四寸岩山〜郭公啼く吉野古道
平成15年 6月29日(日)
【天候】曇りのち晴れ
【同行】単独
四寸岩山全景。西面が伐採されている
(大天井ヶ岳から2001初夏)


 久々の梅雨の晴れ間に久々の遠出。目指すは大峰。といってもそのとば口。去年、歩い
た青根ヶ峰から先、大峰奧駈道の旧道、所謂、吉野古道を歩いて四寸岩山まで。ちょっぴ
り『散華、散華、六根清浄』の気分を味わってきました。

 今日は吉野の狭い街中を避けて、如意輪寺前から奥千本に向かおうと、近鉄吉野駅前の
道を採ったら、なんとトンネル付近で工事通行止だという。ありゃ?ついてないわいとい
うわけでUターン。吉野神宮経由の道で登る。

 土産物屋や旅館が軒を接する、すれ違いもままならぬ道を抜けて、うねうねと高度を上
げれば金峯神社の門前。林道吉野大峰線に少し入って、義経隠れ塔の向かいの広場に車を
置く。

 車を降りた時、何となく地鳴りの様な音がすると思えばニイニイゼミの鳴声である。光
陰矢の如し。今年もはや、蝉の季節がやってきたか。葉先が白くなったマタタビの芳香を
放つこれまた白い花を眺めて、展望東屋から義経隠れ塔の横を横切れば金峯神社の境内。
社務所は全焼した状態のままだ。休憩所の役行者に挨拶して本殿横の石畳の道を登る。道
標に従って、分岐を左手に曲がると、報恩大師修行霊跡の碑が建つ愛染の東屋。ここは西
行庵へ折れずに直進する。10分足らずも歩けば青根ヶ峰への女人結界。石地蔵には金襴
の大きな帽子が被されていた。

 約1年振りである。丸木の階段をゆっくり登って行くと石のベンチのある青根ヶ峰山頂
はすぐ。相変わらず展望はない。雑木に囲まれてほの暗い中に、ササユリがひっそりと1
輪浮き上がる。

 山頂から南へ向かう吉野古道を辿る。「ポッポッポッ」とツツドリの声に混じって、遠
くでカッコウの声がする。すぐ傍ではウグイスの警戒するような鳴声である。多くの種類
の野鳥が生息している様子だが、如何せん野鳥の知識は皆目の為、悲しいかな、この程度
しか分からない。

 山道が続くと期待したら、あっけなく車道へ出てしまった。「青根ヶ峰」と書かれた石
標がある。ガイドに書かれているのはこの石標の事かと納得。ここからは暫らく車道歩き
である。

 何だかガーガーと場違いな機械音がする。車が数台とまっていて、傍でディーゼル発電
機が無粋な音をたてている。右手の高台では数人が大きなアンテナを組み立てている真っ
最中。無線愛好家の連中で、そういえば六甲山頂でもこの光景に出くわしたなぁ。

 車道の崖の壁面に山上ヶ岳までの吉野古道の案内図があった。四寸岩山迄は直線距離で
ほぼ3qだ。2、3百m車道を歩いて、小さな稜線が始まる所から右に再び山道。照葉樹
林の暗く湿った中にしっかりした踏み跡。しかしこれも長くは続かず、桧林、ササが現れ
たと思ったら10分程でまたまた車道に飛び出した。この辺りは道が車道に寸断されてい
て、奥駈道とは思えない。車道は川上村と黒滝村の村界標識を過ぎると分岐し、右は黒滝
村へ下っていく。これが林道なのと思えるくらい立派な道だ。

 数百m歩いたろうか。前方にガスが懸かる峰が見え始める。北の空は明るいものの南は
灰色で、山に懸かるガスはだんだん濃くなる雰囲気。雨も心配されたが、雲の流れを見る
と幸い北から南方向で、少々安堵する。だが、前方の稜線を見て「結構、標高差あるやな
いの。一寸骨ありそうやで」と心中で呟く。これが決して杞憂ではなかったことがやがて
判明するのである。(笑)

 左に道標が現れる。古道はここから四寸岩山へ。現在の奥駈道はここから100m先の石
垣を登る金属の階段で山に分け入り、四寸岩山の腹を巻いて百丁茶屋跡へ続く。取付きの
横にあるトタン屋根の小屋は山仕事用のモノレールのターミナルである。

 今迄の歩きが嘘の様なきつい登りが始まる。400m程の標高差を一気に稼がねばなら
ない山腹の登り。植林、雑木林が交互に現れる他、展望はない。白いガスがたなびいて来
る。気温は高くはないが、湿気がきつく蒸し暑い。横のモノレールに乗れたら楽なんだが
と生来のズボラ心が頭をもたげる。(^^;

 切り開きの様な場所に出る。心見茶屋跡と古道保存会の案内標識が立つ。小さな茶店で
もあったのであろうか。因みに四寸岩山の点名は『心見ノ峠』。ここで一息入れる。

 斜面に稲妻形に付けられた道を更に登って、コアジサイの群落を抜けるとようやく尾根
筋に乗れた。といっても樹林の中。気が付けば何時の間にかモノレールの軌道は東へ派生
する尾根にそれていって傍にない。と、突然、すぐ傍らでバサバサッと大きな羽音が鳴る。
ドキッとしたと同時に正体が分かった。ヤマドリだ。10mばかり重そうに飛んで逃げてい
った。それにしてももっと早くに飛んで逃げりゃいいものを。人騒がせな鳥だ。

 ところで、ここまで一人も会わない。只、道のぬかるんだ部分に、朝の内に歩いたと思
われる地下足袋らしき足跡がある。足跡の主は修験者だろうか?
 
 小広い台地に出る。ここにも何か建物でもあった様な雰囲気がある。更に進んで小さな
コブの上に道標を見つける。新茶屋分岐で、奥駈道の新茶屋跡に向かう踏み跡はやや不明
瞭ながらも、尾根沿いに木々に巻かれたテープが西へ下っている。

 再び傾斜を増した登りをまもなく石灰岩らしい白い岩が散在する辺りに出る。『四寸岩』
と標識があり、その奥が二等三角点の埋まる無人の山頂であった。山頂東側に踏み跡とテ
ープがあったが、福源寺へと続く高原山への縦走路だろうか。周囲はブナ、ミズナラ、ハ
ウチワカエデの自然林。西側斜面だけが伐採されて展望が広がっているものの、惜しいこ
とに一面のガスで何も見えない。仕方がないと展望を諦め食事の用意を始めた時である。
サァーッと一部分のガスが晴れ、多分、赤滝であろう眼下遥かの緑に囲まれた小集落が目
に入った。これはひょっとしたらガスが晴れるかも。淡い期待が膨らむ。その内、薄紙を
めくるが如く、徐々にではあるがガスが薄れてきて、南側の大天井ヶ岳や小天井、西に高
圧鉄塔が立つ柏原山が顔を出し始めた。山向こうの平地は下市、大淀付近だろうか。だが、
標高1500m以上はガスが消えず、山上ヶ岳は一部が見えたのみで全容はついに見えず仕舞
に終わった。
白いガスとブナ等の雑木林に囲まれ
た四寸岩山山頂の角点

 やたらハエが多い。湯を沸かす最中の容器の中にも構わず入ってくるのには閉口。そん
なことに悩まされながらも食後のコーヒーも飲み終え、帰り支度を始めた時である。南の
方角からチリンチリンと鈴の音が近づいてくる。やがて木々の間から白装束が現れた。笠
を被った三十代の修験の方である。四寸岩山の頂上迄来ると西方に向かって合掌し、足早
に降りて行かれた。
足早に山頂を抜けていった大峰修験の方

 先程の修験者を追う様に出発するが、もとより追いつける訳もない。膝を笑わせつつ、
四寸岩山の登山口の少し手前迄戻って来た時である。道の左手にある木株の上に妙な物が
置かれてあるのに気付く。まだ履けるトレッキングシューズに茶色の皮ベルト。
「ン?」と思う間もなく背筋がゾーッ。そんなことは滅多にないとは思いつつ、何かぶら
下がっているものはないかと恐る恐る見回してしまう小生である。幸い何もなく、林道に
出て、ホッと一息である。(^^;

 ホタルブクロの白い花、桧に絡むイワガラミにも白い花。木苺が鈴なりなので摘みなが
ら歩く。朝とはうって変わってすっかり青空である。ブラリと歩いていると、ピックアッ
プが抜けていった。荷台に檻。遠くで犬の鳴き声。

 植林の切れた辺りから東側が望めた。高見山の鋭鋒がすっくと立つが、その南の明神平
方面はガスの中だ。特徴のある額井岳。白屋岳の大きな山塊も眺められる。青根ヶ峰の登
りは端折ってそのまま車道を歩く。山裾をぐるッと廻る。途中に蜻蛉の滝からの登山路が
あった。そこから10分程で駐車した広場であった。

東の方向に台高の盟主、高見山の鋭鋒が...
右の明神方面はガスの中

 ハイキングの催しでもあったのだろうか、吉野の街の到る所には初老のハイカーがゾロ
ゾロ。その中にふと、四寸岩山で会った修験の方が歩いているのに気付く。「矢っ張り早
いわ。」

 奥駈道のほんの入口を歩いただけだが、この分なら小生でも洞川くらい迄なら歩けそう
やなあ。一寸自惚れる吉野古道の歩きでした。「六根清浄、六根清浄」。



【タイムチャート】
7:30自宅発
9:30〜9:40義経隠れ塔向いの駐車場(Ca745m)
9:42金峯神社
9:55女人結界のある青根ヶ峰分岐
10:00〜10:02青根ヶ峰(857.9m 三等三角点)
10:05車道出合(青根ヶ峰石標)
10:08古道分岐
10:19車道出合(黒滝村・川上村境界))
10:32四寸岩山取付
10:42〜10:45心見茶屋跡
11:15新茶屋分岐
11:25〜12:35四寸岩山(1235.6m 二等三角点)
12:45新茶屋分岐
13:10〜13:17心見茶屋跡
13:25四寸岩山取付
14:00車道出合(青根ヶ峰石標)
14:10義経隠れ塔向いの駐車場(Ca745m)


四寸岩山のデータ
【所在地】奈良県吉野郡川上村
【標高】1235.6m(二等三角点)
【備考】 吉野山の南に聳える大峰山脈の前衛の山です。大峰奧駈
道が山腹を、古道が山頂を通っています。中腹までは植
林が多いですが、山頂付近にはブナ、ミズナラ、ハウチ
ワカエデ等の自然林が残ります。山頂からは西側が伐採
されている為、西南方向の展望が良く、大峰主脈の大天
井ヶ岳、山上ヶ岳はじめ紀州の山々等が見渡せます。

青根ヶ峰〜吉野でお手軽森林浴を参照する
【参考】2.5万図『洞川』『新子』



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