雨森山〜北摂の低山で黄葉見納め
平成15年 12月 7日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独
猪名川町紫合(ゆうだ)付近から夕日に染まる雨森山


 川西からR173を北上した一庫ダム近くに兵庫県立一庫公園がある。綺麗な自然公園
で、良く子供を連れて遊びに行ったものだ。その一庫公園の知明山を中心とする山のゾー
ンの遊歩道にある展望台から、ダム湖を隔てて西に見えるのが雨森山。以前そこから眺め
た冬枯れの雑木林の姿がなんとも印象的で、いつか行ってみたいと心に残っていたのだが、
遠出の予定も無いこの休日訪れてみることにした。

 県道バイパスで川西の新興住宅地を北上、猪名川町紫合(ゆうだ)に出る。サンクスの
ある交差点、いつもなら東に折れるのだが今日は直進。阿古谷小学校付近で右に曲がり、
小さな峠を越えれば民田の集落である。竜宮山を借景として、市街地から近いのにまだこ
んな風景が残っていたのかと思えるような鄙びた山里風景が展開する。なにか別天地の感。
神社の杜の手前、路肩の広まった所に駐車させてもらう。

 用意を整えた後、少し戻って先ほどの峠へ。大きな民家の隣りに、斜めに山側へ向かう
地道があり、近畿自然歩道の道標と猪名川町が設置した説明板がある。それによれば、こ
の古道は丹州街道と呼ばれ、明治22年に新道が通じる迄は、篠山方面から能勢町天王を
経て、内馬場、一庫、池田へと丹波の米を運ぶ牛馬や丹波杜氏、近郷の農民等が足繁く通
った道だったのだという。
民家横にある旧丹州街道の入口(近畿自然歩道)

 「ふむふむ。なるほど」そういった目で見れば何とはなしに風情が感ぜられる道である。
栗林を横目に湿った道を進むと小さな切り通しに出て、右手に何やら四角い石組がある。
覗いてみると古井戸だ。その先で左手から狭い地道が合流してきている。辺りは昔、建物
があったらしく思える小広場で、石垣にでも使っていたのか、人頭大の石が片隅に積み上
げられてある。どうもここが大部峠らしい。ということは茶店の跡なのだろうか。更に進
んだ左手の土手には石仏。種字らしいものが彫られた宝珠が刻まれた光背を持つ三面六臂
の憤怒を具現した仏は馬頭観音なのか。よだれかけをめくると、馬頭印を結んでいるよう
なのだが、何分浅学にしてしかとは判らない。

 道はゆるゆると下っていく。池田炭の材料にしたのであろう台場クヌギが至る所に見ら
れ、歩く度にカサコソと落ち葉が鳴るのが心地よい。右手の谷を隔てた山腹はクヌギの黄
葉に彩られ、渋い色合いだ。鮮やかなのはムラサキシキブの紫の実とフユイチゴのルビー
色の実くらいか。その内に右手に池(新開池)が現れた。そこから流れ出した小川に沿い
ながら道は続く。
落ち葉が分厚く降り積もった静かな古道

 やがて前方にビニールハウスが見え出すと田畑が現れ、道は舗装路に変わったが、さて、
肝腎の雨森山への取付きが判らない。もう少し先までと様子見も兼ねて進んでみるが、ど
うもおかしい。近畿自然歩道の道標が立つ所まで戻ることにする。

 『彫刻の道』へと書かれた自然歩道の道標が立つ所から、東の山並へ地道の林道が延び
ている。どうもこれらしい。『ひょうご森の倶楽部 森林ボランティア活動地』の看板。
兎に角、入ってみることにした。

 橋を渡って暫らく、右手に最近使われた形跡の無い草むした林道を過ごす。左側の谷が
深くなったと思ったら、地形図にもある砂防堰堤が現れた。内馬場堰堤 昭和45年の銘
がある。取付きはこれで間違いなしだ。(笑)

 『森林ボランティア活動地』の看板を過ぎ、つづら折れの林道を登る。右手に大きくカ
ーブした地点で傾斜は緩み、左手に経堂の空と思しきピークとの間の鞍部に向かうらしい
踏み跡を見て進むと、雑木の伐採地が現れ、その先から道は両側からササが被さった状態
で下っていく。『ムネガ窯』と呼ばれるのはこの辺りかなと見当をつけて目を皿に、する
と伐採地の縁に踏み跡がある。それを辿ってみると、昔は良く歩かれた様な深くえぐれた
明瞭な踏み跡があったのは意外だった。

 雑木に白いプレートがぶら下がっている。「?」
「美観を損ねるので木にテープを巻かないで下さい。 地主」
道理でテープが見つからないはずだ。でもこれだけ踏み跡が明瞭ならテープは不要だなと
その時は納得したが、後刻、テープがあればなぁと臍を噛む思いをいたすことになるとは
これぞ神のみぞ知る?(笑)。

 踏み跡がY字に分岐する所に出た。どちらでも良さそうに見えたが、ここは左を選択す
る。こちらは少し倒木が多いが道は明瞭。イバラも下草も無く歩は捗る。が、Ca380m
ピークの北斜面を登る頃には次第に不明瞭となり、殆んど傾斜も無くなる。テープは相変
わらず皆無だが、その代わりにか、車道のサイドラインの如く平行に雑木の枝が置かれて
ある箇所がある。何となく人が歩けるような空間が空いている部分を選って進んでいく。
やがて丸くこんもりとやわらかいピークに着く。三角点ピークの北のCa380mピークに
出たようだ。直径2m位のヌタ場。前方にこちらと同程度の高みがある。やや下って登り
返すと綺麗な三等三角点の埋まる雨森山であった。

伐採されて見通しの良い雨森山山頂

 山頂付近はもっとヤブで視界が無いと思いきや、背の高いもの以外の雑木が伐採されて、
頗る展望がよい。東にゴルフ場のグリーンや高代寺山。五月山から箕面に連なる稜線。日
生ニュータウンの新興住宅街の向こうには、なんと大阪市街の高層ビル群も眺められる。
西から北には三蔵山や三草山、堂床山等が居並んでいる。暫し眺める。

 その時ふと気付いたことだが、山頂もだけれど、南に続く尾根も伐採されている。そう
いえば三角点の横には『山頂広場』と墨書された木札も立てられている。地主が一帯を猪
名川町に寄附したと耳にしたがそのことと関係あるのであろうか。公園にするにしろ、願
わくば手を入れるのは必要最小限にして、昔ながらの里山の雑木林のまま残しておいて欲
しいものだ。
雨森山山頂から南の稜線に続く雑木林

 さて、流石に山頂は風の通り道で寒く、幾枚か写真に納めて取って返す。

 Ca380mピークで見つけた唯一のビニール紐まで戻ったが、さて問題はそれからだ。
テープ皆無。しかもこの辺りは幸か不幸か、下草も無く何処でも歩けるのだ。それでも薄
い踏み跡らしい部分があるのでトレースするうちにそれも消えたような....。往路で見か
けた立ち枯れの特徴ある瘤を持つ木と同じと思しき木を見かけたので大丈夫と思ったのだ
が....。
「ありゃー?」
往路とそれ程離れてはいないだろうから、GPSの指す現在地を地図に落としてもあまり
意味がなさそう。そこでとりあえずコンパスで確かめると、これはいかん?北もしくは北
北西へ向かわねばならないのに、西へ向かって歩いているではないか。くわばらくわばら。
慌てて北東へ向かって進路訂正。木々の間を強引に直進すると、間もなく明瞭な踏み跡に
復帰した。と、すぐに例のY字路に出たではないか。「なーんだ。ふーっ!」一息つく。

 取付き迄戻ってくると、軽四輪がとまっていてチェーンソーの音がする。斜面で小父さ
んが雑木の伐採の真っ最中である。
「この林道下りて行くと何処へ出るんですかぁ?」
「行って行けん事はないが相当生え込んどるよ。国道の新圓山トンネルの辺りへ出るけど
急斜面や」
「良くご存知で。山主さんですか?」
「そうや」という訳で山主さんと話す機会が出来た。
 
「Hさんご存知ですか?」妻恋地蔵さんの名前をだすと良くご存知である。
「あっちの山、『経堂の空』っていうらしいですね」
「わしら内馬場のもんは『大山』云うとるよ。集落によって名前は違うわね」
 色々お話を伺うに、この辺りは猪が多いが鳥獣保護区で、ワイヤで出来た『輪っか』の
罠で猪を捕まえること。雨森山は猪名川町が整備して公園にすること(道理で『山頂広場』
の立て札があった訳だ。)。ごみ焼却場付近から道をつけるらしいこと。(だから南から
登る方が楽らしい)以前は炭焼きが盛んであったこと等々。その他、諸々聞きたいことは
あったが、作業の邪魔を続ける訳にもいかず、お暇することにした。後で気付いたことだ
が、雨森山とか内馬場の地名の由来もお聞きするんだったなぁ。(雨森山は以前は『雨漏
山』と書いたが、日生ニュータウンを造成して売り出すには相応しい名前ではないので改
名したとの話があるが、真偽の程は定かでない)

 小腹が空いたので、林道を下りる途中、例の森林ボランティア活動地の小広場で湯を沸
かし、サンドイッチとコーヒーで暖をとる。まだ3時過ぎなのに、冬の陽は傾いて早くも
薄茜色だ。西日に映えてクヌギやコナラの黄葉も鮮やかさを増している。歩く間にも風に
吹かれて、枯葉が舞い落ちてくる。古道に戻って、やや薄暗くなった道を歩いていると、
未だ現役の炭焼き窯を見つけた。ぶらぶらと車道に出て駐車地へ戻る。

まだ現役と思われる炭焼き窯

 前方の神社が気になったので少し寄ってみる。民田八幡社。八幡社の祭神といえば応神
天皇や神功皇后であることが多いが、ここの祭神は珍しくタジカラオノミコト。天照大神
が隠れた岩戸の扉を開けた神である。こんもり繁った高台に社が垣間見えた。

 次は毘沙門堂。民田から少し西へ戻った辺り、民家の間の道を登った山手に建つ一宇の
こじんまりしたお堂がそれである。木喰上人手製の木像が安置されてあるそうだが、管理
の為に志納200円とあった。何処へ申し込むのだろう。不思議なのは堂の奥が墓地なの
だが、石碑が一基も無く、全て卒塔婆であることだった。

 毘沙門堂を後にして、雨森山の姿を撮ろうと、松尾台横のバイパス道経由で帰路に着く。
頃合を見て車を止め、振り返ると、長々と延びた雨森山の山塊がタイミング良く西日を受け
て赤く染まるところであった。夕焼け。明日もいい天気だろう。

■註) 雨森山へは猪名川町が南麓の焼却施設付近から遊歩道を整備中です。しかし、低徘
    派としては、上述の如く北からアプローチしたいものです。

【タイムチャート】
12:15自宅発
13:10〜13:15民田八幡西の路肩(駐車地)
13:20近畿自然歩道取付き
13:25〜13:27大部峠
13:40林道分岐
13:46内馬場堰堤
14:00尾根取付き
14:15Ca380m
14:20〜14:25雨森山(383.7m 三等三角点)
14:33Y字路
14:38〜14:50尾根取付き
15:03〜15:23森林ボランティア活動地点(軽食)
15:30林道分岐
15:52近畿自然歩道取付き
15:55民田八幡西の路肩(駐車地)


 雨森山のデータ
【所在地】兵庫県川辺郡猪名川町
【標高】383.7m(三等三角点)
【備考】 日生ニュータウンの北に延びる山稜の主峰です。市街地の
近くにありながらクヌギ等の落葉広葉樹の自然林が残され
ています。山頂から素晴らしい展望が得られ、大阪市街か
ら、北摂の山々が望めます。尚、最近、山頂付近が猪名川
町に寄付され、整備が始まるようです。できれば、そのま
まの姿を残して欲しいものです。
【参考】 2.5万図『妙見山』、『広野』
『北摂の山々(東部編)』ナカニシヤ出版



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