新緑深まるリトル比良縦走
平成16年 5月22日(土)
【天候】曇り
【同行】単独
岳山山頂風景


 この前、蛇谷ヶ峰に登った時に眺めたリトル比良の稜線。一度歩いてみねばと思ったの
だったが、この週末は天気が良いと聞いたので実現の運びに。そして実際歩いてみると、
殆ど雑木に覆われた山々は滝有り、岩場有り、石仏有りと変化に富んでいるとともに、結
構、骨のある縦走路でもありました。

 夕刊の予報欄には、週末、久々に晴れマークがついていたのが、明けてみるとどんより
とした空。「ええ〜っ?」慌ててPCのピンポイント予報を見ると、ありゃ、15時から雨
マーク。「嘘でしょう。」

 日曜の方が良い天候ということで、順延するかどうか少々悩んだけれど、こういう時は
今迄の経験上、えてして決行した方がいい結果が出るものだ。で、「とりあえず行ってみ
るべ」と決断。でも高速代も入用だし、薄給の身、空振りだからといって翌日というわけ
にもねえ....。(^^;)、ぐずぐずとテンションの上がらない小生である。

 道路が空いているとこんなにも速いのか、8時前にもう湖西は南小松。食料調達にコン
ビニに寄っても、8時過ぎには比良げんき村の看板が見えてきた。左折してJR北小松駅
の横を抜けて暫く登っていけば、今日の駐車地と目論んだ「げんき村」な、の、だ、っ、
た、が...。

 あれ?駐車場が開いていない。よくみると開場は8時半、これは一寸誤算だった。仕方
が無いので更に登っていくが、比良山岳センターも同様で、気がつけばとうとう楊梅の滝
近く。幸い数台車が止められる空き地があった。でも下山後、疲れた足で上り坂をここま
で来なければと思うと....。(^^;

 ザァザァと激流の音。右手の石段は楊梅滝の遊歩道。足利将軍がこの地に避難した時に
命名したといわれる滝は五段あって、雄滝は落差40m。滋賀県下第一という。登山道か
らも滝は見られるというし、天候のこともあるのでここは石橋を渡って早速、縦走路に取
り付くことにする。

 のっけからなかなかの急坂である。しかも石がガラガラして歩き難い。エンジンのかか
る前の身には些かきついものがある。更に無風。湿度高めときているから、早くも汗が顔
を濡らし始める。タオルを腰にぶら下げることにする。

 カーブを曲がると東屋がある。さっきから聞こえていた水音が一段と高まり、東屋から
覗くと雄滝の堂々とした姿が現れる。最近の雨で水量も豊富でなかなかの迫力。少し見と
れて小休止である。
東屋から見る楊梅滝の雄滝

 その先にも滝を見物できるテラスがあって、地元の小父さん二人が整備作業中。
「なかなかの迫力ですねぇ」と小生。ここから滝の傍まで行けると指差す小父さん。
「いやいや、今日はここからでいいです」と返す。すると
「何処まで行く?」と再び小父さん。
「岩阿沙利山の方まで行こうかなと」
「そうか、気ぃつけてな」

 ここからは要所に一服するテラスの様な所あって、「畑の小場」、「花一」などと地名と
共に地唄が書かれた札が立てられている。唄は柴を運ぶ際に唄われたものらしい。つらい
労働を唄で慰め、合間に一服して汗を拭ったのだろう。そういえば、昔からの生活道なの
だろう、人の足で深く掘り込まれている。とりわけ白い風化した花崗岩帯に付けられた溝
の様な部分は、道と水路を兼ねた様な箇所で、雨が降ると激しく水が流れ下るに違いない。

 「花一」と名づけられた場所から凡そ5分で涼峠に出る。あまり峠らしくないが、涼峠
とはよく言ったもので、今迄無風であったものが、そよとした微風が吹いてきた。ここに
も地唄の説明板。曰く「涼みまき上げ 花一こえて ドンドと下れば畑の小場」

 ここで道は3本に分かれている。一番右は国体時の登攀競技に使われた岩への道らしい。
中央が寒風峠、左はヤケ山から釈迦岳へ通ずる。少し前に追い抜いた小父さんがやってき
た。釈迦岳へ向かうという。「お先に」と挨拶して涼峠と刻まれた石柱を右に見て、先へ
進む。

 滝の上流の流れだろう、水量豊富な沢に懸かる橋を渡る。この辺りは殆ど平坦。暫く進
むと、杉桧林の中に「オトシ」と呼ばれる湿原が現れる。そして道が沢か、沢が道か判然
としない状態が暫く続く。岩がゴロゴロ転がる辺りもあって、さながら日本庭園の趣きが
ある。突然の闖入者にサワガニが慌てて石の下。「クワークワー」と響くはヒキガエルの
鳴き声か。そんな中に古い道標があった。些か摩滅しているが「左はたみち」とあり、明
治43年と読めた。

 十年ほど前はクマザサが茂っていたのだというが、今は枯れたのか笹に悩まされること
も無い。沢の流れも殆ど音がしなくなり、再びミズゴケの繁茂する湿原の縁を廻って、少
し登ると道標の立つ寒風峠である。

 直進は八淵の滝、黒谷とある。左に向かえば西南の尾根でヤケ山である。リトル比良の
縦走路は北東に向かい、漸くここから尾根歩きが始まる。枯れたクマザサの間を急登する。
新緑からやや色の濃さを増した雑木林は人一人が抜けられる位の空間がある。Ca660m
ピークを一つ越え、大岩の裾を廻った次のピークが滝山。山頂は縦走路から少し離れた場
所にある。楊梅滝のある山だから滝山なのだろう。山名プレートが掛けられただけで展望
は皆無。でも静かである。

 山頂から少し戻って、90度左に折れて北向きに一気に降下する。この辺りは桧の植林
の中である。

 幾度かの緩いアップダウンを過ぎる。鵜川生産森林組合bTと書かれた杭の所で汗を拭
く。道は東に向きを変え、再び急降下。やがて前方が開けてきて、尾根を歩きだしてから
初めての展望となって、蛇谷ヶ峰の姿が見られるようになる。更に下ると、白い手すり。
完全舗装の林道が切通しのすぐ下に現れた。

 標高は553mだから約150m下ったことになる。鵜川越と呼ばれる古い峠で旧峠は
林道を渡ったすぐ先にある。鵜川への道は林道で完全に寸断されているけれども、鹿ヶ瀬
へはまだ古い道が残されているのが救いだ。どこかで「東京特許許可局」とホトトギスの
声。

 ここから岩阿沙利山へは胸突き八丁の一気の登りである。アシタバが目立つ。些かシャ
リバテ気味の体で漸く登りきった時である。汗を拭こうとしたら無い。タオルが。また落
としたらしい。冬なら大して汗もかかないからそのまま過ごす所であるが、今日はタオル
が必需品。この急斜面を降りて登り返すのにゾーッとしながらも仕様がない。すぐ近くに
落ちていることを祈りつつ下っていくと、ついていない時はこんなもので、旧峠近くの倒
木まで戻らねばならない始末であった。とほほ。その上、雑木が深くなったのか、この付
近からGPSが衛星を捕捉できなくなる。(結局、ここから下山まで全く捕捉できず)

 近江高島駅と書かれたオフィシャルの道標が現れた。枝道があるのかなと気にせず直進
すると、すぐにポッコリとした岩阿沙利山の山頂である。岩の横に三等三角点があって一
寸した広場になっているが、ここも眺望に恵まれない。

 小休止した後、仏岩と書かれたテープに導かれて踏み跡を辿る。どれが仏岩だか分から
ないほどあちこちに大岩がある。この岩の群れが山名の由来であろう。ところが肝心の踏
み跡が怪しくなってきた。赤テープがあったので安心していたのだが....。暫く急斜
面を降りた所でこれはおかしいと引き返すことにした。

 こういう時の登り返しは疲れるものだ。どっと疲れて再び山頂。さっきの道標が枝道じ
ゃなく正規ルートなのかもと戻ってみたらその通りだった。縦走路というからには、全部、
頂を直線的に踏んで行くものという先入観があるものだからこうなるのだろう。しかもリ
トル比良の縦走路は微妙に頂上を巻いて続いているのであった。

 100m下って鞍部に出、再び100mの登り返して683mピークへ。この付近は岩
が多い。殆どは巻き道があるが、中には登らねばならない岩もある。といっても大した事
はないが。

 空腹も限界のようなのでここらで食事と思っていたら、目の前の大きなブナの木の下が
落ち葉でふかふかの格好の場所であった。

 軽くなったザックを担ぎ、再び歩き始めると、ほんのすぐに分岐が現れ、単独小父さん
が休憩中である。聞くと見張山(音羽山)から登ってきたという。それなら鳥越峰はすぐ
近く。何かそれらしいものがあったかと尋ねると、それらしいものはなかったとの返事で
ある。見れば見張山方面が些か高くなっている。踏み跡もあるので試しに少し辿ってみる
とブッシュの中の高みに生えた痩せた木の幹に鳥越峰と書かれた私製プレートを発見した。
縦走路に戻ると小父さんはまだ休憩中。そこの高みにプレートがあった旨、教えてあげる。

 鳥越峰からは縦走路はその山腹を巻いて北の尾根沿いに下る。地形図の点線路はまっす
ぐだが、実際はジグザグ。途中、ぱらぱらとほの赤い壷状の花が零れ落ちているの見つけ
る。ベニドウダンツツジの様だ。デジカメに収めたがうまく撮れただろうか。

ベニドウダンツツジ

 鞍部を越えてほぼ平坦な尾根道になり、ふと気がつけばお馴染の緑の山名プレートや山
ランのプレートが掛かる岳山の山頂である。

「あれ?オーム岩は?」見逃したのか?そういえば途中に「Ω」と書かれた板切れか何か
があった様な。残念だが敢えて戻る気もなく、いつもの台詞だ。「まあ、ええかぁ」(^^;
岳山の山頂は狭いが岩組のある日本庭園風である。岩に上ると、丁度、蛇谷ヶ峰方面が見
渡せる。山の中腹にある集落は畑だろうか。田植えの終わった水田が整然と真四角に並び、
高島平野の向こうには琵琶湖の水面が霞んでいるのが眺められた。

 その山頂の裏手に石組の祠があって石仏が祀られている。石灯篭もあって、供花も置か
れていて、今も参詣する人がいるらしい。岳山の中腹にあった岳観音堂の奥の院なのだろ
う。石仏はお地蔵さんらしいが、よく見るとどこか大陸的な風貌である。

 面白い形の岩の間を抜けたりしながら下っていく。突然、明るい場所に飛び出したと思
えば、岩が所々に埋まるザレ場。疎らに松が生えている。前方には谷を挟んで鳥越峰とそ
れに続く見張山の尾根の全貌が眺められて気分が良い。こんな所がもう一箇所現れた。

 暫く急降下が続いた後に現れた岳観音堂。今は全く廃墟である。汲む人もなく筒から落
ちる清水の音。鍋釜が転がっている所を見ると、廃墟になってそれほど年月が経っていな
いのだろうか。一説によれば阪神大震災で崩れたというが....。

 参道に苔むした十八丁石を発見する。享保四年というから、ざっと300年以上前のも
のだ。途中に不動明王の石仏。そこから湧水が流れ出して石階段の参道は沢状態である。

 沢音を聞きながら荒れ果てた参道を黙々と下る。左手に白い花崗岩のザレ場(白坂)が忽
然と現れると、右手は石庭に風化した花崗岩の砂が敷き詰められた如き風景となり、遠く
琵琶湖や沖ノ島が見える絶景となる。秀麗で大きな石灯篭が岩場に一つぽつんとあるのが
印象的である。

白坂付近から琵琶湖。木の間に石灯籠が見える
立派な石灯籠。遠景は見張山の尾根

 小川の川床を借用したような参道は右手の水量豊富な谷川沿いに続く。マツタケ山なの
だろう両側に無粋なPPテープ。枝道が沢山あるが、「岳山」と書かれたプレートがある
ので、こちら側から登ってきても間違えることはないだろう。賽の河原と書かれた場所に
は石仏が二体。そこから10分程で長谷寺と大炊神社が見えてきて長閑な音羽の集落に入
ったことを示す。鳥居横に植えられたアヤメの青紫が目の覚めるようであった。

 あとはぶらぶらと近江高島駅へ向かうだけ。音羽のバス停で右に折れ、新しい車道をて
くてく歩けば高島中学校。左に折れて暫くで、高さ5mはあろうかというガリバーの帆船
を引く姿が目を奪う高島の駅であった。

高島駅前のガリバー

 20分程待ってやって来た新快速。北小松駅から疲れた足で楊梅滝へ。パラパラしたと
思ったら沛然とにわか雨。下山後で良かった。やっぱり小生は晴れ男だぁ。(笑)

 突然降ってきたと思ったら突然止んだ。時間があるので楊梅滝に寄っていく。付けられ
た遊歩道は雌滝まで。舞い上がる水煙に眼鏡が曇る。しばしマイナスイオンに浸って車に
戻る。麓からも滝が見えるというが、確かに国道からも見えた。

 リトル比良、薄緑から深い緑に装いを変えていく全山雑木の山、少し疲れたけれど想像
以上にいい山でありました。


【タイムチャート】
6:45自宅発
8:10〜8:20楊梅滝下(駐車地)
8:27〜8:30滝見の東屋
8:40畑の小場
8:54〜8:56涼峠
9:27〜9:28寒風峠
9:49〜9:52滝山(703m)
10:00〜10:05
10:15〜10:19林道(鵜川越)
10:50〜11:00岩阿沙利山(686.4m 三等三角点)
11:25683mピーク
11:37〜11:55鳥越峰手前(昼食)
11:57〜12:00鳥越峰(702m)
12:40〜12:45岳山(565m)
12:53ガレ場
13:05〜13:06岳観音堂跡
13:15白砂のザレ場(白坂)
13:30賽の河原
13:45大炊神社
14:05JR近江高島駅
14:30JR北小松駅
14:45楊梅滝下(駐車地)


岩阿沙利山のデータ
【所在地】滋賀県高島郡高島町
【標高】686.4m(三等三角点)
【備考】  比良山脈の主稜から釈迦岳で別れた支脈にあるリトル
比良の主峰です。全山ほぼ雑木の山で、交通の便も良く
その割りに静かな山歩きが愉しめます。JR湖西線北小
松、近江高島両駅が便利です。
【参考】2.5万図『北小松』




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