正攻法で春めく三岳、西ヶ岳へ
平成16年 3月14日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独
火打岩より多紀アルプスの盟主三岳を望む


 めっきり春らしくなった今日この頃。この週末は久しぶりに好天だという。どこへ行く
というあてもなかったものだから、この絶好の日和に一寸慌て且つ一抹の焦りも覚えたが、
色々、考えているうちに、久方ぶりに多紀アルプスへ出かけてみるかと気持ちが固まる。
今までは手抜きではないけれど、大タワが起点であることが多かったので、今回は火打岩
から正攻法で行こうと決める。一体、どの辺が、何が正攻法なのか良く判らないけれども、
このルートは『正面道』とも呼ばれるからそうしておこう。(笑)

 この前のポンポン山みたいな長い車道歩きは嫌なので、今回は自転車持参。まず下山予
定地の大タワの駐車場に積んできたミニ自転車をデポしておいてUターン。登山口のある
火打岩(ひうちわん)へ戻る。丁度折りよく、日交の乗合タクシーの乗り場横に3台程度、
車の置ける広場があり、利用させてもらうことにする。

 火打岩は篠山盆地の北側に、屏風を立てまわしたように屹立する多紀アルプスの山懐へ
忘れられたような長閑な集落である。少し北側へ歩いた所に川魚でも飼っていたのか庭園
風の池があって、その横に御嶽道の標識がある。民家の板壁には三嶽登山口の案内が掲げ
てあって、軒先を間の路地を抜けると小さな棚田が広がり、薄暗い植林の中にコンクリー
ト擬木の階段が吸い込まれている。

棚田を抜けると登山口

 人の声が聞こえた。ふと見回すと、山裾に割烹着をつけた小母さん二人、木の枝を抱え
ている姿が目に入る。抱いているのはヒサカキのようだ。そういえばお彼岸も近い。

 右に古い墓を見て桧林の中を登る。下からは田起こしの耕運機の音が追いかけてくる。
植林帯はすぐに終わり、周囲は雑木林となってつづら折れに高度を稼いでいく。小さな支
尾根に出るとそれも緩やかになり、すぐに案内標識のあるT字路。瀬利の御嶽道口からの
道である。「黒岡川沿いの里をたずねる道」とある。三岳まで2.4`、火打岩まで0.
7`。と書かれた指導標もある。

 右に曲がると道は丈の低い笹の中の平坦道。ここ数日、暖かかった為か、もうクモの糸
がまだ芽が固いツツジの枝にかけられていて少々鬱陶しい。深く洗掘された道は、尾根を
微妙に外しながら続いている。昔の人はうまく道をつけたものだ。途中にあるザレ場では
左手が開けて、黒岡川の上流の広い谷を隔てて松が目立つ隣の尾根が見える。新しく林道
が延びているとみえ、赤茶けた地肌が帯状にむき出しになっているのが少し痛々しい。

 鳥居堂跡は尾根の突端のような猫の額位の台地で、今は笹に覆われている。三岳の修験
道が盛んなりし頃に小さな建物があった由だが、衰退時に、それも大売神社に移されたと
いう。道はここで左へ曲がる。ようやく間近に三岳の姿が現れる。まだまだ登らんといか
んなぁ。距離は稼いだけれど、初めを除いてほとんど平坦道だったものなぁ。ということ
は最後はかなりの急登だろうなとの予感どおりの展開がこの後、待つことになる。

 再び北に向いた道を辿ると『水のみ場』と書かれた古い篠山町の案内標識。しかし、す
っかり枯れ果てたのか、全く水場らしきものはなかった。山あいを直進する踏み跡もある
が、三岳へは左へ折れる。するとすぐに大岳寺(みたけじ)跡である。先程の水場はこの
寺の水源でもあったようだ。ここも笹に覆われた台地で、説明板にあるように確かに人工
的な石が転がっている。元々、新金峯山といわれ丹波修験道のメッカだったが、大峰との
争いに敗れて1482年(文明14年)灰燼に帰したという。そんな説明を読んでいる時で
ある。背後でブルブルと何かが鼻を鳴らすような音を聞いた。すわっ、猪か?背筋がぞー
っと。振り向いても何もいない。空耳だったんだろうか?熊よけ鈴を一際高く鳴らそうと
ザックを揺すり、とりあえず『六根清浄』と声高に唱えてみる。(^^;

 次第に傾斜は増し加減、道はやや細り、岩混じりになってくる。と、岩陰に石仏が一体。
摩滅してはっきりとはしないが、右手に巻物を持って座禅を組んでいるのがわかる。さら
に登った所の階段状の岩には、これははっきりと役行者の石仏だと分かる。

 踏み跡から少し左に外れてテラスの如く張り出した展望岩があるので寄ってみる。これ
がなかなかの絶景。南を中心に180度のパノラマ。篠山盆地の向こうには三国岳、大野
山、弥十郎ヶ岳、深山など摂丹国境を区切る山々や西には大きく西ヶ岳。遠く白髪岳、笠
形山、西光寺山などが眺められる。しかし、下を見たらいけない。足下は切り立った断崖
で、少々高所恐怖症の小生、思わず足に力が入る。

展望岩から西ヶ岳

 ここからはツツジ類が目立つ大小の露岩がある岩場。ミニ岩場攀じりもあって面白い。
東に見えていた小金ヶ岳もいつの間にか同じ背丈になってくる。

 岩場を乗り越えると再び桧の人工林。簡易トイレのある東屋を見て、少し登れば多紀ア
ルプスの主稜線で、見覚えのある岩室。今日は扉が開かれている。覗くと役行者の像やそ
の他の石仏が安置されてある。1枚写真に収めさせてもらってから頂上へ向かう。

行者堂の岩室の中の役行者

「ありゃ?誰もいない。」大タワには数台の車があったのに。みんな小金ヶ岳に向かった
のだろうか?コンクリ製の大きな方位盤に座って山頂を独り占めして昼食の用意。と、単
独兄さんがやってきたがすぐに引き返していく。結局、今日会ったのはその人だけであっ
た。

 うらうらと眠たくなる陽気。タテハチョウが羽をのんびり開閉させている。しかし風は
やはり3月のもの。じっとしていると少し冷えてくる。コーヒーを飲んだ後は西ヶ岳に向
かって出発だ。

 一気に勿体無いほどぐんぐん高度を吐き出す。目の前の西ヶ岳がえらく大きく見えてし
まう。こりゃ登り返すの大変だぁ。しんどいな。やめよっかな。と生来の安穏・怠け癖が
頭を擡げる。

 Ca700mピークを越える。この辺りは雑木が茂っていなければ、結構な痩せ尾根なの
だろう。右手が開け、『西の覗』と呼ばれる大きな岩の崖が垣間見えると、間もなく栗柄
分岐である。
栗柄分岐手前の尾根から西多紀アルプス。鋸山、三尾山
黒頭峰、夏栗山が居並ぶ

その栗柄分岐を後にして驚いた。
「?」
以前は確か背丈ほどの熊笹に覆われた尾根道だったはずだったが。それがすっかり切り払
われて頗る歩きよくなっているではないか。こりゃいいわと思う反面、うーん何か物足ら
ないとも感じる小生である。(笑)

 一旦ぐんと下っての登り返しをこなした後の西ヶ岳手前の登りはきつい。ようやく、傾
斜も緩んでくると雑木に囲まれた西ヶ岳の頂上。あれぇ?ここも何か少し違う。あんまり
展望はなかったはずだが、ここも刈り払われて随分と眺めがよくなった。ここからは西多
紀アルプスも遮る物無くよく見え、鋸山、夏栗山、黒頭峰、三尾山などが一列に並んでい
るのが分かる。北側に頭を振ると、こちらは絶壁といってもいい位の峻険さだ。真下に県
道が走り、ヘアピンになっているのは鼓峠らしい。青い池、マッチ箱のような民家、草山
温泉近くのゴルフ場も指呼である。そんな展望を楽しみながら、5分程、山頂で小休止し
て取って返すことにする。
栗柄分岐付近からの三岳

 大きなお握りに似た形で、でーんと三岳が前方に蟠る。またあれを登り返さないといか
んのかぁ。大きなアップダウンで少々足は疲れ気味。勢い休憩時間は増える。それでも、
なんとか大幅に遅れることもなく三岳に戻れた。でもやっぱり人気が無い。こんな山日和
に人がいないとは、少々不思議でもある。

 さて、後は下るのみだ。しばらく平坦道を歩いて急降下に移る。車道はうねうねと大タ
ワに延び、越えていくのが見える。向かいの小金ヶ岳の頂にはちらちらと白い人影が動い
ている。それらを眺めていると足元不如意、危ない。それにしても、階段道のこの段差の
ばらばらさ加減は見事。却って余計疲れるなぁ(^^;。それでも刻々変容する景色を眺めな
がら、予想時間より早く大タワの駐車場に戻る。

駐車しているのは1台だけでがらんとしている。立ち木にロックした自転車の鍵を開けて
いると、すぐ傍で鶯の啼き声。今年初めて。なんだかんだ言っても、もう春なのだ。

 自転車の威力は絶大だ。歩けばうんざり1時間は優にかかるであろう車道歩きも、車を
置いた所迄10分足らずであった。しかも下りだからこぐ必要もない。楽チン楽チン。対向
車に気をつけながらだったが、結局、車は追い抜いていったのが1台のみでありました。

 春めく一日。丹波の山の良さをあらためて堪能させてくれた多紀アルプスに感謝です。


【タイムチャート】
8:50自宅発
10:40〜10:45火打岩(駐車地)
10:50三岳登山口
11:10三岳口道出会い
11:28〜11:29鳥居堂跡
11:40水飲み場
11:43〜11:45大岳寺跡
12:00〜12:03展望岩
12:10〜12:12役行者の岩室
12:14〜12:50三岳(793.4m 一等三角点)
13:02Ca700mピーク
13:09栗柄分岐
13:25〜13:30西ヶ岳(727m)
13:45〜13:48栗柄分岐
14:11〜14:16三岳
14:38〜14:45大タワ
14:55火打岩(大タワ〜火打岩間自転車)


三岳、西ヶ岳のデータ
冴え返りつつ多紀アルプス〜三岳、小金ヶ岳
早春の多紀アルプス〜三岳、小金ヶ岳
薫風そよぐ多紀アルプス〜西ヶ嶽』を参照下さい。
【参考】2.5万図『村雲』、『宮田』



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