の難関「鐘掛岩」。高さ10m位の直立の岩である。岩の直下の
木製のテラスには「最近、素人のみで修行と称して登り、難に遭っているので注意云々」
といった趣旨の注意書きがあって、いやがうえにも怖さを増幅する。前回はそれもあって
無難に迂回路を選択したが、二度も迂回するのは男が廃る。で、今回は勇気を鼓して登っ
てみることにした。とは大袈裟な。(笑)

 取り付いてみると見た目よりはごつごつと凹凸があって登りやすい。が、最後の鎖の部
分は足の運びを間違うと、腕力で登らねばならない羽目になる。幸いそんなことにもなら
ず無事登頂。(^^; 岩の上には役行者像が祀られてあって、供え物の線香や蝋燭の束が置
かれ、おじいさんが番をしている。土日に上がってきて番をしているそうだ。5年前に来
た時はリンドウが花盛りであったが、今は勿論葉姿のみ。他にはドウダンツツジやイワカ
ガミが目に付くが、ここのイワカガミは日本海側に比べて葉が極めて小さい。

 ところで、この鐘掛岩からの景観はいつも素晴しい。北に和泉、金剛、葛城、二上と続
く山並が指呼の間。その手前には吉野川が作る平野部と町並があり、明日香や橿原付近も
見渡せる。竜門岳が裾野を引き、北東に一際目立つのは高見山の三角錐。近くには大天井
岳から四寸岩山へと続く奥駈道の延びる稜線。西にはいかにも山に抱かれたという感じの
洞川の町と稲村ヶ岳、大日山がそびえる。そして、東の直下にも集落があったが、おじい
さんに聞けば川上村柏木の大迫地区だということであった。

 景観に別れを告げて岩を降りる。役行者の祠のある等覚門を抜けると、何やら声が聞こ
える。それは西の覗からで、おりしも修行の真っ最中。命綱を付けた小父さんが逆様に。
その小父さんの足首を持つ人、命綱を支える人。直下の岩の窪みに不動明王か何かが祀ら
れていて、それを拝まねばならないようだ。そして最後にズルッと一気に綱を緩めて、ず
りおちそうに思わせて修行が終わるのだ。「あんたもどう?」と勧められたけれど、元来
の高所恐怖症、とてもとても。横の岩の先端に立って、修行中の写真を撮るだけで精一杯
でありました。
西の覗で修行中

 桜本坊、喜蔵院等、宿坊が4軒。その間を抜けて大峯山寺へ参る。これだけの高所に建
つ木造建築としては日本一ということもあって、お堂は重要文化財に指定されている。堂
内はひんやりとしていて寒いくらいだ。寒暖計を見るとなんと16.5℃であった。堂守の坊
さんに朱印をもらい、無病息災、家内安全を祈っておく。

重要文化財指定の大峯山寺

お堂を出た向かいがお花畑への遊歩道。1本のオオヤマレンゲがあったがまだ蕾である。
そこから50m程進んだ所に左に入る踏み跡があり、それを辿れば湧出岩の前に一等三角
点が置かれているのを目にすることが出来る。斜めに割れたイセ一貫堂のプレートがあっ
た。

 さて、元の踏み跡に戻ると、目の前には弥山、八経ヶ岳、釈迦ヶ岳へと続く大峰主稜が
見渡せる大展望台と化す。西に折れて大パノラマを横目に3分程歩けば、レンゲ辻への道
を分けて日本岩に出る。ここからの展望はまた格別。川瀬谷を隔てて稲村ヶ岳、大日山が
居並び、金剛、葛城から和歌山の山々や西の覗の岩壁の向こうには吉野に続く稜線が一望
なのである。前回もここで昼食したのだが、今回も勿論ここで。

山頂のお花畑。奧の森が湧出岳
お花畑から稲村ヶ岳。奧は弥山、釈迦ヶ岳

 日本岩での食事を終えて、少し戻って左に折れて宿坊への道を辿る。パラパラと釣鐘状
の花が落ちているので見上げると、やや盛りを過ぎたサラサドウダン。結構大きな木で高
さは3m程あるだろうか。気づけばあちらこちらにあるものだ。

 龍泉寺の玄関前を抜けて、往路に合し、西の覗、等覚門と下っていく。下からどんどん
講中の人々が上がってくる。ここ大峰では「今日は」の代わりに「よう、お参り」が挨拶。
が、こちらは単独、あちらは団体。だからあちらの挨拶は一回きりでいいけれど、こっち
はあちら全員にしなければならないから大変だ。「よう、お参り」の連呼。(笑)

 往路とは違って、巻き道の木の階段を下っていけば一寸は挨拶の量が減るかな?(笑)
というわけでそちらを選択したら格段に人は少ない。うまく行ったぁと思ったのも束の間。
最後の最後に全員山伏姿のグループに遭遇だ。「ひえー。」

 「だらすけ茶屋」に出る。更に「洞辻茶屋」では左の下山路を降りずに直進する。途端
に人には会わなくなった。

 ここを歩くのは二回目。その時は今回とは逆に大天井岳に登ってから洞辻茶屋へ南下し
たのだった。無人雨量観測所の建物を左に見て、細くなったり、広やかになったりと変化
する稜線上を歩いて行く。尾根は大天井岳へ真直ぐには向かわずに、暫くは右に迂回した
後、近づいていく。雑木のトンネルを抜けた時である。小鳥の声とセミの声の中に人の声
が混じっているような気がして、ふと立ち止まって耳を澄ましてみる。やはり人の声だ。
暫くすると、大峯山寺の本堂脇で休憩していた若者の団体がやってきた。ジャージに和歌
山の橋本高校とあった。引率の先生に聞くと近いのでよく来るのだという。夏山の練習の
ようであったが、やはり若さとはすごいもので、かなりの早足。お先に行ってもらおうと
道を譲る。

 雑木林が窓の様に開いて、山上ヶ岳の全貌がよく見える場所に出る。山肌にへばりつい
たような宿坊の建物も見える。難所の蛇腹に来ると今度は南西側が開けて、大天井ヶ岳が
眺められる。さっきより幾分大きくなって、ということは近づいたということだ。

五番関への奧駈道で見られるブナ林

 ブナ林の美しい尾根で小休止している高校生を尻目に先を急ぐ小生。間もなく現れた鍋
冠行者の祠も修理されていて、横には物置まで設置されていたが、鍋冠の名前にあやかっ
た大きな中華鍋はそのままであった。建てられた石標には165丁。吉野までまだ20q
近くあるのか。千日回峰では吉野から山上ヶ岳迄、毎夜往復しなければならないという。
まことに超人的な所業と云わざるを得ない。

 新道と古道との分岐に出る。前回は古道を歩いたので今回は新道を選択。新道は小天井
岳の山裾を巻く感じでつけられているが、若干歩き難い部分がある。

 右手のかなり下に舗装林道が見えてくれば五番関も近い。やがて女人結界門が現れて、
丈の低い草むらになった五番関に到着である。前鬼と後鬼を従えた役行者を祀る祠がある。
ウツギの白い花が咲く辺りに座って小休止をとる。その内に高校生もやって来て今度は先
に降りていった。

 五番関から舗装林道迄はきつい下りだが、距離は短く10分程度。五番関トンネル入口
からつづら折れを下ると、間もなく毛又谷の清流が現れる。アマゴを狙う釣り客の姿もち
らほら見受けられる中を30分弱。愛車が見えてきた。

 心地よい疲れの中で装備を解く。何時きても心癒される大峰山。今年は世界遺産に登録
されるという大峰山。必要以上に今後、開発、整備されないことを祈りたい。

【タイムチャート】
6:20自宅発
8:45〜8:50林道毛又谷線(駐車地)
9:07一ノ世茶屋
9:34一本松茶屋
10:00〜10:08お助け水
10:17七曲り
10:27洞辻茶屋
10:39だら助茶屋
10:40〜11:40鐘懸岩、西の覗等うろうろ
11:40〜11:55大峯山寺
11:58山上ヶ岳(1719.2m 一等三角点)
12:10〜12:40日本岩(昼食)
13:15洞辻茶屋
14:00〜14:05鍋冠行者堂
14:20〜14:27五番関
14:37五番関トンネル西口
15:05林道毛又谷線(駐車地)


山上ヶ岳のデータ
山歩満喫、爽秋の山上ヶ岳
他に、『翠嵐の奧駈道に気分は行者〜大天井ヶ岳
を参照下さい
【参考】エアリアマップ 山と高原地図『大峰山脈』



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