経堂の空、雨森山〜北摂の雑木山を愉しむ
平成16年 2月 8日(日)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】別掲
雨森山の取付き近くから眺める経堂の空


 この週末は北摂の山々に造詣が深い妻恋地蔵さんのお誘いで、北摂の雑木山散策に出か
けた。舞台は一庫ダムの西に蟠る山塊。といっても標高450m足らずの里山であるが、
大都市近郊にこれだけの雑木山が残っているというのは、山主さんのご努力があるとはい
え、少々大袈裟かもしれないが稀有のことと思える。その里山を妻恋地蔵さんの先導で跋
渉。古道あり、廃坑あり、炭焼窯跡あり。里山が昔の生活に如何に密着した存在であった
か、その一端を垣間見た気がする。願わくば開発という手を入れずにこのまま残して欲し
いものだ。
内馬場への道はまた『彫刻の道』でもあります

 妻恋地蔵さんのオフに参加するのは実は2回目である。幾度か機会はあったけれども、
都合がつかず、前回の三蔵山以来1年ぶり。早めに家を出たお蔭で9時過ぎには現地到着。
集合時間までには1時間近くある。それまで内馬場集落への道の入りこぐちにある空地に
車を止め日向ぼっこである。その内に呉春さん、去年、北摂大峰山でお会いした椿さんが
やって来、そろそろというわけで集合地点に向かえば、妻恋さん他の方々の顔が見える。
総勢8名。揃ったところで二台の車に分乗して内馬場の集落の左手を抜け、車一台がやっ
との村道といった風情の狭い道を北上、広谷林道の入口に移動する。ここは雨森山を訪れ
た時、民田から丹波古道を歩いてきた場所だ。約2ヶ月ぶり。その間の変化といえば、あ
の時はまだクヌギ類には枯葉が纏いついていたけれど、今は全くの裸木だ。

 透き通る青空と冴え冴えとした空気の中、ゆるゆると林道を歩く。所々で立ち止まって
は妻恋さんのお話を聞く。林道は山主さんが年に一度整備していること。作業道の分岐に
は桐の木が植わっているが、これも何かの故あってのことだとか。

 やがて、羽束山、三草山、竜王山、丸山等、付近の山々が顔を見せ始める。と、「ここ
から取り付きます。」という妻恋さんの声。「ええっ?」何の変哲もない斜面には踏み跡
らしいものもなく、勿論、テープ類もない。半信半疑で斜面に取り付く。すると、登るに
つれ、なんとなくそうかいなぁという薄い踏み跡が現れる。更によく目を凝らすと鉈目が
入っているのがわかる。その内に山腹を巻く様に綺麗な踏み跡が現れた。が、それには目
をくれずひたすら北方向に登って行くと、支尾根の上を歩くようになる。雑木林だが嫌ら
しい下ばえもなく歩くに支障はない。

林道終点近くから尾根に取り付く

 傾斜も緩んでくると小さなピークに出る。地形図で確認すると経堂の空の西側のCa38
0m峰の様だ。東に木の間越しに西峰らしい山が見えている。東に方向を変えてやや下っ
た鞍部には膝丈位の痩せた笹が生える。この辺りは踏み跡も明瞭で、山腹を巻くように登
り、若シ谷からの踏み跡を合わせて、乾いたヌタ場を抜けると経堂の空西峰である。

 経堂の空とは面白い名前だが、妻恋さんによると昔、経堂もしくは祠か何かが山頂にあ
った為ではないかという。それらしい痕跡が西峰の山頂、東峰の間にある。それはこんも
りとした円墳状の明らかに人為的な形状をしていて、その上に雑木に混じって古い杉が1
本植わっている。「瓦の破片でも出れば確実なのだが」と妻恋さん。民田からは目立つ山
だから、想像だが、水乞いを祈る小祠でもあったのかもしれない。

のっぺりした経堂の空の山頂へ

 経堂の空東峰の標高点ピークがこの一帯の最高峰。西峰からは殆ど高低差がない感じだ。
しかしこちらの山頂付近は小さな円形の空き地があって、南と東を笹と潅木が取り巻いて
いてやや展望が利く。木々を透かしてだが、妙見山から高代寺山にかけての山々が指呼に
眺められた。ところで山頂の丸い空き地は鹿の寝床だそうで、そういえば木の根元はやや
丸く掘れた感じで、鹿が集まって犬がする様に丸まって眠る光景が目に浮かぶ。

 近くに古い炭焼窯があるとのことで向かうと、ドーム状の白っぽい土で固めた感じで、
自然石を積んで囲った口があるが、早晩、崩れ落ちるほど脆くなっているようであった。

 西峰のヌタ場に戻って、今度はムネガ窯を目指して南に向かう。すぐに急降下の斜面と
なり、踏み跡も殆どない。鉈目を拾って進む感じだ。滑らぬように木々に掴まりながら降
りていくと、そこはドウセツ谷の上部、ムネガ窯へ通ずる明るい低地で、元は林道だった
と思われる位の踏み跡が走っている。そこからムネガ窯はすぐ。見覚えのある広谷林道の
上部に飛び出した。小休止。

 ムネガ窯から南へ少し歩いた所が雨森山の取付きである。どこかで山仕事をする音が聞
こえる。と、林道の前方に見覚えのある軽四輪がある。今日も山主さんが入山しているよ
うだ。

 竹薮の横から古い山道を進む。山主さんの注意書きの白いプレートは健在である。その
奧に作業用トラクタ。さっきから聞こえる音はこのトラクタの音で、山主さんが椎茸のホ
ダ木を切り出しているのであった。旧知の妻恋さんが挨拶、こちらも挨拶して、先へ進む。
見覚えある二股を左へ。ゴミのない雑木林、早春の芽だし頃もさぞかし素晴らしいだろう
なと思える。

 雨森山の北のヌタ場のある峰をミズシと呼ぶらしい。この前来た際は20m位、東に見
たヌタ場を今日はすぐそこに見る。要するに何処でも歩けるわけだ。ヌタ場の周囲の木の
根元は、どれもこれも泥で黄色く変色している。鹿や猪がダニ落としに体を擦った跡だ。
それにしても沢山生息しているらしい。今も何処かで、闖入者を迷惑顔に眺めているのか
もしれない。

ヌタ場付近の木の根元は鹿や猪が体を擦った跡だらけ

 そこから直ぐの所にまた炭焼窯。南斜面でぽかぽかしているのでここでお昼とした。

 午後の部は一旦、ミズシのヌタ場へ戻って、東の斜面を急降下する。R173号線の知
明湖に架かる鉄橋がちらちら見え、車の排気音が上がってくる。ここもテープ類は一切な
く鉈目のみが頼りだ。50m程も下っただろうか。ここにも現役に近い炭焼窯跡があって、
山腹を巻く明瞭な仕事道が現れた。それを辿ると間もなく沢に出る。ドウセツ谷だ。岩が
ごろごろしているが水は雨が降らないと枯れるらしい。妻恋さんによれば、最下流は暗い
感じの滝があるとのことだ。面白いのはこの付近には廃坑が至る所で口をあけているのと、
沢沿いに古い道の痕跡があることだ。道を支えるのづら積みの石垣がまだ一部残っている。

 そのまま下れば旧R173の龍化トンネル付近に出るそうだが、我々は合流してくる別
の沢(雨森山とミズシの間の沢)を西に遡るように付けられた踏み跡をいく。この辺りに
も廃坑が多い。それらを覗きこんだりしながら少し登った所で小休止。近くにはひょろ長
いカヤらしい木。赤い実はナナミノキだろうか。振り返れば妙見山が真正面に見える。

 ここからは西から南に振って急登する。標高差は50m程度だけれどこれが半端じゃな
い。土混じりの斜面が曲者。朽木でも掴もうものならずるずる落ちる破目になる。慎重に
歩を進める。やがて傾斜も緩んで上方に青い空が見えてくれば、伐採された雨森山の山頂
である。

 去年には無かった伐採木で作ったテーブルとベンチはボランティアの方々が設置したの
だとか。今日もなかなかの展望で、青山短大付属の博物館の城や阪神高速の吊り橋、大阪
市街のWTC他の高層ビルがよく見える。「猪名川の花火大会、ここから見るといいねぇ」
という声も飛び出す。

 山頂から少し西側に風を避けて大休止。またまた蜜柑やチョコレートなどの差入れ。毎
度頂くばかりで恐縮、古いCMではないが「私、食べる人」をひたすら実践する小生であ
ります。(^^;

 小半時位だろうか。一頻り皆で談笑した後の帰り際である。「山頂付近で出た瓦だ」と
立ち木の傍で妻恋さん。数個の黒い瓦の破片が転がる。水乞いの竜神なぞを祀った祠があ
ったに違いないが、山主さんの小さい時にはもうなかったというから、かなり昔に朽ち果
てたものらしい。そんな発見にも里山と集落の結びつきが偲ばれる。

 さて、下山は再びムネガ窯へ。この前来た時に迷ったのは何故なのか確かめようと意気
込んでいたのだが、結局、判らず仕舞い。妻恋さんの先導で、ミズシに二つあるというヌ
タ場のもう一方を経由して、いつの間にやら例のY字路の片方の明瞭な踏み跡に出てしま
った。前回はこのヌタ場は見ていないから、その手前で北東に方向転換したようだが....。
わからん。「ええいっ、まぁええかぁ!」

 山主さんはもう引き上げたらしく軽四輪の姿はない。そして林道を下りかけた時である。
「?」「あ!なんやここやったんかぁ」そうです。経堂の空への取付きは、ムネガ窯のな
んとすぐ直下だったのである。迂闊にも全く気づかなかったなぁ。(笑)

 すっかり日が翳った林道分岐に戻ると、何やら建物を建てている小父さん。聞けば烏骨
鶏の飼育舎を建てているのだとか。この辺りでは今シーズンは30頭もの猪が罠で獲れた
そうだ。ここで瓜坊を飼うかも知れぬと笑っていた。

 というわけで縦横無尽の里山ハイクも大団円を迎える。ヌタ場に炭焼窯跡に廃坑。鹿や
猪などの動物、山菜や炭の材料、それに鉱物資源と、里山が恵んでくれる諸々を利用して
生きてきた昔の人の営みがほの見える里山歩き。低山徘徊の醍醐味を満喫した今回の経堂
の空と雨森山。先導頂いた妻恋地蔵さん他、同行頂いた方々に感謝して今日を締めくくる。
綿毛のような若葉が萌え出す頃、またお邪魔したいものだ。


 ■同行: 岩崎さん、呉春さん、高地さん、椿さん、妻恋地蔵さん、政田さん、
      宮川さん(五十音順)


【タイムチャート】
8:05自宅発
9:00〜10:00内馬場、ゴルフ場分岐
10:10広谷林道入口(駐車地)
10:40経堂の空の取り付き
10:50〜11:00Ca380mピークと経堂の空西峰の鞍部
11:12経堂の空西峰(Ca420m)
11:20〜11:26経堂の空東峰(427m)
11:30〜11:32炭焼き窯跡
11:40〜11:43経堂の空西峰
12:01ムネガ窯
12:18〜12:50炭焼き窯跡(昼食)
13:03ドウセツ谷
13:11〜13:20廃坑の間歩
13:25〜13:35雨森山東の沢
13:50〜14:25雨森山(383.7m 三等三角点)
14:46雨森山取付き
15:12広谷林道入口(駐車地)


経堂の空のデータ
【所在地】兵庫県川辺郡猪名川町
【標高】427m
【備考】 日生ニュータウンの北に延びる山稜の最高峰で、雨森山
の北側に対峙します。「経堂の空」の名は北麓の民田で
の名前で、内馬場では「大山」と呼びます。東峰と西峰
があり、訪れる人も少ない静かな雑木林歩きが愉しめま
す。但し、テープ類は一切無く、地図とコンパスは必携
です。最寄は能勢電日生中央駅から『彫刻の道』を進み
広谷林道に入ります。
雨森山のデータ
雨森山〜北摂の低山で黄葉見納め」を参照下さい
【参考】2.5万図『妙見山』、『広野』



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