三津河落山で涼線山歩
平成15年 9月14日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独
青空に映える三津河落山の白骨木


 一ヶ月遅れで夏が来たようで、連日の熱帯夜にウンザリする今日この頃、守備範囲の低
山行きが億劫になるのも当然の帰結。でもやっぱり山は歩きたいしで、4年ぶりの大台へ。
1500m越えの稜線は当初の期待通り涼しく、晴天と展望にも恵まれて、素晴らしい山
旅の一時を過ごせました。

 R169、暫く来ぬ間に素晴らしい道になっている。色々物議を醸している大滝ダムの
お陰だろうか。吉野川沿いの狭い道にはトンネルが穿たれ、あっという間に大台へのドラ
イブウェイ。6時前に出て、山上駐車場には8時40分着。それでも駐車場はほぼ満杯で
ある。今日は人だらけの東大台もいわんや西大台でもない北大台の三津河落山がターゲッ
ト。駐車場に固執することもないのでUターンして、少しドライブウェイを下った辺りの
広場に駐車する。

 確か筏場への道標があったはず。駐車場に近かった様な記憶があったが見つからない。
ドライブウェイに沿って下っていく。道端を覗くと茄子紺の花が鈴なり。トリカブトだ。
えもいわれぬ美しい色に、猛烈な毒草だとはとても思えない。

色鮮やかなトリカブトの花

 道端の芝生では早くも輪になって食事しているパーティがいる。朝も摂らずに出てきた
のであろう。ご苦労様です。

 駐車場から1q位下っただろうか、ようやく道標があった。ここが川上辻。数段の階段
を上がると案内板がある。何の疑いもなくイトザサの中の明快な踏み跡を伝って進む。シ
ロヤシオ、トウヒ、苔むした岩。気持ちいいねぇ。うきうきしながら足どりも軽い。と、
単独小父さんに追いついた。
「こっち初めてなもんで。筏場この道で良いですよね?」と小父さん。
「多分、良いと思いますよ」と返す。
暫くすると前方に今度は夫婦ハイカー。
「三津河落山はこっちでええのかなぁ?初めてで分からんもんで」
「多分...。」今思えば、全くいい加減な受け答え。それにしても初めての人がやたら多い。
人だらけの東大台に嫌気がさしたのだろうなあ。

 道はよく整備されて歩き易いが、片一方が崖状で少し気を使う。しかし何かおかしい。
道は山腹を絡むのみで徐々に下がって行く。釜の公谷へ行くという沢屋の団体が先行して
いった後、もう少しで安心橋まで行き着く辺り、天理大学WVのお馴染みの黄色い金属標
識板のあるヘアピンで現在位置を調べる。GPSとカシミールの地図で確認すると、こり
ゃぁ駄目だ。ここはセオリー、戻るに限る。結局1時間のロスである。

川上辻。三津河落山へはここから直ぐの二叉路を左へ行く

 後から考えれば至極簡単。正解は辻から直ぐの最初の尾根を登って行くのである。ロー
プがある為、見落としがちだが、細いけれど尾根を登る踏み跡がちゃんとある。地図をい
い加減に見ていた罰である。10m程奧の灌木に赤テープも巻かれてある。それを辿って
行くと、突然、「ピーッ」という空気を鋭く引き裂く警戒音に驚く。予期せぬ闖入者に驚
いた鹿の声である。5、6頭はいたろうか。尻の白い毛があっという間に樹間に消えて行
った。

 名古屋岳は縦走路から少し離れたピーク。大きな石が転がる中に「名古屋岳」と刻まれ
た石標と大阪営林局の境界見出標がある。灌木の間からは西に大峰の山並み。東には意外
に優美な三津河落山の山容。だが、鞍部から結構登り返さねばならない。「登り返すの、
一寸しんどいかもなぁ」心中で弱音を吐きながら、山頂から少し戻って、石混じりの踏み
跡を降っていく。シャクナゲの叢林を抜けて、そこに現れた一抱えもあるトウヒを見上げ
たら何か変だ。木が透けている様な。近づいて裏側を見るとなんと樹芯は朽ちて、熊が冬
眠できる位のがらんどう。にもかかわらず青々とした葉を繁らせている。するとこれまた
二抱えもある様なブナが根こそぎ倒れていて、踏み跡をふさいでいるのに出くわす。これ
を避けると踏み跡は登りに転じ、やや不明瞭になるが、古いテープを追って登れば問題は
無い。汗をかきつつ息を弾ませ露岩の転がる頂上に出る。桧の自然木に囲まれた狭い頂に
は、如来月と刻まれた石柱。「伊勢山岳会踏査票全三重県境縦走」という札があったが、
三重県は南北に相当長いはず。色々な目標を考える人がいるものだ。

名古屋岳から眺める三津河落山の最高峰の如来月

 さて、ここで一服、初めての水分補給。今日はここより高い場所は無いと思うと、アッ
プダウンの事は忘れて何だかホッとする。

如来月から三津河落への清々しい稜線道

 踏み跡は不明瞭になるが稜線を外さねば不安はない。あんまり獣臭くないヌタ場を過ぎ
た辺りのほぼ平坦な稜線はシャクナゲの群落。五月過ぎはさぞかしピンクに染まることだ
ろう。その時、遠くで微かな人の声。立ち止まって耳を澄ます。空耳かぁ。

 灌木帯を抜けてトウヒらしい白骨木が中心にあるイトザサの原に出る。ササの中に三津
河落山の石標が埋まる。その先で出迎えてくれたのが感激物の大展望。台高主稜が一望の
もと。白髭岳、電波塔のあるジョウブツ山。すると薊岳を始めとする明神平はあの辺りだ
ろうか。大崩壊地のある池小屋山。迷岳、古が丸山。東には南島町の海岸線らしき姿が見
える。西は大和岳に続く稜線の向こうに大峰山脈。大普賢岳、行者還岳、弥山、八経ヶ岳。

三津河落より日本鼻(左)と大和岳(中央)。遠くは大峰
三津河落より北方の台高主稜線を見る。
最奧に迷岳が見える

 突端に立って景色を眺めていると、10人程の男女パーティが北東の尾根筋を登ってく
る。山では結構遠くの声が聞こえるもの、さっき聞こえた様に思った人の声は彼らのに違
いない。

 リーダーの方に頂いた名刺には「大杉谷自然学校」とある。山の家で一泊して、川上辻
から安心橋の先のコブシ峠経由で登って来られた由。「宮川村の山にも来て下さい」との
ことであったが、如何せん少し遠いです。(^^;

 リーダーの方が三津河落山の由来をメンバに説明を始めた。聞くともなく聞こえた話で
は、三津河落山は一つの山を指すのではなく、六甲山と同様に全体を指す名前らしい。北
の吉野川(紀ノ川)、東の宮川、南の北山川(熊野川)と三方向に流れる川の分水嶺で、
文字通り紀伊半島の臍。尾篭な話だがここで放尿すると、一部は紀伊水道、一部は伊勢湾、
一部は太平洋に注ぐと思うと何やら大きな気分になる。(笑)

 天気も見晴らしもいいので、ここで食事とする。暑さで自粛していたが、今日は久々に
カップラーメン持参。それにおにぎり。仕上げはコーヒーと毎度のパターン。その間にも
自然学校のパーティの方々と山座同定を愉しむ。

 正午。下山する自然学校のパーティ一行と別れて大和岳方面へ向かう。北側斜面は大き
くガレた部分もあるが、勢和国境尾根はイトザサで覆われ、獣道の様な一筋の細いがくっ
きりとした踏み跡が続いている。北側の大展望を楽しみながらの至福の一時である。農水
省の無人雨量局横を抜けると左前方に高みがある。鹿がつけたのであろう獣道があちこち
に。それを適当に辿ってなだらかな斜面を上がると、古い建物が現れた。こちらは建設省
の雨量観測所だ。更にその先に向かうと「日本鼻」と彫られた石柱が見つかる。ここから
は大峰山脈が釈迦辺りまで望める。眼下に小さくドライブェイも眺められて、車の音が這
い上がってくるのが少し興冷めではあるけれど...。

 農水省の雨量観測局付近に戻る。少し獣臭い。鹿の糞が至る所にあって、笹が円形に折
り敷かれた鹿の寝床らしきものも見受けられる。キラキラ光るフンコロガシがカサコソと
慌てて逃げていく。
大和岳から日本鼻、三津河落に続く稜線を眺める

 庭木にでもしたい位いい枝ぶりのイタヤメイゲツの林の間を通り抜けると鞍部。ここか
ら暫らくの登り返すと、イトザサの中にトウヒの白骨木と、座るに手頃な岩が鎮座する大
和岳は直ぐだ。和歌山から来たという単独おじさんが岩の上で展望を楽しんでいる。お先
にと戻って行かれた後、今度は当方が岩に鎮座、大普賢岳、弥山、八剣山、行者還岳、釈
迦ヶ岳と並ぶ大峰の山々を眺めながら豆大福でチト早いがおやつ。ツーッと涼風が駆け抜
ける。その風に乗ってアキアカネが思い思いの方向へ。さっきのおじさんの姿が日本鼻の
肩に小さく見えた。
公園の様な大和岳の山頂。ここも大展望です

 大和岳からは北と西に尾根が二分されるが、縦走路は西。その西への踏み跡横、岩から
10mほど離れた辺りに立つ樹齢が200年はありそうなトウヒは、雷にでも打たれたこ
とがあるのか樹冠部が折れていて、枯れているのかと思いきや、しっかりと緑の枝を出し
ている。その折れた部分の洞をナナカマドに貸している姿は、いかにも古木という雰囲気
を醸し出している。その木の横に立ちふと気が変わった。このまま西へ向かうと作業道か
らドライブウェイに出るはずだけれど、車道を戻るのも何だか面白くないというわけで、
ここで踵を返すことにした。

 日本鼻への登り返しが少々きつかったが、ザックも軽くなった加減で足取りは軽い。葉
先が早や、やや赤く染まったシロヤシオを見つける。なんだかんだ云っても秋は直ぐそこ
だ。

 三津河落山にはもう誰も居らず、如来月にも人影は無い。右に振って一気に鞍部に下り
て登り返すと名古屋岳の肩。ぶらぶらと歩けば車の音が大きくなって川上辻はまもなく。
案内板の横で、女性ばかりの三人パーティが食事の最中である。邪魔しちゃいかんと早々
に通り抜け車道に降り立つ。そして目の前の光景に吃驚。朝からは想像も出来ぬ程、路肩
は車の列。しかもまだまだ下から登ってくる。川上辻から駐車地点迄は10分程度だった
が、これだけでもうんざり。やっぱり車道を延々歩かなくて良かった。(笑)

 靴を脱ぎ着替えを済ます。まだ時間は早い。入之波温泉に寄り道して、期待以上であっ
た涼線山歩満喫の一日の締めくくりとした。ポピュラーな東大台は云うに及ばず、西大台
に比しても静かで殆んど人に遭わないこの山域。ちょっとした穴場を発見した気分。今度
はシャクナゲの季節にでも訪れてみたい三津河落山でした。



【タイムチャート】
5:55自宅発
8:40〜8:45山上駐車場手前、ドライブウェイ横の駐車地
9:10川上辻
9:40〜9:45安心橋手前のヘアピン付近
10:15川上辻
10:29〜10:35名古屋岳(1610m)
10:52〜11:00如来月(1654m)
11:08〜12:00三津河落山(1630m)
12:09〜12:10日本鼻(1640m)
12:19〜12:40大和岳(1597m)
12:54三津河落山(1630m)
12:58如来月(1654m)
13:12名古屋岳分岐
13:20川上辻
13:34山上駐車場手前、ドライブウェイ横の駐車地


 三津河落山のデータ
【所在地】奈良県吉野郡上北山村、川上村、三重県多気郡宮川村
【標高】1630m
【備考】 大台ヶ原の北側を形成する山稜の総称で、最高峰は如来
月(1659m)ですが、通常は如来月の北の峰をを指
します。東の宮川、北の吉野川、南の北山川(熊野川)
の三川の水源であり、分水嶺であることから命名された
といいます。トウヒ、ブナ、シャクナゲ等の原生林が見
られ、イトザサで覆われた山稜からは、台高、大峰から
金剛までの山並みが一望です。
【参考】エアリアマップ『大台ヶ原』



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