依遅ヶ尾山〜見晴るかす日本海
平成15年 11月23日(日)
【天候】曇り一時小雨
【同行】単独
丹後町岩木付近から依遅ヶ尾山(レンズに雨の滴)


 毎年この時期に行く蟹旅行。ここ最近はその帰りに山に寄って帰る事にしている。三岳
高竜寺ヶ岳と続いて、これで3度目の今回は、宿泊地の久美浜からさほど遠くない丹
後半島の依遅ヶ尾山。眼下に日本海が遮る物無く茫々と広がるというから楽しみだ。

 前夜の蟹の余韻に浸りながら、9時半過ぎゆっくりと宿を出る。冬型の気圧配置だとか。
しかし天気図をみれば大陸の高気圧の中心はかなり南で、寒気もまだそれ程でもない。直
ぐに緩むだろうと期待していたのだが、朝から時折、バラバラと時雨。といえば風情があ
る如くに聞こえるが、実状はワイパーを繁く動かさねばならないほどの降りである。とり
わけ網野町付近はひどかった。気持ちも萎えて、中止しようかなと弱気の虫が湧いてくる。
ま、とりあえず現地までと車を走らせる。ところが不思議なことに、間人トンネルを抜け
ると殆ど雨は上がってしまった。しかも路面も渇いているのだ。これはどういうことなん
だろう?やはり、最後まで諦めず来てみるものだ。(笑)

 R178と別れて府道75号で南下、矢畑を目指す。が、この矢畑までがややこしい。
偶々、農作業に出て居られたおばさんがいて、懇切に教えて貰い助かった。
「この先の一軒家を左に、直ぐ又右、散髪屋の角を左やよ」
その通りに行くと「こっち依遅ヶ尾」の木製の標識がある。後は道なりで矢畑の集落であ
る。前方に不等辺台形の特異な形をした依遅ヶ尾山が姿を現してくる。集落を抜けて舗装
路を更に進むと左手に標識のある広場、そこが登山口のようだ。

依遅ヶ尾山の登山口
上部に取り付きの林道が見える

 依遅ヶ尾山の「依遅」は「一」。「尾」は「山」のこと。丹後半島一の山ということで
名付けられた山だ。今は東麓の遠下(おんげ)に下ったが、中世には依遅神社が鎮座して
いたとも伝えられ、また、近在の金剛童子山、太鼓山等と共に修験の山でもあったという。
獅子が蟠って今にも飛び出さんとする姿にも似た山容は、その名に恥じない。アニミズム
が支配する世界に生きた昔の人々には神が降臨する山と見えたであろう。

 珍しく先行者が居ない。まあこんな天候だしなあ。雨の降らぬ内にと早めに準備を進め
る。暫くは地道の林道である。ヘアピンを切りながら湧き水でじゅくじゅくした道を行く。
左に大きく廻り込むとガイド本に出ている『ありが棟』が見えてきた。一坪程度のインデ
ィアンの小屋に似た茅葺きの建物。地元の人達が作った登頂記念の杉板が貰える筈なのだ
が、と覗くと段ボールは空。ノートには「補充して下さい」の一言が記入してある。棚に
ガラス瓶も置かれていて、中には幾ばくかのお金が奉納されている。

「ありが棟」。ここから右手、本格的な登山道になる

 山頂まで1.3qの表示があり、ここから本格的な山道となる。桧の林の中に切株ベン
チ。「スピード落とせ」という懇切丁寧?なユーモラスな指導標があって、思わず笑って
しまう。

 近畿農政局が設置した三級基準点を過ぎると、エノキだろうか、三抱え以上もある大木
に出くわす。
落ち葉に覆われた登山道

 そろそろ小休止でもと思った頃、傾斜が緩む。タイミング良く「ここでいっぷく」の案
内標が現れた。それに誘われて一服。西の展望がいい。取り付きの広域農道を走る車が見
える。「こんなとこ走る車あるんやぁ」妙に感心。左手に白い風車が並行して建っている
のは太鼓山らしい。お茶を一口。

 「もたれ木」成る程、凭れるに手頃な木がある。あと500mの案内標。文化7年建立
の銘のある石の鳥居が苔むしてバラバラに転がっているのは無惨。今世紀初頭の丹後地震
が原因かも知れない。やがて道幅が広がる。春にはとりどりの花が咲くらしいが、今はす
っかり葉を落とした木立は冬支度。その木立を透かして、右に山頂と思しき高みが漸く見
いだせるようになる。ここまで来ると地形図通り周囲は台地状でほぼ平坦。周囲は下草に
クマザサ。ホオノキやウリカエデ等の落葉樹が目立つが、対馬海流の影響らしく、ヒサカ
キ、アセビ、シイ、アオキをはじめとした常緑樹も多い。それらに混じって風が原因なの
だろうが、痩せたアカマツが南にかしいで生えている。昔はさぞかしマツタケが出たこと
だろう。

 道が右にカーブして真っ直ぐ山頂を目指すようになる頃、H15/10/18開通と書かれた新
道の分岐。何れをとっても大差はないみたいだが、新道を選ぶと、なんだ直ぐに旧道と合
して、露岩の間を登ればそこは役の行者の祠のある建物跡で、もう山頂である。祠を囲ん
で石垣が積まれた窪地は、昔あったという依遅神社の遺構なのだろうか?驚いたのはコナ
スビの黄色い花はまだいいとして、季節外れのタチツボスミレがあちこちで咲いていたこ
とだ。三角点はそこから約20m先である。

 聞きしに勝る360度の大展望は登って来た甲斐があるというもの。北には日本海の大
海原。真北の下に見えるピラミダルな峰は犬ヶ岬。丹後松島と呼ばれるリアス式の海岸に
打ち寄せる波の白さもはっきりと際立つ。その向こうは経ヶ岬。手前の白いドームのある
のは岳山らしい。奧に霞んでいるのが若狭湾である。南に目を移せば太鼓山の風力発電施
設。草原は牧場のある碇高原だろう。西には網野町の市街から峰山町が望める。しかし芳
しい天候でもなし、こんな大展望までは期待していなかったから大感激である。

雲間から射す陽の向こうに
風力発電の羽根が廻る太鼓山
山頂より経ヶ岬方面の日本海の海原を望む

 適当な露岩に腰掛けて昼食とする。カラスが鳴き交わして煩い。あっちゃへ行け。

 食後、コーヒー片手にゆっくりした後、東西に長い山頂をうろうろ。次第に汗が冷
えて寒くなってくる。バラバラと雨も落ちてくる。或いは見落としたかも知れないが、
しかとした登山道が他にはなさそうなので来た道を引き返すことにした。

 このまま誰とも会わずに下山かなと思っていたら、下から人の声。と思う間もなく、
20人程の団体が上がってきた。後に登山口の駐車場で確かめると、姫路bフ神姫バ
スで、「コープ依遅ヶ尾登山」のツアー客でありました。

 久美浜から来る途中はどうなることかと思えるほどの雨。帰りの峰山町ではまた雨だっ
たから、依遅ヶ尾山付近だけ降らなかったことになる。ほんとに不思議なこともあるもの
だ。山容もさることながら、そんなことも神の山として崇められる理由なのかもしれない。
1時間足らずで登れる手頃な山なのに絶景が待っている山、依遅ヶ尾山。これ程コストパ
フォーマンスがいい山もない。依遅ヶ尾山。またいい山に巡り合いました。



【タイムチャート】
11:02〜11:07登山口
11:15〜11:20ありが棟
11:35〜11:38「ちょっといっぷく」
12:02〜12:47依遅ヶ尾山(540.0m 二等三角点)
13:09〜13:11ありが棟
13:18登山口


 依遅ヶ尾山のデータ
【所在地】京都府中郡丹後町
【標高】540.0m(二等三角点)
【備考】 丹後半島北部、海岸線に近い部分に位置する死火山です。
台形状の姿は特異で良く目立つ為、同定が容易です。1
時間ほどで登れる山頂からは素晴らしい展望が得られ、
北に日本海、南に丹後半島の山々、東は遠く越前海岸ま
で眺められます。アプローチが不便なのでマイカー利用
が無難です。
■関西百名山
【参考】2.5万図『古屋』



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