錦秋に行く桧塚、桧塚奧峰
平成15年 10月26日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独
桧塚奧峰より桧塚を望む。雲の影が過ぎゆく


 5年前、初めてその良さに触れてから、新緑の頃や紅葉の秋に毎年お邪魔している明神
平。その間に薊岳や木の実ヤ塚、伊勢辻山、国見山、水無山、明神岳と周辺の主な山々に
足跡を残したけれど、未だ行きそびれていたのが桧塚。「いいよ〜」の声を聞く度に今度
こその気持ちは日々募るのにも関わらず、何やかやと延び延びになっていたのだが、今回
漸く実現の運びに....。しかし、これ程、期待に違わぬ、否、予想以上に素晴らしい所と
は思わなかった。またまたお気に入りが増えてしまった。

 朝晩の冷え込みが深まり、だんだん起床が辛くなる。ぐずぐずする間にもう6時半。「
もっとウトウトしてたら?」という悪魔の囁き。でも今日は遠出。これ以上遅れるわけに
はいかん。顔を洗ったついでに外に出る。外気に当たると「さあ行くかぁ」という気にな
るから不思議。テンション高めて、7時半出発。阪神高速が工事中で通行止の為、近畿道
に迂回したが、順調に9時半には大又林道終点到着。今日は相当多いだろうと思っていた
が、車の数はそこそこ。でも途中の空き地にバスが待機していたから、団体さんが入山し
ているようだ。車の外に出てみると意外に暖かい。念の為、フリースも用意してきたが、
不要と判断し、車の中に置いていくことにする。

 暫く来ない内にかなりの様変わり。林道が夫婦滝の付近から一番目の鉄橋までコンクリ
ート舗装されているのだ。その分少し歩き易くなったが、これ以上延びて欲しくないなぁ。

 ところで目当ての紅葉はというと、錦秋という程ではない。大又川の川原の大きなトチ
ノキの葉は真っ黄色になっていたが...。この辺りの盛りはあと一週間ほど後だろうか。

 川沿いに一本調子の坂道を登っていく。谷川を二度渡ってハシゴを登ると旧あしび山荘
で、山荘を破壊した山抜けの跡に累々とある杉は悉く白い墓標と化している。天高ルート
はもう復活しないらしく、整備される形跡もない。

 石ゴロ道を登り切る先の明神滝はいつもより水量が豊富。向かって左手に付けられたジ
グザグの登山道から眺めは、ゴウゴウという水音と相まってなかなか迫力がある。その先
の桟道手前のカーブ。新緑の季節にはヒトリシズカが目立つのだが、今は盛りを過ぎたミ
カエリソウ。「見返り美人」ではなくてまるで「見返り後家」がピッタリだ。(笑)

 明神滝の上部を巻けば標高はほぼ1000mで、ヒメシャラが目立つようになると、辺
りの様子は一変。ウリカエデ、ハウチワカエデの群落は錦秋の雰囲気。秋の柔らかな日の
光が紅葉、黄葉を透かして落ちてくる。目当てはこれだこれだ。ウキウキ気分で歩く。

標高千m付近の紅葉

 明神平直下の水場の清水は何時飲んでも旨い。ハシリドコロやトリカブトが群生してい
たのに、今はアケボノソウが満開である。そこから明神平はすぐ。東屋では小父さん三人
組が小憩中。あしび山荘付近では昼食中のご夫婦。水無山の稜線には国見山に向かうので
あろう登山者がゴマ粒に見える。何時来てもいいなあ。持参の赤飯むすびを一つを頬張る。

なだらかな前山の稜線

 一息ついて三つ塚方面へ向かう。斜面はコバイケイソウが枯れてシダが目立つ。前山の
優しい稜線を眺めながらやがて三つ塚。左に折れて明神岳への稜線を歩く。

 桧塚へは明神岳の山頂から尾根沿いに少し東に行った辺りの左手に、少し分かり難いけ
れどテープと小さなプレートがある。それに従って北の斜面を下る。

明神岳付近のブナの黄葉
明神岳北面のブナ林。ここを通って桧塚へ

 さあ、ここからが本日のハイライト。自然林の中のプロムナードの始まりだ。ブナ、イ
タヤカエデ、ミズナラ、シロヤシオ。イトザサの中に程良くそれら雑木が枝を伸ばしてい
る。既に葉っぱを落とし尽くしたもの、黄色や赤に色づいたもの。色々なグラデーション。
嗚呼、天国天国。この付近は踏み跡がやや不明瞭だが、木の間隔がやや広く思える部分を
テープを目印に進めば良い。直ぐにササの中の鹿道を踏み固めた様な明瞭な道になる。ヌ
タ場が幾つか。夜、人間がいなくなった後は獣の天国に違いない。

 鞍部に古道が通っていた様な雰囲気の小さい切り通し部分がある。一寸辿ってみた。直
ぐに不明瞭になったが、きっと道があったに違いない。何となく生活臭がするもの。

 その切り通しを抜けるとまもなく左へ曲がる地点にさしかかる。道標あり。更に進めば
左前方が一気に開け、右手には色鮮やかなシロヤシオの紅葉の向こうに、桧塚奧峰の笹原
の高みが全貌を現す。まず左手。北西方向になるのだろうか、台高北部の山々が重畳と波
打つのが指呼の間。それに向かって三脚でカメラを構えるアマチュアカメラマン。声をか
けてみる。
「あれ、高見山ですかねぇ?」「いやぁ、山の名前は詳しくないもんで」

奧峰登山道からCa1390m峰の黄葉
桧塚奧峰への道

 笹原を登る。山頂では団体さんが昼食中。あのバスの団体さんに違いない。山頂東側の
展望地も満杯。仕様がないので早々に退散、桧塚に向かうことにする。

 イトザサに覆われた桧塚が前方500mに広がる。鞍部には左から一筋の踏み跡が合わ
さってくる。小さいプレートにはマナコ谷とある。千秋林道からの登山路である。

マナコ谷へ向かうイトザサに覆われた尾根筋

 石灰岩の様な岩が寄り集まった部分を抜けて登り返した桧塚山頂は、針葉樹と雑木に囲
まれて狭く、展望には恵まれない。僅かに西の奥峰が望める程度だ。山頂から東の尾根に
向けてテープとトレースがある。蓮峡の辻堂橋の尾根の突端まで繋がっているのであろう
か。
昼食場所付近からCa1390m峰の黄葉

 昼食は景色が良い方が良いが、そうすると風が強い。あれこれ場所を物色する内に奥峰
近くまで戻ってきてしまった。さりとて奥峰は団体さんに占領されているし....。で、奥
峰の北側の小ピーク付近の小さな露岩を見つけて座り込んだ。近くにはご夫婦と数名の男
女パーティ。みんなラーメンを作っている。もう暖かい物が恋しくなる季節だ。小生も負
けじと湯を沸かす。登山口ではあんなに暖かかったのに、時折冷たい風が吹き上げてくる。
慌ててウインドブレーカーを着込むが、尾篭な話だけど水洟が出てきた。

 熱いコーヒーカップを片手に景色を楽しむ。木屋谷沿いの千秋林道。マナコ谷へ向かう
尾根道はイトザサの中に一筋のトレースを描いて、三津河落山を思い出す。左手は水無山
から国見山の稜線を裏から見ていることになる。奧峰の北西にあるCa1390m峰の肩か
らは明神岳もちらりと顔を出している。そのCa1390m峰の山脚は正に錦織なすという
イメージだ。更に真正面の山は高見山か。あの鋭鋒が嘘の様にのっぺりとして見える。と
いうことは右手の大きな山は三峰山らしい。うーん山また山の世界だ。

 気がつけば、周囲にはご夫婦のみで、あらかたのパーティが下山したらしい。マナコ谷
を下りるパーティが尾根突端の潅木帯に消えていく。

 奥峰も先ほどに比べれば余程空いている。東を見晴るかす展望地からは、起伏に富んだ
山並みが望める。そのいずれかが迷岳なのだろうが判然としない。暫らく眺めて帰路につ
く。
桧塚との鞍部から見る桧塚奧峰

 再び、黄葉、紅葉のプロムナードを楽しむ。殆んど平坦な台地状の尾根で鋭角に曲がる
箇所もあるから、ガスが出ると迷い易いかもしれない。明神岳の稜線への最後の登りが一
寸きついが距離は短い。稜線に出ると大台ヶ原や大普賢岳、木の実ヤ塚、薊岳が木の間越
しに眺められた。 

 明神平の東屋に戻り一息入れる。お茶を飲みながら携帯の伝言板にメモを残す。はりま
おさん達はもう降りた時分だろう。やおら立ち上がって下山にかかり、水場を抜けヒメシ
ャラ林を歩いていた頃である。携帯が鳴り出した。なんとはりまおさん達はさっきまで休
憩していた東屋でコーヒーブレイクの最中だという。ほんの10分程の時間差で再会出来ず
残念であった。夜のチャットで今日のことを話題にしていたら、旧あせび山荘付近で白い
ハガクレツリフネを見つけたという。小生も偶々目にしていたが、自転車担いでいるのに
目敏いもんだ。

 下山したら、小生の車がポツンとある。みんな早々と帰路についたらしい。もう間もな
く、この付近も赤や黄のグラデーションに飾られることだろう。
 今日は道路が混みそうなので、やはた温泉には立ち寄らず帰る。何度訪れても飽きない
領域。錦秋の明神平雑記でした。



【タイムチャート】
7:25自宅発
9:30〜9:40登山口手前(駐車地)
10:08キワダサコ谷
10:16明神滝
10:28〜10:32桟道の上のベンチ
10:48〜10:52水場
11:00〜11:08明神平の東屋
11:16三つ塚分岐
11:26明神岳
12:05桧塚奧峰(1420m)
12:17〜12:23桧塚(1402.0m 三等三角点)
12:42〜13:20桧塚奧峰西側の稜線(昼食)
13:25〜13:30桧塚奧峰
14:07〜14:12明神岳
14:19三つ塚分岐
14:27〜14:40明神平の東屋
15:05キワダサコ谷
15:27ゲート前(駐車地)


 桧塚のデータ
【所在地】三重県飯南郡飯高町
【標高】1402.0m(三等三角点)
【備考】 明神岳から東に派生する尾根上の峰です。桧塚、桧塚
奧峰ともイトザサに覆われた中にブナ、シロヤシオな
どの落葉樹が疎らに生え、別天地の趣があります。明
神岳からの他に千秋林道からも登路があります。
 桧塚奧峰のデータ
【所在地】三重県飯南郡飯高町
【標高】1420m
【備考】 桧塚の西にあり、三角点はありませんが三重県の最高峰
です。山頂東側の展望に優れ、迷岳など台高の山々が一
望です。
【参考】2.5万図『大豆生』、エアリアマップ『大台ヶ原』



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