蛇谷ヶ峰〜装いは萌葱の衣
平成16年 4月18日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独
オグラス吊橋から蛇谷ヶ峰(オグラス)。右の反射板が
あるのが西峰。本峰はその奧


朽木村の東に屏風を立てまわしたような蛇谷ヶ峰。もっともこれは東側の高島町の呼び名
で朽木村では「オグラス」と呼ぶ。朽木村と聞くと山深い僻地との印象があるが、実はそ
うではない。意外や大津市、京都市と隣り合わせなのである。安曇川沿いに鯖街道(現R
367)が走っていて、かの織田信長も北陸攻めで失敗して敗走した道でもあり、足利将
軍も一時避難していたこともある。その足利将軍が隠棲していたのが、朽木村郊外の秀隣
寺で、その庭園の借景がオグラスなのである。朽木村を通るたびに気になっていた山でも
あり、雪が消えるこの時期を待って歩きに行きました。

 名神、湖西道路と走れば、朽木村まで2時間足らず。7時半前という遅い出発にもかか
わらず、9時前頃には想い出の森の「てんくう」前に到着。駐車場に持参のミニサイクル
をデポしておく。引き返して往路で物色しておいた桑野橋北側の道路沿いの空き地に車を
止める。準備するうちにも鶯がすぐ近くでいい声で。自ずから気分が高まる。

 右に桑野橋を見て左に折れ、大野の集落に入っていく。畑仕事のおばあさんに道を確か
めながら歩いていくとすぐの十字路に道標があった。先にこれに気づいていたら声をかけ
ずもがなではあったが....。(笑)

 道は自然に山に沿うようになる。ふと横の石垣を見るとキケマンやエンゴサク、スミレ
シャガに混じって、淡い青紫がかったイカリソウ。気がつけばあっちにもこっちにも。蕨
も顔を出していて春爛漫の装いである。ジグザグに高度を上げると杉林が途切れて松や雑
木が主体の自然林となる。やや単調さに倦んだ頃、視界が開けて安曇川の向かいに白倉岳
の鋭峰が顔を出す。気づかぬ間に大分登ったらしく、眼下の民家の屋根が思ったより小さ
い。
林道横の石垣はイカリソウが満開

 二本松と書かれた案内標識を過ぎ、麓から30分位だろうか、入山ポストとベンチが視
界に入った。先着のおじさんが一人一服中である。ベンチの奥に山小屋があって、「熊の
鼻ヒュッテ」「キノコ研究所」の札がかかる。ベンチ横には手書きの案内地図も懸けられ
ていて、それによると林道歩きせずとも登ってこれるらしいのだが、なんせ取り付きが不
明では如何ともし難し。(笑)噴き出した汗を拭って一休みする。

 林道の舗装はここまでで後は地道。5分程歩いて峠風の場所に着くと案内標識がある。
蛇谷ヶ峰には左の小尾根に取り付くらしい。山頂まで2.7qとあった。

蛇谷ヶ峰登山口。左の尾根に取り付く

 ここから芽吹きだした雑木主体の山道となる。松が多いが松喰い虫の被害に遭ったもの
か、枯れたり倒れたりしたものも多く、やや荒れた感じがする。殆ど平坦な林にアンテナ
施設があり、そこから距離にして10m位に「猪馬場」と表示がある。「猪に馬場」とは
何か変だけど、まあいいっか。下草も少なく、確かに猪が駆け回りそうな場所ではある。

 標識の所で直角に左折してあまり顕著でない尾根筋を行けば、ツツドリの啼く鼓の音に
似た声が聞こえてくる。枯れ松も減って、若葉が展開仕立ての雑木の林は清々しく、いか
にも山が笑うとはこのことといった風情で、その萌黄色が美しい。

日射しが明るい斜面は柔らかい若葉が萌えだして


 そんな林の中に忽然とという感じで新大野中継局のアンテナ施設が現れ、その建物を過
ぎると、ようやく急登が始まる。これが結構きつい。汗を拭く回数が増える。

 あまりに傾斜が厳しいので山腹をへつるように付けられた道を行くと、今度はコゲラら
しいドラミングの音が遠くから聞こえる。ヒノキの植林の中に二抱えもありそうな株立ち
の大きな松は残念ながら枯死している。

 踏み跡は落ち葉の堆積に消され、やや薄い部分もあるが、この付近から現れる「K○○
○」と書かれた朽木村路標が、テープとともに良い目印になる。左手には遠くにちらちら
と安曇川と朽木村の家並が小さい。

 少々厳しい登りを経て到着した791m標高点ピークで小休止である。ようやく頬を撫
ぜだした風が心地よい。かさこそと音を立てて枯葉の上をトカゲが逃げていく。ザックか
らお茶と共に小さな大福餅を取り出して頬張りエネルギー補給である。ああ静かだ。

 K211の埋設標があるピークに登りつき、大きなアセビの木の間を抜けると、やっと
という感じで、関電のマイクロウェーブ反射板が建つ蛇谷ヶ峰の西峰が姿を現してきた。
と、登山道はここから雰囲気を変えて雑木のトンネルとなってすばらしい雰囲気。が、標
高が高い為か芽吹きはまだまだである。

 年を経た大きな石楠花が現れた。今年は裏作らしく花が殆どないのが惜しい。その根方
の標識には「天狗の森」。そういえば大きな杉もあって少し雰囲気が違うなと思える。確
かに、後刻、カツラの谷に下山する時、眺めてみたら、そこだけ杉の林で黒々としていて、
天狗が羽根休めしそうな雰囲気があった。(笑)

 西峰は根曲がり竹の原で東西に長く、高い木が無いのですこぶる展望がいい。北に堂々
とした鋭鋒は武奈ヶ岳。東に全山雑木の蛇谷ヶ峰本峰。何となく鈴鹿の雨乞岳を思わす雰
囲気。
本峰への道から反射板が立つ西峰を望む
西峰からたおやかな蛇谷ヶ峰本峰。芽出しはまだまだ

 一旦、数十メートル下ってコル。最後のきつい登りを焦らずゆっくりとこなしていくと
前方に青空が広がり、蛇谷ヶ峰本峰に到着。何はさておき、まずは三角点にタッチ。今年
初めてのカッコウの声、先着は男性2人。

 背の高い木のない山頂からは楽しみにしていたすこぶるつきの大展望が待っているはず、
な、の、だったのだが、何せ霞んで視界が延びず。かろうじて琵琶湖の湖岸線。澄んでい
れば鈴鹿の山並みに伊吹山、遠く白山までも見えるというが....。それにしても久方ぶり
に鳥になった気分である。目の前には谷筋に名残雪をアクセントにしたリトル比良の岩阿
沙利山。鴨川、安曇川がくねって流れ、高島町の街並みが見える。南には武奈ヶ岳など比
良の主稜。西は案外視界がよく、百里ヶ岳らしい姿も望める。

蛇谷ヶ峰山頂から雪の残るリトル比良。琵琶湖はその奧

 一寸早めにここで昼食としたことが良かったようだ。徐々に人の数が増えてきた。10
人位の団体さんがやってきたところで場所を譲る。東へ少し下ると三叉路で、直進はさわ
らび高原(2q)、左折はふれあいセンター(4.2q)。ここはふれあいセンターへの
道へ。

 コナラやブナが主体の雑木林である。麓や中腹は萌黄色なのに、さすが山頂付近は寒い
のか、芽を吹いている枝は少ない。そんな中にあって、タムシバの白い花が良く目立つ。
梢の高い所ではコガラが忙しげだ。

 更に5分も進むと再び三叉路で、どちらもふれあいセンターに行けるようであるが、こ
こはカツラの谷経由を採る。西に反射板のある西峰から本峰への稜線を眺め、所々にある
土止め階段に注意しながら下る。高度が下がるに従って、芽を吹いた木が増えてくる。白
い花を咲かせているのはムシカリ。そしてここにも大きな石楠花がある。幸いこちらはさ
っきよりも花つきが良いようだ。葉裏が灰白色、花弁は7弁であるからホンシャクナゲで
ある。因みに5弁だとキョウマルシャクナゲ(アマギシャクナゲ)という。

カツラの谷への下山路に咲いていたホンシャクナゲ


 徐々に左手の谷からの沢音が高くなってくる。今日はその沢音が涼しげだ。ベンチが置
かれた辺りから、尾根と別れて道は谷へ下っていく。谷に降りると水神でも祭っているの
か小祠。その向かいにカツラの谷の由来になったと思われる、幹周りがゆうに3mはあり
そうな大きなカツラの木が聳えている。根元の白い花はミヤマカタバミ。ネコノメソウ、
サワハコベもある。そして目に付いた黄色い花。なんだろな。(後にトウゴクサバノオ
判明)

 何度か沢を渡る間に険阻な部分や小瀑も懸かっているのは、鈴鹿の谷にも似て深山幽谷
の趣きがある。白い山桜の花びらがさながら淡雪の様な道を下って再び沢を渡る。ついで
に暑いので沢の水で顔を洗う。ふーぅ、気持ちいい。

 沢を渡った先はやや広やかな所だ。ここにも大きなカツラが数本。秋にはさぞかし甘い
香りが満ち溢れるのではなかろうか。こちらにも入山ポストが置かれている。

 道は谷と別れて山腹を巻く道となる。良く整備されたハイキング道。下るに従って緑は
濃くなる。その中にコバノミツバツツジの赤紫が目立ち、赤松も多いなと思ったらやっぱ
りマツタケ山。松茸増殖施業試験地の標識が立っている。

 チラチラ建物の姿が見えてくると、そこはもうふれあいの里の敷地内。道なりに進んだ
右手の小さな池には白い水芭蕉が咲いていた。

 時間があったのでふれあいセンターの展示館に寄る。勿論無料。朽木の自然が過不足な
く説明されていて一見の価値がある。

 展示館の近くにあるふれあいの里と想い出の森を結ぶオグラス山の吊橋は、しっかり固
定された橋である。谷瀬の吊橋みたいなもの想像する人には一寸期待はずれ。(笑)でも
橋の上からは蛇谷ヶ峰の稜線がよく見え、ほんの数時間前まであそこを歩いていたのかと
思うとある種の満足感がある。しかし下界は暑い。豊岡では真夏日だったとか。こんな時
の舗装路はいやだが仕様がない。

 駐車場へ戻ってくると、リニューアルで露天風呂が新設された「てんくう」目当ての車
でほぼ満杯。風呂に寄っていくことも考えたが、少し早めに帰りたかったこともあり、渋
滞もいやだったので又今度。茶で喉を潤し一息入れた後、デポした自転車に跨り駐車地迄
戻る。所要15分。一時間以上歩くことを思えば天と地の差であるなぁ。(笑)

 花も野鳥も想像以上に豊富な蛇谷ヶ峰。もう一度行きたくなる山がまた一つ増えました。

【タイムチャート】
7:20自宅発
9:20〜9:25桑野橋北の空き地(駐車地)
10:00〜10:05山荘、入山ポスト
10:10登山口
10:16猪馬場
10:25新大野中継局アンテナ
10:52〜10:57791m峰
11:10天狗の森
11:15〜11:18蛇谷ヶ峰西峰(Ca880m)
11:29〜12:15蛇谷ヶ峰(901.7m)
12:20ふれあいの里、スキー場分岐
12:25ふれあいの里、想い出の森分岐
13:05カツラの谷の入山ポスト
13:40〜14:00ふれあいの里
14:10〜14:15想い出の森駐車場
14:30桑野橋北の空き地(駐車地)


蛇谷ヶ峰のデータ
【所在地】滋賀県高島郡朽木村・高島町
【標高】901.7m(二等三角点)
【備考】 比良山脈の最北に位置する名山です。高島町側に蛇谷が
あり、その名を冠されましたが、朽木村では「オグラス」
と呼ばれ、全山ほぼ雑木の山で、新緑や黄葉の時期が最
高です。登山路は高島町畑、桑野橋、いきものふれあい
の里、想い出の森からなどからがありますが、想い出の
森に朽木村の温泉施設「てんくう」があり、ここから登
る人が大半です。
■近畿百名山■関西百名山
【参考】
2.5万図『北小松』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system