三国峠から野田畑峠〜演習林最奧部の秋
平成15年 10月19日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲
なだらかな曲線を見せる野田畑峠の底部はヌタ場


 これで5回目。ほぼ一年半ぶりの芦生である。今迄は所謂、表玄関の須後から。今回は
裏手の朽木村生杉から。ブナの原生林の黄葉を愛でに行くというお誘いを受け、江若丹の
旧国境沿いに広がる京大演習林の最奧部、北東端を歩いてきました。

 千里中央で皆さんと待ち合わせて、名神、湖西と乗り継いでR367。京大演習林の滋
賀県側は遠い遠いという印象があったが意外に近い。安曇川沿いに北上して梅の木で県道
に入る。こんな山の中が京都市や大津市なんて信じられないくらいだ。

 あの抜けるような青空が一転、灰色の雲に覆われる。路面も濡れて霧のように細かい小
糠雨も降り出してきた。
「えー?なんでぇ?」てな感じ。冬なら雪なのだろうな。湖西はやっぱり北陸型の気候だ。
生杉の集落で左折し、ルネッサンス生杉と名付けられた村おこしの建物でトイレ休憩。い
よいよ峰越林道に入る。

 林道は狭いが道はよい。黄色く色づいた木々の間の快適なドライブ。山が深まってきた
なと思われる頃、東屋が見えてきて10台以上の車が路肩に駐車している。その先はゲー
トだというので、トイレの約20m手前の空いたスペースに車を止める。

 トイレの横の休憩所に机が置かれていて、学生風の兄さんがやってきた。入山者の調査
をしているとかで、20台程GPSを用意して、トレースとアンケートを取るんだとか。
調査に協力する。
三国峠の登山口の説明板と入山ポスト?妖怪ポスト?

 今日は沢の渡渉もあるとの事で手回し良く長靴のメンバもいる。小生はスパッツで足元
を固める。取付きは少し戻った沢の左岸で、ブナの自然林の説明板がある所。いきなり木
の階段の登りだが、今日はエンジンのかかりも良い。一本調子の登りから直ぐにジグザグ
道になって傾斜がやや緩む為であろう。

 まもなく尾根に出る。ここからは穏やかな登りで明快な道が続く。動物の密度が濃いの
か、獣の臭いが漂う。所々に鹿の糞が転がっている。大きな葉を持つイワカガミがあちら
こちらに群落を作っているので、春はさぞかしピンクの花弁が敷き詰められることであろ
う。そういえば、平日、有休を取ってブナノキ峠への林道を歩いたのを思い出す。あちら
こちらがピンクで染まっていたっけ。

 途中で小休止しながらゆっくり進む。ヌタ場があるが、これが長池と呼ばれる湿地だろ
うか。しかしどうもGPSの表示がおかしい。三国峠の山頂まで90q?の表示。
「げっ!嘘でしょう」経緯度を確認すると子午線の東側のはずなのに東経134°の表示。
どうも入力ミスくさい。兎に角135°に訂正。すると、三角点迄もう80mも無いでは
ないか。目の前の高みへ先行しているメンバに声をかけるとそこが山頂だという。危ない
危ない。何回も確認したはずがこの始末。転記ミス、入力ミス。気をつけねば。(^_^ゝ

三国峠山頂の三角点
三本の踏み跡が集まってきている

 山頂は6畳位の平坦な広場で、三国峠と墨書された木柱がある。喬木もないので頗る見
晴らしが良い。尤も不案内だから山座同定が出来ないのがもどかしい。それでも北方に見
える双耳峰は青葉山。これは間違いない。西の生杉の集落の向こう、林道が走っている山
が百里ヶ岳で、その右は三国岳らしい。とすると東側の奥に見える高い山は湖北の横山岳
方面で、東南のは武奈ヶ岳だろうか。傘峠やブナノキ峠も見えるらしいがこれは見落とし
た。

 小憩した後、野田畑峠目指して西に向かう。広い道があってどんどん下って沢の源頭か
ら南にふりだす様だ。「一寸違うなぁ」こりゃ枕谷への下山路らしいということで、登り
返してもう一つある北側の踏み跡に踏み入る。下ると直ぐにテープが二つに分かれる所に
出る。東側のテープを確かめると若走路谷(ワカンビ谷)とマジック書きが見つかる。峰
越林道途中のヘアピンカーブの所に、三国峠(若走路谷)と書かれた古い道標があったが、
その取付きから、クチクボ峠経由で東の尾根を辿ってくるコースがここで出会うらしい。
ふむふむ。そうだったのか。エアリアマップの表示とは少しくい違っているような。(^^;)

 ズルズル滑る急斜面を下りて落ち葉ふかふかの鞍部に出る。ここが少し判りづらい。鞍
部の南側に向かって赤テープが一つあって、野田畑峠から来た場合は、鞍部向かい側の高
みへ登るのが正解なのだがこちら側へ引き込まれそう。そのテープの先は確かめていない
のでしかとは判らないけれど、地形図で確かめる限り枕谷へ出るらしいから、間違っても
大きな紛れはなさそうだ。

 やや西に振りつつ尾根上をテープを追いながら進む。概してしっかりした踏み跡がある
が、若丹国境沿いだから何か目印があるはずと探すと、「山」や「△」と刻まれた石標、
滋賀県が設置した黄色いプラ杭があって、それを辿ればいいので心強い。

フカフカの落ち葉尾根を767mピークへ向かう

 ほんの一登りで767m標高点ピーク。立派な新しい道標が建てられているではないか。
忽然というか、唐突というか。更に江若丹国境縦走路と書かれた小さいけれど立派なプレ
ートも設置されている。これはこれ以降の要所に設置されていたが、それならさっきの鞍
部にこそ、これらの道標が欲しいところである。(野田畑峠まで1.8km)

 尾根は狭まったり、広くなったりするが、大きなアップダウンは殆んどない。ブナ、ミ
ズナラ、トチノキ、ヒロハカエデ、リョウブ、スギ。とりわけユズリハに似た緑の光沢の
ある木が目立つ。その木の間から福井県側の名田庄村らしい集落が遠くに見える。下草は
ここでもオオイワウチワとイワカガミの群落である。分厚く枯葉が積もった地面の所々に
はエビネも見受けられ、シーズンはさぞかしと思わせる。

 Ca800mピークの手前の登りであったろうか?上から二人連れの男女が降りて来る。
今日初めてすれ違う登山者、何気なくお顔を拝見すると何処かでお見かけした顔ではない
か。そうだ矢問源氏さん夫妻だ。
「ありゃあ」と思わず握手を求める小生。続けて「奇遇ですなあ。何でまた?」
愚問に「山歩きに決まってるやないか」なんて突っ込みは入れないで頂きたい。我々と反
対コースを周回されるらしい。久闊を辞して別れたが、世の中狭いものです。

Ca800mピークにて。落ち葉の絨毯が凄い

 Ca800mピークは展望のない尾根上のコブだが、縦走路のプレートがある。古い炭焼
き窯跡らしき窪みを見つけたり、遠くに鹿の警戒音を聞きながら進んでゆくと第二迷点と
いうプレートが架かる野田畑峠の手前の尾根に出る。方向を北向きに変えて急な坂を下る。
直進しても古いテープがあって行けそうではあるが、かなりの傾斜で少し覚悟がいりそう。

 峠というから三国峠と同じくピークだと思っていたら、野田畑峠は所謂、本来の「峠」
であった。旧国境石標と道標が立つ。左手には大きなヌタ場。(冒頭写真)ここにも縦走
路のプレートがあって、この峠が地元の生活道であったと同時に、若狭と丹波を結ぶ古い
交易路でもあったことが判る。縦走路はこのまま杉尾峠に続くが、我々はここで折れて野
田畑谷を下って上谷へ向かうことにした。

 直ぐに幅1m程の小川が現れた。澄んではいるが余り清冽な感じがしないのは、岩が転
がる谷川ではなく、北摂でもよく見られる土や砂混じりの川床を持つ川であるのと、木の
葉等の有機物を多く含むからだろう。覗くとハヤに似た小魚やイモリが沈んでいる。小さ
な川にも関わらず谷は広やかで、倒木は苔むし、落ち葉が敷き詰められ清々しい。「もの
のけ姫」の世界もかくやと思わせる。それにやたらトチノキが多い。高さ20m近い大木
も混じる。熊が冬籠もりしそうな大きなウロのあるブナの巨木もある。その間にはスギ、
ミズナラも見られる。中に立ち枯れた大木があり、ツキヨタケらしい手のひら大の大きな
キノコがびっしり付着していて、一同から感嘆の声が上がる。ある一角には百平米位の網
で囲った箇所。実は京大農学部の施設で、鹿の食害の影響を調査する為の対照実験を行っ
ているそうな。そうだここは演習林であったのだ。

 沢を何度か渡り返した所で時間も頃合なので昼食とする。コーヒーにミカンやあられの
差し入れまで頂き、常より豪華な昼食となった。(笑)その間にもはらはらと枯葉が舞う。
聞こえるのは小鳥の声とせせらぎの音。この静けさ、ある意味では非常に贅沢だなと思う。

 腹ごしらえも終われば午後の部だ。左右の沢から水を徐々に集めて野田畑谷は水量を増
していく。苔で緑色になった倒木を迂回したり沢を何度か渡ってポッカリと明るい部分に
出る。湿原だというが、殆んど乾いていて、スゲの様な単子葉植物が繁茂している。一角
には背の高いアケボノソウが群をなしていて、咲き遅れた花がまだ数輪咲き急いでいる。
見上げるとミツバアケビの実が熟しきってパックリと口を開けている。探せば色んな物が
見つかるから自然の森は面白い。それにしてもその先で見つけた鮮やかな群青色の実をつ
けた植物は何であろう。(帰宅して調べるとサワフタギでした)

 杉林の中を抜けて、やや川幅のある流れを幹を削っただけの一本橋で渡って向こう岸に
出る。上谷との出会いだ。そこを流れに沿って下流へ向かう。アキチョウジや葉の枯れた
トリカブトがある。左手の湿原のなかにはマユミらしい赤い実が鈴なりである。やがて道
は広くなって木道となる。団体さんが歩くのでこうしたのだとか。暫らく進む内に地蔵峠
分岐。林道直進は長治谷小屋の広場に出るが、今回は木橋を渡って地蔵峠へのショートカ
ットを採用する。
長治谷小屋への道から分かれて地蔵峠方面へ
簡素な中山神社

 ぬかるんだ植林の中を行けば直ぐに中山神社である。木の鳥居と丸い穴が明けられた、
一見掘っ建て小屋の様な建物(祠を保護)のみの簡素な社である。社の前をスギヒラタケ
の白々とした姿を眺めながら行けば、三国峠への枕谷コースとの合流点で、更に200m
程のだらだら登りを進むと地蔵峠。演習林内の案内地図と入山届を入れるポストがあるが、
丁度、団体さんが来合わせていて満員状態。長居は無用、早々に立ち去ることにする。山
際に地蔵峠の由来になったらしい祠があったが、覗くと地蔵の石仏ではなく自然石を使用
した一字一石塔であった。

 ここからは峰越林道。いつの間か青空が広がり暖かい陽射しが落ちてくる。ゆるゆると
道草しながらの下り。それでも色んな物が見つかるものだ。小さな沢にはサワガニ。山肌
にはリンドウ。ムラサキシキブの藤紫の可憐な実。イタドリ、ヨメナの花。ササユリ。な
んだかんだと四方山話を続けていく内に、車止めのゲートが見えてくる。右にカーブすれ
ばトイレのある出発点に戻ることになる。

 秋たけなわの芦生演習林最奥の江若丹国境。錦織なす紅葉、黄葉というには少し早かっ
たけれど、しっとりした秋の日を楽しめた。それより何より、遠いと思っていた滋賀県側
の演習林の、その近さには少なからず驚きであった。アプローチの朽木村生杉は百里ヶ岳
の登山口でもある。これで勝手も分かったし、またお気に入りが増えてしまった。(^^;
帰りにその生杉で手作りコンニャクを買って帰る。刺身旨かったぁ。皆さん有難うござい
ました。



■同行:のりかさん、水谷さん夫妻、水谷さんのお知り合いの親子

【タイムチャート】
6:40自宅発
7:00千里中央(集合地)
9:10〜9:15ゲート前(駐車地)(Ca560m)
9:34〜9:38三国峠東南尾根
9:45〜9:50三国峠(775.9m 三等三角点)
10:25〜10:31767mピーク
10:45Ca800mピーク
11:28〜11:31野田畑峠
11:50〜12:30野田畑谷(昼食)
12:35野田畑湿原
12:50上谷出合
13:06〜13:07地蔵峠、上谷・杉尾峠分岐
13:11中山神社
13:21地蔵峠、枕谷・三国峠分岐
13:28地蔵峠
14:06ゲート前(駐車地)(Ca560m)


 三国峠(三国岳)のデータ
【所在地】京都府北桑田郡美山町
【標高】775.9m(三等三角点)
【備考】 京大芦生演習林の北東端にあり、京都府美山町、滋賀県
朽木村、福井県名田庄村の三国の境にあるので三国峠と
名付けられたようです。高い木がなくほぼ360度の展
望があり、青葉山、百里ヶ岳、三国岳、比良の山並み、
生杉の集落などが望めます。尚、この辺りは「峠」と呼
ばれるのが本来の山で、「坂」と呼ばれるのが本来の峠
である場合があります。朽木村営バスが入る生杉からア
プローチの地蔵峠までは約5qあり、マイカーが便利で
す。
【参考】2.5万図『古屋』、エアリアマップ『京都北山2』



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