住塚山・国見山〜林道歩きは長かった
平成15年 5月24日(土)
【天候】薄曇り
【同行】単独
タワミ峠から眺める屏風岩(左が一の峰)
中央奧に住塚山、右奧に国見山


 この週末はまあまあの天気だというので、久方ぶりに室生方面へ。昨秋の大洞山、尼が
岳以来だから約半年ぶり。7時半とやや遅い出発にも拘らず、懸念された渋滞にも会わず、
榛原から曽爾方面へ向けて順調に進んで、2時間足らずで曽爾村の中心の長野へ到着であ
る。

 屏風岩公苑への案内板を見落とさないようにややゆっくりと車を走らせる。しかし、そ
れも杞憂、目立つ標識があり、集落の中の狭い道を屏風岩公苑へ向かって登る。枝道が多
いが標識通りにくねくねと道なりに登っていけば間違いはない。薄暗い植林帯を抜けると
公苑入口で、右手に10数台は止められそうな駐車場がある。

屏風岩公苑から仰ぐ屏風岩の威容

 ふと見上げれば圧するように高さ数十mの柱状節理の壁が連なっている。これが屏風岩
かぁ。最高点868m、高さ200m、幅1500mの流紋岩質凝灰岩で出来た岩で、室
生火山帯の数回の噴火で出来たという。想像以上に切り立った岩壁だ。森の茂みの何処か
らともなくツツドリのオカリナを吹くような声、キツツキのドラミング音も混じる。この
雰囲気、何時来てもいいねえ。

 案内地図板と管理事務所の建物の横には曽爾村が立てた「花ごよみ すすき街道」と書
かれた杭、指導標には「住塚山1.5q、国見山2.7q」とある。公苑進入路には車止め
のロープが張ってある。これを避けて公苑の中を進む。桜の木が多い。標高が高いので結
構遅くまで花見が楽しめるらしい。また秋の紅葉もよさげだろう。左に境内が見える早高
神社を過ごして、何という木か判らないが大木の横が取付き。親切にも登山口標識が立つ。

屏風岩公苑奧の登山口

 昨日の雨で濡れた草叢の中を歩いて暫らくで分岐に出る。真っ直ぐ行けば神武天皇伝説
の宮城(みやしろ)だが、鹿避けネットが張られて進めない。下に林道が見えていたので
神社の辺りから歩けるのかしら。登山道は屏風岩の西端を乗っ越す為に、ここで右に折れ
る。杉桧の人工林の中、ネット沿いに暫らく直登である。額に汗、しんどさに顎が出る頃、
直登が厳しくなるのか、道は稲妻型に山腹をよぎって上がるようになる。それでもかなり
きつく感じるのは、植林の中で風もなく、眺望も無いのも一因かもしれない。

 暫らく我慢して漸く稜線に乗る。指導標がある。植林の中を東へ行けば、一の峰のコル
(若宮峠)から長野へ降りられるようだ。一息入れて西へ進む。

 小さなコブを越えると人工林から離れて雑木の林。木の間越しにちらちらと下界が見え
るが、かなりの傾斜だ。花は概して少なくモチツツジのピンクが一番目立つくらいか。

 小さなアップダウンを繰り返して徐々に高度を上げるが、この辺りは概して苦しい登り
はない。山頂直下で若干きつい程度。雑木のプロムナードだ。住塚山の山頂にはベンチが
一つと二等三角点。南側が伐採されていい眺め。大絶壁の屏風岩もこちらから見ると鋸の
歯の様ではあるけれど緑に包まれたただの山である。東方向にはこれから向かう国見山の
姿。奥には兜岳、鎧岳の怪異な姿がある。倶留尊山は霞んでハッキリしない。

住塚山から東方向を眺める
国見山と奧に兜岩、鎧岩が霞む

 高見山はどの辺りかなと眺めていたら、国見山の方からぬーっと小父さんが現れた。こ
こまで誰にも会わずだったから、少なからず吃驚した。どちらからと問うと室生から廻っ
てきたという。この周辺を良く歩いておられるそうで、しばし山談義に花を咲かせた後、
公苑方面に先に降りて行かれた。それにしても、駐車場に先着していた10台近い車の主
は何処へ行ったのだろう?

 風が強く汗が引いた体では寒くなってきた。昼食には早いし、国見山の方が展望が良い
とも聞いていたし、その内には見晴らしも良くなるだろうと期待しつつ先へ進むことにす
る。

 上空の雲がやや厚くなったのか、登山道は薄暗い。折角稼いだ高度を徐々に吐き出しな
がら、時折の急降下。下草にササが現れると小さなコル。ここがゼニヤタワかと思えば、
丸木の階段で更に下り。

 ゼニヤタワは両山のほぼ中間点(住塚山700m、国見山500m)の、林の中のやや
陰気な峠。昔は室生寺への巡礼者も通ったであろう重要な峠道であったらしいが、今は植
林の中に埋没した感じである。室生への道標はあるが、曽爾側への案内は無かった。

 ここから国見山へは下った分だけ登り返さねばならない。ガイド本には厳しい登りとあ
ったが、それ程でもない。補助ロープもあるササ混じりの小道を攀じていけば、やがて傾
斜が緩んで、今度は露岩混じりの痩せ尾根になる。雑木が繁茂しているから目立たないが、
両側ともかなりの切れ落ちである。時たまポッカリと窓の様に雑木の間が開くと、古光山
が嵌め込み画の如く姿を現す。そして再び傾斜が急となる。丁度、倶留尊山への登りに似
た感じであろうか。それも一時。又緩んだ傾斜の先には喬木も見当たらない国見山の山頂
に飛び出す。

 評判通りの360度の展望である。三角点が無いのが不思議な位だ。山頂の真ん中には、
高さ50p位の双仏石。地蔵を彫ってあるらしいが長年の風雨に摩滅して判然としない。そ
の横にも何かが彫られていたらしい石があるがこちらは全くのノッペラボーであった。

 意に反してこちらも誰も居ない。展望を独占と行きたいところだが、相変わらず南から
灰色の雲が次から次へとやってきてはベールを被せる。お陰で高見山や大峰は見えず。辛
うじて曽爾の青少年の家と曽爾高原の草原、古光山、兜岳、鎧岳。西に三郎ヶ岳。北に赤
目付近の山々と名張の市街が霞んでいるのが精一杯。一方、双眼鏡で見ると先程迄居た住
塚山には黄色い人影が見える。更に、屏風岩の一番東端に当たる辺りに小さな白い建造物
が立つ台地状の山が目立つ。

 ベンチに荷を下ろし、昼食の準備を始める。意外に近くホトトギスの声。ジャコウアゲ
ハがひらひらと木陰を通り過ぎていく。風は相変わらず時折強いが、薄日が射してきたの
で暖かい。ラーメンを啜りながら至福の時を過ごす。

 クマタワへは国見山の北西尾根を辿る。雑木と植林の境界線沿いを丸木階段で下ってい
くのだが、10分程下った頃だったろうか。落ち葉が深く堆積した木陰に目が行った時であ
る。何やら白く透き通ったものがあると気づいたら、これがギンリョウソウ。一つ気がつ
くとあるわあるわ。中には一株で20本程の大物もある。これだけ沢山見られたのは初めて
であった。
国見山北西稜で見つけたギンリョウソウ

 松ノ山の登りは丸木の階段。そして登りきったと思えば北に方向を変えて、植林の中を、
再び一気の下り。その先がクマタワで、ログハウス風のトイレがあるが、これが汚い。全
く足の踏み場もないのだ。折角、瀟洒な建物があるのだから、もっと綺麗に使えないもの
かなぁ。
クマタワ。中央がトイレ、右に行けば室生寺
左は済浄坊渓谷から長野へ

 このクマタワは林道の終点になっていて、室生寺へは杉林の中を西へ向かうのだが、今
回は東海自然歩道に指定されている林道小長尾線を屏風岩方向へ。浄済坊渓谷まで2.6
km。

 覚悟はしていたものの、ここからの林道歩きは長かった。おまけに小雨もぱらつき出す。
整然とした杉桧林を抜けるといつも間にか右手に沢が現れる。横輪川の源流である。林道
歩きが長いといえどもこの辺りは面白かった。山際の崖の細流が流れ込む付近からは、ゲ
コゲコとヒキガエルの鳴き声。右手の沢にはアマゴらしい魚影も見え、モチツツジやノフ
ジの花などを愛でながら歩ける。クサイチゴ、キンポウゲ、ワラビもあって飽きることが
ない。

 やがて右方向に橋が二つ並行して現れる。手前が林道川根線でエアリアマップに「入る
な」とある林道らしい。(尚、この林道を辿って屏風岩のコルへ出て若宮神社へ下れる様
です)東海自然歩道は次の橋を進む。いささかウンザリした頃、やっと大きな道標が現れ
た。済浄坊の滝への分岐。だが屏風岩公苑へはまだ2.5kmも。「へぇ。まだ半分かぁ」
(^^;

 変わり映えしない景色にラジオを聞きながら、見晴らしもない林道をテクテク。すると
道が左にぐぅーっと曲がる手前右手に神社があった。多輪峯神社とある。木の鳥居を横目
に道を曲がると思いかけずバァッと視界が広がる。曽爾の集落を眼下に目の前には古光山。
右手に屏風岩から住塚山や国見山が眺められる。澄んでいれば最高の眺めなのに残念。左
手に住塚山や国見山からも眺められた白い建物とアンテナ施設がある。どうもNHKの中
継所がある楯岡山らしい。この付近は昔、桜の名所だったらしく、中継所の建設に伴って、
また新しく整備されたようで、桜の苗木やツツジが植えられている。NHKの中継所へ向
かうと思われる管理道路が延びていたので、後で車で来てみることにする。

 再び植林帯に沿う道は林道長野線と合流する。道端にヤマシャクヤクに似た植物が数本
あったが本当にそうかは定かでない。ルイヨウボタンかもしれない。やがて往路に車で上
がってきた道とも合流、もう少しだとやや倦んだ気分を新たにする。

 真新しい建物が現れた。塀から覗くと弘法大師の像などの彫像。隼別神社とある。本来
の神社は右手の坂の上。何故か男女ペアの石彫が参道に並んでいるのが面白い。「隼別」
とは寡聞にして初めて耳にする名前だが、帰宅して調べると隼別皇子(はやぶさわけ)を
祀った社とのこと。隼別皇子は応神天皇の子で、仁徳天皇の妃になるはずだった雌鳥親王
と相思となって逃げる途中、曽爾付近の山中で殺害されたと日本書紀や古事記の記載があ
った。道理で現代風の道祖神を浮き彫りにした石が多いのだろう。こけし風、平安時代風
と色とりどりである。地形図にはここから屏風岩の若宮峠を抜けてゼニヤタワへ向かう点
線路があるが、実際の道はやや荒れている風であった。(先程の林道川根線とも合流する
と思われます)

 屏風岩公苑の駐車場はそこから5分。ふーっ長かったぁ。ザックを下ろして着替え。お
茶と赤飯おにぎりで一息ついたところで、さっきの楯岡山へ廻って帰るとしようか。
 
 去年の大洞山、尼が岳以来の室生の山域。曇ってはいたがその分涼しく、持参の茶は半
分も消費せず仕舞であった。手軽に歩ける1000m峰二つ。車に戻る為には周回するの
が必要だったとはいえ、林道歩きは長かった。やっぱり折り畳み自転車買うかなぁ。(笑)

【楯岡山】
 林道を多輪峯神社のあるタワミ峠まで戻って、中継施設への新しい取付け道を進む。登
り切ると東屋があり、横に広場があるので車を置いて登ってみた。予想通り大景観。展望
台の様に平地に突出した感じなので余計に素晴らしい。晴天なら青蓮寺川沿いの曽爾の集
落をはじめ、古光山から曽爾高原、日本ボソ、三峰山、高見山と一望だろうに。尚、山頂
ではないが付近に四等三角点『蛇久保』があるので、ついでに踏んで行くことにした。地
形図からマップポインタで緯度経度を概算し、GPSに入力。すると取付け道路の上側の
高みにあるらしい。東屋から辿っていくと、ヤブの枯れ木に埋もれてポツンとあるのを発
見。GPSでも無いと、とても見つけられなかったでしょう。(^^;)

 ■参考 楯岡山(744m)、蛇久保(四等三角点 732.1m)



【タイムチャート】
7:40自宅発
9:35〜9:45屏風岩公苑駐車場(Ca770m)
9:55宮城分岐
10:10一の峰・長野分岐
10:30〜10:45住塚山(1009.4m 二等三角点)
11:00〜11:02ゼニヤタワ
11:19〜12:11国見山(1016m)(昼食)
12:35松ノ山(Ca940m)
12:45〜12:47クマタワ
13:18済浄坊の滝分岐
13:32林道長野線出合
13:47〜13:50隼別神社
13:55屏風岩公苑駐車場(Ca770m)



住塚山のデータ
【所在地】奈良県宇陀郡曽爾村・室生村
【標高】1009.4m(二等三角点)
【備考】 天然記念物の屏風岩の北に聳える室生火山群内の一峰で
す。西の三郎ヶ岳に対して次郎岳とも呼ばれます。神武
天皇と争った土蜘蛛八十梟師(ツチグモヤソタケル)が
棲んでいたとの謂われがあります。山頂からは南西方向
が伐採され、後から眺める屏風岩を隔てて、台高、大峰
の山並みや国見山が眺められます。
■近畿百名山■関西百名山
国見山のデータ
【所在地】奈良県宇陀郡曽爾村・室生村
【標高】1016m
【備考】 住塚山の東に並ぶ室生火山群の一峰です。神武天皇が国
見をしたという伝説があるのも頷ける程の360度の大
展望で兜岳、鎧岳他、室生・倶留尊の峰々や台高、大峰
の山々が指呼です。山頂にはいつのものか定かではあり
ませんが双仏石が安置されています。
【参考】2.5万図『大和大野』エアリアマップ『赤目・倶留尊高原』



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