新緑艶やか薊岳〜嗚呼!帰りたくない
 平成15年 5月17日(土)
【天候】薄曇り
【同行】単独
薊岳北東稜のブナとバイケイソウの鮮やかな緑


 春秋にそれぞれ一度は訪れたい明神平。今年もサラサドウダンを求めて薊岳へ。目的の
花は見つからなかったけれど、代わりにツクシシャクナゲがピンクの花を満開にして迎え
てくれた。若葉を広げ始めたブナ林やバイケイソウの鮮やかな緑と相まって、予想に違わ
ぬ素晴らしい稜線歩き。またまた「もう帰りたくない」を連発したことであった。

 実は、先週も明神平へ来ていたのである。ところが大阪では日差しがあったのに、R1
66から別れて鷲家まで来ると、標高1000m以上の稜線はガスの中。明神平も全くの
五里霧中。おまけに風は強く霧粒が顔に当たって痛い。気温10℃。じっとしていると膝
が震える程、体感温度は低い。早々に諦めて下山したのである。まあ珍しい花にも在った
し収穫はあったのだが、何となく消化不良は否めない。それで性懲りもなく今日を迎えた
次第なのである。

 コースとしては大又の笹野神社から大鏡山経由も考えられたが、これだと目当ての稜線
歩きは一度だけになるし、植林が多い事、帰りの林道歩きもいやだし、というわけで大又
林道を詰めることにした。もっとも標高差1000mがいやなのが本音かも。(笑)

 9:00、林道終点手前の路肩に車をとめる。コンビニで買ったカップ麺が転がってど
こかに行ってしまった。どこやー?。そんなこんなで意外に準備に手間取る。途中で抜い
た単独おじさんらに抜き返されてしまった。(笑)信号には悉くひっかかるわ、作業の軽
四輪のペースカーに先導されるわ、大又からの路線バスにはバックさせられるわで、今日
は全くついてない。それは兎も角、タイヤに石を噛ませてようやく出発である。

 登山口から作業用に無様に広げられた道を登る。これがエンジンがかからない内に現れ
る意外に厳しい登り。この作業道、鉄橋を越えて、何時の間にやら旧あせび山荘手前まで
延びていて少し幻滅。残骸となった山荘を越えて漸く本来の山道となった。

 旧あせび山荘の上部の斜面は伐採されて明るい。ガクウツギの白い花、ヒメレンゲの黄
色い花が目立つ。流木、倒木が多くいまだに荒れた感じがする大又川。近頃、雨が多いか
らか水量は豊富。登山道は何回かその沢を横切るが、それでも渡渉できない程ではない。

 キワダサコ谷を横切り、明神滝の下から右岸をジグザグに登っていく。ヒトリシズカは
盛りを過ぎて、照りのある葉だけが目立つ。

 明神滝の上の木橋を渡る辺りから、ヒメシャラの赤い幹が目立ってくると同時に、バイ
ケイソウの群落が現れてくる。山腹を稲妻状に登って杉の植林帯に入るとまもなく水場。
パイプを通して勢いよく清冽な水が流れ落ちている。マグカップで受けて飲み干す。甘露、
甘露。湿り気を求めて、周辺にはハシリドコロやトリカブト等の毒草類。以前ここで蛙の
声を聞いた事があるが今日は聞こえない。

 水場から明神平まではすぐ。斜面をウントコショと登ればパァーッと広がる視界。やや
霞んではいるものの、前山や水無山の斜面のイタヤメイゲツや、ブナの新緑とバイケイソ
ウの若葉の広がりが艶やかである。ハイカーは意外に少なく2組程が休憩しているのみ。
東屋にザックをおろして一息つく。

 南の斜面へ向かう。明神岩の左手を抜けて、バイケイソウの間の結構急斜面の小道を行
く。前山の斜面が新緑で綺麗だ。100m程の高度差を一気に登れば三ツ塚分岐。左(東
)へ行けば明神岳、薊岳へは右(西)。左手遠くに薊岳が霞んでいる。GPSでは2.3
kmとあるが、ここからが本日のメインイベントだ。

前山から明神平の新緑の斜面。明神岳が顔を見せる

 丈の低い笹原の中に綺麗な踏み跡。やや登り返せば前山の隆起である。プレートが1枚
架かるのみの簡素さがまたいい。ここから眺める旧スキー場のゲレンデには、白い岩がま
るで草をはむヒツジの様だ。奥の明神岳が意外にかっこよく見える。

 稜線上の小さなアップダウンは、高曇りの薄日を受けて、芽だし間もないブナの若葉、
イタヤメイゲツ、ヒメシャラなどの新緑で覆われている。体が緑に染まりそうな程だ。「
いいねえ。いいねえ」誰も居ないのを幸い、思わず声高な独り言を繰り返していた。(^^;

 前方に現れた怪異な岩を抜けて、左手に二重山稜が現れる辺りは、分厚く敷き詰められ
た落ち葉の褐色と若葉の緑が好対照。ジュウイチだろうか、ホトトギス科の30cm位の大き
な鳥が樹間を渡っていく。

 地形図のCa1330mピークへかかる。このピークは明神平から眺めると左に傾いで見
える顕著なピークである。短いが予想通りの急登に喘いでいた時である。ふと目の前の小
さな岩に赤い花が。「おおッ!イワカガミ」唯一株だけ。不思議に付近には全く他のイワ
カガミもない。文字通り孤高の花。(一寸大袈裟か?)勿論、撮影モードに即移行。

一株だけ咲いていた鮮やかな赤のイワカガミ

 あっ!そうそう、今日はカシミールに10秒間隔で緯経線を引いたのを持参したのだっ
た。これがあればマップポインタが不要という優れもの。早速、現在位置を調べる。
「おお、ばっちりやないの!」そこは正しくCa1330mピークの東。当然といえば当然
なのだが、これがフリーソフトとは恐れ入る。DAN杉本氏に感謝。(笑)

 1334mピークは幅広のピーク。ぬた場の様な水溜まりが二つある。このピークを過
ぎると稜線は南に直角に折れて、いよいよ薊岳へ近づいていく。狭い尾根の西側はササ、
東側はコバイケイソウが多い。小さな岩の群れが現れると傾斜は一気に増して、山頂直下
の高度差70mのきつい登りである。頂上方向から人の声が降ってくるのだが、なかなか
近づかないのがもどかしい。それでもゴツゴツした岩が出現して来ると傾斜が急に緩む。
ツクシシャクナゲのピンクの花が目に入りだし、そこは数人も立てば満杯の狭い薊岳(雄
岳)山頂であった。
シャクナゲが咲く薊岳雄岳の狭い山頂

 先着は二組のハイカー。食事が終わったと見え、下山の準備の最中である。その内の一
組、ニフティにも顔を出すというご夫婦から、雌岳のシャクナゲが綺麗だと聞き、昼食前
に寄って見ることにした。ゴツゴツした岩の間に繁るシャクナゲは、まるで大峰の七面山
を彷彿とさせる。去年来た時にはシャクナゲはもう終わりであったから、数は少ないが花
束の様な花が咲き乱れているのに会えたのは幸運であった。

薊岳雌岳で咲いていたツクシシャクナゲの花束


 取って返して誰も居ない頂上を独占する。360度のパノラマ。霞んでいるのが惜しい
が、大又川を挟んで北の伊勢辻山、赤ゾレ山、国見山の稜線。眼下遥かに大又の集落も。
振り返れば木実ヤ塚、二階岳の山並みや白屋岳が眺められる。ふと気づくと真柏に似た
針葉樹の突端でヒガラが忙しく囀っている。あんな小さな体の何処にあれだけの大きな音
量が蓄えられているのか不思議なほどである。

 さて、食事でもと湯を沸かしていると、下から話し声。暫らくすると10名位の団体さ
んが上がってきた。奈良からマイクロバスをチャーターして麦谷林道から来たという。そ
ういえば去年のオフ、同じコースを採ったのだった。(笑)

 一気に賑やかになった山頂。団体さんが去った後も居残って、山頂で楽しむ。目立たな
いが、ウスギヨウラクらしい風鈴形のツツジを見つける。足場が悪いにも拘わらず写真を
撮る。その内、ズルズルと足元が沈む。危ない!立木に掴まって事なきを得る。フーッ。

 気が付けば13時を廻っている。1時間半も長居していたのか。大又の林道終点迄は3
時間近くかかるは....。おっ!ボヤボヤしていたらやはた温泉に寄れなくなりそうだ。慌
てて撤収作業。とはいうもののそんなに急ぎもせず、キョロキョロしながら往路とは又違
った風情を見せる二度美味しい尾根歩きである。振り返れば木ノ実ヤ塚の新緑の三角錐が
木の間越し、名残惜しそうに。いや、名残惜しいのは当方だよな。(笑)

 朽木にマイタケのような食べられそうなキノコ。でも素人判断は怖いからなぁ。時々薄
日が射す中を、ゆるリと歩いていく。またまた青っぽい30cm位の鳥が20m前方の雑木
に居るのに気づく。ツツドリ?鳥に関する知識は歯痒いほど無いのが悲しい。

 とかくする内に前山への登り。「結構きついなぁ」立ち往生の回数が増えるも何とか登
り切れば、目の前は明神平。先程の団体さんを追い抜いて、三ツ塚には廻らずに最短路を
明神岩の左手に向かう。丈の低い笹原の間にはスミレ。それに鹿の糞が一杯であった。

 天理大学の小屋の前から東屋に出る。今夜は幕営するとみえるテントが2張り。他には
家族連れが1組。夫婦連れが1組。

 東屋で一服。歩いてきた稜線を眺めながらのお茶がまた旨い。残しておいた赤飯おにぎ
りを頬張る。10分程憩って、さて降るとするか。

 沢沿いの道で顔を出したばかりという感じのギンリョウソウを2本見つける。葉緑素を
持たない見れば見るほど不思議な植物ではある。実をつけたハシリドコロやナルコユリな
どを見つけながら歩き慣れた道、登山口までは一時間程でありました。

 途中、久方ぶりにやはた温泉で汗を流し帰途につく。新緑に輝き、冗談抜きで帰りたく
なくなる明神平を堪能した一日でした。それにしてもカシミールは凄い威力でした。(注)

(注)カシミールの地図は5万図を表示し、緯経線を10秒間隔に引き、2.5万図の大
   きさで印刷すれば、手頃なようです。


【タイムチャート】
6:45自宅発
9:00〜9:20大又林道終点手前(駐車地)
9:22登山口
9:39旧あせび山荘
9:46キワダサコ谷
9:56明神滝下
10:02〜10:04明神滝上のベンチ
10:30〜10:33水場
10:40〜10:43明神平の東屋
10:54〜10:56三ツ塚分岐
11:00前山
11:361334mピーク
11:56〜12:05薊岳(雄岳)(1406m)
12:10薊岳(雌岳)
12:15〜13:22薊岳(雄岳)(昼食)
14:25前山
14:35〜14:45明神平の東屋
15:22明神滝下
15:30キワダサコ谷
15:35旧あしび山荘
15:49登山口
15:52大又林道終点手前(駐車地)



薊岳のデータ
【備考】木ノ実ヤ塚から薊岳〜緑の滴に酔う』をご覧下さい。
【参考】2.5万図『大豆生』



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