錦繍静寂の径〜西大台から小処温泉
平成15年 11月 2日(日)
【天候】曇り
【同行】別掲
小処温泉へ向かう稜線からガスに煙る錦繍の山々


 日頃お世話になっている低徘MLで秋の西大台を歩こうと、オフを企画したら多くの方
々の手が上がる。期日は11/2。1500mの高原だから紅葉の盛りを少し過ぎてしま
うかもと気懸かりだったが、辛うじて滑り込みセーフ。今回は少し長丁場なので、当日の
日没17時には余裕を持って下山したいことから、7時に電車組を近鉄榛原駅で拾い、8
:30に小処温泉集合というややハードなスケジュールは「少々過密だったかな」。でも
なんとか無事完歩。皆さんご苦労様でした。

 この時期にしては暖かい。曇りがちだが青空も望まれるまずまずの日和に恵まれ、榛原
集合の皆さんと分乗してR169を一路南下する。が、三連休の中日のこととて車が多い。
遅い車が先導する大名行列に巻き込まれたりで、10分程遅れて小処温泉着だ。小処集合
組には心配をかけたかも知れない。

 ここで数台の車をデポ。車3台で林道木和田線を登る。狭いが全線舗装の林道は高度を
上げるに従って、西に大峰、眼下には錦繍の山肌が展開する。青空も広がって車内には歓
声が上がる。こちらもついつられて脇見。叱られる。アッシーは辛い。(^^;

 予想通り、この時期の大台は9時を過ぎると駐車場には入れない。駐車場から900m
手前の道路横の広場にようやく車をとめる。それにしてもマナーの悪い駐車が多いなあ。
せめてスムーズに対向できるスペースを空けないと。定期バスも通れないじゃないの。

 駐車場の入口で再集合、簡単に自己紹介を済ませる。Sさんが遅れているようだ。もぐ
さん、のりかさんには昼食予定の展望台で落ち合うことにして、Sさんをもう暫く待って
貰うことにして先発組は樹林の中の道を歩き出す。

 大台教会の建物の左からやや下り加減の道は、川上辻への道を分けて直ぐにナゴヤ谷コ
ースとの分岐が現れる。西大台の良さといえば七つ池から開拓方面だろう。ここは直進。

 岩屑混じりのゴロゴロ道を下れば、間もなくナゴヤ谷の開けた川原に出る。初夏にはコ
バイケイソウの緑の葉に埋め尽くされる辺りも、今は残骸とてなく、華やかな色彩は真弓
らしいピンクの実をつけた灌木くらいしか見当たらない。松浦武四郎の石碑案内板横から
川沿いに少し下って、山腹を巻く道に取り付く。4年前に歩いた時より格段に整備が進ん
でいる。フィックスロープ、よく目立つ赤いテープもあって、深い霧に包まれない限り問
題はない。

 以前、歩いた時に弁当を広げた中の谷で小憩。下流で大瀑の「中の滝」になると思うと、
清いが何の変哲もない水の流れが何だか凄いものに思えるから不思議だ。

 ここ迄来ると車道とも離れて静かな山道で、忠実に山腹を辿っていたのが徐々に平原状
の地形の中となる。七つ池も今は湿原らしきものは何もない。ミヤマシキミの艶やかな赤
い実が目立つトウヒ林だ。しかも以前はなかったロープが張られている。「植生保護の為、
立入禁止 環境庁」とある。こんな中途半端な自然保護はやめて一層のことニュージーラ
ンドの自然保護地区の如く、1日の入場者を制限したらどうだろう。若しくはドライブウ
ェイを閉鎖することだ。筏場か小処、大杉谷からしか入れなくするのだ。そうでもしない
限り、昔には戻るまい。

七つ池付近のトウヒ林。ロープがあり安全になりました


 やや広いヤマト谷を飛び石沿いに渡ると高低差の少ない台地に出る。暫く雨がないのか木
々に着生した苔は表面積を減らそうと縮こまっている。木々は早くも葉を全て落とし冬支度
だ。ここは明治時代に開拓に失敗した跡地といわれる。真冬には地下1.5mまで凍るとい
う。想像を絶する寒さなのだ。

早や冬の装いの開拓跡地

 高野谷、ワサビ谷を渡渉して経ヶ峰からの踏み跡と合流し、最後に逆川の細い流れを渡
ると、朽ちた丸木階段。ここからは10分程のだらだら登りだ。シャリバテの身には些か
辛い。

 根元部分が西洋カボチャの様な面白い木や七色の木を眺めながら進めば、この辺りの最
高部である展望台に着く。数組のハイカーに混じって、ナゴヤ谷コースを歩いてきたもぐ
さん、のりかさんが先着している。結局、残念ながらSさんには遭遇できなかったそうだ。

 展望台と名付けられているもののそんな施設はない。(当たり前!)真向かいに大蛇ー、
絶壁。双眼鏡で覗くとへっぴり腰のハイカーがパラパラと立っている。その内にカメラの
フラッシュが光る。左手の山上には赤い屋根の大台山の家。左手の千石ーには中の滝の上
部が白い布を垂らした如く眺められる。滝音が下から沸き上がってくるから、近くへ行け
ば凄い迫力なのだろう。予定通りここで待望の昼食タイム。ザックを下ろして肩を廻す。
ほっとする瞬間だ。

展望台から大蛇ー。双眼鏡を覗くと人の姿も

 今日はまだまだ先は長い。半分以上の行程が残る。13時前、気分を新たに午後の部
の開始である。コガラの声が吃驚するほど大きく響く。広やかな斜面はブナやハウチハ
カエデ、樅、栂、トウヒの混交林。ここも落葉樹は殆ど葉を落としているが、獣以外余
り出入りがない清澄な雰囲気がある。が、雪が降れば踏み跡が消え、やや判り難いかも
しれない。所々にはヌタ場があって、鹿だろう偶蹄目の足跡がくっきり残っているもの
もある。台地を抜けると、ほぼ水平に山腹を削って付けられた道になり、一部石積みも
見られ、手が入っているようである。所々、左手に大蛇ーの絶壁がくっきりと見える箇
所がある。只、それに気を取られていると、道幅が狭く片方がかなり深い斜面になって
いる所もあるから注意だ。

 先の展望台には逆峠まで0.7q40分の表示があったので、どんな険しい峠だろう
と想像してしまうが、気づかぬ内に通り過ぎてしまった。(笑)展望台から南へ広やか
な緩斜面を登ると右へ直角にカーブするがその辺りを指すのだろうか。それらしき地名
標識は一切無い。しかし兎に角、静かだ。駐車場のあの車の数からは想像できない。木
の葉が舞い落ち、地面の敷き詰められた枯葉に当たるかそけき音さえ聞こえる程だ。そ
の内、雨が降りだした。降る量以上に雨音が大きく聞こえるのも枯葉の仕業である。

ヒメシャラ林の中、小処への道は続く

 竜口尾根との分岐を右に、徐々に標高も下がってヒメシャラが現れてくると、尾根の鼻
を曲がる度に景色が変わり、山頂付近では盛りを過ぎた紅葉、黄葉が今が旬といった感じ
で迎えてくれる。それも大蛇ーの様な峨々たる岩峰ではなく、落ち葉に覆われた女性的な
たおやかな曲線に囲まれた斜面である。さっきからパラパラ来ては止んでいた雨が少々き
つくなってきた。周囲は夕刻の様に薄暗くなって、今まで見えていた山々もガスに隠れだ
す。「少しやばいかな....。」との思いが掠めたが、幸い、本降りにもならず暫らくする
内にやや明るくなって雨も上がる。薄日が射す。

 笙ノ峰の北、闇り股と思しき付近で小休止とする。女性陣から差し入れ。これはうれし
い。

 GPSの数値から近くに笙ノ峰への取り付きがあるはずだがと気をつけていたが、休憩
した所からほんの100m位西へ歩いた辺りの尾根筋にテープ。マジックで10分と書か
れているのを発見。時間があれば二等三角点を拝みに行くのだけれど、時間もないので今
日はパスだ。

 そこからの道は尾根筋を辿るようになる。植林から取り残された雑木林が錦に染まり、
深い谷を挟んで北の山並みにドライブウェイが走っているのが望まれ、車が走るのが判る。
南には砂防堰堤だろうか、何重にもコンクリートの障壁が建設されているのが見えた。

 暫らく歩くうちに下の植林帯の中に作業用のモノレールの軌道を見つけるが、それは直
ぐに急降下していく。やがて道は杉林に飲み込まれ、ほの暗い単調な道となる。 

 前方がポッカリ明るくなった。車両の転回場所らしく砂利が敷き詰められた広い台地に、
ポツンと大台ヶ原まで4時間の標識がある。林道終点らしい。林道はガイドより更に延び
ているようであったが、「これ以上は」との心境は都会に住む者の勝手な願いかなぁ。地
道の林道を暫く進むと、土が剥き出しの崖上に木和田への踏路があり、立派な道標があっ
たが、林業関係の作業で通行不能とあった。ということはこの辺りが「イチクボ」だろう。
林道工事でよく分からなくなっているのかも知れない。

イチクボ手前の林道小処線終点。斜面に道標が見える
小橡川上流、右股谷の付近の紅葉

 小処温泉へはその先の林道から小さな尾根筋に入るが、到るところで林道に寸断されて
いる。一旦、林道に出、再び林道から別れて真新しい丸木の階段道を下る。途中に上北山
村が設置した古いブリキ製の大峰山脈の風景図が有るところを見ると、昔は西方向が視界
が良かったらしいが、今は木が茂って思うに任せない状態である。この後、よく手入れさ
れた植林の中の急降下の階段道となるが、ジグザグに折れ曲がって行くから、歩く距離の
割には高度が下がっていかない。故に微かに下から聞こえる谷川の音も思ったほど高まっ
てこないし、飽きてくるほどの単調な道が続くことになる。向かい側の山の稜線が大分高
くなってきていることだけが、着実に下っていることを示す。そろそろいやになってきた
頃、またまた林道に飛び出した。やれやれ。ここで小憩。ふーっ。

最後は45分程、植林下の単調な階段道で急降下する

 暫くは林道歩き。コンクリート舗装。と、前方ののり面のコンクリートに直径50pは
あろうかという大きな壺型の蜂の巣がぶら下がっているのを発見。しかもワンワン入口か
ら蜂が出入りして飛び回っているではないか。小さい体と巣の形からキイロスズメバチで
はなかろうか。結構、凶暴らしい。刺激せぬように通り抜ける。

 再び林道を離れて植林の中の急降下道。下に林業小屋らしい廃屋。こういうのを覗くの
が好きな小生。例の如く覗くと、自在鉤代わりの針金と古いウイスキー瓶が転がっている
のみであった。

 廃屋を後にすると、谷の沢音も大分高まってきて、建物の屋根と車の姿が認められるよ
うになる。小処温泉の建物だ。これで今日の山行も最終段階。ハプニングもあったけれど
日没前に全員無事に戻って来れた。建物横の「長寿の水」で喉を潤す。ヤレヤレ。

 それにしても小処温泉。山懐の秘湯と思っていたのにこの混みようはなんだ。ガードマ
ンの伯父さんによれば、入って来れない車が並んでいるのだとか。ドライブウェイから林
道への案内看板のお陰で、大台見物の観光客が大分こちらへ来るようになったのだろう。

終点の小処温泉

 さて、一息つけば車の回収だ。山頂まではかなりあるので戻って来るには1時間以上が
必要。ということは「mumu...。風呂なしやなぁ。残念無念。」

 すっかり暗くなった大台ドライブウェイ。下山の車ばかりで山頂へ向かう車は我々のみ。
雨上がりで濃い霧が流れ出し、少し危険な状態。ハイビームでは光が散乱して却って視界
が悪い。その中を忽然とタヌキ、鹿、キツネの姿が。自分たちの時間が来たとばかり走り
始める時間なのだろう。少し緊張する時間を過ごし、車を回収した後、真っ暗な林道を駈
け下って小処温泉に戻った時にはもう6時を過ぎていた。女性陣、すっかり湯冷めしたん
では無かろうか。(笑)

 今回は単独ではとても実現不可能な企画。これもMLがあったればこそ。それにしても
静かな西大台であった。ご参加の皆さん、お疲れさまでした。



■同行:大加茂さん、呉春さん、幸さん、たらちゃん、二輪草さん夫妻、のりかさん、
    みーとさん、水梨亜さん、萌木さん、もぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
5:30自宅発
6:45〜7:10近鉄榛原駅(集合地)
8:40〜9:10小処温泉
9:50〜10:10大台ヶ原駐車場
10:15七つ池、ナゴヤ谷コース分岐
10:25松浦武四郎碑説明板
10:53〜10:58中の谷(小憩)
11:07〜11:10七つ池
11:37ヤマト谷
11:42〜11:45開拓
11:50経ヶ峰分岐
11:57開拓分岐
12:12〜12:55展望台(昼食)
14:02〜14:15闇り股
14:55林道小処線終点
15:05イチクボ(木和田分岐)
16:22小処温泉


 西大台のデータ
【所在地】奈良県吉野郡上北山村
【標高】1400m〜1500m
【備考】 山上駐車場の西側にあり、日出ヶ岳や大蛇ーのある東
大台に比べ格段に静かな領域です。道標、テープなど
以前より格段に整備されていますが、ガスが出た場合
は迷いやすいので要注意です。小処温泉の道は道標、
テープにより、道を外さねば迷う所はありませんが、
水場もなく、やや長丁場なので余裕を持って歩くのが
無難です。
【参考】2.5万図『大台ヶ原』、エアリアマップ『大台ヶ原』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system