真夏に「おっ、寒っ!」〜大普賢岳
平成16年 7月18日(日)
【天候】曇り
【同行】単独
石ノ鼻から日本岳。写真右の麓に笙ノ窟等の
行場が並ぶ。奧は大台ヶ原方面の山並み

 最高気温35℃超えの暑い日が続いていて、いつも歩く北摂辺りの低山はとても歩けた
ものではなかろう。で、必然的に足は千mクラスへ。という訳で、ここの所、行き先は大峰
方面だ。

 実は今日で3週連続なのだ。(^^; そして今日はその大峰でも特異な山容を示す大普賢
岳。なんだかんだで今日まで未踏の山であったが、ようやく念願成就。梅雨前線の南下で
展望は叶わなかったけれど、自然林の残るアプローチと岩場歩き、それに修験道のコアと
も云うべき「窟」を間近に見られ、最後は一っ風呂。前週に引き続き充実した面白い山歩
きの一日でありました。

 6時前に家を出て、大台へ向かういつものR169。今日はペースメーカ−になる車も
おらず、淡々と快調に流れていく。伯母峰トンネル手前で大台へ折れていく車も多い。そ
れを尻目に長く暗いトンネルを潜ってすぐ、右手、川沿いの林道に入る。ヘアピンで高度
を上げるに従って傾斜が増して、2速に落としながらの走行だ。南に行くほど好天と踏ん
でいたのだが、眺める山並みは完全にガスに封じ込められている。

 左手に駐車している車と建物が見えてくる。車のスピードを落とすと、すかさず坊主頭
の兄ちゃんが寄ってきた。環境協力金500円也(日帰りの場合)。変な観光地の馬鹿高
の駐車料金に比べれば安いもんだ。兄ちゃんの先導でロッジ前の草地に車を止める。

出発点の和佐又ロッジ

 おっ!涼しい。粘りつくような下界の暑さからは想像できない。Tシャツ一枚じゃ寒い
んじゃないか、と思えるほどだ。準備を終えてまずは周囲を見回す。ロッジの前には大き
なトチノキが3本。左手に和佐又山の登山口があるが、これは帰りによることにして、車
道を歩いていく。

 左手に草生す小山を見つつ進めば右手にバンガローが見えてくる。綺麗なトイレもある。
桧林を抜け左にカーブするとキャンプ場で、色とりどりのテント。朝飯を摂るパーティ、
走り回る子供たちの姿も見える。

 キャンプ場を後にし、砂利道は右にカーブして暫く、幾つかの石碑が立つ場所に出る。
この先の笙ノ窟で修行をしたという著名人を顕彰する碑らしい。日蔵上人、西行、円空等
々。今のように整備された道もない時代、幾ら修行とは云え、さぞや大変であったろう。

 碑の辻を抜けると、いよいよプロローグは終わって森の中へ。これが心地よい自然林。
笹原の中にトチノキ、ホウノキ、モミ、イタヤメイゲツ、ヒメシャラ、ブナ、ミズナラ。
種類は分からないが高く低く囀る鳥の鳴き声。ここを散策するだけでも来るだけの価値が
あるなと小生には思える。その森の真ん中にある和佐又のコル。ベンチが置かれ、左(東)
に向かえば和佐又山。右(西)が大普賢岳への道で、それも数m先で無双洞経由と笙ノ窟
経由に分かれるらしい。ここで一息入れることにした。

 緩い尾根伝いに笙ノ窟方面へ向かう。心地よい自然林はまだまだ続き、緩斜面をゆるゆ
ると登っていく。木の根が網の目になった部分や石の多い所もあるが総じて歩き易い。ク
マザサが茂る1336m標高点を越え、1390mの等高線を過ぎる頃になると、道は次
第に石混じりとなり、山腹の南を巻いてゆく。西南方面が開けてくるがガスで判然としな
いのが残念だ。
木の根が浮き出る登山道。ブナ、
ヒメシャラ、トウヒなどの自然林

 標高点から約20分。荒々しい岩肌が目立ってくる。日本岳の南面だ。指弾ノ窟はそん
な岩肌の窪みの一つ。表示がなければ気づかないで行き過ぎる程度だが、次に現れる朝日
窟以降は大きな岩の窪みだ。そして最も有名な笙ノ窟に至っては巨大な岩盤の下が大きく
えぐれている。その真ん中に不動明王の石像、左右の脇侍はなんだろう。前鬼、後鬼だろ
うか?笙ノ窟は役行者が修行した所と言い伝え、修験道では重要な靡の一つ。日蔵上人、
西行、円空などが参籠し、歌を残していると横の説明板にある。奥の岩肌を伝って清水が
水滴となって落ちていて、バケツに溜められてあったので一口飲ませてもらう。甘露、甘
露。
「露もらぬ岩屋も袖はぬれけりときかすはいかに怪しからまし」 西行

 窟から出て、改めて笙の窟を眺めてみる。それにしても高さ50mはあろうかという巨
大な垂直の岩肌である。その岩肌の僅かな窪みに植物が棲みつき緑の葉を茂らせている。
その中にコオニユリの朱、ギボウシの薄紫が点描となっているのが印象的だ。

笙ノ窟

 次は鷲ノ窟。ここには役行者の石像が置かれている。ここは岩本新道の分岐点でもあっ
て一気に下っていく道がある。更に朝日窟からほぼ水平の道を進めば最初の鉄梯子(とい
ってもこれは階段に近い)が現れて、石がゴロゴロとした日本岳と小普賢岳のコルに出る。

 ここからが今回のハイライトの一つ。小普賢岳から大普賢岳にかけての岩尾根歩き。連
続して鉄梯子が現れ、崖に鉄製の桟道が架けられた箇所もある。そこかしこにはコイワカ
ガミが光沢のある葉を広げ、コウモリソウが早や蕾を付けているのが見られる。本来は凄
い高度感があるのだろうが、幸か不幸か猛烈な霧のベールが高所の恐怖感を薄めてくれて
いる。石ノ鼻を過ぎ、岩の間をすり抜けるように進むと間もなくシャクナゲの茂る小普賢
岳の狭い肩に着く。ガスはますます濃くなり、前方に聳えているであろう大普賢岳の姿な
ど全く見えない。只、「I氏安らかに」と書かれた札が目の前に。4月2日とあるからま
だ残雪の残る頃だろう。この辺りのどこかで滑落したのだろうか。整備されているといっ
ても油断は大敵だ。小休止。赤飯握りを一つ頬張る。

いよいよ鉄梯子が連続するハイライトへ

 少々シャリバテの身も、些か元気を取り戻す。小普賢岳から自然石の階段を一気に下っ
て大普賢岳とのコル。危険、滑落注意の布切れが目立つ痩せ尾根を鉄梯子などを使ってジ
グザグに登る。最後に斜めに登りきると奥駈出会いである。左に折れて広針混交の自然林
の中を辿る。吹き上げてくる風が思いの他強い。ガスが木の葉に触れて結露し、水滴とな
り、風に揺れては雨の様に降ってくる。その為にTシャツ1枚では、涼しいを通り越して
寒い位だ。遭難して夏山で亡くなる時っていうのはこういう感じなのだろうか。水滴を避
ける様に先を急いで30m程歩けば、ようやく1790mの狭い山頂に到着である。

大普賢岳山頂にて

 何も見えない。ただ風が強いのみ。ガスが猛スピードで流れていくのが分かる。本来な
ら稲村ヶ岳、バリゴヤノ頭、山上ヶ岳等の大展望なのに。昨秋の釈迦ヶ岳と同じ状況であ
る。大峰に来ると最初はいつもガスの中であるなぁ。

 奥駈道を行者還岳の方へ辿ってみる。岩混じりの、ナナカマド、シロヤシオの茂る中を
急降下。するとモミ類とイタヤイゲツ、ブナの目立つ穏やかな笹原に出る。水太覗らしい。
七面山のアケボノ平にやや似た感じの場所。東側は急傾斜で水太谷へ落ち込んでいるのが
わかるが、見えるはずの大普賢岳の山並みは勿論、白い帳の向こう側だ。ザワザワと梢を
鳴らす風の中を更に進んでみる。ヒメザサの中を獣道の如く一筋の奥駈道。適度な間隔で
生える広針混交林と露岩の配置はまるで日本庭園に似て清々しい。そこへ白い霧が流れ幽
玄の気分を醸し出す。シャクナゲの密生地を過ぎて、針葉樹の生える小さなピークが弥勒
岳だとGPSが語る。笹に鹿の糞が目立つ何もない場所であった。

ガスに霞む奧駈道。まるで日本庭園(弥勒岳付近)

 あんまり高度を下げるのもいやなので、適当な所で取って返す。再び、水太覗。食事し
ながらガスの晴れるのを待つことにして、風を避けようと尾根から少し降りると、背後の
尾根筋の木々はザワザワと煩いにも拘らず、直下では全く風が凪いでしまうから不思議で
ある。適当な所に座り込んで湯を沸かす。ふと何処やらからプロパンガスに似た悪臭。も
う盛りを過ぎて、葉も黒く変色したバイケイソウの花からだ。道理で虫が何匹も集ってい
る。何を思ったかクマバチがザックに寄って来た。慌てて帽子で追い払う。

 1時間近く座り込んでいたのだが、いっかなガスは晴れる気配を見せず。下山して温泉
も行きたしで、これ以上待っていてもしようがないというわけで撤退にかかる。

 来た道を登り返し、時たま陽が差すけれどやっぱりガスの中の大普賢岳を通過、奥駈道
出会いをそのまま北へ向かって、もう一つの小普賢岳を訪れてみる。

 シャクナゲの目立つ尾根を少し下るとコウモリソウの群生地に出る。やがて針葉樹が増
えてきて、ごつごつした登り返しの岩の間を抜けると小高い所に大きな露岩がある。碑伝
が置かれているからここら辺りが小普賢岳なのだろう。その北側へ少し進むと鬱蒼とした
針葉樹とシャクナゲの森。暗くおどろおどろした感じで、その先で急激に高度を下げるの
で、軟弱な小生の探索はここまでとした(笑)。後で調べたら、もう少し進めば経函石の
靡があったようだ。

 尾根筋に別れを告げて、ロッジへの道。鉄梯子等は登る時より下る時の方が危ない。「
滑落注意」の布切れを見れば尚更。慎重に歩を進める。小普賢岳とのキレット手前だった
か、崖につけられた桟道の横に太いロープを見つけたが、遭難した人を助ける為なんだろ
うか。橋の網目から覗くと石でガラガラした地面ははるか下の方だ。

鉄の桟道にあった救難用?のロープ

 少しガスが薄くなってきたらしい。周囲が明るむ。小普賢岳の鋭い姿もうっすらと望め
るようになってきた。往路はガスで気づかなかったが、実際には周囲はすごい樹海の中な
のであった。小普賢岳の肩付近にうごめく人影。「ほう。あんな所、歩いていたのかぁ」

小普賢岳から大普賢岳方面
左の肩の岩場に桟道が架かる

 小キレットから自然石の急階段を登り、小普賢岳を越えて、細尾根から石ノ鼻の展望台
へ上がってみる。すると、あら、東南方向のガスが消え、辻堂山から小処温泉への林道が
よく見える。大台ドライブウェイの先には台地状の大台ヶ原。鋭く落ち込む所が大蛇ーら
しい。南には行者還林道。しかし高さ1500m以上は依然として灰色の雲の中で、弥山
から釈迦ヶ岳へ続く大峰の主山稜は、その脚元のみが見えるだけである。草餅の頬張りな
がら暫し鳥になった気分で愉しむ。

 早や咲き始めたヤマジノホトトギス。鷲ノ窟、笙ノ窟と辿り、ここまで来れば、危険な
箇所も無く、気持ちのいい自然林の緩斜面を下って行く。いつの間にか青空が顔を出し、
あちこちでヒグラシが合唱を始めた。

 さて、ヒメシャラのすべすべした冷たい幹に触れたりして、戻ってきた和佐又のコル。
折角だから展望は無いとの事なれど、和佐又山の三角点にも挨拶してゆくことにし、休憩
なしに和佐又のコルを直進する。

 暫くはダラダラと雑木林の緩斜面。ウグイスがすぐ傍で笹鳴き。次第に斜度が増すとジ
グザグ道になって最後は再び直登道。一汗かいてケルンが高く積まれた山頂へ。確かに展
望はほとんどない。三等三角点。朽ちたベンチあり。ヤマアジサイの白い装飾花が際立っ
ている。その横にザックを放り投げて小休止だ。

和佐又山山頂

 コルから登って来た道からほぼ直角に明快な道が降りている。雑木にテープがあり、ス
キー場とマジック書き。車を置いた場所へ直接降りていくらしいので、これを採って下山
とする。こちらも山腹を大きなジグザグで下る道で、クマザサが繁茂しているが、道の分
だけ刈り取ってある。ずんずん下ると麓のキャンプ場からか、子供の歓声が這い上がって
くるのを耳にするようになる。ジグザグなので歩いた距離の割には、なかなか麓に着かな
いけれど、それでも15分程でポッカリという感じで車の直ぐ横、行きに見た和佐又山登
山口に飛び出した。

 芝生にどっかと座り込んで残ったお茶を一気飲み。プファー。フーッ。木陰にロッジで
飼われているのであろう白い犬。なかなか人懐こい。傍によると腹を見せて挨拶する。
「あげる食べ物ないでぇ」(笑)
ロッジに架けられた温度計は23℃。これからクソ暑い下界に戻ると思うと...。寂と
して声なし。(笑)

 恒例、下山後の温泉はこれで3度目の入之波温泉は山鳩湯。茶色の湯に浸かってさっぱ
りして帰途に着く。


【タイムチャート】
5:55自宅発
8:20〜8:25和佐又ロッジ駐車場
8:45和佐又のコル
8:551336m標高点
9:14指弾ノ窟
9:27〜9:30笙ノ窟
9:40日本岳のコル
9:51石ノ鼻
10:00〜10:07小普賢岳の肩
10:35〜10:36奧駈道出合
10:40〜10:55大普賢岳(1,779.9m 三等三角点)
11:05水太覗
11:20〜11:21弥勒岳(Ca1,690m)
11:40〜12:15水太覗(昼食)
12:23大普賢岳
12:26奧駈道出合
12:35〜12:38大普賢岳北方の小普賢岳
12:48奧駈道出合
13:18〜13:21小普賢の肩
13:30〜13:45石ノ鼻
14:00〜14:15笙ノ窟
14:301336m標高点
14:40和佐又のコル
14:50〜14:55和佐又山(1,344.0m 三等三角点)
15:10和佐又ロッジ駐車場


大普賢岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡上北山村、天川村
【標高】1,799.3m(三等三角点)
【備考】 大峰山脈主稜上にあり、大峰中、最も峻険な山で、大台
ドライブウェイの伯母谷付近から眺める姿は秀麗です。
東尾根には窟が並び、中でも笙の窟は役行者、西行、円
空が修行した所と伝えられています。登路は東の和佐又
からがメインですが、途中に鉄梯子、桟道が多く、露岩
も多いので、雨や雪の時は要注意です。
■近畿百名山■関西百名山
和佐又山のデータ
【所在地】奈良県吉野郡上北山村
【標高】1,344.0m(三等三角点)
【備考】 大普賢岳の東尾根から南に派生した支稜上の一峰です。
大普賢岳の荒々しい姿とは対照的になだらかな姿をして
います。北側に通年営業の和佐又ロッジがあり、夏はキ
ャンプ、冬はスキー、また大峰登山の基地としても貴重
です。
【参考】2.5万図『弥山』



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