大又から晩秋の薊岳、木ノ実ヤ塚
 
平成16年11月 7日(日)
【天候】晴れ一時曇り
【同行】途中から二輪草夫妻
小屋ノ尾付近から眺める薊岳


 あれからどのくらいになるだろう。明神平に初見参したのは確かそろそろ秋も終盤に近
づいた頃で、木々の余りの色鮮やかさにびっくりしたことを覚えている。それから毎年一
度は出かける明神平周辺。今年は大又から正攻法で薊岳へ。今まで敬遠していた標高差1
000m。果たして大丈夫かねぇ。(笑)

 今日も順調に自宅から約2時間の行程。狭戸辺りから前を走っていた和泉ナンバーの車
はそのまま林道終点まで行くようだ。当方は大又の集落を少し過ぎた所の路肩に車を止め
る。今日は好天だし、人が多いだろうなと覚悟していたが、意外や大又周辺はひっそりし
たもので、それらしい車もない。明神平方面や麦谷林道へ廻った方が楽なので、あえて下
から登ろうとする者は少ないのかもしれない。

大又登山口の笹野神社。石段を登って
右の玉垣沿いに歩いていく


 庭先の畑にお茶の白い花が咲く大又の集落へ戻れば、奈良交通の大又バス停前が笹野神
社。ここは薊岳の登山口になっていて、登山届のポストも置かれている。笹野神社の祭神
は雨乞いの神で創建は842年といわれるから古い。境内は広くはないが、苔むした古色
蒼然たる社殿はその長い歴史を物語る。神社の向かって右側、玉垣に沿って小道が延びる。
杉木立の中を歩いていけば車道に出て、見上げる高い石垣の上には古いが広壮な民家の軒
先が見える。左に折れると手入れの行き届いた植林の中に真直ぐダートの林道が延びてい
る。私製の標識や赤テープも賑やかにあるので間違えることはない。

取り付きの植林下の作業道

 大又川の瀬音が高く聞こえていたが、次第に遠くなる。適度な傾斜の林道はウォーミン
グアップに丁度よい。額に汗。タオルを取ろうして「ありゃぁ?」
無い。車にまた忘れて来てしまったのか?気温が高ければこれは大いに困るけれど、今の
気温は10℃位か。それほど汗もかかんだろうと、取りに帰るのが億劫なこともあって、
そのまま進むことにする。

 右に大きく曲がると、この前の台風の影響なのか倒木が目に付くようになる。それにし
ても杉というものは根が浅いものだ。高さ10mを越える木もせいぜい深さ50p位止ま
りだもの。

 林道が少し突き当たった感じの所で右に道標が現れる。ここで林道と分かれて右の山腹
に取り付くことになる。ジグザグに高度を上げると再び巻き道。しかし杉林を透かして見
られる谷向こうの山々の稜線はまだまだ上の方だ。流木や枯れ枝が集積したような荒れた
小さな沢の源頭を跨いで更に高度を上げる。頭上の尾根筋と見える部分が明るくなったな
と思って近づくと、その先にまだ山の斜面あり。こんなことを幾度か繰り返す内に、やや
傾斜が緩くなった山腹の直登。山道に水が流れて歩きにくい。避けながら歩いていくと杉
木立の下に、水溜りを大きくした程度の、透明な水を湛えた小さな池が現れた。水はここ
から流れ出していたのである。ここがガイドにある古池の辻だろうか。

古池の辻?透明な水が湧き出している

 ようやくルートは東向きに変わった。薊岳の西尾根に乗ったようだが、広い尾根で依然
として植林の中。森閑として何の物音も聞こえない。木の幹には山主の印か「岩田山改」
と墨で書かれてある。大きな岩があちこちに顔を出し、下草はアセビが多い。山仕事で暖
をとったのか焚き火の跡がある。と、その横に墨で黒々と...。
「熊に気をつけて下さい」
「ええっ?嫌やで、こんなとこで...」
思わず周囲を見渡す。それからは時々「六根清浄」と掛け声をかけることにした。(^^;

 平坦な場所に出た。やっと植林から抜け出せたらしい。それにしても長い単調な人工林
の登りであった。前方には雑木の生えたこんもりとした小高い丘がある。大鏡山かなと登
ってみたが向こう側は急傾斜。GPSでは約100m位のずれがある。地形図にはすぐ傍
に池があるように書かれてあるがそれらしいものもない。GPSへの入力ミスかな?と思
いそれ以上の探索は止したのだが、実は薊岳方向とは逆に丘から西側へ向かえばよかった
らしい。薄暗い中に白蛇伝説のある小さな池と祠があるとのことで、その先に大鏡山の三
角点がみつかるという。また機会があれば探すことにしよう。尚、この付近はやや踏み跡
が薄く、しかも錯綜している。薊岳西尾根から大又へ下りるには植林の方向へ少し右折す
るのだが、その取り付きが若干分かりづらく注意が必要かもしれない。

やっと植林を抜けて
清清しい薊岳西尾根。奥は小屋ノ尾

 さて、長い植林歩きのつらさも色づいたブナ、カエデ、コナラの自然林に囲まれれば、
いつの間にやら吹き飛んでしまう。苔むした岩の配置はまるで日本庭園の趣き。更に岩尾
根。右手には二階岳から木ノ実ヤ塚と続く薊岳西南稜とその奥に台高主稜。左には伊勢辻
山、国見山と続く尾根筋と、やや霞んではいるものの素晴しい眺めだ。

 小屋ノ尾付近の岩稜線を攀じっていた時である。突然、ザックの携帯が鳴り出す。ザッ
クを下ろしている間に切れたが、歩き始めるとまた鳴り出した。誰だろうと訝しんでいる
と、何と二輪草さん夫妻だ。麦谷林道から登ってもう明神平に着いた所らしい。昨夜、P
Cにメールをくれたそうだが小生はもう寝た後で、今日の朝も見ず仕舞で出てきたのだっ
た。Mさん達は用事があるとかでもう引き上げたそうである。

 小屋ノ尾を越えるといよいよ薊岳が眼前に迫ってくる。微かに人の声も降ってくる。が、
シャクナゲの茂る岩尾根は、足を踏み外せば危険でスピードが上がらない。というか、こ
こはじっくり堪能しながら歩きたい所である。

 雌岳の標識を過ぎると雄岳はすぐそこで、今まで誰にも会わなかったのが、流石にここ
まで来ると明神平や麦谷からの登山者も多く、今しも10人程のパーティが昼食の最中で
ある。こちらも少し外れた岩の上でバーナーに点火する。眼前に展開するスカイラインを
見ながら食事するのも格別。山腹に雲の影が浮かんでいる。赤ゾレ山の向こうに高見山が
淡く二等辺三角形。西の眼下に大又の集落が小さい。

雲の影を山腹に映す赤ゾレ山付近から
高見山が顔を出す

 食後のコーヒーを飲みながら、二輪草さんに電話。大分、こちら側に戻ってきていると
のこと。
「ピストンで帰るのも芸がないしなぁ」
そこで麦谷林道へご一緒し、下界まで車に便乗させてもらって良いかという虫の良い申し
出をしたところ快諾いただく。木ノ実ヤ塚方面への西南尾根歩きもできるしこれは大助か
り。感謝、感謝だ。

 1時過ぎ、二輪草さん夫妻、到着。ブナ林を堪能してきたという。少し視界の良くなっ
た眺めを楽しんだ後、薊岳を後にする。

 麦谷林道コースは2回目だけれど秋は初めて。ここも天国のような尾根で、振り返れば
薊岳から明神平に至る尾根が屏風の如く続く。登ってみればただの尾根のコブなのに、こ
ちらから見る明神岳は綺麗な三角形をしている。東には三重県側の深い谷を隔てて、池小
屋山から大台ヶ原に通じる台高山脈の主稜。そんな風景を楽しみながら、丈の低いヒメザ
サの中を登り返せば木ノ実ヤ塚のブナ林だ。三等三角点のあるその頂上から南西に折れて、
クマザサの中の急降下。そして暫く歩けば、このルートで最高にいい二階岳(1248m)
の北側の鞍部に着く。太いブナの木が林立する鹿遊びの別天地で、事実、分厚い落ち葉の
絨毯に鹿の糞があちこちに転がる。速く歩くのは勿体ない。噛み締めて歩かねば。(^^)

二階岳北の鹿遊びのブナ林
落ち葉のフカフカ絨毯です


 鹿かイノシシの足跡が残るヌタ場を横目に、地形図の1248m標高点ピークを過ぎ、
細い尾根を抜けると、木ノ実ヤ塚と書かれた標識の下に「ここは二階岳」とマジック書き
のあるピークだ。

 ところで、この二階岳の位置もガイドや地図によってバラバラである。あるものは12
48mの標高点ピークだというし、あるものは今立っているこの西南の無名ピークだとい
う。このような曖昧さは、薊岳の雌岳の位置についてもいえる。実際の標識は雄岳のすぐ
西の峰に置かれているが、ガイドによっては小屋谷ノ頭がそれだとなっている。ややこし
くて仕様がない。誰か統一してくれないものだろうか?(笑)

 このピークを過ぎれば、後は桧林の中の遊歩道のような一本道。10分程で麦谷林道の
登山口に出る。車が2台。1台は先に下山していったメガネの小父さんの車だった。

 車で降りるとまことに速い。あれだけ時間をかけて登ったのが何だったのかと思ってし
まう。(笑)あっという間に麦谷の集落で、15分もかからずに朝の駐車位置に戻ること
が出来た。歩いていればどうだろう。大又着は4時過ぎにはなっていたろう。大助かりで
ありました。

 やはた温泉で汗を流すというご夫妻とはまたの機会を約してここでお別れだ。時ならぬ
人声に大又最奥の民家の犬が覗いていた。お蔭で渋滞前に西名阪を抜け、5時帰宅。今日
は本当にお世話になり有難うございました。

【タイムチャート】
7:40自宅発
9:35〜9:40大又(駐車地)
9:45笹野神社
10:36古池の辻
11:25大鏡山
11:40小屋ノ尾頭(Ca1300m)
12:10薊岳雌岳
12:12〜13:12薊岳雄岳(1406m)(昼食)
13:32〜13:35木ノ実ヤ塚(1373.8m 三等三角点)
14:00二階岳(1242m)
14:04〜14:05二階岳の標識のある峰(Ca1230m)
14:18〜14:25麦谷林道出合
14:40大又(駐車地)


薊岳・木ノ実ヤ塚・二階岳のデータ
木ノ実ヤ塚から薊岳〜緑の滴に酔う』をご覧下さい。
【参考】2.5万図『大豆生』、エアリアマップ『大台ヶ原』



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