府庁山から田山〜冬日の低山縦走
平成16年 1月11日(日)
【天候】晴れたり曇ったり
【同行】単独
高圧鉄塔bP90から眺める府庁山


 山歩きというと交通アクセスが不便な所が多い。となれば交通手段は車。何処へでも大
抵の所へは行けるし、バスの時刻や電車の時刻を気にしなくて良いのは大きなメリット。
でも無視できないデメリットも併存する。そう。車の所へ戻らねばならないのである。必
然的に縦走は難しく、ピストンになりがちだ。山歩きは縦走が最も面白いが、じゃあ、ど
こか駅から近い山で縦走できる未踏の山はないかなと探すと....。ありました。南海高野
線千早口駅近くの旗尾岳、府庁山、田山。700m足らずの低山だけれど、大阪湾から和
歌山の山まで見晴るかす展望もあるという。それではと三連休の中日、出かけてみました。

 北摂以外の山に電車で行くのは1年振りである。南海高野線は千早口駅。難波駅では数
多の登山客が乗車したのに、みんな金剛山に向かったのか千早口で降りたのは小生のみ。
金剛山も良いけれど、皆さん偶には他の山もどうぞ。(笑)

 高野線の急行は河内長野以遠は各停で、無人駅の千早口駅にも停まってくれる。駅前の
南側に出ると、幅4m位の舗装路が線路沿いに延びている。これだな。トンネルが出来る
前の旧軌道敷は。ところが、気になる立て看板。曰く「国道改良工事の為、採石場向かい
の旗尾岳登山道は3/15まで立入禁止です。迂回の協力を御願いします。」
「へえぇ。そやけどなあ、まあええかぁ。行って見てから決めようかぁ」
考えていたコースの逆に田山から登る手もあるけれど、根がケセラセラの性格。そのまま
進むことにする。が、やはり見通しが甘く、工事現場にはとても入れたものではない。関
電道も登山道も完全に破壊されているらしく、結局、島の内へ迂回する羽目になったが、
下山してみて思えば、南河内グリーンロードからの取付きは分かり難く、こちらからだと
かなり迷っていたことだろう。というわけで結果オーライ。「急がば廻れ」であります。
(因みに南海天見駅の東から旗尾岳への登路があるのを、その時は全く念頭になかったの
であった)
現在は遊歩道に変貌した南海電車の旧軌道敷

 とりあえず、蟹井神社を目指して南下する。南海の旧軌道敷は車も滅多に通らず、今で
は地元の方々の生活道になっている。当時を偲ぶよすがと云えば、路肩を固めた赤煉瓦く
らいだろうか。南天が到る所に植えられて、実が艶やかに光っているが、『天見の実南天』
はつとに有名なのだそうだ。天見小学校を抜けて、そろそろのはずと歩いていくと、よう
やく神社の杜らしき杉の木立が現れる。左折して踏切を渡ると、左手の高台に蟹井神社の
甍が見えた。

 「蟹井」とは面白い名だが、天見は昔『甲斐の庄』と呼ばれたそうで、その『かい』か
ら転訛したという説がある。南朝の武将の尊崇が篤かったらしい。そういえば、ここから
金剛寺や楠木の村までは近い。右手に音を立てて流れている島の谷の横をコンクリートの
道が神社の前を東へ登っていく。古いが豪壮な民家が並ぶ。古い石垣にはマンネングサや
シダが生え、年輪を感じさせる。民家はかなり奧まであり、それも尽きると辺りには棚田
が広がる。さらにぽくぽくと歩いて行くと分岐で、左が島の谷林道。林道はやがて山懐の
杉林に吸い込まれていく。すると、前方から作業着姿の小父さんがやって来た。左手の谷
には大きな檻が。
「今日は。あれ、猪の罠ですか?」
「そうそう」と頷く小父さん。
馬鹿でかい檻は高さ2m、幅2m、奥行き4mはあったろう。何やら白い粉様の物が餌と
して置かれている。糠か、米の粉か?

島の谷林道の脇にあったイノシシの罠

 何やら出てきそうな薄暗い植林。少し心細くなった頃、道標現る。それは十字峠へ林道
から分岐した踏み跡を進むように指し示している。それにしても舗装路歩きは長かった。
やっと山道だ。尾根を辿って行き、10分程でコンクリート林道に出くわした所が十字峠
である。

 もっと鬱蒼とした桧林だと想像していたが、伐採が進んだらしく明るい。山友会の私製
のプレートが木の枝にかけられているが、あまり峠という感じがしないのは、同じような
コンクリ道が走る20mほど下の谷を隔てて、二重山稜の如く向かい側にも尾根があるか
らかもしれない。登ってきた方向を振り返ると岩湧山のカヤトの原や眼下の島の谷の家々
の甍が眺められる。

 府庁山へはここから北へ。後で知ったことだが、南に向かえばダイトレに合流するよう
だ。しばらくすると尾根筋を登る踏み跡が分岐する部分に出る。どうせ後で合流するだろ
うと水平な林道を辿ると、左に巻いて100mも行かぬ内に道がなくなった。フム。さっ
きの踏み跡が正しいようだ。少し戻って直接、尾根の横腹を登って合流する。

 ところで、この尾根道がなかなかにいい。小さなアップダウンをこなしながら、ミツバ
ツツジ、ヒサカキ、アカマツ、アセビ等の雑木の間を行く道なのである。植林が多いと聞
いていたから、何か儲けた感じだ。時々、葉を落とした裸木の間から大阪南部の山々が顔
を出す。それは高圧鉄塔(bP90)の立つ台地へ出ると、一気にパノラマとなる。前方
の南の斜面が伐採されたのが府庁山三叉路らしい。その奥すぐに府庁山最高峰と思しき峰
も眺められる。
府庁山三差路。向こうに大阪市街の大展望が広がる

 道は一旦大きく下る。鞍部にあった関電の巡視路を示す火の用心の赤い標識にはbP8
9、bP90とある。その鞍部を越えると再び桧林となってほの暗くなる。

 10分位歩いたろうか。前方の高みから人声が降ってくる。それが徐々に鮮明になって
きたと思ったら目の前のこんもりした小さなピークに10名程の団体さんが休憩中である。
ピークの真ん中に『府』と刻まれた石柱。それを目指すかの如く三方から踏み跡が集まっ
てきている。府庁山三叉路である。特筆すべきは北側の展望。PLの塔の向こうに大阪か
ら神戸の市街地や六甲、淡路島が一望のもとなのだ。しばし展望を愉しむ。

 当初の目的地、旗尾岳へはここからピストンする手もあったが、単独の気楽さ、また今
度と都合よく考えて、北の府庁山の最高峰へ向かうことにした。

 府庁山の最高峰まで、手元のGPSでは450m。少し行くと左側の展望が良くなって
旗尾岳方向の尾根筋がよく見える。頂上が平らな山が旗尾岳なのだろうか。左側は雑木林、
右側は植林のやや広くなった尾根は倒木等でやや荒れている。少しの登りで府庁山最高峰
に着いたが、「府庁山」と書かれた私製のプレートが一つぶら下がるだけで、残念ながら
展望はない。それにしてもこれが府庁山だという確固としたピークがない。元々無名の山
々を府庁が借上げた時に便宜的に付けられた名前なのであろう。だからひとつのピークを
表すのではなく、付近一帯を表す言葉なのだ。小休止する程のこともない。先へ進む。

 桧の幼木が植わる尾根筋のやや下側を辿る。下草が夏場は煩かろう箇所が少々あるが、
道は明瞭。今度は右側に金剛山の大きな山容が目に入ってくる。再び植林の中、ガイド本
に支尾根に引き込まれない様にとある直角に曲がる部分には、私製の道標が設置されてい
て心配はない。しばらくすると黒いプラ階段が現れる。道が良くなったと思えば巡視道も
かねた道なのだった。

 さっきからツツピー、ツツピーと囀る声がついてくる。振り仰ぐと凡そ10m位の桧の
幹の先端に小さな鳥。シジュウカラだろうか。時ならぬ闖入者に警戒しているのかもしれ
ない。囀りはその先しばらく聞こえていたが、それもいつの間にか聞こえなくなり、少し
下った鞍部から登り返すと高圧鉄塔(bP0)の台地に飛び出した。ここは南向きで日当
たりも、展望も申し分ないのだが、先程の団体さんがここで昼食タイムらしく、ワイワイ
とかまびすしい。もう正午過ぎだけれど、この先の田山の手前にも高圧鉄塔があるのでそ
こまで足を伸ばすことにする。

 ガイド本に桧の美林と記述があるのはこの辺りらしい。周囲は30〜40年生位の桧林
だ。その桧のトンネルからポンと脱け出た所が『田山の鉄塔』と呼ばれる高圧鉄塔(bP
91)。これはいい眺めだ。尾根の両側に渡って展望がある。まずは北側。ここでもPL
の塔の向こうに大阪の市街地が大きく広がる。遠く六甲の山並みから大阪湾もうっすらと。
右手に蟠る生駒山もここからだと一つの山に見える。その手前、二上山からこちら側へは
千早の山波が広がる。眼下の集落は小深のようだ。西から南にかけては紀泉の山々が広が
り、岩湧山、網代笠に似た編笠山、一徳防山等が重なる。紀見峠の向こうには紀州の山々
までが顔を出している。見飽きぬ風景だ。一寸、風が強いが誰もいないのでここで昼食と
した。

 ひとしきり梢を鳴らす強い風が吹いてきたと思えば、心なしか冷えてきた感じだ。陽も
翳り、手先がかじかんできた。電話が繋がったはりまおさんによれば、千ヶ峰は吹雪だと
か。早々に後片付けをして歩き始めることにする。

 田山は鉄塔から目と鼻の先。植林下の何の変哲もない狭い山頂の山で、三角点がなけれ
ば見過ごしてしまう。三角点にタッチして先を急ぐ。

 すぐに田山北斜面の伐採地に出る。ここもすごい展望だ。特に目立つのは大和葛城山。
山頂付近のササ原が陽に当たって渋茶色。山の斜面を雲の影が横切る。

府庁山と田山の間の稜線から見る大和葛城山

 ここから先は急斜面の桧の植林帯である。幹に掴まりながら降りていく。尾根の先端で
一旦緩んだ傾斜が再び強くなる。膝がそろそろ笑いそうになる頃、1m幅の綺麗な道が伸
びる鞍部に到着する。ここにも山友会のプレートがあってクヌギ峠と読める。東に行けば
金剛・大井だ。

 千早口に向かって西へ歩く。桧の植林の下を暫く歩けば関電道との分岐に出る。『トリ
子谷』へと書かれた方向へ左折すると、桧の幼木が植わった畦道に似た道となる。カラス
ウリの黄色や赤の実が目立つ中、水のなかった沢から水の音が聞こえ出し、それがだんだ
ん大きくなる。前方が明るく透けてくると、車のエンジン音が響いてくるようになる。南
河内グリーンラインの車道で、抜け出た所は右に見えるトンネルの入口までは200m位
だろうか。雑木の枝に白いポリテープが結んであるのと、蒲鉾板程度のプレートが梢の影
に懸かっているだけで全く目立たない。足元に大阪府の石標が2本。前述した如く、これ
は分かり難い。しかも千早口寄りに林道風の小道があって関電の火の用心プレートまであ
って、千早口から上がってくればまず先にそちらに誘いこまれそうだ。

南河内グリーンロードとの出合。大阪府の石標と枝に
巻かれたナイロンが目印

 さて、今日の山歩きもそろそろフィナーレ、ぶらぶらと車道歩き。次は賽の神見物である。
新しいログハウス風のレストランが見えてくると左手に才の神林道がある。その入口を横切
り、山裾を縫う舗装路の鳥羽口に2基の石組が鎮座している。木の幹を輪切りにした立派な
案内板が立っているので判り易い。元は猿田彦神を祀っていたが道祖神やその他の信仰と混
交したものという。素朴な信仰は現代まで引き継がれているようで正月用の注連縄が飾られ
ていた。
賽の神

 道端の引っ込んだ所で小休止してコーヒーを沸かす。冷えた体に湯気を立てる飲み物は有
り難い。暖まったあとはR371のバイパスを潜って、10分程歩いて静かな千早口の集落
に戻る。丁度、2時19発の急行にドンピシャリであった。駅には誰もおらず、ここが同じ
大阪府内とは思えない長閑さである。道路工事で最初の目算は狂ったけれど、冬日に相応し
い静かな山歩きを楽しめた一日を反芻しながら帰途に着く。いつか登り残した旗尾岳(天見
富士)にも行かねばね。(笑)

【タイムチャート】
8:10自宅発
9:33千早口駅
10:00天見駅
10:12蟹井神社
10:28林道島の内線
10:55十字峠
11:12高圧鉄塔(bP90)
11:24〜11:35府庁山三差路(Ca600m)
11:48府庁山最高峰(640m)
12:05高圧鉄塔(bP0)
12:18〜12:55田山の高圧鉄塔(bP91)
12:58田山(542.0m 三等三角点)
13:12〜13:15クヌギ峠
13:25南河内グリーンロード出合
13:35〜13:40賽ノ神
14:10千早口駅


府庁山のデータ
【所在地】大阪府河内長野市
【標高】640m
【備考】 金剛山から逆L字型に派生する山塊に属する山です。府
庁山といいますが明確な山頂がなく、三差路またはその
北の峰を便宜的に山頂としています。山名の由来は、昭
和の初めに大阪府が山頂付近を民間から借り上げ、植林
したことにあるようです。南海高野線千早口駅又は天見
駅からが便利です。
田山のデータ
【所在地】大阪府河内長野市
【標高】542.0m(三等三角点)
【備考】 府庁山の北に位置する三角点峰ですが展望がありません。
むしろ、山頂の南側の高圧鉄塔と北側の伐採地の展望が
抜群です。西の麓に猿田彦命を祀った賽の神の石の祠が
あります。
【参考】2.5万図『岩湧山』、『大阪50山』ナカニシヤ出版



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