鈴鹿初見参はいきなり雨乞岳
 平成15年 4月27日(日)
【天候】曇りのち晴れ
【同行】別掲
雨乞岳から東雨乞岳を望む。奧は御在所岳


 5時半の待ち合わせに間に合うように久々の4時半起き。今日は鈴鹿へ初見参の日であ
る。鈴鹿を舞台にオフがあることは、かねて知っていたのだが、未踏の地なのと、しかも
目的地が鈴鹿の最深部の雨乞岳であること、更に、参加メンバが名うての健脚揃いときて
は、ついて行けるか甚だ疑問。(笑)で、参加表明が遅れたのだが、やはり一度は歩いて
みたいという意識には勝てず。天気絶好というわけで今日の朝を迎えた次第なのである。

 定刻、水谷さんに車で拾ってもらって、最初の集合地の名神菩提寺PA。若干遅れて、
佐竹さんの車が到着、2台連ねてもぐさん、ヒロさん含め総勢5名、一路、鈴鹿スカイラ
インの武平峠っを目指す。

 快晴の予想に反して、空には灰色の雲。案の定、鈴鹿の山々はガスの中。好天を信じて
雨具の用意は端折ってきた小生。胸に一抹の不安。

 8時過ぎに武平峠のトンネル手前の滋賀県側の駐車場。運良く2台の駐車スペースがあ
る。他の車のナンバーを見ると、名古屋、三重が多い。近畿と東海の境目の山であること
が実感する。
武平峠トンネルの滋賀県側入口

 静山橋を渡って登山口へ。いきなり水口警察署の立て看板。曰く「土砂崩れの為、登山
路通行不可」
「えぇー?」
しかし、そこは低徘メンバ。「行けるとこまで行って、それから考えよっ」てなわけで、
構わず歩き出す。植林の下を約50m進むと小さな土砂崩れ。まさかこれじゃあるまい。
左に折れてよく踏まれた道を進む。雑木林に変わり再び人工林の下に出る。いきなり道ロ
スト。手分けして探すも不得要領。そこでもう一度ロスト地点に戻り、点検するとあった。
背丈を越えるクマザサに覆われていたのであった。それを抜けるとまたまた良い道が現れ
た。一安心。

 最初の水場を渡った後である。風化した花崗岩のザレ場が現れた。通行禁止の原因はこ
れに違いない。体を支える為に花崗岩の石を掴むとパックリと抜け落ちるという具合に油
断がならない。誤ればザレ場を十数m転がる運命。一歩一歩慎重に三点確保、冷や汗もの
でようやく抜け出る。

 幾つかの沢を横切る。気が付くと横に沢。しかも我々が進む方向に流れているのだ。何
時の間にやら分水嶺をこえたらしい。山へ登る時は水は逆に流れ降ってくるものというイ
メージがあるから、一寸奇異な感じである。

 芽だしを終えたばかりの新緑に包まれた雑木を愛でながら進む。名も知らぬ野鳥の鳴き
交わす音と沢音以外は聞こえない。さーっと明るくなった空から待望の日差しと青空にま
た新緑が映える。別天地だ。徐々に水量の増えた沢を幾つか渡り返した時である。見覚え
のある丸い光沢のある葉。イワウチワだ。あっちに一輪、こっちに一輪。と、見下ろした
岸壁には群落が。数十のピンクの花が満開だ。ここいらから歩みのスピードはぐんと落ち
る。赤っぽいショウジョウバカマ。若葉を開いたばかリのトリカブト。ネコノメソウ。ヤ
マルリソウ。エンレイソウ

 窯跡ノ平はコクイ谷への道とクラ谷への道の分岐点。雨乞岳に登った後はここへ戻って
くる予定。ここを直進すると間もなく沢谷出合で高低差20m位の大きな滝がかかってい
る。滋賀県警の黄色いテープがあるのは巻き道が廃道になっているからだろう。確かに足
元を間違うと危険な個所だ。

イワウチワに囲まれた沢谷出合付近の道標

 右から次の沢が合流してくる。黒谷。この辺りになると水量も増え、何処でも渡れると
いう訳ではない。岩につけられた赤丸や→などを目印に慎重に進む。

石楠花の下、クラ谷の流れに沿って黒谷出合へ向かう

 何となく人工的な感じがする辺りに出る。石垣が現れた。一升瓶やビール瓶、茶碗のか
けらが落ち葉に埋もれている。茶色く錆び付いたトロッコの車軸が地面に半分突き刺さる
ように捨てられてあった。

 流れがやや緩やかになり、狭い谷がやや広やかになるとコクイ谷出合。小広くなった土
地に炭焼き窯跡が点々とあり、炭化した土が黒い。

 ここで東海組と落ち合う予定なのだが、ヒロさんが無線で確かめたところ、到着迄には
まだ1時間近くかかるらしい。早朝出発でシャリバテの面々、手持ち無沙汰もあり早い昼
食とする。

 11時を廻った頃、上水晶谷方面から東海隊が到着。総勢12名揃ったところで、愛知
川源流を遡行する形で西へ向かう。トリカブトの群落とやや離れてポツポツとヤマシャク
ヤク。蕾はまだ開花には1週間位かかりそうな感じである。

 通称「広河原」で沢を渡り返して沢を離れ、山腹を這う様に登っていく。これだけ歩い
ているのに手元のGPSの表示距離は殆ど減っていない。大きな山腹の周りを歩いている
だけって感じである。それでも道が西に振り出した頃から徐々に距離が縮まりだす。そし
て南が開けだして漸く東雨乞岳が大きな容姿を見せ始めた。が、「えぇ?まだあんなに遠
いの。」と思わずにいられないほど遠い。杉峠で東海組の食事をという目論見であったが、
到底昼時には無理そうなので、下重谷の大きな沢付近で二回目の昼食大休止である。

 杉峠の由来の大杉も雨乞岳の右の麓に大分ハッキリと見えてきだした。稜線上の木々の
幹も判別できるようになってくる。雑木の中のやや広やかな場所に出る。あちこちにのづ
ら積の石垣が散見されるようになる。枯葉に埋もれてここにも茶碗の欠けら、一升瓶。用
水路の跡に極めつけは石段。廃村か?という声もあったが、後で案内図を見ると、鉱山跡
らしいことがわかった。何時頃まで存続していたのか、過去の生活跡を見るのは何となく
切ない思いがするものだ。

 鉱山跡を抜けるに従って、左手の山腹の大きなガレが眼前に迫ってくる。白いのはなん
と残雪だ。そして小さな沢は枯れて一気に傾斜は増し、荒れた斜面からいつの間にか踏み
跡が消えてしまった。こうなればひたすら上に見えている稜線へ。藪ではないので何処へ
でも上がれる。息を切らせて登っていくと綺麗なトラバース道。ありゃ?何処で見失った
のか不思議ではある。クロモジの黄色い花の横を通り過ぎて更に上がった先が、大杉の生
える待望の杉峠である。ここはイブネからの縦走路、甲津畑からの登山路が合流する。由
来の直径1m近い大杉の幹は、まるで洗面台の廃水パイプのように曲がり、その生存環境
の厳しさを物語っている。目を上げれば御在所岳から国見岳の稜線。南にはどーんと雨乞
岳。左右に伊勢平野と近江平野が当分に見渡せる。まるで飛行機の上から覗いている感じ
がする。
杉峠の名の由来となった大杉
人間と大きさを較べて下さい

 杉峠には頂上まで35分とあったが、200mの高度を一気に詰める雨乞岳への最後の
登りは殊の外厳しい。が、登るに従って広がる展望を楽しみに、噴出す汗を拭う。カラの
一種であろうか、小さな野鳥が木々を飛び交っている。人を余り恐れる雰囲気が無い。ヒ
ロさんが野鳥の笛を鳴らすと、興味津々と云う感じで近づいてくる。疲れを忘れさせてく
れる一瞬だ。

 下重谷付近だったか、アプローチの途中から見えていた山頂手前の稜線台地に出る。一
気に傾斜は緩み、丈の低いササ原が広がる。道端に咲く青い花は初対面のハルリンドウ
東にはこれから向かう東雨乞岳の稜線。そこには小さく数名の登山者が山頂に屯している
のが望める。これからは素晴らしいプロムナードを歩くだけだぁとホッと気を緩めたが、
これが甘かった。再び傾斜の増した道は背丈ほどもあるしぶといクマザサのジャングルの
中。おまけに地面はぬかるみ。これはもう遮二無二突進するしかない。それでも腰を屈め
て抵抗を少しでも弱める。

雨乞岳山頂南の台地から山頂を望む
ここ迄は良いのですがこの先は猛烈な笹薮です

 まもなく傾斜が緩んだけれど、クマザサとの格闘は続く。と、少しクマザサが疎らにな
ったと思ったら所謂、地塘と呼ばれる池。これが雨乞いに使われた池らしいが、黒っぽい
水が溜まっているだけ。確かめる余裕もなく再びクマザサと格闘する内に、ぽっかりと前
方に空いた空間。雨乞岳と書かれた標識。「山頂だ!それっ!」と体を無理やり抜こうと
したのがいけなかった。足元をクマザサの茎に阻まれてつんのめり、そのままばったり。
直ぐ頭の横には三等三角点標石が突出ていた。危機一髪。すんでの所で大怪我するところ
であった。フーッ。
笹に囲まれた三角点。標石の向かって
直ぐ右に倒れ込んでしまいました

 狭い山頂広場に全員集まったところで記念撮影。小休止で一息ついて、次は東雨乞岳へ
の縦走である。高い木が無いなだらかなササの斜面。時に背丈を越えるササに包まれる事
もあるが、雨乞岳山頂ほどの猛烈さは無い。ササの海を泳ぐように進んで10分程で東雨
乞岳に到着。そしてびっくり。そこには聞きしに勝る大パノラマが待っていたのである。
まさに全方位。東に御在所岳、国見岳、水晶岳。入道ヶ岳。キレットからは四日市らしい
市街にうっすらと伊勢湾。北にはイブネ、遠くに霊仙山。西に雨乞岳の長い稜線。南には
鈴鹿の槍、鎌が岳。大きく撓んだ所は武平峠である。

東雨乞岳から歩いてきた雨乞岳の稜線を眺める

 下りは更に東へ。またまたクマザサが密生してきて、U字状に洗掘された登山道の両側
から覆い被さりまるでトンネル。腰を屈めねばならず、しかもその中に灌木の枝が張り出
し、地面に岩の出っ張り。歩き難いこと夥しい。300m位続いたろうか。漸く笹の抵抗
も少なくなり、芽を出した笹のタケノコを食べる余裕も出てきた。しかし、あちこち傷だ
らけだ。(笑)

 先程まで眼下に頭が見えていた山は遙か頭上高く。行き着いた小さな鞍部は七人山のコ
ルと呼ばれる鞍部。七人山まで15分とあるが、往復30分の時間がない。まあ気力もな
いのだが。(笑)

 芽を吹き出したばかりの灌木の中を下れば、いつの間にか沢にちょろちょろと水音が聞
こえだす。クラ谷の源頭。意外となだらかでどちらかといえば女性的な感じのする地形だ。
けれど、それも最初の内。徐々に岩が現れて滝の懸かる部分もある。次第に水量の増えて
くる沢を渡り返しながら、三段の滝が懸かる辺りで小休止とする。

 ホオノキの落ち葉が目立つ広場を抜ける。この周辺も炭焼き窯跡が多い。ヤマルリソウ
の青い花が目立つ。

 再びイワウチワの目に留まるようになった頃である。その群生する岩を巻いた時である。
前方に大きなガレ場が現れた。花崗岩質で脆く度々崩壊があるのか、踏み跡も薄い。テー
プを追って何とか向かい側にへつって、小さな尾根を乗っ越すと水のない沢の中の道とな
り、まもなく見覚えのある窯跡ノ平に到着である。

 往きにはガスに隠れていた周囲の山々が今はくっきり。鎌ヶ岳の山腹がアカヤシオに彩
られているのまで望見される。沢谷峠で再び小休止して、暗くなる前にと先を急ぐ。往路
で使った道だけにやや安心。ザレ場を注意して降って、ドライブウェイの車の音が近づい
てくれば登山口は近い。18時前、登山口着。残して置いた茶を飲み干す。充実の山歩き。
でも累積標高差は相当なもの。しかも長かったなぁ。(笑)

 初見参の鈴鹿。今日はその魅力のほんの一端に触れたに過ぎないが、流石にファンが多
いのもむべなるかなと実感した次第。清冽な水に、雑木林。もっと近くなら癖になりそう。
そんな魔力を持つ鈴鹿。機会があればまたお邪魔したい。でも生半可じゃ行けない山であ
ることも確かな、今年初の千m超えの山でした。


■同行: 佐竹さん、ヒロさん、水谷さん、もぐさん(関西隊)
     アーリーバードさん、内田さん、dameちゃん他(東海、関東隊)
    (五十音順)

【タイムチャート】
5:30自宅発
7:45〜8:00武平峠トンネル西の駐車場(880m)
9:00〜9:02窯跡ノ平(880m)
9:19沢谷出合
9:33〜9:36黒谷出合
9:49飯場跡
10:15〜11:15コクイ谷出合(750m)
12:07〜12:42下重谷(昼食A)
13:12〜13:23杉峠(1042m)
14:05〜14:15雨乞岳(1238.0m 三等三角点)
14:27〜14:50東雨乞岳(1226m)
15:07〜15:15七人山のコル(1025m)
15:30〜15:42三段の滝
16:20ガレ場
16:30窯跡ノ平
16:46〜16:55沢谷峠(900m)
17:47武平峠トンネル西の駐車場(880m)



雨乞岳のデータ
【所在地】滋賀県甲賀郡土山町、神崎郡永源寺町
【標高】1238.0m(三等三角点)
【備考】 鈴鹿山脈の主峰御在所岳から西に派生する鈴鹿最深部に
位置する山です。荒々しい鈴鹿の中にあって、珍しく大
らかな山容を示し、山頂一帯は笹原で特に東雨乞岳から
は360度の大展望が得られます。但し、アプローチが
長く、細かいアップダウンが多いので、時間に余裕を持
って歩くのが無難です。
■近畿百名山
【参考】エアリアマップ『御在所・霊仙・伊吹』



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