初車泊で伯耆大山 
平成16年 8月 6日(金)
【天候】曇りのちにわか雨
【同行】単独
鍵掛峠ら大山南壁を望む


 連続してやって来た台風とその余波の大雨で、紀伊半島は至る所で土砂崩れ。大台ヶ原
では宿泊客の避難騒ぎ迄あったそうだ。だからというわけでもないけれど、少し矛先を変
えてみようと小生にとっては処女地の中国地方を物色する。となれば、いの一番は最高峰
の大山。とはいうものの如何にも遠い。真夏の例として午後は雷の懸念がある。登りに3
時間は必要等々を勘案すれば、どうしても前泊が必要だ。が、今までのコンセプト?は飽
くまでも『デイ・トレッカー』。うーん、どうするか。悩むなぁ。とは云いつつ何時もの
でんで「まっええっかぁ」が結論でした。(笑)

当日の朝食や昼食はパンとして、前日の夕食は最寄りのコンビニで調達。水分は2リット
ルのペットボトル。他にカップ麺やコーヒー用の水は前泊地で調達する予定。とりあえず
諸々を車に積んで、昼下がり家を出る。少しでも節約と地道を走ってそろそろ信号にも飽
きた頃、滝野社ICで高速に乗り、湯原ICに着けば夕刻6時と良い頃合い。勿論目当て
は露天風呂の砂湯。温泉街に車を向けて、明るい内から一っ風呂。最高の贅沢だ。

 R313は改良され、随分と走りよくなっている。途中、倉吉に向かうR313と別れ
てR482で西へ。前方に目立つ山が現れた。蒜山らしい。中蒜山登山道の標識なんかを
見ると、もっと近ければ蒜山三座など縦走したい候補の一つなのだがと一人ごちる。

 小さなスーパーで缶ビールを仕入れて、今夜の車泊地である川上村の道の駅『風の家』
の駐車場に着いたのは黄昏時で、併設の売店はもう閉店らしく、駐車場には地元のものら
しい2、3台の無人の車が置かれているのみ。トイレの場所を確認した後は、車止めに座
って持参の携帯ラジオで野球を聞きながら、プシュッと缶ビールの栓を抜く。ここは蒜山
高原。涼風が頬をくすぐる。大阪はさぞや暑いことだろう。余談ながら少し不思議だった
のは、どういう加減か、大阪でも余り感度が良くない和歌山放送が、鮮明に受信できたこ
とである。

 夜も更ければこんなにも星があったのかと思える程の、文字通り降るような星の数であ
る。それにしても静かだ。蒜山インターが直ぐそこにあるが、車の通りも少なく、時折通
り過ぎる輸送トラックの音くらいだ。R482の車両もたかが知れたもの。気がつけば駐
車場にあるのは自車のみ。近頃、日本も物騒だから、たまにヘッドライトが車内を掃くの
にもドキっとする。窓を開けて寝るわけもゆかず、ここは涼しいから良かったものの、平
地であれば辛かったろう。

 2時間間隔で目を覚まし、また寝入るのを繰り返して気がつけば5時。うとうとしなが
ら5時半に起き出し、洗面所で顔を洗う。やや雲が多いものの朝日が周囲を照らす。はや
農家の人が畑仕事に動き出している。大きなサギが2羽、ゆうゆうと空を舞って田圃に降
り立った。

 持参のパンと自販機で買ったホットコーヒーで朝食。6時、車泊地を後にして西へ向か
う。R482は旧伯耆街道。昔は難所であったであろう内海乢を下ると、北方に大山が南
壁の襞を朝日に晒しながら屹立する姿を現した。右には屋島に似た鏡ヶ成の特徴ある姿も
ある。南大山大橋で伯耆街道に別れを告げ、御机を抜けて鍵掛峠までやって来ると、大山
の姿は「あんなとこ登れるんかいな?」と思わせる程、迫力を増す。

内海乢付近から朝日に輝く大山南壁

 文殊堂からは大山環状道路を快調に走る。いつの間にか標高を稼いでいて、左手はゴル
フ場や牧場、或いは森林が被う広大な大山の裾野。その間にも右手に三ノ沢、二ノ沢、一
ノ沢と荒涼としたガレ。今にも大小の岩が転がってきそうな雰囲気に息を飲む。

 桝水高原を過ぎると大山寺は近い。下山キャンプ場を左手に、右にカーブすると南光河
原駐車場が見えてきた。6時50分。まだ料金所の係員もいない。
「へっ?無料でいけるかも?」と思いきや、帰りに払って下さいと張り紙。「残念」。(^^;

 準備を整え、出発。駐車場事務所横に「夏山登山道 →」の標識。それに従って、車道
を少し戻れば幅1m位のコンクリ階段。登って50mも歩くと四つ辻で、正規の夏山登山
道に合流する。
夏山登山口

 合流地点は大山寺の塔頭、蓮浄院の角。志賀直哉の小説「暗夜行路」の舞台ともなった
そうだが、今は棟が落ちて廃屋同然。しかし傾いた壁に取り付けられた瞬間湯沸器だけが
新しいのはなぜなのだろうか?と変な疑問が湧いた。

 そこから暫くは石段道。阿弥陀堂への参道が登山道を兼ねていて、10分も歩けばベン
チが置かれた阿弥陀堂の辻である。想像したより大きなお堂が木立の向こうに佇んで居る
のが見える。ちょっと寄っていく。

 周囲はブナ、ミズナラ、イタヤカエデ、ユズリハ、ムシカリなどの自然林で、日光が直
接当たらないので救われる。足元には早くもヤマジノホトトギスが花を開いている。が、
それにしても風がそよとも吹かない。しかも猛烈な湿気。暑い。気温は途中の道路沿いで
24℃を指していたし、それより標高は高いはずなのにである。阿弥陀堂を過ぎた辺りか
ら土止め階段の傾斜も厳しくなったからてきめん。ドドッという感じで汗が滴る。一合目、
標高900mの標識。二合目、三合目と標識がある毎に止まっては汗を拭い、水分補給。
眩暈がしそうだ。(^^;
こんな土止め階段が続く
周囲は綺麗なブナ林

 五合目はやや広くなっていて露岩の端に山の神が祀ってある。ここでとうとう座り込ん
だ。汗拭きのタオルもジットリとして絞れそうだ。少しでもクールダウンしようとタオル
をプロペラみたいに廻して涼を取る。

 少し落ち着いた所で再び歩き始める。五合目から上は道幅も狭まり、火山岩質の脆い石
が転がり、ようやく登山道になった感じ。そのうちに左から元谷からの行者コースが合流
してくる。ふと気がつくと、何時の間にかブナなどの大きな木が見当たらなくなっている
ではないか。サワフタギ、ナナカマド等、せいぜい樹高2m程度だろうか。その木々のト
ンネルを抜ければ六合目の避難小屋に着く。標高1368m。

六合目の避難小屋

 日本海が見える。弓なりに延びる海岸線はそのものズバリの弓ヶ浜。米子市街の先には
境港。その西は中海だ。手前の頂上にアンテナを頂き、円錐形の目立つ山は孝霊山。視界
がよければ隠岐島や三瓶山まで見えるというが、残念ながらそこまでは適わない。休憩用
のベンチには何組かのハイカーが涼を摂っている。どの顔も暑さにうんざり顔だ。

 この辺りから大山北壁の荒涼としたガレた風景が見通せるようになるのだが、次々に湧
くガスに遮られて、偶にその足元を見せるのみ。しかし元谷の土石が堆積した風景は凄い
の一言である。大堰堤では今も工事が続けられているとみえて、工事関係者の車が置かれ
てあるのが豆粒に見えた。

 六合目から上は火山性の石がゴロゴロ転がる歩き難い直登道。蛇籠の様に石を金網で覆
ってあるが、これがまた歩き難い。特に下りは引っ掛けて危ないのではないかと思う。と、
道脇にちらほらと花が目立つようになってきた。とりわけフウロソウとシモツケソウが盛
り。それが八合目を過ぎて弥山の頂上直下のダイセンキャラボクに覆われた平坦なお花畑
で乱れ咲いているのを目にして更に感激することになる。

 木道が現れた。左手はばっさりと切れ落ちている。その先には北壁からユートピア小屋、
三鈷峰、宝珠尾根へと続く稜線が眺められるはずなのであるが、今はもうもうと湧き出す
ガスの帳の奥。右手はなだらかで一面、濃い緑の低木に覆われている。「これがダイセン
キャラボクかぁ」。イチイの一種で強い風雪の為に背丈は2m程度、よく枝分かれするの
だそう。その濃い緑にアクセントを与えるのはナンゴククガイソウの紫の尻尾。他にサラ
シナショウマ、シシウドの白。フウロソウ、シモツケソウのピンク。どこか伊吹山を髣髴
とさせる風景だ。1本だけ咲いたコオニユリの朱色が目に焼き付く。

八合目からようやく弥山が望める

 直接山頂へ向かう木道は鳥取県が工事中とかで、右手の周回道を行く。梵字池、石室と
過ぎる。時折、一気にガスが晴れて全体を見晴るかすことが出来る。麓から眺める風景と
はうって変わったなだらかさだ。木道は直接地面に設置してあるのではなく、高さ1m位
のダイセンキャラボクの上に架かった、いわば橋みたいなものだ。ゆっくりと斜面を辿っ
ていけば、発電機の音。山頂の避難小屋である。中に売店があるそうなので覗いてみたら、
髭面の小父さんが窓口の向こうに。缶ビール600円だったかに「ひえーっ」。

ダイセンキャラボクに被われた木道


 弥山の山頂はこの避難小屋の奥。モニュメントと方位盤が設置してある。先着の登山者
がこの辺りに屯している。さっき木道で出会った佐賀から来たというご夫婦もここで休憩
中であった。

 さて、モニュメントの先には「立ち入り危険」の標識とロープ。本来はここからの剣ヶ
峰、三鈷峰への縦走がハイライトだろうが、そうでなくとも脆い所へもってきて、先の鳥
取地震では大山の三角点の標高まで崩壊で低下したのだそうで、滑落者も多く、現在は縦
走が禁止されているらしい。しかし、三角点にはタッチしておきたい。(^^; ガスで先は
見えないが、すぐ近くらしいので、少しだけ禁を破って標識を跨いで先へ出た。

 ナイフリッジとはこれのことかと思う。ほんの50cm幅で両側が切れ落ちている。踏み
外したら留まれずに一気に転がって軽症の怪我では済まないだろう。生来、ビビリ屋の小
生、恐る恐る歩いて行くと、古い木組みが散乱した所に目当ての三等三角点があった。

ガスに煙り、廃木が散乱する弥山山頂の三角点

 東側も西側も切れ落ちているのだろうが、東からは次々とガスが湧き、乗っ越して来る。
真っ青な空や麓の建物が見えて居たと思ったら、クソーッ、見る間にガスの中。毒づいて
みても始まらぬ。食事している間に晴れてくることもあろうかと、三角点の横に陣取って、
早いけれど食事タイム。

 自然条件が厳しい荒れた感じの山頂でも、健気に植物は生きているものだ。黄色いキク
科の花がそこここに咲いているが、これは何だろう。白い舌状花はタチコゴメグサ。その
横でキチョウが一心不乱にアザミの蜜を吸う。空では赤トンボが乱舞、アブも多いが吸血
するものはいないようだ。時折、汗を求めてタテハチョウが寄って来る。それらを眺めな
がらカップラーメンを啜って晴れ間を待つ。

 粘ること1時間。濃淡はあるもののガスは晴れない。と、見る間に射していた薄日の空
が暗くなって、風が出てバラバラと雨まで降りだした。これじゃあ仕様がない、心残りだ
が撤収。

 避難小屋に雨を避けたのか、モニュメントの前には1組の御夫婦のみ。木道を下って工
事中の木道と合流した地点から再び登り返す。八合目に戻ってくると、往路でガスの中だ
った東の尾根や弥山の大崩壊地が、一瞬ではあるが姿を見せた。それっ、デジカメ、デジ
カメ。という間にも、ガスが視界を閉じて行く。「ちょっと、待ってよー」

ガスに霞む象ヶ鼻から三鈷峰の吊尾根
右手に豆粒ほどのユートピア小屋が見える
弥山北壁の大崩壊地

 やはり予想通り下山はつらかった。浮き石も多いから気を使う。その内に少し左膝に違
和感。

 六合目。ガスの下に出たか。弓ヶ浜から日本海が目に飛び込む。が黒い雲があって、ゴ
ロゴロと遠雷の音が低く響いてくる。

六合目付近から日本海。遠くに松江半島、
手前は弓ヶ浜と米子市街、右に孝霊山

 雨も心配だし、北壁周辺のガスも晴れそうにないので元谷には降りず、往路を戻る事に
する。結果的にはこれが正解だったようだ。

 一合目を過ぎた辺りで、手頃な石に座って小休止を摂っていると、何だかサワサワと音
がする。ついに来たか。森の奥の木々の葉に落ちる雨粒の音らしいけれど、一向にこちら
側には降りかかってこない。
「へぇー?おかしいな?」と首を捻っていたら、突然ポツポツ。と見る間にザーッと白い
煙幕。バリバリと遠雷が直近雷に。えらいこっちゃ。慌ててザックカバーと携帯傘を取り
出す。登山道はあっという間に川に変貌。どうせ汗でべとべとだし、こうなりゃいっその
こと風呂代わりと居直って、電子機器だけ濡れぬ様に。阿弥陀堂の前から大山寺へ向かう
案も中止。ただひたすら駐車場へ急ぐのみだ。でもこういうこともあろうかと早めに登っ
て幸いして、もうすぐ登山口という時の雨でよかった。途中ですれ違った人達はどうして
いるだろう。

 足元をバシャバシャいわせて駐車場に到着。こういう時のワンボックスは便利である。
リアゲートを上げると屋根になる。靴を脱ぎ、服も着替えて、ようやく人心地がついたの
だった。

 いや、ひどい目に遭った。駐車料金を払いに行くと、料金所の小父さんも「えらい雨の
中、お疲れさんで」とねぎらいの言葉。さぁて、残ったお茶を飲み干すかぁ。

 帰りは桝水高原から溝口方面へグルッと周回するコースをとる事にする。こちらから見
ると大山が富士山の姿に見えるのだ。自衛隊演習地の横を過ぎて方向を変えると左前方に
予想に違わず確かに綺麗な富士山型の大山。でもデジカメに撮ると霞んで全く駄目であり
ました。(^^ゝ

 雨を追いかけて走ったのか、御机付近では篠つく雨にワイパーもきかぬほどであったが、
川上村に戻ると殆ど降っていない。局地的な雷雨だったらしい。汗や時ならぬ雨で汚れた
し、これは一風呂浴びて帰らねば。そこでもう一度、砂湯、それとも三朝とも思ったけれ
ど、R313を10キロも北に走れば着くらしい関金温泉へと気が変わる。

 関金は旅館数軒と日帰り入浴施設があるこぢんまりした温泉郷。さらっとしたラジウム
温泉でさっぱりして帰途に着いたのだった。

 大山は日本百名山だけあって、前泊するだけの事はある登り応えのある山であった。し
かし前泊を覚えると、行動半径が広がり、対象の山が増えすぎてしまうきらいがある。何
か禁断の木の実を齧った心境というのは少し大袈裟だろうか。デイ・トレッカーのコンセ
プトがこれからは、ちとヤバくなりそうな・・・。(爆)


■大山で見られた花々の写真集『大山の夏に競う』を見る

【タイムチャート】
6:00道の駅『風の家』発
6:50〜7:00南光河原駐車場
7:01夏山登山口
7:12阿弥陀堂
7:38〜7:40二合目
7:53〜8:00三合目
8:21〜8:30五合目
8:31元谷分岐
8:49〜8:51六合目避難小屋
9:04〜9:06七合目
10:07山頂避難小屋
10:12〜11:12弥山(1,710.6m 三等三角点)
12:02〜12:08六合目避難小屋
12:15元谷分岐
12:50阿弥陀堂
13:00夏山登山口


大山のデータ
【所在地】鳥取県西伯郡大山町
【標高】 剣ヶ峰1,726m
弥山 1,710.6m(三等三角点)
【備考】 伯耆富士、出雲富士とも呼ばれる中国地方の最高峰です。
トロイデ型の火山で、東西から見ると秀麗な富士型、南
北から見ると崩壊の激しい屏風型の山容を示します。夏
山登山道は良く整備されていますが、長い急階段が続き、
途中に水場が無い為、十分な水分の準備が必要です。尚、
山頂のダイセンキャラボクは天然記念物です。
■日本百名山
【参考】エアリアマップ『大山』



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