花吹雪舞う大杉ダムから親不知
平成16年 4月11日(日)
【天候】薄曇り
【同行】単独
スタートの大杉ダム堰堤からの桜。さながらピンクの雲


 ナカニシヤの『丹波の山』シリーズを紐解くと面白い名前の山があるものだ。その中で
もとくに惹かれる『親不知』。京都府と兵庫県を隔す山で、市島町では五台山に次ぐ高さ
を持つという。それが最近、地元の方々のご尽力で登山道が整備されたと聞き、出かけて
みることにした。天気にも恵まれ、人気の五台山にも近いので、そこそこハイカーにも出
会うかと思いきや、最後まで人には全く会わず、枯葉を踏みしめる音と鳥の声ばかりの静
かな山歩きでありました。

 今回のコースは大杉ダムから東南尾根で親不知へ登り、西南尾根を下って鴨内峠に出る
というもの。鴨内峠の麓の弘法水の広場から大杉ダムまで、歩けば1時間以上は要すると
ころを、持参のミニサイクルで戻るという趣向。雨でも降られると嫌なところだが、空を
眺めれば薄雲に覆われてはいるがその心配は皆無のようだ。7時過ぎ、いざ出発。

 木々は薄緑に萌え、山桜の白、ミツバツツジの赤紫に彩られるこの時期は、丹波の山々
が最も綺麗な季節ではないだろうか。そんな光景に目を奪われながら、案外早く春日IC
に到着。いつもはここを左折するのだが、今日は右へ、R175を暫く北上することにな
る。市島町の町役場を過ぎ、八日市の交差点で西へ折れると後は一本道。鴨坂の集落を抜
けて山懐に飛び込む手前まで来ると弘法大師像が立つ広場がある。

 大師像の下から清水が流れている。『狸穴の命水』別名『弘法水』。知る人ぞ知る名水
で汲みに来る人達が多いそうだが、今日はがらんとして誰もいない。すぐ近くでウグイス
がいい声で鳴くばかりだ。ここはまた五台山、親不知の登山口の一つでもあるが、こちら
から登る人もいないらしい。

 市島町が設置した案内図の柱に自転車を繋いで、出発地点の大杉ダムへ向かうことにす
る。途中で北に折れて暫くすると前方にピンクに染まった木立と大杉ダムの堰堤が現れる。
その堰堤手前にトイレつきの駐車場があったので、車を止める。ここも先行車は皆無であ
る。

 それにしても凄い花吹雪。準備する内にも、風に煽られて花びらが車内に舞い込む程だ。
桜並木を抜け、ダムの堰堤に出ると、下の公園が桜でピンクに染まる様は見事である。パ
チリとカメラに収めておく。(冒頭の画像)

 弁天さんのものらしい祠を左に見て、アメジストをばら撒いたが如くそこここで咲くタ
チツボスミレに色どられた湖畔の道路を暫く進むと、右手に遊歩道の標識が目に付く。こ
れらしいと導かれるままに進むと、桧の人工林である。ヒゴスミレなどを見つけながら、
緩々と道なりに行くと、間もなく関電の巡視路標識と親不知登山口の標識が現れた。

 関電の黒いプラ階段が斜面を伝う。のっけから急登。日向のツツジの、あの少しツーン
とする匂いの季節が今年もやってきた。それに混ざるは春を感じさせるヒサカキのガス臭。
額が汗ばむ頃、尾根の突端に出る。三差路になっており道標がある。東への尾根にも切開
きがあるが、これは荒木山へ向かう道なのだろうか。ひと休みしているとズボンに黒いゴ
ミが点々と付着しているのに気付いた。払おうとするが、どうも普通のゴミじゃない。も
しかして....。そう、ダニである。慌てて払う。たかられたのは幸いズボンだけらしかっ
た。と、今度は足元に赤黒まだらの派手な蛇。トレッキングポールでつつくが、いっかな
動きそうもない。仕様がないのでポールで掬いあげて放る。帰宅して調べるとジムグリの
幼蛇であった。

 そこから高圧鉄塔は直ぐ。鉄塔の立っている所は展望がよく、西にダム湖や駐車場、東
に市ノ貝方面が見渡せる。ところでこの鉄塔は北摂長田野線bP31。この名称、何処か
で見かけた覚えがあるのだが、どうも思い出せない。

 尾根に乗ると一気に傾斜は緩んで、小さなアップダウンが続く。すぐに312m標高点。
いい雑木林なのに無粋なのはPPテープ。ご丁寧に何重にも張り巡らせてある。マツタケ
シーズン中は通行禁止、禁を破った者には入札価格の3倍もの罰金との物騒な立て札もあ
る。してみると余程マツタケが出るのだろうか。

 マツタケのお蔭で幅広の切開きはルンルン気分で歩ける。そろそろ出現しだしたクモの
糸さえなければ尚のこといいのだが。

 コケズラシは少し登った小さなコブでしかない。雑木に囲まれた切開きには、赤白ポー
ルと落ち葉に頭の先まで埋まった四等三角点(点名『市ノ貝』)標石と竹田部落境界と刻
まれた石標があるのみ。東南方向にも踏み跡があるのは市ノ貝方面へ下るのだろうか。

 ところで、コケズラシとは面白い名で「ズラシ」とは木を伐採して降ろすことらしい。
コケズラシのすぐ北が鞍部で、大杉ダムキャンプ場からいい道が上がってきて、市の貝方
面へ下っているから、全くの想像だが、この道を利用して木をずらしたのかもしれない。
尚、ここには「親不知2q」の標識がある。

 ようやくPPテープがなくなると同時にやや傾斜も厳しくなってくる。と、二抱えはあ
りそうな大きな樅の木が現れた。その後は倒木も増えてやや荒れた感じを受ける広い尾根。
いつか桧の人工林となり、北西に方向を変えて467m峰を越えると殆ど水平道である。
市ノ貝の杭が所々にある。水平道が再び登りになると、前方に大きな岩が現れた。登って
みるとなかなかの展望で南にダム湖、北に福知山市街が見渡せる。ザックを降ろししばし
の休憩モード。
ミツバツツジ咲く展望岩から大杉ダム湖

 展望岩からすぐにCa500m峰でここには福知山市室からの登ってくるテープがある。
この辺りから府県境となって小さなアップダウンが続く。それぞれ巻き道らしい踏み跡が
あるが、律義者の小生は忠実に尾根を辿る。(笑)そして疲れて「あと500m」の標識の
横で再び小憩。

 尾根は一旦、南に曲がって再び西へ向くという風にやや複雑に曲折する。道はCa550
m峰を巻いたようで、手元のGPSはいつの間にか、次は親不知を指している。

 なんとも柔らかい曲線をした地面に、落ち葉が敷き詰められた谷の源頭の雑木林を左に
最後の登りをこなすと整備された親不知山頂に飛び出した。

親不知山頂

 山頂は中央に松が2本ある小さな広場で、東側が伐採され、ベンチの他に展望図まで設
置してあり、大杉ダムからの尾根コースが白く塗られて良くわかる。えっちらおっちら、
よく歩いてきたものだ。

 その展望図の横に立って見下ろすと、大杉ダムの湖畔道路を走る釣り客の車が豆粒のよ
うである。更に目を上げれば親不知の南東尾根の向こうには竹田川を挟んで高谷山。そし
てその奥に良く目立つのが多紀アルプスで、三岳、小金ヶ岳、西ヶ岳、鋸山、夏栗山、黒
頭峰と重畳と居並んでいる。北東の福知山市街では由良川の蛇行する姿とアーチ橋がまず
目に飛び込んでくる。それなら鬼ヶ城や烏ヶ岳はあれだろうかと霞む山を眺める。

 ところで、問題なのは三角点標石。市島町の設置した山名板の前にあるのだが、これが
まことに酷い姿。角が大きく欠けているだけでなく、一度真っ二つに折られたのをセメン
トで接いだような痕跡がある。人為的にしないとこうはならないであろう。日本人ってこ
こまで公徳心がなくなったのだろうかと思うと少し悲しいものがある。

 ベンチに腰掛けて一休みしていると、向山のたぬきさんから電話。受話器の向こうから
賑やかな声が聞こえているから、満開のヒカゲツツジにさぞ興奮しているのに違いない。
それにひきかえ、こちらは全てを独り占めである。

 未だ先は長い。一寸早めの昼食を終えて鴨内峠への縦走に入る。石混じりの道を急降下
するとすぐに大きな石が転がるCa570m峰。ここで間違いやすいのはその東南尾根。道
なりに進むと引き込まれてしまう。おまけにテープまであるから要注意だ。南西方向を探
すと落ち葉に隠れて丸木階段が見つかる。急降下を鞍部へ、登り返すと537m峰で『親
不知0.5km』の標識がある。大原神社からのコースはここへ出て来るそうで、祠跡があ
るはずなのだが見落とした。

 この付近の尾根は広く、要所にある親不知までの案内標識のキロ程が大きくなるので分
かるものの、それがなければ今どの辺りを歩いているのか判別が難しいくらい良く似た風
景が続く。片側がリョウブ、ミツバツツジ、アセビ、オオカメノキ、アカマツなどが混生
する雑木林、もう一方が桧の植林ということが多い。この尾根にも大きな樅が太い幹を直
立させているのに出会う。道はここまでしないでもというほど大きく切り開かれているが、
それがかえって落ち葉に覆われて分かりづらくしているなという感じである。その間に4
47m峰を始め、短いが結構きつい登り下りがあり、その数はちょっと数え切れないくら
いだ。右手にちらちらと見える水面は豊富用水池らしい。途中の454m峰には大きなヌ
タ場がある。周囲の木は泥を擦った痕がくっきりと残る。が、獣臭い感じはしなかった。

ヌタ場。周囲の木の根元が土で汚れている

 クロイシ山への登りの途中には大きなヤマザクラが散りそめの頃。歩く内にもホロホロ
と白い花びらが舞い落ちる。ソメイヨシノもいいけれど、人知れず咲くヤマザクラこそ本
当の桜であろう。100m程の登り返し。これが結構きつい。途中で立ち止まっては歩い
てきた方角を振り返る。途中、伐採地があって左が開けて五台山や三岳を見晴るかす部分
があった。

 クロイシ山の点名は『曼田良』(まんだら)。何の変哲もない雑木の山だが、面白い名
前がつけられている。この辺りは石像寺や白毫寺等の古刹が散在し、五台山や五大山、鷹
取山に峰入りする修行者もあったというから、密教系の云われが何かあるのかもしれない。

 道はここから分水界の道となり南にとほぼ90度方向を変える。暫くすると氷上側が開け
た展望の良い場所に出る。安全山、篠ヶ峰、粟賀山等が屏風の如く居並ぶ姿が眺められる。
しばし佇んでいると、ハラハラと白いものが落ちたと思えばタムシバの花びら。ぷーんと
またヒサカキの匂いが鼻腔を刺激する。

 再び、雑木林に入り、深くえぐられた道を降りていく。所々には、五台山だったかでも
見かけた『幸世村境界』と刻まれた石標が立つ。途中で右に折れるように下り、やがて通
せんぼするような倒木を跨ぐと鴨内峠であった。

鴨内峠。南へ行けば五台山、北に行けば親不知

 鴨内峠はいかにもこれが峠という風情の峠。享和3年というから今から二百年前の年号
の銘がある地蔵菩薩の祠もあって、古くからの大切な道であったことが分かる。けれども、
東西に立つ氷上町と市島町の公式標識が何とも雰囲気にそぐわない感がある。

 それにしてもこの付近は「カモ」と名のつく地名が多い。鴨坂、鴨内、鴨庄。近くに鴨
神社もある。古代はカモ族の土地であったに違いない。そういえば、風景がカモ族の本貫
の地である奈良の葛城の麓に似ていないこともない。地図を眺めていたら、近くに風森一
宮神社という名の神社まであるのに驚いた。(葛城の高鴨神社付近には「風の森」がある)

 鴨坂への道は一間幅の植林帯の中のつづら折れ。五台山までの距離標識が頻繁に立って
いる。鎮座する大きな岩を巻いて下ると、地道は舗装路に変わり、明るくなった所が弘法
水の広場であった。

 弘法水は上部からパイプで引いているらしいが、置かれている柄杓で飲んでみると、こ
れが冷たくて美味い。五臓六腑に染み渡るようであった。

狸穴命水(弘法水)

 人心地がついたので、やおら腰を上げた時だ。
「ありゃ?」
見ればザックのポケットのジッパーが空いているではないか。慌てて中身を確かめるに、
無い!免許証入れが無い。これはえらいことですよ!そんな古いギャグを云ってる場合か!

 ポケットを開けたのは何処でだろうと反芻してみる。そうそう鴨内峠のお地蔵さん
デジカメに収める時、予備の電池と交換したのだった。ということは鴨内峠からここ迄の
間ということになる。疲れた足を引きずって登り返したら、もう少しで峠というつづら折
れの途中に落ちていた。

 「フーッ」一安心。道の真ん中に座り込んでお茶を一息に飲む。安堵感で一気に疲れが
湧いてでた感じである。約40分のロス。それにしてもよく気がついたものだ。弘法水を飲
まなかったら、後で気づいて取り返しのつかないところであった。これも弘法大師のお導
きのお蔭だ。(^^;

 改めて自転車に跨って大杉ダムを目指す。ずーっと下りで漕がずとも良いから楽チン。
結局、大杉ダム分岐まで殆ど漕がずであった。尤も、そこからはダラダラ登りの為に、疲
れた足には少しきつかったが。

 朝には落花盛んとはいえ、まだピンク色をしていた桜が、今は早や赤い花柄と黄緑の若
葉が目立つばかりになっている。桜もまた来年だねと装備を解いている時、何気なく携帯
を確かめると着信画面。たぬきさんからである。向山から下山して、皆さん、たぬき邸で
寛いでいるというので顔を出すことにする。

 父たぬきさんに出迎えてもらって、お庭に入ると室内から大きな笑い声。だいぶ盛況ら
しい。OAPさんや是兼さん、北山さん、中井さんらに混じってはりまおさんの顔も見え
る。こりゃあ賑やかでない方がおかしいはずだ。(笑)

 ひとしきり話に興じていると時間の経つのは早いもの。明日は仕事、高速が混まぬ内に
とお暇する。思わぬハプニングに肝を冷やしたけれども、三週間ぶりにたっぷりと堪能し
た山歩き。花々で賑やかな丹波の春は本当にいいものである。最後に、突然の押しかけに、
ジュースやお菓子をまたまた頂いてしまいました。たぬきさんに感謝です。


ルート概念図はこちら

【タイムチャート】
7:20自宅発
8:50〜8:55弘法水(五台山登山口)
9:05〜9:10大杉ダム駐車場(駐車地)
9:18遊歩道入口
9:25親不知登山口
9:34高圧鉄塔(北摂長田野線bP31)
9:42312m標高点ピーク
9:51〜9:56コケズラシ(310.3m 四等三角点)
9:57オートキャンプ場分岐のあるコル
10:16467m標高点ピーク
10:19〜10:26展望岩
10:27室分岐のあるCa500mピーク
10:36〜10:40親不知まで500m道標
10:50〜11:40親不知(604.6m 三等三角点)
11:45Ca570mピーク
11:52537m標高点ピーク
12:06〜12:08447m標高点ピーク
12:30〜12:34454m標高点ピーク
12:57〜13:07クロイシ山(555.9m 四等三角点『曼田良』)
13:20鴨内峠
13:40弘法水(五台山登山口)


コケズラシのデータ
【所在地】兵庫県氷上郡市島町
【標高】310.3m(四等三角点)
【備考】 親不知の東南尾根上の峰の一つです。名前の由来は伐採
した木を滑らせて下ろしたことに由来するようです。尚、
全く展望はありません。
親不知のデータ
【所在地】兵庫県氷上郡市島町、京都府福知山市
【標高】604.6m(三等三角点)
【備考】 兵庫県と京都府の境にあって、市島町では五台山に次い
で高い山です。近年、登山道が整備され、山頂からは東
方向が伐採されて展望がよく、市島町から福知山市、遠
く多紀アルプスが一望できます。
クロイシ山のデータ
【所在地】兵庫県氷上郡市島町、京都府福知山市
【標高】555.9m(四等三角点)
【備考】 親不知から西南に延びる尾根沿いにある峰です。雑木の
中で展望はありませんが、日本海と瀬戸内海の分水界を
なす山でもあります。
【参考】2.5万図『黒井』、『福知山西部』



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