虚空蔵山北尾根を八王子山、山上山へ
平成16年 2月28日(土)
【天候】うす曇り
【同行】単独
露岩の尾根から虚空蔵山と八王子山(手前)


 虚空蔵山は山を登り始めてまもなくに登って以来であるから7年ぶり。摂丹国境を北へ
の縦走がいいらしいと聞いたので今回辿ってみた。結果は噂に違わぬ味わい深い尾根が続
き、不動明王や役行者の石仏やセリバオウレンにも出会え、充実した山歩ができました。

 三田西ICで降りて北上。見覚えのある表参道登山口を過ごして、旧街道の面影の残る
細い道を更に進み、JR藍本駅前の広まった路肩に車を置かせてもらう。実は当初は立杭
方面から登るつもりが、「陶の郷」の駐車場が有料と聞いたものだから、やっぱり三田側
からと急遽変更したのである。(^^; が、結果的にはこれが一番、帰路の車道歩きが短い
選択であったようだ。

 今日は予想に反して存外寒い。準備を整える間にも薄ら寒い風が吹き抜けて行く。慌て
てウインドブレーカーを着込む。

 山際に細く延びた集落の中を更に進むと、町はずれに登山口と書かれた白い案内標識が
見つかる。虚空蔵堂の裏参道だ。道標に従い左に折れると小さい墓地。その横は民家で鴨
の飼われた禽舎がある。右に現れたコンクリートで固められた川沿いに進むと、舞鶴若狭
道手前で三差路にさしかかる。ここは一番左の道を採る。するとすぐにまた分岐となる。
左は高速道の管理道の様なので、右だろうと踏んで進めば、フェンスに登山道と書かれた
小さな私製プレートを発見することが出来る。

 高速道の高架橋を潜って暫くは高速道沿い。やがて若い桧の林の道となるが非常に明快
な道。裏参道だけなら寂れようが、関電の巡視道も兼ねているから整備が行き届いている。

虚空蔵堂の裏参道

 右手の流れも細くなり、やがて消える頃になると、高圧鉄塔(東播線)の巡視道の分岐
に出るが、虚空蔵山へは直進。左手からも踏み跡が合流してくるが、これは酒垂岩からの
道だろう。ここから以降は、植林から離れて待望の雑木林である。やや石が目立つものの、
幾多の善男善女が歩いたであろう深くえぐれた道が続く。山腹を絡んで、左手に木々に覆
われた谷を挟み、鉄塔の立つ尾根が見えるようになると、道は殆ど平坦になり、どんどん
山懐へと導いていく。再び現れた巡視道の分岐を過ごすと、やや下り加減で、さっきから
左に見えていた谷の源頭と思われる小さな沢を、朽ちた丸木橋で渡る。この辺り、常緑樹
が多くやや暗い。そして間もなく表参道の整備された道に合流する。右手の尾根には直登
コースがあるのかテープが巻かれているが、これは無視して大人しく虚空蔵堂へ向かう。

 お堂へは合流地点からほんの直ぐで、石段を登れば見覚えあるお堂の前の広場。ベンチ
に単独おじさんが休憩中の他は誰も居らず静かなもの。石段横には大きな鯱の瓦が置かれ
てある。どの年代の物か忘れたが、なかなか立派なものだ。日本三大虚空蔵といわれ、女
子は十三歳になるとお参りしたものであると説明書き。賽銭を投げ入れて、道中安全を祈
っておく。
7年ぶりに訪れた虚空蔵堂

 道はお堂の向かって右、山頂まで800mの標識が立つ。すぐにこれも見覚えのある役
行者の辻。祠の近くの木には般若心経の経文が貼られてある。

 暫く、平坦であった道も厳しい登りに変わる。右から直登の踏み跡が合流してくると、
前方にようやく虚空蔵山の山頂が現れる。胸突き八丁が続くが、長くはない。丹波側の今
田町からの「陶の道」と合流する頃にはその厳しい登りも緩んで、と同時に視界が広がり、
立杭の里辺りが見晴かせる様になる。

 ネズミサシの鋭い葉、ソヨゴの赤い実が残る緩やかな尾根道を進むと山頂直下の丹波岩。
南方向の展望がよい。今日は薄曇でクリアな視界は望めなかったが、それでも雄岡山や雌
岡山がうっすら。千丈寺山等の北摂北部の山や、清水山や和田寺山等の播丹境の穏やかな
山々が眺められる。初老のご夫婦が記念撮影に余念がない。長居は無用、邪魔しないよう
に山頂へ向かう。

 流石、人気の山。山頂は数組10名を超えるハイカーで賑わっている。山頂の南側に空
きを見つけて食事とする。

 皆さん、ピストンで陶の郷か虚空蔵堂へ降りるようで、北へ向かおうとする人は皆無に
近い。僅かに山頂のテーブルで食事していた若い4人組が10分程前に出発したくらい。
いつの間にか山頂は無人になっていて、596mと書かれた山名板が手持ち無沙汰。ここ
で余談だが、地形図では虚空蔵山の標高は592m。登山者が増えすぎて背丈が縮んでし
まったらしい。(笑)

 こんないい道があったとは。7年前は全く記憶になかった素晴らしい尾根道だ。暫く進
んだ所にある露岩からは北方が広がり、白髪岳、松尾山が秀麗である。

虚空蔵山北尾根道は雑木のプロムナード
虚空蔵山すぐ北の岩から虚空蔵山北尾根を見る。
小さく鉄塔が見える鞍部の向こうが八王子山で、
遠くは白髪岳(左)と松尾山(右)

 陶の郷への分岐を過ごし、更に高圧線(丹南線)のbP2の管理道と分かれると、やが
て尾根道は左に折れて関電道に良くあるプラ階段で急降下していく。この鳥羽口にはオロ
峠への道標と山友会が懸けた草野駅への道標がぶら下がる。

 急降下が収まると丹南線bP4の鉄塔の立つコル。ここには『この先未整備、歩行注意』
の注意書きと、『右 草野、左 八王子、オロ峠』の道標がある。確かに未整備だけあっ
て、先程の道に較べれば、道も細くなり雑木の枝が張りだして歩き難いけれども、煩いほ
どにテープもあり迷う心配はない。けれど夏場は一寸鬱陶しいだろう。勿論、ここは八王
子山を目指す。

 一転、急登が始まる。といってもそれも暫くで丈の低い雑木に包まれた八王子山の猫の
額位の狭い山頂に出る。展望は南側に虚空蔵山から歩いてきた稜線が望める程度。少し憩
って先へ進む。暫く平坦道が続いた後、またまた約50m降って、やや登り返した所が三
角点のある八王子山(点名『草野』)である。少し前から話し声が上から漏れてくるなと
思っていたら、先行した4人組が休憩中だ。聞けば今田町休場辺りに降りて、『こんだ薬
師温泉』に入浴するんだとか。
「混んでますよ〜ぅ」と要らぬお節介をいう小生である。ここも雑木に囲まれた4,5人
も居れば満員の狭い山頂である。ここからも雑木の間から虚空蔵山が覗く。

 左がガレ気味の痩せ尾根を進む。いつの間にか稜線は北から東に振るのだが、注意しな
いと気付かない。突然、前方が明るく広がる。露岩の埋まる尾根だ。ここは今までにも増
して展望絶佳。白髪岳、松尾山は云うに及ばず、とんがり山、西寺山、和田寺山、上山、
清水山が一望である。北方面の直下には池が見える。東にはこれから辿る411mピーク
と油井らしい集落が山の間から覗く。

 展望を楽しんでいる間に、途中で追い抜いた先程の4人組と再び一緒になる。今田への
点線道を見落としたらしいと、地形図に見入るリーダーの兄さん。GPSで現在位置を確
認して教えてあげる。400m等高線が舌の様に東へ張り出した所だ。休場へは少し手前
の尾根がT字型に別れる左の尾根に乗る必要がある。捜してくると兄さん、戻って行った。
無事見つけられていればいいが・・・。

 露岩の尾根から急降下。岩からよく見えていた高圧鉄塔(丹南線17)のあるコルには
高圧線沿いに南北に道があるが、南へ行けば草野方面に出られるようだ。目の前にある4
11mピークに登り返すと、字がかすれた小さなプレートが1枚、痩せた木にかかるのみ
で切開きもない。再び、北に向きを変えてアカマツとツツジが枝を伸ばす痩せた尾根道を
進む。

 雑木の枝に悩まされながら行けば、突然ぱっと目の前が広がり、そこは高さ凡そ5mの
岩の上で、石仏が二つ東向きに立っておられる。片方はお不動さん、もう一方はと正面に
廻ると上部はやや剥落しているものの、役行者像だと分かる。ということは山上山はうっ
かり通り過ぎたらしい。まあ名称はつけられてはいるが、尾根の突端みたいなものだし、
一帯を山上山としておこう。(笑)

山上山の露岩上の不動明王と役行者の石仏

 ところで山上山とは大峰の山上ヶ岳をもじったものらしく、大峰の修行場を小さく模し
たものという。そういえば、虚空蔵山にも役行者像があるし、ここにも置かれてある。虚
空蔵山からの尾根道は多紀アルプスの如く修験の道でもあったのだろうか。ということは
この岩はさしずめ『東の覗き』か。でもそれにしては山容が穏やか過ぎると思えるし....
。これは勝手な憶測だけれど、近在の大峰を念ずる人々だけのほんのローカルな信仰の道
だったのかもしれない。

 岩からは東に海見山。福知山線のクリーム色の電車が冬枯れからやや青みを増した田畑
の広がりの中を走っていく音が聞こえる。巻き道もあるが、ここは真新しい鎖を握って降
りる。

 ここからはジグザグ道を降るのみ。林道が昔あったような部分に降り立つと、民家と畑
が前方に透かし見える。民家のつい鼻先を通るのも憚られるので、コンクリートの溝に沿
って左方向の竹藪に向かう。大した竹藪でもないが、風で竹の幹同志が擦れたり打ち合う
音は気持ちが悪い。背後に何かが出てきそうで。(^^;

 と、その時、ふと足元の白い物に気付く。しゃがんで眺めるとセリバオウレンではない
か。一つ気付くとあちこちに咲いているのがわかる。即、撮影モードにワープする小生で
ある。

 下小野原へ通ずる車道へ出て、突き当たり池の側を南に向かう。道端に素朴な石仏。そ
の横で野良仕事のお婆さん。
「ここらにはこんなお地蔵さん多いよ」
失礼して丸い頭を触ると、ありゃ?動くではないか。なんと丸い石を頭に見立てて置いた
だけだったのだ。(笑)日本古来からあるアニミズムの原型?はこんなものだったのだろ
う。ちょっと大袈裟か?

 のどかな田園の中を20分程歩いた草野駅は無人駅。下りのプラットフォームには券売
機もない。跨線橋を渡った上りのプラットフォームに一つ券売機があった。藍野迄は14
0円。

 電車が来る迄の10分余り、プラットフォームに立って歩いてきた方向を稜線伝いに眺
める。
「さっきまであそこに居たんやぁ」と思うと何か感慨深いものがある。そうこうする内に
電車がやってきた。日出坂峠をトンネルで越えてあっという間に起点の藍野駅であった。

 折角なので酒垂神社に寄り道する。石段の横の石灯籠は享保年間のもの。振り返ると兵
庫最古の石鳥居横にポツンと立つ松が何やら印象的である。石段を上がっていくと上から
突然声が降ってきた。
「ようお参り」
作業服を着た眼鏡の小父さん、輪番制で神社の世話役を預かっているそうだ。昔、悪疫が
流行した時、素戔嗚尊が幼童に憑依し、そのお告げの通り、山中の岩に垂れる酒の滴を飲
むと、さしもの悪疫も治まったのでここに祀ったという。神社の上の山中にその酒垂岩が
あるが、それが憑代なのだろう。そんな事どもを教えてもらい神社を後にする。四脚門横
を降りていくと、メジロらしい渋い緑の小鳥が十数羽、高い声で鳴き交わしながら一斉に
飛び立っていった。

 久方ぶりの虚空蔵山。まだまだ風が冷たいけれど、それでも梅がほころび、オオイヌノ
フグリの青い花を眺めれば、季節は春に向かって確実に移ろっているのを実感する早春の
摂丹路堪能した一日でした。

【タイムチャート】
9:15自宅発
10:25〜10:35JR藍本駅前(駐車地)
10:44虚空蔵堂裏参道入口
11:00関電巡視道分岐
11:10〜11:15虚空蔵堂
11:20役行者像
11:31陶の郷遊歩道出合
11:40丹波岩
11:41〜12:18虚空蔵山(592m)
12:26虚空蔵山北側の陶の郷分岐
12:39鉄塔(丹南線bP4)のある鞍部
12:41八王子山、草野駅コース分岐
12:46〜12:50八王子山(Ca540m)
13:00〜13:06三角点のある八王子山(496.1m 三等三角点『草野』)
13:18〜13:30露岩(Ca410m)
13:35鉄塔(丹南線bP7)
13:39417mピーク
13:50〜13:53山上山(Ca390m)
14:08油井集落の車道
14:30JR草野駅
14:47JR藍本駅前(駐車地)


虚空蔵山のデータ
虚空蔵山』を参照下さい。
八王子山のデータ
【所在地】兵庫県篠山市
【標高】496.1m(三等三角点)
【備考】 虚空蔵山の北に位置する尖峰です。八王子山はガイドに
よって三角点のある峰と三角点の無い峰の二通りに別れ
ますが、三角点のない峰の方が高いです。八王子とは素
戔嗚尊の皇子のことといわれますが、虚空蔵山の東麓に
ある酒垂神社の祭神が素戔嗚尊なので関連があるのかも
しれません。北への縦走路は踏み跡はしっかりしていま
すが、夏場は雑木が茂ると思われ、地形図、コンパスは
必携です。
【参考】2.5万図『藍本』



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