貴公子花紀行〜滴る新緑とシャクナゲの三川山
平成16年 4月25日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲
三川山シャクナゲコース途中のブナ、コナラの林。
汚れのない柔らかな緑は本当に癒しの森だ


 兵庫県の香住や竹野周辺は、毎年、蟹旅行に訪れる所であるが、道路地図を眺めていて
目に付き印象に残った山がある。三川山である。何故、記憶に残ったかといえば、その標
高が888mなのである。ところがその三川山、知る人ぞ知る花の山らしい。道路地図に
も花のマークが記してあり、ヤマケイの「兵庫県の山」にも記載されている。新緑に彩ら
れた4月下旬、オフが行われると聞いて、未だ行き先を定めずにいたこの週末、水谷さん
の車に便乗させてもらえると聞いて、思わず手を上げてしまった。

 久しぶりの早起きだ。6時15分、ピックアップしてもらい、その後、もぐさん宅前経由
で中国道、播但道と辿れば、2時間もかからずに和田山。集合地の和田山公民館にはもう
殆どのメンバが集合している。主催のやまごさんの友人のHさんがやってこられた後、登
山口の三川権現に向け出発。

 麗らかな空模様に但馬の山々も新緑が映える。三川権現へはR178で一旦北側へ回っ
て改めて南下しなければならないので和田山からも結構時間を要する。佐津川を遡ること
10km。朱塗りの橋を渡るとようやく三川権現に着く。

5月3日の大祭を待つ三川権現の権現堂

 三川権現は吉野金峯山寺、三徳山三仏寺と並んで日本三大蔵王権現に数えられるそうだ。
それが天保年間の山津波で壊滅し、復旧叶わず今は昔日の面影もない無住寺だという。だ
が、綺麗に整備され、現在も5月3日には大祭があって、多くの人々で賑わうそうな。流
石にシャクナゲの名所だけあって至る所にシャクナゲが植えられており、境内のホンシャ
クナゲはピンクの花が丁度見頃。主催のやまごさんから「カタクリは終わりだけど、シャ
クナゲヤブは保証付き」とお墨付きがあったから、嫌がおうにも期待が高まる。

 各自準備をしていると中型バスがやってきた。ぞろぞろと降り立つ20数人の初老ハイ
カーは神戸から来たらしい。先着していた数台の車といい、「こんなに多いのは初めてだ」
とやまごさんも驚く。口コミやネット、前述のガイド本で広まったものだろう。こう有名
になると、得てして不心得者が現れるもの。荒らされなければ良いが....。

 三川山へは杉林の中を川の左岸沿いに遡っていく。ニリンソウやスミレサイシン、ムラ
サキサギゴケ、ミヤマキケマン、ヤマエンゴサクと早くも春の花々が賑やかなお出迎え。
傍らにネコノメソウの咲く、砂防堰堤の右の階段を登って更に遡る。丸太の橋の残骸の上
を渡って沢を横断するとすぐにシャクナゲコースと奥の院コースの分岐。自然木の標識が
ある。
シャクナゲコースと奥の院コース分岐

 のっけからかなりの急登だが、今日は意外に楽。というのも、オオイワカガミやイカリ
ソウ、カタクリなどが次々にお出ましになり、花好きの一行の足をとどめるからである。
それにしてもカタクリの群落は見事。中には登山道にまではみ出しているものまである。
但し今はもう花期を過ぎて葉姿であるが、旬にはそれは素晴らしい花畑だったのだろう。

 一方、岩尾根筋はピンクに彩られたシャクナゲの林。今年は裏作かもしれないが、それ
でもあちらこちらに花束にしたように咲き誇っているのが見られる。更に、ミツバツツジ
の色の濃さ。やや紫がかって、通常のコバノミツバツツジとは異なるのかもしれない。ま
た、目立たないがウスギヨウラクもつま紅の花を咲かせている。一向に歩が捗らぬのも道
理であろう。その内にさっきの団体さんの声が次第に大きくなる。ここは道を譲ろうと小
休止だ。

 今まで花に目を奪われていたが、新緑にもすばらしいものがある。左に見える沢筋には
樹齢2百年になろうかという大きなトチノキにホウノキ、コナラやハウチワカエデにブナ。
若葉を透かせて降り注ぐ陽射しまで淡い緑色かと見紛うばかり。沢の音や遠くで啼くツツ
ドリの声とあいまって、なんともいえぬ風情である。

 「山頂まで○○m」の標識に励まされながら、沢の源頭から右へ急斜面を登り、更に尾
根筋を辿ると、斜面の窪みには名残雪が見られるようになる。根曲がり笹も現れて、標高
もだいぶ稼いだのを実感した時だ。ふと目の前を横切る蝶。黒と黄色の縞模様。おおっ!
ギフチョウではないか。フワフワと空を舞って2m程先の枯れ草にとまった。慌ててデジ
カメを出すが、驚かせると逃げるので近づいて撮れないし、さりとてズームだとピントあ
わせが難しいし。というわけで、やっと撮れたのがこの写真。以上の理由なのでピントが
甘いのはお許しあれ。(^^;
フワフワと目の前を横切り枯葉にとまったギフチョウ

 登山道というより小さな沢かと思えるような根曲がり笹の間の道。所々に腐った雪。尚、
この付近では直角に右に曲がる部分があるので注意が必要。

山頂近くで現れた名残雪

 傾斜が緩みだした。道が西に振り出すと山頂は近い。手入れのやや悪い杉林を潜って行
くと、尾根筋にやや多くの雪が残る場所に出た。再び杉林の中、左奥にアンテナ施設。そ
こからは地道の林道風のぬかるみ道となって、200mも進めば、但馬三山縦走大会の標
識があり、目の前にKiss FM、NHKの文字が目立つ建物が現れる。山頂だ。周り
でさっきの団体さんが食事中である。

 ところで眼前に展開する光景にこれだけ落差がある山も珍しい。山頂は今までの雑木の
素晴らしさから一転、植林の中に前述のTVやラジオの電波塔施設が二棟、でーんと建つ
些か無粋な場所。数十人が食事出来る位の広場があるが、周囲は桧、杉の林で殆ど展望も
ない。唯、北方向が一部空いていて、佐津付近だろうか海岸線と漁港の防波堤さえもよく
見えるのが救いといえば救いかなぁ。三角点はNHKとFM神戸の施設の裏にポツンと鎮
座していた。

 ここで昼食。もうブヨが飛び始めているらしく煩い。あげくに大加茂さんも小生も刺さ
れてしまった。そろそろ虫除け持参の季節だ。

 例によって、昼食時に出てくるアルコール類。地酒の香住鶴やブランデー。下山は急傾
斜らしいからセーブ、セーブ。でも少しだけならねぇ。(^^;

 下山は電波塔の裏から奧の院コース。植林はしたけれど、手入れが悪い杉桧林にほぼ平
坦な道が続く。下草にはアオキが多い。その平坦さは進む方向が西から北に変わる頃に、
一気の急降下に一変する。といっても土が滑るのに気をつければそれほど厳しいものでは
ない。

 植林帯の中に少し開けた平地に出る。奥の院があったのはここだったという説があるら
しい。そう云われればそんな雰囲気もある。ここにも自然木の大きな標識があり、雪かき
用なのかスコップが立てかけてあった。

 こちらのコースも尾根筋はシャクナゲの林だ。シャクナゲコースより花はこちらの方が
多いように思う。そして珍しいのは松。直径4、50cmの大木もあって葉が短く密生して
いるのが特徴。ヒメコマツと呼ぶそうだが、五葉松の一種らしい。斜面に出ると、今度は
ムシカリ、オトコヨウゾメ、ヤブデマリなどスイカズラ科の白い花が多い。白い花といえ
ばモクレン科の花であるが、ここ三川山ではタムシバではなくコブシが主なのが面白い。

 痩せ尾根や山腹をへつったり。所々、足元が危険な部分もあるが概していい道が続く。
そうしてミツバツツジの赤紫が目立つ岩尾根に出る。ここは展望が良い。周囲は濃淡、緑
の山。里に近いにもかかわらず、修験の山らしく深山幽谷の趣がある。右手の谷を挟んだ
尾根には細いが優美な滝が懸かっている。その崖に役行者が彫ったという磨崖仏があると
いうが、判然としなかった。側の灌木に架かる火の用心の赤い注意書きは鳥取営林署とあ
る。足元にスノキらしい小さい壺形の花。

緑一色の中に赤紫のツツジの尾根を行く

 まだまだシャクナゲの尾根は続く。岩にへばりつく様にイワナシもあるが、花はもう終
わったのか実が膨らみかけたものしか見られない。急な尾根の下りはまだまだ続く。それ
でもいつしか、尾根の左右から沢音が次第に大きくなってくる。右手のこの間隠れに沢が
見え始めた頃だ。馥郁といい香りが漂ってくる。10m程、谷寄りに夥しい藤の花が盛り
である。それが谷からの風に乗って香っているのだった。しばし佇んで愉しむ。

 そこから間もなく、幅凡そ2mの沢のたもとに降り立つと、奥の院コースの登山口。面
白かった今日の花紀行もエピローグ。ふーっと一息ついて沢の水で顔を洗う。岩にはマン
ネングサ。もうすぐ黄色い花を咲かせるのだろう。

 沢沿いの疎林の中を50m戻れば、朝出発したシャクナゲコースとの合流点。堰堤の階
段を降りてシャガが目立つ道をぶらぶら歩けばすぐに三川権現である。

 これほど花に出会えるとは正直思っていなかった。文字通り百花繚乱の三川山。小生に
は近畿百名山、関西百名山に何故選ばれていないのだろうかと思えるのだが。が、かえっ
てその方が荒らされなくていいのかも。なんとも皮肉なものである。

 帰り際、前日に阿瀬渓谷で摘んだというスズコをたらちゃんからお裾分け。焼いて食べ
たら旨かった。眼も舌も満足の三川山の花紀行でした。紹介いただいたやまごさんに感謝。

 尚、三川山で見られた花々を下に集めています。


■同行 大加茂さん、Sさん、たらちゃん、のりかさん、Hさん、水谷さん、みーとさん、
    もぐさん、やまごさん(五十音順)
    
【タイムチャート】
6:10自宅発
8:20〜8:30和田山公民館駐車場(集合地)
9:50〜10:00三川権現駐車場
10:10砂防堰堤
10:15Aコース登山口
11:05〜11:10Ca500m尾根付近
11:40〜11:45Ca650m尾根付近
12:25〜13:05三川山(887.8m 三等三角点)
14:07〜14:15展望尾根(Ca500m)
14:52〜14:56Bコース登山口
15:12三川権現駐車場


三川山のデータ
【所在地】兵庫県城崎郡香住町・美方郡村岡町
【標高】887.8m(三等三角点)
【備考】  蘇武岳、妙見山と続く但馬の脊梁をなす山域の北端に
盛り上がる山です。ホンシャクナゲの群生地として有名
で、北側の三川権現から登るAコース、Bコースとも、
シャクナゲの林を潜りながらの激登りです。その他にも
カタクリ、イカリソウ、ニリンソウ、ミツバツツジ等、
花が豊富で、山頂付近はブナ林が残り、自然林の中の山
歩きが愉しめます。交通の便が悪いのでマイカーがお薦
めです。
【参考】
2.5万図『香住』



三川山で見られた花々 【04/4/25撮影】
オオイワカガミ(イワウメ科イワカガミ属)ウスギヨウラク(ツツジ科ヨウラクツツジ属)
ホンシャクナゲ(ツツジ科ツツジ属)ミヤマシキミ雄花(ミカン科ミヤマシキミ属)
スノキ(ツツジ科スノキ属)

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