金勝アルプスで超快適稜線山歩
 平成15年 2月15日(土)
【天候】晴れ
【同行】単独
耳岩への稜線上から天狗岩と右奧に鶏冠山を望む
青い空の下、比叡山も琵琶湖も眺められた


 ここのところの山行は播磨や丹波の山、つまり西や北の方角が主。そこで今回は久しぶ
りに矛先を変えて巽(東北)の方角に向かおうかと考えた。舞台は以前から面白いと聞い
ていた湖南は金勝(こんぜ)アルプス。滝あり、稜線歩きあり、奇岩あり、石仏ありと、
噂に違わず、否、それにも勝る多彩で快適、充実した山歩を楽しめたのである。

 湖南は思ったよりも近い。名神高速を使えば自宅から1時間半程。それも節約の為に茨
木まで一般道を使っての話である。瀬田西ICからほぼ一本道で登山口のある大津市上桐
生。帝産バスの停留所の前が老人ホームの桐生園で、そこから少し奧に入った所にキャン
プ場の大きな駐車場がある。シーズンオフで無料なのが有り難い。10台位の先着車。今
しも出発しようとする10人程の団体さん。

 駐車場の奧から北谷林道が山懐へ延びている。雑木の枝には近くの小学校の児童が作っ
た植物名が書かれたプレートがぶら下がっている。それらを見る内に道標の前に。右に落
が滝線が分岐している。落が滝迄は1150m、30分とある。切り通しの様な部分を抜
けると奥池。池の周囲には田圃が広がる。左に物置小屋らしき建物。竹藪を抜けて池に注
ぐ沢を渡る。暫く沢沿いに進むと分岐に出くわした。ここでは直進せず左に折れる。気を
付けて見ればテープが左に沢山あるのだが、ともすれば直進しそうで少し判りにくい。す
ぐにやや大きな沢が左手に沿いだし、一度二度と澄んだ水が流れる沢を渡る。前方が明る
くなると左右から一部工事中の新しい道が現れる。沢には木製の橋も完成している。今後
はここが登山口になるかも知れない。でも公共工事の名目で、必要以上に触らないで欲し
いものだ。

 再び登山道に分け入ると、すぐに落が滝の分岐に出る。折角なので寄っていくことにす
る。大きな岩盤の割れ目深く水が白く流れていく。ウラジロシダが覆い被さる様に繁って
道は狭いが非常に明瞭。5分程で再び分岐、直進すると北峰縦走路・天狗岩。右、落が滝
と書かれた道標と「火の用心」の看板がある。沢を渡って2,3分。シダの茂る踏み跡を
辿れば、やや赤っぽい大きな岩の崖に細い白布を垂らしたような滝が目に入った。高さは
15m位はあろうか。水量は僅かだがなかなか優美な滝だ。

一枚岩から白布を垂らした様な落が滝

 最初の分岐に戻る。緩かった傾斜も徐々に急となり、道は東から北に振りだし、最後は
T字路にでくわす。道標には左は北谷林道・桐生。右(東)は鶏冠山とある。「はて?ガ
イド本には左に折れるとあるがなぁ。どうなってるんだろう?」疑問が湧くがまずは鶏冠
山へと歩を進める。

 尾根に乗って小さなピークを巻いた頃、漸く視界が開けて、背後には桐生の集落が眺め
られる様になる。露岩も見え隠れする急傾斜でなかなかエンジンがかからず苦しい。汗が
一気に噴き出してくる。暑い。息を弾ませながら登った先にまた道標。山頂は右と示す。
ここでまた「?」。が、兎に角、山頂へ。すると丸太が置かれて東側が開けた箇所に出た。
向こうの三角形は三上山だなぁ。と、手前に競技場?いや違った。JRAの栗東トレセン
だ。アンテナの立つ高い山は阿星山か。大納言か。

鶏冠山山頂西から三上山と栗東トレセン
整然と厩舎が並んでいます

 ここから山頂は間もなくであった。南北に長い山頂は雑木に囲まれ木の間越に周囲が望
める程度であるが静か。先着は単独おじさん一人。その後、南から中年ご夫婦が上がって
こられたが、「展望の良いとこがあっちにありますよ」の言葉にそちらへ向かわれた。お
じさんと挨拶して、昼時だしとここで昼食。おじさんは京都の大山崎から来られたKさん
で、会社の山の会の来月の例会の下見に来られたのだとか。ご苦労様です。

 四方山話で時を過ごし、後片付けの後は、さて、本日のハイライト、北峰縦走路の稜線
歩き。龍王山方面へ勇んで出発。

 山頂の暫く平坦だった道は一転、一気の激下りとなる。登るのは結構骨だろうな。これ
でもかこれでもかと下った先は峠の十字路である。そこに立つ道標を見てさっきの疑問が
氷解した。つまりガイド本は往路の「火の用心」の看板があった例の分岐を直進して、こ
こで左に折れて、鶏冠山へピストンすることを云っているのだ。それにしては落ヶ滝の分
岐が2カ所あることを書いて置いてくれないと不親切であろう。(-ヘ-#)

 所々に露岩があり、巻いたり登ったり。それに松が適当に配されてまるで日本庭園の趣
だ。中には先日の丹波の金山にある「鬼の架橋」に似た岩組みまである。その内、徐々に
『天狗岩』の岩峰が迫ってくる。稜線上の屏風岩や台地状の露岩からは、天狗岩のゴツゴ
ツした岩が、まるで飴で固めたピーナツの駄菓子に似た形で寄り集まっている姿の全貌が
眺められる。凄いの一言。それ以外にも見渡す限りあちこちに岩が顔を出している。手元
に地形図『三雲』のコピーがあるが、見れば、露岩の印ばかり。その中で一際目立つ、露
岩で囲まれた509m標高点が天狗岩なのである。

 天狗岩へは一旦東側へ巻いて登り返して岩の東南に出る。一寸した広場にはベンチが置
かれている。平成14年5月3日けが人が出ました云々の注意書きに、一寸おっかなびっ
くりになりながら、岩の割れ目や累々と重なる岩の間をすり抜けるようにして最上部の大
岩の上に立つと、遮るものなしの素晴らしい展望が待っていた。北には先程まで居た鶏冠
山が端正。琵琶湖に三上山、比叡山、大津市街、音羽山。南には巨石累々の龍王山。桐生
の集落なども眺められる。丁度、ポカポカした日差しにトカゲを決め込みたいところであ
る。
天狗岩からモニュメントの様な露岩が
目立つ龍王山を眺める

 次に現れる大きな岩が『耳岩』。十九道ダムへの分岐を過ごして、耳岩の陰の暗い鞍部
に降りて、再び登り返して耳岩の南西側に出ると、そこは小さな広場でベンチも置かれて
いる。岩に登ったKさんによれば、天狗岩程の展望は得られないようであった。この広場
からは西へ水晶谷コースが桐生へ降りているが、ざれ場の危険箇所ありの注意書きがある。

 耳岩から白石峰は直ぐ。白石峰といっても顕著なピークがあるわけではなく、龍王山の
西尾根の先端である。幾つかのベンチとやたらに多くの行先を示している案内板が立つ北
峰縦走路の基点の様な地点だ。西へ行けば狛坂コースで桐生へ。東へ行けば龍王山を経て
金勝寺である。小休止の後、龍王山へピストンする。

 100m程進むと、西向きの1m位の高さの岩に窪みを彫って、そこに30p位の可愛い
仏が彫られている。茶沸地蔵である。厳密には地蔵さんかどうか分からぬが、円形の光背
まで彫ってある。この尾根道は金勝寺の参詣道であったのかも知れない。何ともいえない
風情のある石仏であった。

 小さなアップダウンがあるがほぼ平坦な道は、自然石やコンクリート擬木で補強された
所もあって良く整備されている。所々で空間が開けて左または右が見渡せる箇所がある。
前方に黒々とした龍王山と金勝山。アンテナの建つどっしりした山容は阿星山らしい。南
の奥には鷲峰山らしきなだらかな山並みが霞んでいる。対して北側は奇岩、奇石が思い思
いに白い頭をもたげている。対照的な風景を愉しみながら、右にカーブして左右にササが
増えてきた頃、雑木が影を潜めて杉が目立ち始めた。金勝寺に近い事がわかる。最後の登
りを一息にこなすと、左に金勝寺八大竜王社の祠、右に山頂を分ける小さな鞍部に到着す
る。雑木に囲まれた狭い山頂には縦書きの山名板と四等三角点。残念ながらここも展望に
は余り恵まれない。続いて山名の起こりらしい竜王社へ。明治16年と書かれた石標。社の
前には新しい供物が置かれていた。

龍王山から奇岩累々の尾根と栗東市街を見る
左に頭をちょこっと出すのは鶏冠山

 10分程休憩して白石峰に戻り、狛坂コースで降ることにする。少し下ってまた平坦な
尾根道。こちらもあちこちに巨岩、奇岩。中でも不思議なのは『重岩』。誰かが二つ重ね
たとしか思えない差し渡し5mはあろう鏡餅のような岩である。更に進めば『国見岩』。
ここは展望台になっていて、歩いてきたコースの全容が見渡せる。

 ここから西へは進めず、道は一旦南に折れる。やがてじめっと湿った大石だらけの急斜
面となり、ちょろちょろと細流が現れる。草津川の源流なのだそうだ。大岩の横の石段を
降りて、右に石垣が現れると開けた場所に出る。足元から視線を上げると、大きな岩にこ
れまた大きな阿弥陀三尊。狛坂の磨崖仏である。これ程の大きさとは知らなかった。高さ
5mの花崗岩に丈余の石仏。奈良時代後期。新羅の工人の手になるとか。そういえば、大
陸的なふくよかさが感じられる。ここにあった金勝寺の末寺の狛坂寺は、明治時代初期に
灰燼に帰したが、その後は寂しく山の中におわしたらしい。大寺の栄華は今は石垣が示す
のみである。
狛坂磨崖仏の阿弥陀三尊像

 五輪塔の欠けらが道端に転がっている。以前は寺の参道であったであろうが、今は小さ
な沢になったやや荒れた道を下っていくと、両脇から山が迫って次第に道は狭まり、シダ
の繁る中となる。道というより雨が降ればそのまま小流になる感じだ。構わずぐんぐん降
る。竹薮が見えてくる頃、道標が現れる。桐生辻分岐である。出会った道は地図やガイド
ではある程度道幅があるように書かれてあるが、南谷林道とは名ばかりで荒れ気味の唯の
山道である。

 ここまで来ると殆ど平坦。下るに従って徐々に沢の水量も増えてきて水音がするように
なる。途中、一箇所分かり難いY字路がある。そのまま直進しそうになるが右にテープが
あり、沢を横切るのが正解。更に耳岩からの水晶谷コース出会いを過ぎ、暫らく進んだ辺
りでは木橋が崩落している箇所がある。手前に川原へ降りる梯子があった。

 沢は何時の間にか川らしくなり、林道も林道らしくなる。と、前方が開けてトンネルが
見えてきた。第二名神の工事現場である。道路下をトンネルで抜けて左に折れ、車道を進
むと東屋と小公園が整備されている辺りに出る。その奥の岩に彫られているのが『逆さ観
音』。明治初期、洪水防止の為、下流にデ・レーケ堰堤を建設する際、石材が不足したの
でやむなく逆さ観音の刻まれた石の一部を割って使ったら、バランスを崩して落ちて今の
姿になったのだとか。因みに中央の像は観音ではなく阿弥陀如来なのだそうだ。

 車道の分岐を直進。明治16年に建築されたレンガ造りのデ・レーケ堰堤を右に見て、キ
ャンプ場をテクテク行くと駐車場は間もなく。何時もの様に、赤飯おにぎりとお茶で小腹
を宥めてお開きにする。ぽかぽか陽気に恵まれて、今日もバラエティに富んだ山歩き。来
てみて決して損は無い金勝アルプス快適稜線山歩の一日でした。



【タイムチャート】
9:00自宅発
10:30〜10:35上桐生キャンプ場駐車場(Ca170m)
10:40鶏冠山・落が滝方面分岐
10:52落が滝・天狗岩方面分岐
10:57落が滝分岐(火の用心看板)
11:00〜11:01落が滝
11:07落が滝・天狗岩方面分岐
11:15T字路(北谷林道・鶏冠山分岐)
11:35〜11:37鶏冠山の西の見晴台
11:41〜12:25鶏冠山(490.9m 三等三角点)(昼食)
12:43
12:52〜12:55屏風岩
13:05〜13:07岩の展望地
13:25〜13:35天狗岩(509m)
13:45〜13:50耳岩
13:55白石峰(Ca580m)
14:00〜14:03茶沸観音
14:10〜14:18龍王山(604.7m 四等三角点)
14:28白石峰(Ca580m)
14:39国見岩
14:48〜14:52狛坂磨崖仏
15:02桐生辻分岐
15:20第二名神工事現場
15:25〜15:28逆さ観音
15:35デ・レーゲ堰堤
15:40上桐生キャンプ場駐車場(Ca170m)



鶏冠山のデータ
【所在地】滋賀県大津市・栗東市
【標高】490.9m(三等三角点)
【備考】 金勝アルプスの主要な峰の一つで、南から望むと三角の
綺麗な形をしています。この鶏冠山から南の龍王山にか
けては、途中に天狗岩、耳岩等の奇岩が聳え、快適な稜
線歩きが楽しめます。また天狗岩からの展望は360度
で琵琶湖、比叡山、金勝アルプスの奇岩、三上山等が一
望です。
龍王山のデータ
【所在地】滋賀県栗東市
【標高】604.7m(四等三角点)
【備考】 金勝アルプスの主峰ですが、杉木立等で、展望には余り
恵まれていません。山頂に金勝寺の八大龍王社の祠があ
るので龍王山の名が付いたようです。
【参考】2.5万図『三雲』



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